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「お名前、伺ってもいいかしら」
「えっ!名前・・・は、はい。鈴木香音といいます。初等部の6年生です。環境整備委員です。担任の先生は・・・」
「ウフフ、ご丁寧にありがとう。香音さん、というのね。姉妹校の生徒会にも、同じお名前の方がいるわ」

――うわあ、なんかこの人・・・すごい。
世間話をしてるだけなのに、声のトーンとか喋り方が、普通の人と全然違う。いかにもセレブな感じ。
柔らかくて落ち着いてて・・・絶対、うちの近所になんか住んでないんだろうなって印象。


「ああ、お名乗りするのが遅れてしまったわね。はじめまして。私は・・・」

そう言って、教えてくれたその人名前は、“ちさと”という可愛らしい響きのものだった。

「生徒会と、放送部に入っているの」
「じゃあ、お昼の放送当番とかやってるんですか?」
「ええ、たまに。来年も続けていきたいと思っているから、香音さんが中等部に進級したら、私の声を聴いていただくことがあるかもしれないわね」

ちさとさんはウフフと楽しそうに目を三日月にして笑った。
いいなあ、この人。ジャージの色からして高等部のお姉さんなんだろうけど、子犬っぽいっていうか、とても愛らしくて、いつまででもお喋りしていたくなっちゃう。きっと、友達もたくさんいるんだろうな。私なんかとは大違い。

「ちさとさんは、リア充って感じでうらやましいなあ」
「りあじゅう?それは何かしら」
「あー、えっと、毎日楽しくて充実してる人、みたいな。
生徒会とか、放送部とか、部活動もやってるなら・・・」

すると、ちさとさんは小首をかしげた。

「あら、私は部活には所属していないのよ」
「あれ?でも、ジャージ・・・」

私の問いかけに、なぜかちさとさんは少し表情を曇らせる。

「私は、りあじゅうではないのでしょうね」
「え?え?」
「今日はね、何か取り柄と言えるものがほしくて、色々な部活動を巡っているの」
「じゃあ・・・えっと、前の生徒会長さんが」
「まあ、ご存じなの?」
「さっき、陸上部のところにいたんで・・・あ、でも私は陸上部じゃないっていうか、ええと、私も特にクラブ活動はしてないんだけど・・・」


不思議な人だ。
別に、問いかけられたりしたわけじゃないのに、その茶色っぽい瞳でじーっと見つめられると、何でも話したくなってしまう。

「えっと・・・今日は親友の里保ちゃんが、こっちで先輩たちに混ぜてもらって、特別に練習するっていうから、来たんですけど・・・何か、私、場違いだから」

あ・・・ヤバイ。ちょっと泣きそうになってきた。
言葉を切って、うつむく私に、ちさとさんがじっと視線を送っているのが目の端でわかる。
でも、特に何も言わないで、ちさとさんは唐突に話題を変えた。

「香音さんは、6年生と言っていたわね」
「え?あ、はい」
「かりん・・・宮本佳林のことはご存じかしら?」

ええと…宮本さん。ああ、はいはい、あの子か。

「んと、クラス一緒になったことないけど、知ってますよ。友達の友達だから。めっちゃ頭いい子ですよね」

私の頭の中には、背筋をシャンと伸ばして堂々と廊下を歩く、スッキリとした顔立ちの優等生が浮かんでいる。
――もっとも、どういう理由か知らないけれど、ちょっと前までおっきいリボンを頭にのっけてブリブリしてたんだけど。あれ、なんだったんだろう。

「佳林も、“りあじゅう”という雰囲気があるわね。ウフフ」

さっきからちさとさんは“リア充”が気に入ったらしく、会話の中に挟んでは楽しげに微笑んでいる。
大人っぽいお顔だちなのに、すごく天然っていうか、純粋っぽい。宮本さんとは、全然違う雰囲気だけれど・・・。

「知り合いなんですか?」
「ええ、私のことを、“姉”と言ってくれるの」
「えっ!なんで!」

――あ、なんか私、あんまよくないリアクションだったかも。

「いや・・・意外だなって思って・・・スミマセン」
「ウフフ、そうね。私もどうして佳林が、私なんかをお慕いしてくれるのか、全然わからなかったわ。・・・今も、ちゃんとわかっているわけではないけれど」

突風が、私とちさとさんの間を抜けて、ちさとさんの艶のある栗色の髪がはらはらと踊る。
笑えば子供みたいな無邪気な顔になるのに、髪をかきあげる仕草はすっごく色っぽい。
大人なのに子供。そういう不思議な印象を受ける。
宮本さんのことはよく知らないけれど・・・この人のそばにいたいって思う気持ちは、なんだかわかるような気がした。

「・・・私も、ちさとさんの妹になることはできますか?」

思わず、そんな言葉が口をついて出た。

「まあ・・・」

千聖さんは何度か瞬きをすると、再びその黒目がちな目で、私をじっと見つめてきた。
結構大胆な発言をしたっていうのに、不思議と、今度はテンパッたりしなかった。
気持ちが落ち着いている。それは私自身の問題なのか、ちさとさんの魔法のような不思議な瞳がそうさせるのか、はたまたどっちもなのか。


数十秒間の沈黙の後、ちさとさんは口を開いた。

「香音さんが心から望んでくれるのなら、喜んで。
でも、きっと、今はそういうわけではないのでしょう?ウフフ」
「・・・ですよね、あはは」

ありゃりゃ。言葉は柔らかいけど、すっぱり断られてしまった。
でも、全然嫌な気はしない。それが証拠に、振られちゃった(?)直後だっていうのに、私たちは顔を見合わせて笑いあうことができた。


「宮本さんは、ちゃんと意味があって、お姉さんになってほしいって言ったんですね。私、考え甘かったです」
「まあ、ウフフ。でもね、私、姉や妹の関係じゃなくても、初等部にお友達はいるのよ。遥・・・5年生の、工藤遥はご存じかしら?」
「・・・・・・・・・・いや、知ってますけど。ちさとさん、それはやめておいたほうが」


“あー、つーか、女子プロレス部、興味ないっすか”

つい3日ぐらい前、1つ年下の工藤さんが、ガムをくちゃくちゃ噛みながら、唐突に勧誘してきたこと。
しかも、断ったのに、昨日も私を探してたらしいこと。
それから今日、工藤さんが廊下で誰かと「てめーこのやろー(ry」などと喚きながら取っ組み合いの大ゲンカしていたことが脳裏によみがえって、私はブルッと身震いをしたのだった。



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