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夏休み明け。
久し振りの登校。
僕は今、生徒会室でこの人の前にいる。

「夏休みのあいだ、何をしてたの?」
「・・・・聞かないで小春ちゃん。なんか僕はずっと振り回されてた気がするよ・・・ あの人たちに・・・ あとは有原・・・ あいつ、いやあの人は・・・」
「なにブツブツ言ってるの?」
「いや、もう忘れよう・・・・ それより、小春ちゃんの方はこの夏休み何を?」
「うん。私はね、ここ最近は学校説明会の準備をずっとしてたよ」
「学校説明会?」
「二学期になるでしょ。生徒会渉外部として、うちの高校への受験を考えている人のための学校説明会を開こうと思って」

へー。小春ちゃんがそんな真面目な活動をしていたなんて。
破天荒なキャラの割には、常識的な面もあるんだよな、この先輩は。
しかも、学校説明会だなんて、そんな大きなイベントを自分で企画していたのか。相変わらずやることのスケールが大きい人だ。


「それで、その説明会の勧誘にね、いろいろ他の学校を回ったりしてたの」
「ふーん、他の学校へ行ってきたんだ」
「そう。他の学校の夏休みの登校日に合わせて行ったりしてさー

他の学校へ行ってきただって?
ひょっとして、あの学園にも行ってきたんじゃないのかな。

だとしたら、なんでそういうのに僕を連れて行ってくれないんだよ、小春ちゃん!!
そういう生徒会の仕事なら、僕だってなかさきちゃんに気兼ねもせず堂々と学園の中に入れるだろうに。
それなのに、また僕を置いてけぼりにして・・・・

あ、いや、別に僕はどうしても学園に行きたいとか、そういうんじゃなくて、渉外部員として責任ある仕事をしたかったというか・・・
もちろん、そういうことですよ?

「こ、小春ちゃん、他の学校に行ったって、どこの学校に行ってきたの?」
「うん。行ったのはね、学園とその姉妹校の学園だよー! そこで勧誘してきたんだ」
「やっぱり!! ん?待って。学園とその姉妹校? その他の公立校は?」
「行ってないよ」
「その2校だけ?」
「うん、そうだよー!!」
「・・・・・・」

小春ちゃん、うちの学校をアピールしてこようというのは、それはとてもいい考えだとは思うけどね。

でも、その勧誘を行ってきたっていうのが、学園とその姉妹校とか、私立の学校だけなのはどうなのかと思うよ。
意味あるのかな、それって。

だって、高等部もあるんでしょ、それらの私立校には。ってことは、それらの私立校はエスカレーター式だよね。
当然そこの生徒さんが外部の公立高校を受験したりはしないんじゃないのかな。

そうだよ、まず内部進学してしまうだろう。常識的に考えて。
間違いなくそうでしょ。
そんな学園の生徒さんを勧誘しようと考える小春ちゃんって・・・

僕は、いま思ったそんな疑問点を、無駄だろうとは思いつつも一応口にしてみた。
すると、それを聞いた小春ちゃんの返答。


「だって、その2校には本当にカワイイ子が多いんだもん!!」


なんか目眩がしてきたよ、小春ちゃん。


そんな小春ちゃんが開いた学校説明会の当日。


その説明会を行う教室へと向かう。

とりあえずその教室の中を覗いてみて驚いた。
小春ちゃんのしたその勧誘じゃ、参加者なんかいるわけないでしょと思っていたのだが、そこにはいたんだ。
説明を聞きに来た私立校の生徒さんが。一人だけ。


「小春ちゃん!いるよ! 参加してきた生徒さんが。一人だけだけど」
「嬉しいなー! 来てくれた人を見ると、頑張らなきゃって思うよね!」
「でも、あの子のあの制服、あれ初等部の生徒さんだよね・・・・ 小春ちゃん、小学生も勧誘してきたの?」
「そうだよ?」


僕のこの疑問点も小春ちゃんには理解できなかったようで。
何を言ってるんだろう、みたいな目で僕を見ている。
それ、逆でしょ! そんな目をするのは、どっちかというと僕の方だよ。

だってさ、普通こういうのって対象は中学3年生じゃないのだろうか。
それなのに小学生を勧誘してくるなんて。
小学生に対して、いったい今日は何を説明すればいいのだろう?

