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「私ね、結構疑り深いところがありましてぇ」

まあ、これも風紀委員の職業病って奴かな?(ケロキュフッ)とか言って、風紀委員長さん、なぜかとても嬉しそう。

「なかなか、人の内面を100%信用できないっていうか、妙に物わかりがいいタイプだと、これって本心?とか思っちゃうんだよね。キュフフ」

――うーん、まだ、風紀委員長さんの言わんとすることが良くわからない。
前置きが長いタイプなのかも。横で里保ちゃんが、警戒するように肩を緊張させるのがわかった。

「・・・でね、どうしてもすぐにその人の人となりを判断したい!って思った時、千聖お嬢様の様子をうかがうようにしているの」
「はぁ、ちさとさんの」

このシャキシャキきびきびしてる人が、あのぽわーっとしたちさとさんを、大事なことを決める時の基準にしてるなんて。ちょっとびっくり。


「ねえ、香音ちゃん」

すると、唐突に里保ちゃんが私の手を握ったまま、少しピリッとした声で話しかけてきた。

「さっき、グラウンド離れたとき・・・岡井さんと会ってたの?」
「え?」
「答えて。大事なことなの」
「う・・・うん。初対面だから、少し話しただけだけど。あと、一緒に走っ・・・」

そこまで言ったところで、里保ちゃんは風紀委員長さんに険しい視線を投げかけた。


「風紀委員長さんは、岡井さんが他の生徒より偉い立場の人だから、いちいち様子をうかがったりしてるんですか、お金持ちで、権力があるから・・・」
「ええ?」

目をパチクリさせる風紀委員長さん。
私は慌てて軽く里保ちゃんの腕を引いたけれど、口をへの字にしたその顔は変わらなかった。


「・・・里保ちゃん、ちさとさんのこと知ってるの?」
「うん。知り合いではないけどね」
「へぇー、本当に有名人なんだ・・・」

私の言葉を受けて、有名人…と小さく呟いた里保ちゃんは、また風紀委員長さんに視線を戻した。


「人を判断するのに、岡井さんの顔色を伺うっていうの、納得できないです」
「里保ちゃんてば」
「だって、物わかりがいい子は信用できない・・・って香音ちゃんのことを言ってるんでしょう。私の大事な友達のこと、そんなふうに判断してほしくないです」


里保ちゃんが、先輩に向かって、声を荒げている。
そんな姿は、初めて見た。
基本的に真面目で、先生や先輩に対しては、礼儀を重んじるタイプだったはずなのに。


「里保ちゃん、いいって、そんなに怒らないで」
「よくないよ、だってさぁ」


「・・・あー、ごめんごめん!そうじゃないの!そういうことじゃなくてぇ」

もはや、私と里保ちゃんの間にも、ピシッと亀裂が走りそうになった瞬間、ちょっと高めの風紀委員長さんの声が、言い争いを遮った。

「言葉足らずだった!そうじゃないんだよ、里保ちゃん」
「はぁ」

デキるオンナは無駄口を叩かないと言うけれどさじ加減が難しいケロ・・・などと独り言をつぶやきながら、ごめん!とジェスチャーで示してくれる。


「私はね、お嬢様の立場や権力なんて、どうだっていいの。・・・ううん、私だけじゃない。きっと、お嬢様と関わった人なら、みんな、そう思うんじゃないかな」
「だったら、どうして」


スッと目を細めて、風紀委員長さんは私たちを交互に見た。
微笑しているけれど、反論する余地を与えないような、不思議な表情。
興奮した様子だった里保ちゃんも、言葉に詰まって黙り込んでしまった。


「千聖お嬢様は、本当に純粋な方だから。私が信頼しているのは、その何色にも染まらない、美しい感性。どんな人にも、色眼鏡を使わない・・・というか、そんなもの、最初からないんだろうね。
地位や権力を気にしてお嬢様と接していた人も、すぐにそれがどんなにちっぽけな価値観だったか思い知らされるの。
誰かが言ってた。“千聖お嬢様は、心を裸にしてしまう”って。私もそう思う」

そう言って、風紀委員長さんは、今度は私の顔をじっと見た。


「あの人見知りで、なかなか自分をさらけ出せないお嬢様に、あんな奇妙なダッシュまで披露させちゃうんだもの。香音ちゃんが、悪い子なわけがないじゃない。キュフフ」

――あのエクソシ●トは、私別に関係ないんだけどな・・・。とはいえ、風紀委員長をやっているような、真面目で優秀そうな人に認めてもらえたっていうのは素直にうれしい。


「あの、すみませんでした・・・」

風紀委員長さんの言葉の本当の意味がわかって、里保ちゃんは神妙な面持ちで頭を下げた。


「大切な友達の香音ちゃんのことだから、ムキになってしまいました。失礼なこといってごめんなさい」
「キュフフ、真面目だなあ。香音ちゃんと里保ちゃん、いいコンビなんじゃない?私、真面目なコは大好き~」

あっさりと、でも自然に里保ちゃんの発言を許した風紀委員長さん。
この人も、きっとちさとさんに救われたことがあるんだろうな、なんて思った。
だからこうやって、里保ちゃんの言葉の裏にあった気持ちをわかってくれて・・・謝罪も受け入れてくれたのだろう。
もう、里保ちゃんも落ち着いてきたみたいで、少し汗ばんでいた手のひらが、いつもの柔らかくて心地いい温度に戻っていくのがわかる。


「香音ちゃんは、少し千聖お嬢様に似たところがあるのかもね」
「ええっ!私なんかが」
「ほら、すぐそうやって“わたしなんか”って言うとこ、そっくり。キュフフ、自分がどれだけ魅力的なのか、全然わかってないんだから」
「そうですよね!私、香音ちゃんが“私なんか”っていうの、ほんと嫌なんです!私が言っても、全然直してくれないし・・・」
「だよね!千聖お嬢様もそうなの!あれだけ可愛くて気品のある方なのに、全然自分のことが全然わかってないケロ!」

け、けろ?二人はすっかり意気投合したように、私とちさとさんの愚痴(?)を言い合っている。

「もうこうなったら(どうなったら?)、“私なんか”禁止条例を出そう!お嬢様と香音ちゃんが、1度禁止ワードを言うたびに、ギュフーッ!ポイントが加算されていくの。5ギュフーッ!で罰ゲーム1回」
「あ、いいですねそれ」
「よくないです!てかなにそれ!ちさとさんいないのに勝手にそんな」

「あら、千聖がどうかしたのかしら?」

声に反応して、くるりと後ろを振り返る。

「ひっ!!」

里保ちゃんが、短い悲鳴を上げて、私の腕にしがみついた。


「ウフフ、香音さん。ごめんなさいね。つい舞美さんとの競走に夢中になってしまって」
「・・・いいえ、それは別にいいんですが」
「あははは、楽しいね、お嬢様!」
「ええ、香音さんも一緒にどうかしら?」
「いや・・・私は・・・」


もう、“あの時”から数十分は経ったというのに。
大きな美人さんと小さな美人さんのコンビは、まだ二人して、ブリッジ走りを続けていた。

「え・・岡井・・・え?」

イメージしていた人物像と違いすぎたのだろう、栗色の髪をふわふわ揺らしている逆さづりお嬢様を前にした里保ちゃんは、私にすがるような目を向けてきた。



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