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グラウンドを軽快に駆けていく、私の親友、里保ちゃん。
やっぱかっこいいな。綺麗なフォームで、ハードルをしなやかに飛び越えていく。スピードだって、中等部や高等部のお姉さんたちにも負けていない。
こうして、特別に練習に参加させてもらえるぐらいだもん。きっと、選手として、将来有望なんだろうな。

「うふふふ、香音ちゃん。パソコンに写真転送するから、確認してくれる?」
「あ、はい」

私、鈴木香音は、今、大きなグラウンドの片隅で写真部さんのお手伝いをしている。
本当は里保ちゃんの練習を見に来ただけだったんだけど、顔見知りの譜久村さんに誘われて、プチ体験入部みたいなのをさせてもらっている。


「どうかしら?綺麗に撮れてる?」
「はい、なんかスピード感があって・・・。あ、でもなんか、里保ちゃんの写真ばっかりですね。先輩たちのが、あんまり・・・」

言いかけて、私はしまったと口をつぐんだ。譜久村さんがキョトンと目をぱちぱちさせている。
余計なことを言ったかもしれない。一言多いとか、よく言われちゃうんだよね、私・・・。
でも、譜久村さんは特に気分を害した様子もなく、肩をすくめてウフフと笑った。


「そうねえ、鞘師さんはすごく素敵な被写体だから、無意識に贔屓しているのかもしれないわ」
「はあ」
「フォトジェニックなのでしょうね。ひとつひとつの動きが洗練されているし、フィルター越しにもしなやかな筋肉の躍動を感じるのよ。うふふふ」

――おお、写真の専門家(?)さんが褒めているんだから、やっぱり里保ちゃんってすごいんだなあ。

「陸上部の中では、里保ちゃんが一番撮りたいなって思うタイプなんですか?」
「うふふふ、一番を決めるのは難しいわね。だけど本当に、里保ちゃんにはカリスマ性を感じるわ。そうね、たとえば・・・あ、ちょうどいらしたわ」

譜久村さんがふとおしゃべりを止めて、顔を上げた。
校舎の方から、何人かの生徒さんたちが、わいわいとおしゃべりしながらこちらへやってきているみたいだ。
近づいてくると、ピンク色のキラキラ光るジャージが目に入る。それで私は、さっきまで里保ちゃんと走り込みをしていた先輩が戻ってきたのだと気が付いた。

「矢島先輩、でしたっけ。体育学部の」
「そう。陸上部のOGでね、在籍時は長距離・短距離問わず、たくさんの高等学校記録を塗り替えたのよ」

な、なんかすごい人みたいだ。私は初等部だし、クラスのみんなほど、中高等部の事情には詳しくなかったから知らなかったけど・・・あとで友達に聞いてみようかな。

譜久村さんは、さっそくカメラを向けて、カシャカシャと矢島さんを撮影し始めた。

「矢島さんと一緒にいる人たちは?」
「現生徒会の皆さんね。今日は部活動めぐりをなさってるみたいだから、陸上部も見学なさるのかしら」
「・・・なんかめっちゃ詳しいですね」
「うふふ、常にアンテナはびんびんにしておかないと。情報網を敷いておけば、ギブアンドテイクでダイレクトに色々な情報が入ってくるものよ」

おお、カッコイイ・・・けど、どことなくねっとりとした含みを感じる譜久村さんの言動。
優しくて上品な先輩、なんだけど、たまによくわからない人になっちゃう。


「あ、みずきちゃん部活動?キュフフフ、お疲れ様」
「ごきげんよう。いい写真を撮れるよう、励みますね」

しかも、近くまで来た矢島さんたち一行とも、面識があるみたいで・・・“風紀委員”の腕章をつけた、厳しそうな先輩とも言葉を交わしている。
もし私が写真部に入ったら、こんなふうに、上流っぽい人たちとも堂々と接していくことになるのかな。私なんかが、って思っちゃう。
里保ちゃんや譜久村さんたちみたいに、夢中になれるものがあって、楽しそうにしてるのを見るとうらやましいんだけれど、自分がそういう、輝かしい立場になれるなんて到底考えられない。

人生って、主役になれる人と、脇役ポジションの人っていうのがあらかじめ定められていると思う。
里保ちゃんなんて、完全に主人公タイプだし、そう思うと、私って・・・。


「ちょっとお手洗い行ってきますね」

ごちゃごちゃと考えているうちに、なんだか切なくなってきてしまって、思わず私はその場を去ってしまった。
あんな華やかな人たちが集っているところに、私なんて場違いだと思う。
運動部の人たちが使っている、外の水道の前まで移動して、大きなため息を1つ。

・・・ていうか、里保ちゃんて、私のこと本当に親友だなんて思ってくれてるのかな。“陸上部、見に来て!”って言ってくれたの、嬉しかったけど。

嫌な考えって、どんどん頭の中で大きくなっていってしまう。
友達を疑うようなことしたくないのに、でも・・・


「・・・あの、ちょっと、すみません」
「はいい!?」

いきなり後ろから話しかけられて、私はぴょんと飛びのいた。

「あ・・・いきなり、ごめんなさいね。そちらの水道を、使わせていただきたかったから」
「あ、そ、そうですよね!私、邪魔ですよね」

わあ、綺麗な人。鈴の鳴るような声に、小柄な体。お人形さんみたいだ。
学校指定のジャージを着ているから、運動部なのかな。ちょっと意外。

「あら・・・初等部なのね」
「は、はい!」

紐リボンの制服の私を物珍しそうに見たその人は、なぜか嬉しそうにクフフと笑った。



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