でも、目の前の明るい笑顔の小春ちゃんを見ると、そんな細かい指摘をするのも何か無粋なような気分にもなる。
小春ちゃんって、何か得な性格してるよなあ。

しかし、やって来たその子もその子だと思う。
私立校の初等部の子が何を思ってこの場に来ているんだろう。


あらためてそこにいる女の子を見る。

教室にひとり座っている彼女。
場違いなこの場にいるにしては、見た感じとても聡明そうな子ではあるが。

彼女のその表情は、見ているこちらまで明るくなるぐらいのニコニコ顔だった。
そして、ときおり思い出し笑いでもしてるのか、一人で目を細めたりしている。“イヒヒヒ”なんていう笑い声がここまで聞こえてきそう。
ずいぶんとまた見るからに性格の明るそうな子だな。


一緒に教室を覗き込んでいた小春ちゃんが、何か思い出したことがあるのか僕にこう言った。

「ちょっと小春は取ってくるものがあるから、先に始めておいてくれる?」

そう言い残して立ち去って行った小春ちゃん。
だから、僕はひとり教室の中、この小学生の女の子に向き合ったのだ。
相手が小学生ということで気軽な気持ちで話しかけたのだが、すぐに僕は別の緊張を覚えることになる。


「こんにちは」
「こんちくわー!!」


一瞬にしてこの子のペースに引き込まれてしまった。


なんだろう・・・・
僕の方がよっぽど今ここにあるこの雰囲気に飲まれてしまっているじゃないか。

「・・・・・は、はじめまして。うちの学校へようこそ」
「はい。はじめまして。ウフフフッ」

顔を上げた彼女がそう言った瞬間、ちょっとクラッと来た。


か、かわいい・・・・・


この子の笑顔、可愛すぎる。
こんな、一発でその虜になってしまうような笑顔。その笑顔を見ているだけで幸せな気持ちにしてもらえるような。

お嬢様に初めて会ったときのことを思い出した。
あのときのお嬢様もこんな顔をしていた。三日月のように目を細めて、その満面の笑顔で僕を見てくれた。
それに僕は一発でノックアウトされたんだっけ。


今この子も僕にあのときと同じ感覚を与えてくれる。あのときのお嬢様と同じく、その圧倒的笑顔で。
こんな笑顔を見てしまうと。引き込まれる・・・・ この子の虜に・・・・。


でも、待て待て。
相手は小学生だぞ。そこは歳の差を考えなきゃダメだろ。
それもブレーキとなって、いま思わず意識が遠のきそうになったが何とか正気を取り戻す。


そんな僕に彼女が質問をしてきた。

「お兄さんが今日説明をしてくれるんですか?」


お兄さんだってw

いいな、それ! お兄さん!!
この子にそんな呼び方をされると、訳も無く気持ちが高まるよ。これが萌えという感覚か。
これからも、是非その呼び方で呼んで欲しい!!なーんて思ったり。


・・・ゴホン。
まあしかし、ここはちゃんと真面目にいこう。
僕はいま我が校の生徒会を代表して説明しているんだから。

だから、彼女にちゃんと自分の名前を教えてあげる。
小学生には僕の名前は読めないかもしれないけど。

「そうだよ。この今日の説明会のプリントに書いてあるこれが僕の名前です。僕の名前は

僕がプリントに印刷してある文面を示しつつ名乗ろうとすると、プリントを見た彼女は楽しそうにこう言った。

「難しいお名前ですね。ウフフッ」
「僕の名前、読めるかな? 小学生じゃ習ってないよね、この漢字は」
「・・・・なるほど! わかりましたー!! つぐしさんですね!!」


つぐし、って・・・・


読めてるのか、それとも読めなかったのだろうか。
どうすればそんな読み方に。

確かにこの字は「つぐ」って読み方もするけどさ。
でも、そんな呼び方をしてくる人は初めてだよ・・・


予想外の呼ばれ方で若干ちょっと固まっている僕の耳に、彼女の甲高い声が入ってくる。
そこでようやく、僕は彼女の名前を知ることが出来た。


「わたしの名前は、まーちゃんです」



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