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リアクションを見る限り、料理部の中に、みぃたんのことを知らない人はいないらしい。
だけど、今彼女を凝視しているその表情は、みな一様に、畏怖の色が浮かんでいる。
その人となりを考えれば、ちょっと、あれ?と思うところもあるけれど、気持ちはわからないでもない。

矢島舞美。前年度・前々年度生徒会長。現在は系列大学大学部に籍を置く才女。
容姿端麗、品行方正、成績優秀、スポーツ万能。
ご実家は大手銀行に勤めるお父様と、お優しいお母様。妹思いのお兄様が二人に、大きなワンちゃんと小さなワンちゃん・・・。

そう、千聖お嬢様や愛理とはまた違うものの、みぃたんだって相当のお嬢様。
そして、何よりもこの圧倒的な美貌。黙っていれば冷たく厳しい印象さえ抱きそうな、完璧に整った容姿には、畏怖の感情を覚えるのも無理はない。
喋りだせば一発でその天然ぷりにずっこけることになるわけだけれど…いかんせん、卒業して結構日が立っているから、内面を思い出すより先に、一般人離れしたその外見の美しさの方に萎縮してしまったのかもしれない。

「お邪魔しまーす!」

ぺこりと一礼したみぃたんが、私たちの方へズカズカと歩いてきた。
ご機嫌な様子。さっきのえりなちゃんと同じく、はみ出ていた調理器具にぶつかってガッシャガッシャやりながら、ずんずん歩いてきている。さすがクラッシャー矢島。ただし、誰も注意しない。
そして、ピンクのスパンコールがついたジャージが、歩くたびにシャカシャカと鳴って、不気味な存在感を際立たせている。


「なっきぃ!」
「うん、てか、今までどこに行ってたの?」
「ねえ、なっきぃ!すごいね!」


――はい、来ました危険ワード“すごいね!”
これが飛び出してくるときは、ロクなことがない。私と舞ちゃんの間に、バリッと緊張が走った。

「・・・お姉ちゃん、舞たち今忙しいから」
「あはは、まあ、細かいことはいいじゃないか!ね!」

みぃたんは、お嬢様の肩をスクラムみたいにガチッと抱いた。

「美味しそうなおまんじゅうですね!こんなにたくさん!」
「あら、ウフフ舞美さん。これはカップケーキよ。どうぞお1つ。舞美さんは・・・そうね、この苺ミルクのものを」

周囲の空気も特に気にせず、のほほんとした態度のお嬢様。
みぃたんは渡されたケーキを真顔でまじまじと見つめたあと、ぱっくりとかぶりついた。


「お味はいかがかしら?」
「・・・おいしい!色もすごく綺麗ですね!さすがお嬢様!これがほんとの・・・あはは、なんだっけ、とかいってw」
「そういうのは思いついてから言うべきだと舞は思いましゅ」

美女の満面の笑みに、ようやく料理部員さんたちも安心顔。

「あの・・・矢島先輩、よかったら、私のも」
「これも食べてください」

あっという間に、大小さまざまなカップケーキを持った女の子たちが、わらわらと舞美ちゃんに群がっていく。
ああ、懐かしい。去年までのバレンタインの時期を思い出す。
みぃたんたら、大きな紙袋3枚がパンパンになるぐらい、たくさんチョコをもらっていたなあ。みぃたんやえりかちゃんはあの代ではダントツに人気があったらしい。
清水先輩は少し落ち着いた子たちから人気があって、そういうイベントごとからは一歩引いてたし、つ!ぐ!な!が!さん!は、あれは違う!人気とかないから!ステマ乙!

「なっきぃ!」

私がしばし感傷にひたっているうちに、いつのまにか目の前にみぃたんのお顔が迫ってきていた。

「な、なに?清純な私はそういう趣味は」

「ねえ、なっきぃ、すごいね!」

――本日2度目の“それ”に、私はジリジリと後ずさる。
だが、背後に人の気配。振り向くと、みぃたんとまるで同じような、一点の曇りもない笑顔のえりなちゃんがいた。

「ちょ、ちょっとそこ通し・・・ギュフーッ!」

突然、体が数センチ宙に浮かび上がった。

「フヒヒヒ」

耳元に鼻息混じりの笑い声。
どうやら、えりなちゃんから羽交い絞めにされているようだった。
この子・・・腕力あるケロ。スラッとして見えたのに、何か運動の心得でもあるのかもしれない。

「何!?離すケロ!」
「矢島先輩、今です!伝説のあの技を!」
「はぁ!?」

カップケーキのたくさん入った籠を抱えた、みぃたんが私のアゴをホールドした。
そして・・・


「なっきぃ、ガーッ!」
「ギュフーッ!!!」

*****

从*・ 。.・) <・・・そう、あの日、さゆは見たの。ちーちゃんのお友達の、さわやか生徒会長さんが、小姑みたいな風紀委員ちゃんの口に、プロテインを流し込むのを・・・。
KY生田よ、満天の星空の下、それは戦慄を覚えるような、それでいて儚くも美しい、幻想のような光景だったの・・・


「道重さんっ!おっしゃるとおりです!私、感動しました!ケーキ飲める人とか初めて見ました!もうトラウマレベル!」
「生田さん静かにして!失礼なこと言わないの!」

・・・ん?

