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それから私は、ちさとさんに、自分の色々なことを話した。
家族のこと、学校の友達のこと・・・別にヤマもオチもないような話なのに、ちさとさんは目をキラキラさせながら聞いてくれた。
人の日常の話を聞くのが楽しいのだという。みるからに庶民ではないちさとさんにとっては、私にとって普通なことであっても、新鮮に聞こえるのかもしれない。

「・・・でね、そのドラマは、明日のストーリーで、彼氏の秘密がわかっちゃうみたいなんです」
「まあ、そうなの。ドキドキするわね。主人公の女性の思いが、伝わるといいのだけれど」

ちさとさん自身は一度も見たことのない、私がハマッてるテレビ番組の話にまで乗ってくれる。
喜怒哀楽、様々な表情が、話の内容に合わせてくるくるとあらわれる。こんなにちゃんと、人の話に向き合う人は初めて見た。

「香音さんが見ているドラマは、とてもスリリングで面白そうね」
「まだ3話目だから、今から見ても大丈夫だと思いますよ!前の話は、私が教えますし」
「ぜひ、見てみたいのだけれど・・・私の家では、原則として、21:30以降にはテレビを見ずに過ごす仕来りがあるの」

――ひええ、何それ。テレビ見ないなんて、じゃあ夜は、なにやってんだろ。ネット?いやいや、テレビよりある意味危険か。

「いつも、結構早く寝ちゃうんですか?」
「それほど早くもないと思うけれど・・・そうね、夜は、寮の皆さんとお喋りしたり、お庭の散歩へ出かけてることもあるわ」
「・・・ていうか、散歩できるほどのお庭って、すごくないですか・・・?夜だと、コンビニまでお散歩~ぐらいならわかるけど」
「あら、コンビニエンスストアは、そんなに遅い時間まで営業しているの?百貨店と同じぐらいかしら?」
「えっ・・・だいたい、24時間営業してますよ」
「えっ・・・そんな、それでは、お店の方は、いつお休みに?」
「えっ」
「えっ」

ちさとさんは赤ちゃんみたいにぽかーんとした表情で、固まってしまった。でも・・・一体、上級生にどこまで突っ込んでいいのかよくわからない。

「・・・ああ、そうね。嫌だわ、私ったら。経営なさってる方のほかにも、お店で働いている人はいるはずよね」
「そうそう!あはは~、トイレもお風呂もいけなくなっちゃう」

すると、ちさとさんは悲しそうにまつげを伏せて、みるみるうちにしょんぼりと肩を落としてしまった。

「どうしていつも、考えが足りないのかしら、私。こんなことだから、ツバサにもからかわれるのね」

ツバサ?誰だろ。彼氏さんとか?

「でも、美人で天然って、いいと思いますよ!」
「そんな・・・私は美人でもないし、単に注意力が散漫なだけだわ」

び、びび美人じゃないて!この人、何言ってるんだ!だったら交換するか、私の顔と!
・・・なんて、友達にだったらつっこめるけど、さすがに上級生ではそういうわけにもいかない。

いったい、どうしたらいいのか。
下手なことを言って、余計に傷つけてしまったら・・・ただでさえ、私はちょっとそういう傾向があるっていうのに。
誰か来てくれないかな。だけど、こんな年上の、しかもセレブ人のお友達だと、余計に私が勝手に追い詰められそうな気も・・・
ちさとさんは、この世の終わりのような顔で落ち込んでいる。
そこまで深刻に考えなくても…ってぶっちゃけ思うんだけど、人のツボってそれぞれだし、特にこういう異世界の人はどこに地雷が埋まっているのかわからない。
さっきまでの空気が一変して、気まずく重い沈黙が流れる。



「あー、いたいた!!!」


――しかし、神様は私を見捨ててはいなかった。

突然、力強い腕に肩をガシッと掴まれた。
え、男の人!?と思ったけれど、続いて上品なシャンプーの香りがふわっと鼻をくすぐる。

「お嬢様、いた!」

シャカシャカとジャージの裾を擦りながら、こっちに来たのは、さっきの元生徒会長さんだった。
うわ、この人近くで見るとすっごい美人・・・!ちさとさんとはタイプが違うけれど、背が高くて凛としていて、女子校の王子様って感じだ。


「あら、舞美さ・・・」
「さあ、走りましょう!」

依然、ちさとさんの声には元気がないっていうのに、元生徒会長さんは、全然気にしてないみたいだった。

「うわあ」

片手でひょいっと私とちさとさんの体の向きを変えて、バンバンと背中をたたかれる。

「あの、あのね、舞美さん、私」
「走りましょう!走れば、何もかもどうでもよくなって、頭スッキリしますよ!あははは」

あれ、もしかして・・・励ましに来てくれたのかな。
言葉で慰めるよりも、一緒に何かすることで、ちさとさんの心を軽くしてあげようって。
2年間も生徒会長やった人だもんね、そういう心遣いのできる素晴らしい人なんだろう。

「観音ちゃんも一緒に走ろうか!」
「私、仏像様じゃないですよ。え、でもなんで私のこと・・・」
「あはは、細かいことはどうでもいいじゃないか!」

でも、な、なんというか・・・優しいんだけど、この人は全然人の話を聞いていない。
強引っていうのとも違う、あくまでも“耳に入ってない”って感じ。

私の友達にも、初等部の生徒会に入っている子がいるからわかるけれど、リーダーって2タイプあると思う。
みんなのまとめ役で、ガンガン引っ張っていってくれる人。
反対に、何をするわけでもないのに、みんなのペースを自然に自分の方へもってっちゃう人。
この元生徒会長さんは、察するにマイペースタイプのようだ。
それが証拠に、さっきまで沈んでいたちさとさんも、なんだかんだでもう笑顔を取り戻している。

「ウフフ、そうね。くよくよしていても、何かが変わるわけではないもの」
「そうです!ね、すごいよね!」

全然噛みあってないのに、すごく楽しそうな二人。
そういう様子を見ていると、不思議と私も心が落ち着いてきた。

「香音さんも、付き合っていただけるのかしら?」

ちさとさんからの御誘いに、大きくうなずいてみせる。

「私、制服ですけど・・・着替えた方がいいですかね。あと、足早くないですし」
「ううん、そのままで大丈夫!私とお嬢様、よく走ってるけど、かるーくだから!かるーく!」

まだ話してる途中なのに、待っていられないとばかりに、元生徒会長さんは足踏みを始めた。

「まずはグラウンドまで!トラックが空いてたら、そのまま長距離勝負ですよ、お嬢様」
「ウフフ、よろこんで」

それっ!と思い切り足を踏み出しつつも、私のことを振り返って忘れないでくれる気遣いがうれしい。
周りの人たちから視線がくるのは、初等部の制服でバタバタ走ってる私のせい?それとも、勝負と言いながらもわんちゃんの兄弟のように、わざと体当たりしたりしてジャレあっているお二人の微笑ましさに?

「観音ちゃん、いえーい!」

生徒会長さんのおふざけタックルが、私にも容赦なく降りかかってくる。
超痛い・・・でも、こんなキラキラした人たちの仲間に入れてもらえるなんて、私にとっては夢のようなことだった。



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