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「疲れた・・・」

ノートの上に鉛筆を放り投げた熊井ちゃんがそう呟いた。
なんだかんだあったが、その後は結構集中して勉強したな。
大きな熊さんじゃなくても、確かにちょっと疲労感を感じる。

「ちょっと休憩しようよ」
「そうでしゅね。だいぶ進められたし」
「じゃあ僕は、ちょっと何か飲み物とお菓子でも持ってくるよ」

僕らの勉強を見てくれていた舞ちゃん、休憩に入っても手を休める間もなく傍らの難しそうな本に手を伸ばしてそれを読み始めた。
こうやってほんの少しの時間さえ無駄にしないんだな。っていうか、意識しないで自然にそうなっちゃうんだろうけど。
その辺が僕ら凡人とは違うところなんだろう。さすが天才さんだ。



僕が下の階の台所から冷たいジュースと用意していたケーキなどを持って部屋に戻ると、舞ちゃんは読んでいる本に没頭したままの様子だった。
そして、もうひとりの方はというと・・・
熊井ちゃんのしていたその異常な行動に、僕は目が点になってしまったのだ。


そこには、四つん這いになり僕の部屋の押入れに首を突っ込んでいる熊井ちゃんの姿。
見ると部屋中、あらゆる引き出しやクローゼットは開け放たれ、引っ張り出された物で乱雑なことになってしまってる。
何かを探しているかのように、僕の部屋を家捜ししている熊井ちゃん。


「あれー? ここにも無いなー。おかしい!!」


あ、あのー、人の部屋で何をしていらっしゃるんですか、熊井さん?
押入れの捜索が終わったのか、押入れから顔を戻した熊井ちゃんが戻ってきた僕に気付いた。

「ねぇ、生写真とかはどこにしまってるの?」
「生写真って?なんのこと?」
「とぼけちゃってw 持ってるんでしょ、舞ちゃんの写真」

顔が赤くなったのを自覚する。なんで僕がそれを持っていることを知ってるんだろう。
でも、決してこの人になんか見つかったりしてほしくない。
(いつだったか怪しい露天商で買った)それは僕の何よりも大切な宝物なんだから。

意外なことに、熊井ちゃんは舞ちゃんの写真のことについて、それ以上は掘り下げてこなかった。
だがそれは、彼女が熱心に探しているものが、それではなく他のものだったからのようだ。
一杯に引っ張り出しされている机の一番下の引き出し。そこを指差した彼女が僕に聞いてくる。

「ま、それはいいや。それより、ここの奥にいつもあるはずの本とかDVDが無いんだけど?」

な、何を言ってるんだ、この人。舞ちゃんの前だぞ、そんなこと聞くなよ。
って、ちょっと待て。な、な、なんでそんなこと知ってるんだよ!!

受けたショックで固まった僕には構わず、熊井ちゃんが本を読んでいた舞ちゃんに声をかける。
その得意気な顔。それが僕に嫌な予感を抱かせる。

「舞ちゃんに見せてあげようと思って。せっかく舞ちゃんが初めて男子の部屋に来たんだから、後学のためにもさ」
「舞に見せたいもの?」
「男子の部屋には必ず、あるものがあります!」

エッヘン!という擬音が聞こえそうなぐらい得意気な顔の熊井ちゃん。
何を言い出してるんだ!? なんなんだ、この人は。
彼女の言わんとすること、僕は思わず鳥肌が立った。

「舞ちゃん、そういうの見たことある?」
「そういうのって、何でしゅか?」
「何って、もちろんエr「く、く、熊井ちゃん!!」

なんの話しをしてるんだ!
何が、川*^∇^)||<舞ちゃんにも見せてあげようと思って! だよ!!
そんなものを舞ちゃんに・・・
どうすればそういう発想が出てくるんだよ、熊井ちゃん!


