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「ちしゃとはどういうの作ったの」

えりなちゃんの予想以上のKYに、もはや怒るのもアホらしくなった様子の舞様。
声は優しいトーンを取り戻して、お嬢様にだけ向けられるいつもの可愛らしい表情になっていく。

「ウフフ。衣梨奈さんと相談しながら、たくさん作ったのよ」

そう言うと、お嬢様は背後にあったバスケットを差し出してきた。

「へー、すっごいカラフル!」

そこにぎっしりと詰まっていたのは、普通の型よりも小さめな丸っこいケーキ。コロコロしてて可愛らしい。

「これはですねー、食紅っていうのを使うんですよ!食紅っていうのはー、紅色だけじゃなくて(ry」

お嬢様の好きなパステルカラーよりは、だいぶ強い色を使用しているのもある。
この辺はえりなちゃんの趣味なのだろう。お嬢様を自分のペースに巻き込んでいく様が、目に浮かぶようだ。
でも、きっと楽しかったんだろうな。三日月お目目になってる。
普段と違うことが起きるのは、お嬢様にとってすごく新鮮で喜ばしいことだから、彼女との出会いもまた、良い結果をもたらしてくれたようだ。

しばらく、お嬢様とえりなちゃんの力作をじーっと見つめていた舞ちゃんは、ふと口角を上げた。


「・・・てか、ちしゃとって、寮生のこと好きすぎでしょ。ふふん」
「うそだー、お嬢様は私のことが好きなんだと思いますよ!」
「舞はちしゃとに話しかけてるの!ああもう!」
「ちょ、ケンカしないでよ・・・いや、それよりなんのこと・・・」


言いかけて、もう一度まじまじとそれを見た私は、ようやく舞ちゃんの言わんとすることがわかった。

「これ、イメージカラーですね。キュフフフ」

イメージカラー。
いつだったか、寮生の間で、其々に似合った色を割り当てる遊びが流行っていた。
お嬢様が青、私はオレンジ・・・といった具合に、必ずその色の小物を持ち、服を着る。
今はブームも去り、記憶の片隅に追いやられていたけれど・・・なんだか懐かしくて、じんわりとうれしい。

「ちしゃとさぁ、さっきも文芸部の4コマで、舞たちのこと描いてたじゃん」
「あら、気が付いていたの?ウフフ」
「バレバレだから。てか、誰も気が付かなくても、舞にはわかってるし」

舞ちゃんがチラッと私を見る。

「うん、一番最初に気づいたのは舞ちゃんだよね。キュフフ、私にはわからなかったなあ」

――私、結構気つかえてる?まあできるオンナとしてはこのぐらいは(ry


「でも、違う色も混じってるね。かぶってるのとか」
「ああ、それ私!私の分でーす」
「・・・あっそ」


舞ちゃんはとことん、彼女とは相性が悪いらしい。
だけどさすがKY、えりなちゃん的には別にそんなことはないみたいで、聞かれてもいないのに舞ちゃんに説明を始めてしまった。


「わたしー、家この辺だからー、地元のダンスクラブに入ってるんですけどー」
「舞別に興味ないでしゅ」
「いやいや、ここからが面白いんですって!聞いてください!」

ここから、怒涛のえりなちゃんのマシンガントークが始まった。
曰く、ダンスは楽しいけど大変。他校の友達もできてうれしい。
曰く、ここの初等部や中等部、はてはOBや近所の風変わりなお姉さんまで、年齢層が幅広く、上下関係を学べる(いや、とてもそんなふうには・・・)

嬉々として、そんな情報を提供してくれる。・・・だが、残念なことに、私たちはえりなちゃんの人間関係どころか、まだ彼女自身のことだってよく知らないんだから、全くその話のツボがわからないのだ。
昨日見た夢の話をされるぐらい、反応に困っちゃう。
お嬢様は楽しそうに聞いているけれど、舞ちゃんはあからさまに苛立っている。どどど、どないしよう。ここは大人のアタシが・・・