ギャーギャーと騒ぐ、えりなちゃんの声で、目が覚めた。


「・・・もう、舞美さんたら。カップケーキは1つずつお口に入れないと」
「なるほど、わんこカップケーキですね!それもすごく楽しそう!ね、なっきぃ!」
「・・・いや、楽しくない!全然楽しくないケロ!」

意識を取り戻した私は、口に残ったままのケーキを何とか流し込んで、私はキッとえりなちゃんを睨みつけた。

「い、いったいどういうつもり!?」
「だって私、思い出しちゃったんです!道重さんが前に言っていたことを」
「みちし・・・ああ、あの人ね」


どうやらえりなちゃんのダンススクールには、お嬢様の(元)婚約者の妹であるさゆみさんがいて、一緒に汗を流している仲間らしい。
ゴシックドレスに身を包んだまま、ヒップホップを踊り狂う・・・まあ、それはいいとして、さゆみさんたら、お嬢様のことを“さゆみの家に嫁いでも遜色ない、名家の可愛い可愛い義妹”として、周囲に吹聴しているという。

「で、当然、寮の皆さんの話もいっぱい聞かせてくれるんですけどー、さっきのほら、ガーッ!っていう必殺技!生で見たかったから、矢島先輩にお願いしてみたんですよね~」

すばらしいガーッ!でした!さすが矢島先輩!などと、料理部の面々がみぃたんを褒め称える。
ああ、もう・・・!みぃたんのカリスマ性って、こういうときに無駄な効力を発揮するんだから。


「ところで、みぃたんは何をしに来たの?」
「ん?ああ、陸上部に顔出してたんだけど、お嬢様いつ来るかなーって気になっちゃって。栞菜に聞いたら料理部にいるはずって言うから。・・・あはは、なっきぃって本当に面白いね!」
「・・・前後の文脈がつながってないケロ」

「てか、お姉ちゃん、OBなのにはしゃぎすぎ」

わちゃわちゃと会話と続けていると、舞ちゃんが余熱取りのお皿を抱えてやってきた。

「あら、舞。何か作ったのかしら?」
「作ったのかしら?じゃないでしゅ。ったく、それ、ちしゃとと生田さんがみんなに配るカップケーキだったんでしょ?
ガーッしたら足りなくなっちゃうじゃん」

もう、なっちゃんたら!の一睨みつき。ヒドいケロ!

「あれー、そうだったの!てっきり、ガーッ専用に・・・」
「もー、お姉ちゃんってホント・・・まあいいや。ほら、これ」

舞ちゃんが差し出したもの。
それは、お嬢様とえりなちゃんが作ってくれたのと寸分たがわぬ、小ぶりなカップケーキだった。
律儀に、私(違うケロみぃたんケロ)が消化してしまった色が補充されている。

「・・・え、舞ちゃんが焼いたの!?」

声を裏返らせる私に、無言のドヤ顔を返してくる舞様。

「まあ、一回生田さんに手順聞いたから」

ああ、そうですか・・・二人してあんな大失敗をおかしたあとで、たった一回で。さすが、私とは脳の出来が違うケロ。

「すごい!緑色、ちゃんと色の違いが出てますね!」
「あら、本当だわ。黄緑に、エメラルドグリーンに・・・。ウフフ、舞ったら、魔法使いみたい」
「ふふん、まあ、別に普通でしゅけど?ねえ、なっきぃ?」

くっ・・・この子、アタシを踏み台に・・・!でもいいの、できるオンナはこういうとき、笑顔でもって祝福してあげるのが品のある行動と言えよう!

「サ、サスガダケロ。テンサイハヒトアジチガウケロネ」
「で、でも、中島さんが作ったのも、ほんと独創的っていうか!」
「料理は心が大事だから、逆にいい意味で!」

涙目プルプル状態の私を、料理部のみんなが総出で慰めてくださる。
いいもん、きっとあるはず。私にしかできない、特別な何かが・・・。部活動を探すというのは、そういう自分だけの道を探すということだと思うケロ(キリッ)
私もまた、この部活めぐりを通じて云々

無理やり自分を納得させようと、脳内に御託を並べている私の顔を、超さわやかスマイルのKYちゃんが覗き込んで、一言ぶっこんできた。


「あはは、顔真っ赤ですね!そんなに悔しかったんですか!」
「ギュフーーーーーーッ!!!」

もはや言葉にならない絶叫をあげる私の首根っこを、みぃたんがガッとつかんだ。


「じゃあ。そろそろ次行こうか!」
「み、みぃたん!まだ話が終わってn」

抗議も空しく、みぃたん片手は私を軽々持ち上げて運送していく。
くっ・・・!こうなったら、後日改めて指導にくるケロ!そのあかつきには、調理の腕前も多少は磨いて・・・

去り際、ダメ押しとばかりにえりなちゃんにキッと視線を向けると、私たちをぐるりと見比べて、また能天気に笑った。

「また来てくれますよねー?お待ちしてまーす!」

人の気も知らないで・・・と思いつつ、結局彼女の言うとおり、再訪を検討しているのもまた事実。
飄々としていながら、案外知能犯なのかもしれない。

「さ、お嬢様!次はお待ちかねの陸上部ですよ!」



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