「で、何でいつものところに無いの? 舞ちゃんが来るから片付けたの?」

はい。その通りです。そのようなものは万が一のことを考えて全て処分しました。
いま熊井ちゃんが言ったように、男子高校生なんだからそれぐらいのモノが部屋にあるのは当たり前のことだ。
だから別に僕は見られたとしてもそれほど構わないけれど。でも、舞ちゃんは嫌な気分になるかもしれないじゃないか。
だって、男子特有の事情なんか舞ちゃんには分からないかもしれないし、第一そんな理屈は舞ちゃんには関係ないこと。
それで、舞ちゃんの目に触れたりしないように片付けておいたのだ。

っていうか、お願いだから舞ちゃんの前でそんなこと大きな声で聞かないで欲しい・・・


「いや、その、それはそうなんだけど・・・ って、ちょっと待って・・・・ いつものところって、そもそも熊井ちゃん何でそのことを・・・・?」
「今の世の中はね、情報化社会なの。だからうちもそれに倣ってるんだけどー、スパイウェアみたいのって自作するのは大変なんだよー。うち凄い!!あははは」


意味が分からない。


僕のプライバシーは何故いつもこの人に筒抜けなのか、以前からそれは常々疑問に思っていた。
例えば、僕の現在地はいつだって何故かこの人に把握されてるし(これはケータイに何か仕込まれているらしい・・)。

彼女の今のその言葉を聞いて分かった。
どうやら僕のことを監視しているシステムが存在しているようだ。
しかもケータイでの位置情報の他にも、スパイウェアなるもので僕の部屋を直接的に?(どうやって・・・・)
そんなもの手作りしてるとか、努力すべきところを完全に間違ってるよ熊井ちゃん。

まあ、僕にはそういったことを熊井ちゃんに抗議する気力など当の昔に失われているんだけど。
抗議なんてしたところで、どうせ聞き入れて貰えるわけなど無いんだから。
それだったら流れに身を任せていた方が精神的に安定していられる。

僕はその達観した気持ちを持ち合わせることで、心の平穏を保っていられるんだ。
熊井ちゃんと関わるようになってもう長くなるが、お陰様で僕は精神的な面では本当に成長したと思う。



なんてことをつらつら考えている場合ではなかったのだ。
僕が長々とした解説をしているうちに、大きな熊さんは既に次の行動に移っていた。

熊井ちゃんがベッドの下に手を突っ込んで、手探りでそこを探している。


しまった!!

そこにあるもののことを僕はすっかり失念していた!!
思わず大きな声を出してしまう。

「Σ!! そ、そこはダメ!! 熊井ちゃん!!!」
「ダメってなにが?」

僕の叫び声に、手を引っ込めた熊井ちゃんが真顔で聞き返してくる。
混乱した状態の僕の頭に上手い言い訳の言葉など思い浮かぶわけもなく、僕はただ同じことを繰り返した。

「と、とにかくダメなんだよ。そこだけは絶対ダメ!!」
「ダメって言われると、なんとしても確認してみたくなるよねー」

御自分のしたいことは何としてもやり通そうという、そんな強い意志を感じるその表情。
僕をいつも恐怖のどん底へと突き落とすのは、この表情のときだ。

ベッド前を死守していた僕に大きな熊さんが迫ってくる。
押し倒される!?という恐怖感に支配され体が硬直した僕を、その片手であっさり強制排除した熊井ちゃん。
その大きな手をベッド下に突っ込んで、そこにあるものを引っ張り出した。


「なーんだ、アイドルの写真集が何冊かあるだけじゃん。必死で隠すからもっとエグいのがあるのかと期待したのに、つまんないなー」

「『アンドゥトゥア』? 『Do』 ? ふーん、こういう若い女の子が好きなのー?」


僕らが騒いでいるにも関わらず、舞ちゃんはさっきからずっと読んでいる本に再び目を落としていた。
難しそうなその本によっぽど集中していらっしゃるようで。さすが天才さんだ。
僕と熊井ちゃんのやり取りがどうやら大した内容のものじゃない、ということが丸分かりっていうのもあるんだろう。
そんな僕らの下らないやり取りなど全く興味が無いような舞ちゃんの様子。
でも、今はそれが唯一の救いだった。こんな会話、彼女の耳に入れたくないから。


「って、何よ、泣いてるの!? えー、、これじゃうちが泣かしたみたいじゃん。男でしょ!泣くんじゃない!!」

あれ? いつの間にか僕の目には涙が浮かんでいたのか。
そんな僕に活を入れてくる大きな熊さん。
まぁ、泣かしてきた張本人からそんなこと言われたくないんだけどさ。


でも、良かった。
思わず涙が出てしまったけど、それで彼女にそれ以上のことを止めることができたんだから。
僕のこの涙の原因は、この写真集が見つかってしまったことだと思い込んでくれたみたいだな。

