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食堂には、朝っぱらから、ペチャクチャキャーキャーとお喋りの声が飛び交っている。

「空翼、炊き込みご飯は食べたかしら?」
「あ・・・まだ」
「じゃあ、おこげのところをよそっていただきましょう。ケッケッケ、執事さん、お願いしていいですかぁ~?」
「ひぎぃ!よろこんで!」
「うっさいだまれ!気配を消して業務に勤しむでしゅ」
「オメー、あたしの味噌汁まだかよ!わかめ増量でさっさともってこいや」


――女って、ほんとやかましいよな。
今日は気が向いたから、千聖ねーちゃんが使っている、寮生と共用の食堂に来てやったけど・・・明日菜ねーちゃんと俺専用の食堂と空気が違いすぎる。

まず、あのデコ女。ずっと千聖ねーちゃんに一方的にベラベラ話しかけるか、ショボ執事Σ(執△事)に因縁つけるか、ばっかりやってて、全然飯に手つけてない。
それから、あの℃変態。ねーちゃんがデコ女の方を向いている一瞬の隙に、ねーちゃんの食べかけのトーストと自分のを交換しやがった。なんだあいつは、妖怪か。
あと、あの風紀がどうのってうるせー奴。ぶーすって言い返したら、デキるオンナはそれぐらいじゃどうのって言いながら涙目敗走しやがった。

ま、あとの人たちは別にフツウかな。この人たちとねーちゃんだけならよかったのに。
俺は、千聖ねーちゃんとのんびり飯を食いたかったんだ。だってさ、今日は・・・


「ねーちゃん、今日の夜飯なんだけど」
「ああ、今日は寮の皆さんと外でお食事して帰るから、千聖は遅くなるのよ」
「・・・あっそ」


何だよ、ムカつくなあ。何で今日なんだよ。姉ちゃん、覚えてないのかな。ほんと、いつもボケーッとしてるんだもんな。

「千聖ねーちゃんのアホ。乳牛!」
「まあ、何を言うの、待ちなさい、空翼!」

顔真っ赤にしてやんの。千聖ねーちゃんが怒ると、何かちょっと嬉しい。
でも、ずっとここに居たらデコ野郎とかがごちゃごちゃ因縁つけてきそうだから、とりあえず退散することにした。


「あれ、空翼お坊ちゃま、炊き込みご飯・・・」
「おにぎりにして、弁当に入れとけよ、ショボ執事!」

勢いで階段を駆けあがって、自分の部屋のドアを開けようとしたとき、いきなり人影が俺の前に立ちはだかった。

「おい、オメー」
「・・・うわ、マジかよ」

なぜか、食堂にいたはずの℃変態野郎が、俺の行く手を阻んできたのだった。
どういうことだ?この屋敷はでっかいけど、そう複雑な造りになってるわけじゃない。
つきあたりにあるこの部屋の前に、先回りできるはずはないし・・・


「なんで俺より先に、来れるんだよ。おかしいだろ」
「はーん?あたしに不可能はないんだよ。そんなことより」

ギラギラした目を細めながら、俺をじーっと観察してくる℃変態。
コイツ、ほんと苦手だ。ネコ科の細くて足が速い猛獣を思い出す。チーターとか、ヒョウとか・・・。


「オメー、さっきなかなかいいこと言ってたかんな」
「は?そういうとこだけはちゃんと聞いてるんだな。この℃変態」
「はーん?あたしは“ショボ執事”っていうあだ名を評価してやっただけだかんな。何のことと勘違いしたのかな?かな?」

――こ、こいつ・・・!ぜってーそっちじゃねえだろ!あっちのほうだろ!
でもこの℃変態に言い返すのが、いかに無意味なことかぐらい、俺だってとっくに学習してるんだ。


「俺に何か用かよ。部屋まで来やがって」


精一杯毒づいてやったつもりなのに、℃変態は全然ひるむことなく、ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべている。


「まーまー、今日はこの辺で勘弁しておいてやるかな」
「はぁ?」
「もっと反抗的な態度取ってきたらー、そらきれい状態まで追いつめてやろうと思ってたけどー、まあ、いいよ、今日はね。まあ、今日は」


その言い方で、こいつはちゃんと、俺が気にしている“あの事”をわかっているんだと気が付いた。
それと同時に、改めて千聖ねーちゃんに対する苛立ちがまたもやもやと湧いてきて、思わず大きくため息をついてしまった。


「はーん?何この世の終わりみたいな顔してんだ、オメー」

ちょっと気の弱いところを見せたから、大喜びでからかってくるかと思いきや、その声は意外と優しかった。


「うるせーよ」
「ま、人生ってぇのは、すべからく、自分の思い通りにはいかないもんなんだよ。んじゃ、あたしも登校の準備があるからこれで~」

くるっと俺に背を向けた℃変態は、手をヒラヒラさせながら去っていく。・・・と思ったら、その手から床に、小さな紙が落下した。


「おい、何か落ちたぞ」
「それ、あげるかんな。優しい私、マジ大天使!」

「んだよ、言ってる意味わかんね~・・・」

その姿が見えなくなってから、恐る恐る残されたものに近寄ってみる(どんな罠を仕掛けてきてるかわからないしな!)。
大きさからして、写真のようだ。なんだあいつ。自分の写真でも置いてったのか。鼻毛でも書いて、門扉に飾ってやろうかな。
そんなことを考えながら、半ば折り曲げ気味に写真を裏返す。


「・・・・・はぁ!?」

“ねえねえ、千聖お嬢様がオメーの誕生日覚えてないってわかった時、どう思った?プギャー”

そんな破り捨てたくなるメッセージを書いた付箋が貼られていたのは、り、り、り、梨沙子さんの写真だった。しかも、み、水着…


そう。今日は俺の、13歳の誕生日なのだ。
当然、祝ってくれるもんだと思ってた。パーティーとかめんどくせえけど、参加してやってもいいぜ?みたいなシミュレーションまで頭の中で組み立てていた。なのに・・・

ちゃっかり写真は制服のポケットにしまいつつ、のほほんとした千聖ねーちゃんの笑顔を思い浮かべた俺は、がっくりとうなだれた。



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