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うーん、嫌われちゃったなぁ。
去っていくちびっこたちの背中を見つめながら、軽くため息をつく。

どうも、私は昔から初対面の人に快く思われない傾向があるみたいだ。
中途半端に、物事がわかってしまうこの“能力”が、不安にさせてしまったりするのかもしれないな。
もう少し、学習しないと。まだまだ人間としての修行が足りていないな、うん。

「もう、遥ったら。ごめんなさいね、舞波ちゃん。初めての場所に来て、少し落ち着かないのかもしれないわ。」
「あはは、気にしないで」

少しほっぺたを赤くしている千聖。そんなに怒らなくたっていいのに。私を気づかってくれてるんだなあ。相変わらず、そんな繊細な心遣いは全然変わっていない。


しばらく会わないうちに、千聖はずいぶん大人びた外見になった。
1年ぶり・・・ぐらいかな。背丈は変わってないけれど、落ち着いた雰囲気をまとっている。

「千聖、美人になったねえ」

そんなことをしみじみ言うと、その可愛らしい耳が真っ赤に染まる。

「何を言ってるの、もう。からかうのはやめてちょうだい」
「うん、でも本当に。大人になったんだね」
「ふがふがふが」

褒められるとパニックになっちゃうの、昔からの癖だったね。
可愛くて優しい、私の大切な友達。

今日、此処に来たのは、心が弾むような予感に導かれての事だったけれど・・・その直感を信じてよかった。
だって、千聖に逢えたと言う事は、今は私たちの“約束”が許されるタイミングだったということに他ならないから。

「なぁーに青春しちゃってんの、もぉも仲間にいれてよー」
「青春?何かしら、千聖はただ、舞波ちゃんとお話をしていただけなのよ」
「それが青春なんだよ、わかってないなあ。うふふ」

あのちょっと気難しめのももが、目じりを下げて笑っている。
もももまた、千聖のことを本当に大切に思っているのだろう。嬉しい事だ。
噛み合わない2人の会話なのに、すごく楽しそうで、その漫才のようなやりとりに、こっちもほっぺたが緩んでしまう。

もう、人見知りで、私の手だけを必要としていた頃の千聖じゃない。
ももの話だと、千聖には最近、“妹”を名乗る下級生のファンもいるぐらい人気者だとか。
さっきの子・・・はたぶん違うな。妹という地位を望むようなタイプではなさそう。舞ちゃんの雰囲気に近い。
私は千聖の寂しがりの子犬のような、愛らしい表情が大好きだったけれど、今の千聖の、年下の子を慈しむ穏やかな瞳もまたいいと思う。
顔を合わせていない間の、千聖の変化が愛しい。昔からずっと、千聖は私の太陽。


「うふふ、舞波嬉しそう」
「そうかな?」
「うんうん。だっていい顔してる」


ももは私たちの過去にあった出来事を、何も知らない。
千聖と私が昔からの友達。ただそれだけの情報しか持っていないはず。

私はももにだったら、自分のことをなんでも話してもいいと思っている。初めて会ったときから、そんな気持ちを抱いていた。

でも、ももは何も聞いてこない。だから私もまだ何も言わない。
それでも、彼女のぱっちりととぼけた目は、きっと何もかもお見通しなのだろう。非現実的なことだけれど、なぜか確信を持ってそう思える。

多分私は、もものそういうところに、自分と同じ面を見出しているのだろう。だからこそ出会ってすぐに心を許せて、すぐに友達になれたような気がする。

「御挨拶、遅れてしまったわね。ウフフ・・・お久しぶりね、舞波ちゃん。お変わりないかしら?」

物思いにぼんやり耽っている私の顔を、千聖が覗き込んで笑う。

「うん、見てのとおり。元気でやってるよ」
「お手紙に書いてらしたけれど、史学を学べる大学を受験するのね。
何かお手伝いできることがあれば、いつでも声をかけて頂戴。舞波ちゃんのお役に立てたら嬉しいわ」
「うふふ、舞波なら絶対、優秀な歴史研究家になれると思うなぁ。それでぇ、その暁にはリボンフリル(ry」

ああ、面白いな。
私と千聖、私ともも。それぞれと友人関係であるものの、私にとっては全く違う状況で友達になった2人だったから。
人の縁ってつくづく不思議なものだと思う。自分の大好きな友達が、自分を介さずに深い縁で繋がっているのを見るのって、なんだか楽しい。


「まさか、ここで舞波ちゃんに会えるなんて思わなかったわ。嬉しい」
「ちょっとー、もぉもいるんですけどー!」
「あら、ももちゃんは千聖の家にもよく遊びにみえるでしょう?ウフフ、そういえば執事から聞いたわ。ももちゃん、千聖も寮の皆さんも留守にしている時にいらして、1人でベリータルトを3個も召し上がっていかれたのでしょう?」

あら、懐かしい話題。寮生さんといえば・・・


「皆さん、元気?舞美さんにも愛理さんにもしばらく会ってないなあ」
「ウフフ、相変わらず。舞美さんは、千聖たちの通っている学校の系列の大学に進学しているの。体育学部よ。
それからね、愛理は生徒会の副会長に就任して・・・」