写真集が防波堤になってくれた。
熊井ちゃんに見つかってしまうとは誤算だったけど、でもまあそこで食い止められて良かった。

肉を切らせて骨を断つ、とはこういう状況のことを言うのかもしれないな。
だって、実はそこにあるのはその写真集だけじゃないんだから。
どうやら、その写真集の更に奥にあるモノには気付かれなくて済みそうだ。
それだけは絶対見られてはいけないんだ。身の破滅だけは免れた。


だが、大きな熊さんという人は、そんな甘い人では無いのだ。
僕を窮地に陥れる行為をするということ、そのことに関してだけはとりわけ特化されてるんじゃないか?
というぐらい、僕のしてほしくないことをピンポイントでしてくる人なんだから。
そういう時の彼女の嗅覚には今までも何度も泣かされてきた。

そして、今もまた・・・

この直後、熊井ちゃんの言ったそのセリフ。
それは僕にとって、身の毛もよだつものだった。


「あれ? まだ何かある。これ何だ?」


そこにあった小さな箱を取り出してきた熊井ちゃん。
パッケージに書いてある商品名を読み上げる。

「僕の彼女はメ○ネっ娘?」

そのパッケージにはメガネ姿の女の子。それをしげしげと眺めている大きな熊さん。
その時、僕は余りにも大きいショックを受けたのか声も出せなかった。

や、やめてくれ・・・・ 

声に出せないその思い、僕はそれを心の中で叫ぶしか出来なかった。

パッケージに書かれている文面を熟読し終わっても疑問が解消できなかったのか、次に躊躇なく箱を開ける大きな熊さん。
取り出した箱の中身。柔らかで弾力のあるシリコン製のそれを手に取った彼女が更に首を傾げた。


「?? なにこれ??」


どうやら、それがどういう用途のものなのか分からないようだ。
まったく見当がつかないといった御様子の熊井ちゃん。

良かった。熊井ちゃんがそんなの知らなくて。
でも、?マークの浮かんでいる熊井ちゃんのその様子を見たその瞬間、僕の脳が瞬時に指令を出した。

ごまかせ!!

ここは全力でごまかしにかかるんだ。何としてもごまかし通せ。それしかない。
いま僕の心臓はバクバクいってるが、落ち着け。
ミスは許されない局面だ。完遂しろ。

「そ、それね、健康器具みたいなものらしいんだ。あはは」
「みたいなものってなに?」
「ぼ、ぼ、僕もよく分からないんだけど、と、と、友達との余興でやったゲームで当たったから貰っただけだし」


ジトっとした目で僕を見る熊井ちゃん。


「ここにあるのは、そ、そういうことだから! 景品として当たっちゃったからそのまま持ってるだけで!」
「そんなことはどうでもいいから。ふーん?どうやって使うの、これ」
「つ、つ、使ったことなんかないから! ほ、本当だって!!」

狼狽した僕を熊井ちゃんが更にジト目で見つめてくる。
ますますパニックに陥っていく僕。

そんな僕をしばし黙って見ていた熊井ちゃんだったが、いよいよ僕を仕留めにかかったようだ(僕にはそう見えてしまった)。
ライオンのような鋭い視線の熊井ちゃんが再び口を開く。その乾いた口調。


「いい? 同じ質問は二度しないからね」

熊井ちゃんのする質問。
僕には、それに対して答えなくてもいいなんていう選択肢は用意されていないのだ。
だんだん意識が遠のいていくような感覚。もう僕は気を失いそうな気分だった。
(気を失ってしまえたらどんなに楽なことか・・・)


「じゃあ答えて。なんなの、これ?」


僕を真正面から見据えた熊井ちゃんが詰問する。
部屋に響いた熊井ちゃんのその厳しい口調は、ここまで読書に没頭していた舞ちゃんでさえも読んでいた本から顔をあげるぐらいだった。
そして、舞ちゃんのその視線は真っ直ぐ僕らに向けられたんだ。

舞ちゃんはその大きな目で僕らをじっと見つめていた。
熊井ちゃんが問題の品をその手に持ち、僕を問い詰め返答を待っているという、その光景を。



人生オワタ \(^o^)/




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