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「・・・・・」
「・・・」

私と舞ちゃんの間に、冷え冷えとした沈黙が流れている。

目線の先には、ベコンと凹んだ、焦げ茶色のカップケーキ。・・・はい、そうです、見事に大失敗。
猫の形に形成していたもんだから、ところどころパーツが落ちてしまったそれは、完全にホラー。

「あ、あはは・・・」

私の乾いた笑いに、舞様がギロリと目を向けてくる。
――意外と、舞ちゃんこういうの不得意なんだよね。頭が良いと、自分の中で物事の筋道を作りすぎちゃうから、予想外の事態というものに弱いのだろう。
私も・・・料理の類は得意ではない。まず、1個わからないと思考が停止してしまう。単位の換算が苦手。しかも極度の人見知りというのもあって、疑問点を部員さんに確認するというのをはしょってしまった。

前にえりかちゃんが言っていた。お菓子作りは、細部こそがキモであると。
食事としての調理なら、あとで挽回できるような些細なことでも、お菓子では致命的な失敗があったりもするらしい。
一体、どこでミスしたんだろう。順を追って作業工程を思い返してみても、特に原因が見当たらない。

「・・・・おかしい」

舞様は能面のようなお顔でお呟きになられる。


「なんで焦げるんでしゅか。材料の分量は合っていたはず」
「ま、舞ちゃん?でもうちら初心者だし」
「舞絶対間違えてない。何でこーなるの。舞が、舞がこんな・・・」

――天才というのは、なかなか大変な性分らしい。
私以上に、知らない人にものを聞くなんてできない舞ちゃんの葛藤。

「で、でも味はいいかもしれないし・・・」

あまりにも悔しそうだから、そうフォローしてみたけれど、舞ちゃんの眉間にはしわが寄ったまま。

「納得できないんだけど」
「でも、実際こうなっちゃったんだから・・・」

「まあ、舞たちはもう焼きあがったのかしら?」

その時、私たちの背後から、お嬢様がひょっこりと顔をのぞかせた。


「あら?」
「ち、違うから!これは…」

舞ちゃんが失敗品を隠すより早く、お嬢様はそのこぶし大の黒焦げカップケーキをひょいと手に乗せた。


「キュフフ・・・ちょっと、いや、かなり焦げちゃいましてぇ」
「ふんっ、どうせ舞が悪いって言いたいんでしょ」

よりによって、一番失敗をかぎ取られなくなかった相手に見つかったもんだから、もう舞ちゃんはご機嫌ななめなんてもんじゃない。
お嬢様の前では、何でもできて頼れる自分でいたい。舞ちゃんがそう思っているのは傍目にも明らかで、つまり、プライドを傷つけられてしまったんだろう。
「帰る」なんて言い出すんじゃないだろうか。舞ちゃんがエプロンのひもに手を伸ばさないよう、ハラハラしながら見守っていると、お嬢様に続いて、もう1つのお顔がズボッと隙間から侵入してきた。

「うおっ」

「うわー、ガングロアンパンマンですか!さすが生徒会!作るものが違いますね!」

――お、おお・・・このKYめ・・・!

もはや、恐ろしくて舞様の方を向けない。

「いやいや、猫なんですけどね!ケロキュフフ!な、なんで焦げちゃったかわかりますかな!?みたいなこと聞いてみたりして!」

もはや、この場(っていうか舞様)を取り繕うことにしか頭が働かず、かなり挙動不審になってしまった。
しかし、えりなちゃんもお嬢様もにこりともせず、真剣な顔で、その大失敗猫ちゃんに見入っている。

しばらくすると、ふっと表情を緩めたお嬢様が、「舞」と小さく呼んだ。

「・・・」
「ウフフ、舞ったら。拗ねていたら、せっかく作ったケーキがもったいないわ」
「でも、どーせ失敗したし」
「まあまあ、天才も失敗するってことで!貴重な瞬間に立ち会っちゃった!でも、こんなことは大自然の大きさに比べたら(ry」


一瞬で、室内の空気が凍った。
でも、そんなこともおかまいなしに、えりなちゃんはしゃべり続ける。

「あーそっかわかった、このケーキじゃ、背が高すぎちゃったのかもしれないですねー。
ここのオーブン、上部ヒーターっていうのがあって、そこが熱源になってるから、近い箇所は影響受けやすいんですよ」
「元の設定温度自体も、ケーキを焼くよりも高くなっていたみたいね」
「ほんとですかー!あっぶねー、これ使ってたら、私も確実に失敗してたわー」

舞様ご機嫌まっさかさまな中、屈託なくケラケラと笑うその大物っぷり。
でも、なんとなくわかった。彼女は、さっきから人を責めるようなことは一切言わない。
発言のタイミングや中身はひやひやさせるものだけれど、どこか憎めなくて、ちょっと笑える。
私に負けず劣らず人見知りなお嬢様が、出会って間もない彼女と打ち解けているのもうなずける。

ジャンルはちょっと違うけれど、友理奈ちゃんのことをなんとなく思い出した。



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