「・・・で、私、ダンスクラブのみんなに、衣装の色と同じカップケーキを作ろうかなって」
「・・・そこだけでよかったんじゃないでしゅか、今の話は」
「あら、舞ったら。とても興味深いお話だったわ。
千聖はね、どんなカップケーキを作るか打ち合わせをしていた時、衣梨奈さんのお友達への思いやりに感銘を受けたのよ。それで、私もイメージカラーを思い出したのだから」

で、そのえりなちゃんのダンスクラブのお友達・・・結構な人数いるらしい。
お嬢様がお作りになった8個の他に、見慣れないカラーもちらほら。


「ぎっしり詰まってると、カラフルで綺麗だね」
「あー、でもー、ちょっとうまくいかなかったのもあって」

えりなちゃんは不本意な表情で、2、3個程小さなケーキを手に乗せた。


「私の衣装、黄緑なんですけど、グリーン系の衣装の子が他に二人もいてー、あんまり色に差が出ないんですよね。深い緑色とか原色のグリーンが表現できない!」

おっしゃる通り、確かにどれも濃い抹茶色みたいな感じだ。

料理部部員としては納得がいかない結果のようで、こうなったら絵の具で塗ろうかな、なんてとんでもないことまで口走っている。

「んー・・・さっき言ってた食紅っていうののことを聞きたいんでしゅけど」

ふと思案顔になった舞ちゃんが、えりなちゃんの手のひらのカップケーキをサッと自分の方へ寄せた。

「これって、混ぜると色が変わるんでしゅか?」
「できます!食紅を絵の具みたいにするんですよ」
「じゃあ、緑に白色混ぜたりすればいいんじゃない?」
「やってみたんですけどー、焼きあがると大体全部同じ色になっちゃってー」

どうやら、えりなちゃんの小さな失敗は、舞様の探究心に火をつけたらしい。
つまんなそーにしていた態度から一変、あからさまに目つきが変わった。

「舞?」
「だったら、焼き上がりでどの色味が消えてしまったのか考えればいいでしゅ。
黄色が薄くなったなら強めに入れればいいし、青味ならそっちを強調して。
そうでしゅね、今回の場合だと、どっちにしても緑色が映えすぎるってことだから・・・ほら、ボーッとしてないでこっちきて!」
「おいっす!何色使いますか!」

私はともかく、お嬢様まで置いてきぼりにして、すっかり天才少女の顔に戻った舞ちゃん。
真剣な顔で食紅の調合を始め、その周りをえりなちゃんが助手のごとくちょこまかと動き回っている。
案外、いいコンビなのかもしれない。さっきの苦手意識全開な感じは見受けられない。
気難しやの舞ちゃんに、空回りはすれど、“気を利かせ力”が半端ないえりなちゃん。
遠慮なくガンガン指示を出せるのが良かったのか、くりくりおめめが輝いている。舞様の本領発揮といったところか。

そんな二人を見守る千聖お嬢様もまた、とても嬉しそう。
すでに出来上がったカップケーキにラッピングを施しながら、目を三日月にして微笑んでいる。

「ウフフ。舞が楽しそうで、安心したわ。私よりも、舞のほうがずっと、部活めぐりを楽しんでいるみたい」
「そうですねえ。舞ちゃんの“テリトリー”が増えたら、って思います」


――だけど、私もお嬢様も、なんとなく気が付いている。
舞ちゃんは、今すごく楽しそうにしているけれど、多分料理部には入らないだろう。
さっき書類をもらってたけれど、おそらく、文芸部にも入部という形はとらない気がする。・・・ある意味、お嬢様よりよっぽど難しいのかも。

常に強気でいる反面、どこかに属することを怖がっている舞ちゃん。
お嬢様の部活探しとは別に、舞ちゃんが少しでも“ここにならいてもいい”って感じてくれる場所が増えたら、と思う。

このまま、舞ちゃんが楽しそうならば、次の部活見学は私とお嬢様二人でもいいかな・・・。そんなことをぼんやり考えていると、いきなり調理室のドアが派手な音を立てて開いた。


「えっ・・・!」
「嘘、何で・・・!!!」


お嬢様の登場時と同じぐらい、室内の空気がピンと張りつめる。
そこにいたのは、今の今まで何をなさっていたのか・・・ピンクジャージも目にまぶしい、前生徒会長様だった。



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