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「空翼、部活行こうぜ」
「・・・あー、今日はいいや。気分じゃない」

今朝のことがあって、どうも今日は憂鬱な気分だ。
サッカーやる気しないなんて、俺にとってはまずありえないことなのに、気力が全く湧いてこないんだ。
友達同士の遊びでのサッカーなら、参加してやってもよかったけれど、部活となると、チームへの責任がある。
執事長にだって、いつも言われている。“頂点に目標を据えたいのならば、ご自身の決断が周囲に及ぼす影響を常にお考えなさい”と。

こんなクサクサした気分のまま、サッカーというチームプレイを重視するスポーツと真剣に向き合えるはずもない。迷惑をかけるとわかりきってるなら、今日のところは頭を冷やす時間に充てたほうがいいだろう。


「珍しいな。美人のおねーさんとケンカでもしたか?」
「はぁ!?うるせーな、さっさと行ってこいよ。明日は朝練から参加する」

図星図星、と笑いながら、部活仲間は教室を出ていってしまった。・・・ったく、ねーちゃんたちの顔もしらねーだろ、お前!


「はあ・・・」

それにしても・・・ケンカ、ならまだよかったんだけどな。実際、明日菜ねーちゃんとは毎日のように揉めてる。
それでも、お互い言いたいこと言い合うから、別に気まずくなんかならない。5分後には、一緒にショボ執事からかって遊んだりできるし。

だけど、千聖ねーちゃんは・・・ちょっと違う。
少し年が離れてるってのもあるけど、気がつえー明日菜ねーちゃんとは全然違って、ぼーっとしてて何考えてるんだかよくわからない。
今朝、からかいすぎたかな。明日菜ねーちゃんなら、追いかけてきてぶんなぐられてただろうけど、千聖ねーちゃんって暴力に訴えてこないからな。
女性の体型の悪口はだめ!とあのつえーメイドも言っていたことだし(前に敬意を表して“フルメタルマッチョ”というあだ名をつけたら、泣くまで罵倒された)あとで謝ったほうがいいのか。

いや、でも!それはそうとして、フツー、弟の誕生日、忘れないだろ。何にもなかったように、友達とメシ食いに行くなんておかしい。
お誕生日会なんて、子供っぽいことを言うのね。オホホホ!なんて言ってる明日菜ねーちゃんにはハナッから期待してないが、千聖ねーちゃんはそういうタイプじゃない。

寮の誰かの誕生日には、人一倍張り切って、ミートローフとか手の込んだ料理を振る舞っていたし、自分の誕生日なんか、℃変態が手渡したダッセーパーティー用の鼻メガネをつけてはしゃいでいた。
それが、なんで、実の弟の俺の時だけ・・・。

「・・・帰るか」

教室で一人、悶々としてても仕方ない。ねーちゃんはさておき、執事やメイドが、俺の誕生日を祝ってくれると言っていたし。
そのうちみんな帰ってくるだろう。その時は、千聖ねーちゃんには一言文句言ってやらないとな。
可愛い弟の大事な日を忘れていた罰として、ほしかったエアガンでも値だってやろうかな。


そんなことを考えていたら、少しは気がおさまってきた。
ま・・・こんな日もあるか。サッカー部のキャプテンの声が響くグラウンドを背に、昇降口を目指して歩き出した。


*****

「あー・・・めんどくさ」

家に着くなり、玄関にいたショボ執事に紙袋を押し付けて、乱暴にコートを脱ぐ。

「おや、誕生日プレゼントですか。こんなにたくさん」
「・・・なんか、知らない女子たちからもらったんだよ」

あの後・・・校門を出たところで、女子の集団に声をかけられて、このピンクとハートの袋を押し付けられた。
全員で一緒にピーチクパーチクしゃべるから、何言ってんだか全然わかんねえ。

かろうじて、誕生日のプレゼントだってのは聞き取れたから、礼を言ったのに、甲高い悲鳴を上げて走り去って行ってしまった。意味わかんねえ。


「さすが空翼おぼっちゃま、モテモテボーイですね」
「つか、どうでもいいし」
「そんなこと言って、本当はうれしいんでしょう?お口元が緩んでいますよ」
「っ・・・うるせー!鈴木さんにあのことバラすぞショボメガネ!」
「ひぎぃ!どのこと!」


にやにやなんて、してねーっつーの!俺の好みは女の子らしくておとなしくて守ってあげたくなるような・・・だからああいうやかましい女子たちとは・・・


「あー、腹減った!村上さん、サンドイッチとかない?」


着替えて荷物を置いた後、メイドルームへと足を運ぶ。


「あれ?」
「・・・・・・・あ」


ドアを開けると、そこにいたのは、全く予想していなかった人物・・というか、子供。


「みおんじゃん。帰ってきたのか?」
「あぅ・・・」

なぜか後ずさりをするみおん。お絵かきでもしてたのか、ぷにぷにした小さな手が、赤とか青とかいろんな色で汚れてる。

「なんだよ、親父とおふくろは?」
「うぅ・・・」
「つーか、何その手。壁とか触んなよ。ほら、洗面所行こうぜ」
「う・・・うええええん」


突然、みおんの顔がくしゃっと歪んだかと思うと、くりんとした目からボロボロと涙が落ちてきた。


「はあ?どうしたんだよ、なに泣いてんだ?ほら、こっち」
「おにいたまのばかああ!うえええん!いじわるちた!」
「してねーだろ!とにかく、こっち・・・」

とりあえず、メイドルームから出そうとみおんを抱いて踵を返す。


「うわっ!」

そのまま足を一歩踏み出した先、頭突きでもくらわせてしまいそうな距離に、人の顔があった。



「・・・つばさおぼっちゃま」

地鳴りを思わせる、超低音のドスの利いた声。
俺と同じぐらいか、もっと低いぐらいの背丈のくせに、ものすごい威圧感をまき散らしながら立ちはだかっている女(たぶん)、一名。


「おぼっちゃま。常々申し上げておりますように、岡井家の次期当主たる者・・・」
「違うって!俺なんにもしてねーし」
「ふえーん、おにぐんちょう!おにーたまがいじめるの!」



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