さっき、年下の女の子たち相手に、お姉様っぽく振舞っていたのとはまた違う、はしゃいだような声もまたいい。
外見はどれほど大人びても、その小さい子みたいに純粋でまっすぐな心は健在のようだ。
千聖が元気に、楽しそうに過ごしている。その事実がただ嬉しい。


「あ、話変わるけどさ、舞波はさー、ここ、前にも来た事あるの?」

ふいに、ももからそんな質問が飛んだ。

「うん?」
「まーね、今日の日帰り旅行は研究活動の一環だから、歴史上の史実を検証するためにこの場所を選んだっていうのはわかるんだけどさー、別にそんな、すっごいメジャーな史跡があるわけでもないじゃない?
舞波が好きな・・・室町後期らへんだっけ?その辺りとの関連性も薄いし」

――おお、さすがもも。人をよく見ている。
千聖のほうをチラリと見ると、軽く微笑してうなずいてくれる。
そうだよね、別に隠すようなことでもないし、と私は口を開いた。


「私、前に千聖のお家でお世話になっていたことがあって」
「うん、前に言ってたね。学校お休みしてた時期でしょ?」
「そうそう。・・・で、ここにも連れてきてもらったんだよね」

海の方へ顔を向けると、青く澄んだ波間に、まだあどけなかった千聖のはしゃぐ姿を思い出す。

「なんだか懐かしいわ。・・・そうね、あの頃の私にとって、此方は今よりも更に特別な場所だったから。
舞波ちゃんが初めてなのよ、別荘にお招きしたお友達は」
「へー、でもなんで、その特別の場所に、舞波を招待しようと思ったの?」

今日のももは、いつもよりやたらと口数が多い。あまり、人に関心がないタイプなのかと思っていたけれど・・・。それだけでも、ももにとって千聖が特別だっていうのがよくわかる。

「わからないわ。でもあの時、舞波ちゃんなら、いいって思えたの」

不思議ね、と千聖は微笑する。
潮風に靡く髪の隙間から見える瞳は、今度は年齢よりもずっと大人びて見える。
誰にもつかめない、千聖の神秘的な二面性。

「そういうの、あるよね。理屈じゃなくて、この人ならって思えるの。ももは、ない?」
「んー、でももぉはアイドルだからぁ、みんなに愛を振りまいてぇ、みんなから愛を(ry」

――あ、なんか心当たりあるのかな?
わかったようなわからないようなことを言うときは、ちょっとテレが入ってる証拠。・・・私か千聖が関係あったりするんだろうか。だとしたら、なんだか嬉しいな。

「・・・舞波ちゃんと知り合う前。ちょうど、中学生になった頃ね。両親の元を離れて、この場所にも当分こないと決めて、いったん屋敷に戻ったの。
最初は、自分の意思で行動をしている喜びに満ちていたわ。でも、すぐに、何ひとつ自分の思うとおりにはいかないことに気がついた。
友達の作り方はわからない、外出は許可がない限り出来ない、寮に入ってくれた舞美さんとも愛理とも、上手に接することができない・・・。ウフフ、お2人にだから言うけれど、私、それが辛くて、当初は毎週のようにこの海辺の別荘へ帰っていたのよ」
「そっか・・・」

懐かしい思い出のように話しているから、そう気を使うこともないんだろうけれど、胸の痛くなる話だ。
千聖は気持ちを溜め込んでしまうから、そう、私も追いつめてしまったことがあったな。あれは、良くない判断だった。そりゃあ、結果的には・・・

「舞波ちゃん」

よっぽど妙な顔をしていたのか、珍しく千聖が私の手をそっと握った。


「いやだわ、そんな悲しそうなお顔をなさらないで。ただの昔話よ。
・・・それでね、別荘に着いたらまずこの海へ来て、一人でわんわん泣いていたのよ。ここはひと気もないし、波の音で泣き声は掻き消されるから、安心できたの」
「・・・あー、ちょっとわかるなぁ。もぉも、そういう場所あったよ。家の近所の公園なんだけどね、あのタコさん滑り台の中が、もぉの泣き場所なわけですよ。
おかーさんに叱られた時とか、初めて弟とのケンカで負けた時とかね。・・・みんな、自分の安らげる場所を持ってるもんだよね。
んま、もっともアイドルは人前で泣いちゃいけないからぁry」

ももの話を聞きながら、私と千聖は、ちょうど同じタイミングで顔を見合わせた。そして、同時にふふふと笑う。
「あははは」
「ウフフフフ」

「ちょっとぉー、今いい話してたでしょ!何で笑うんだよっ」



――これは私の“能力”ではなく、友達同だけの以心伝心というやつだろう。

こんな風に、何も言わなくてもお互いの心がわかるというのはやっぱり素敵だなと思う。
今日、会えて良かった。こんな些細な事でも、何度でもそう感じられる。


「ねー、2人だけで通じ合うのやめてよねっ」
「ごめんごめん、あははは」
「だって、だって、ももちゃんたら。ウフフ・・・ねえ、毎波ちゃん」


それで、私たちは笑いを堪えながら、口を揃えていった。

もも(ちゃん)が、普通の話をしてるのがおかしくて、と。



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