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――というわけで、乗らせていただいた千聖お嬢様んちの車ときたら、対面式のふっかふかのシートに、塵一つ落ちていない清潔な、絨毯という超ハイスペック使用。
排気ガスのイヤな匂いなんて一切せず、手入れの行き届いた、居心地の良い空間。
ゴテゴテした装飾品なんて全然ないのに、明らかに庶民の車とは一線を画している。一言で言うと、“格が違う”ってやつなんだろう。
端っこにデンと構えている、ポッチャマの大きなぬいぐるみが、「ここは指定席でしゅ」と主張しているのはご愛嬌。


「千奈美さん、音楽をかけましょうか。お好みのジャンルは?」
「うーん、元気なのがいいなあ」
「元気・・・そうね、では、千聖のおすすめの楽曲を」


おお、オススメとな。千聖お嬢様のお好みときたら、時代劇だとか昭和のメロドラマとか、少ーし現代っことは言えないものだったような・・・。
どんな歌謡曲が流れてくるかと耳をそばだてていると、軽快なドラムとギター、それから現代的な電子音のイントロが流れ始めた。


“♪夏じゃん!見上げる空 青い海~”
「あれっ?」


予想に反して、お嬢様が選んだ音楽は、ごく最近(といっても数年前だけど)のアイドルソングだった。

「これ、いいよね!遊びも100!学びも100!」
「うふふ、千奈美さんをイメージした時、すぐにこの曲が浮かんできたの。力強くて、とてもいい曲だわ」

歌っているのは人気アイドルグループで、私の友達だと、もぉ軍団や茉麻、さきちゃんあたりも熱心に応援している。
うちも、メンバーの一人に似ているなんて言われたりして、親近感を持っていたりして。ちなみに、学内アイドルユニット・Buono!も、頻繁にカバーを披露していることから、うちの学校じゃ、同じ事務所に所属している5人組アイドルと人気を博している、メジャーどころなアイドルなのだ。

閑話休題。

「お嬢様も、こういうの聞くんだね!意外だなあ」
「ウフフ。栞菜やえりかさんがね、最近の楽曲にもお詳しいから、たくさん教えてもらっているの。
歌は素敵ね。聞いていても、口ずさんでも、心を明るくしてくれるわ」

そういって鼻歌まじりにハミングする表情は、本当にうれしそうで・・・そっか、歌うの、好きなんだった。と、いつかの学園祭で、鈴木さんにユニット誘われた時のお嬢様のことを思い出した。

「うちも、このグループ好き。明るくて面白いし」
「ええ、そうね。個性的なのにまとまっていて、・・・ウフフ、メンバーの、ももちゃんに良く似ていらっしゃる方。最近、テレビでお見かけする機会が増えているでしょう?活躍の場が増えて、ますます魅力に磨きがかかっているわ。
それから、姉妹グループの、5人組ユニット。あちらも、スタイリッシュな楽曲から、可愛らしい曲まで・・・」

――ああ、なんか。
本当に、品のある子なんだな、って、何気ない会話から強く感じる。
言葉づかいがどうとかじゃなくて、とにかく発言が柔らかい。
人を褒めるのが上手で、ネガティブなことなんて一切言わない。
こういうの、“金持ちケンカせず”って言うんでしょ?うち賢い!(从o゚ー゚从<うーん??)
上品な人と話していると、こっちの毒気も抜けてしまう気がする。
あの寮の人たちが、いつも和やかで平和そうにしているのも、このお嬢様の影響によるものが大きいんだろうな、と思った。

「ところで、今日はこれからどこに?」
「ええ、祖父と祖母の家に。さっきの駅前のビルの地下にある、お茶菓子のお店。あちらの羽二重餅が美味しいと前に言っていたから、届けて差し上げようかと思っていたの。
包装とメッセージカードをお願いしていたら、少し時間がかかってしまって」
「・・・ええ!?うち、行っていいの?」
「ウフフ、もちろん。千聖がお誘いしたのですもの。是非、紹介させていただきたいわ」

うわー・・・緊張する。新聞記事どころじゃなくなってきたぞ。
お嬢様のおじーちゃんおばーちゃんってことは、“そっち系”の人たちなわけで。


こんな、ショートパンツにキャラクタープリントのリュックなんて背負ってる超庶民なんて、動物園の珍獣もいいとこなんじゃないか?


「着替えた方がいいかな?」
「まあ、どうして?車に、汚れが付着していたかしら?」
「じゃなくて、変なカッコで行ったら追い出されるんじゃない?ってこと」
「ウフフフ、そんな、畏まって訪問するような場所ではないのよ。ごく普通に、慎ましく生活している祖父母だから」
「そ・・・そうかな。ま、でも、駅ビルの和菓子屋さんのお菓子とか食べるなら、庶民にも理解がある方々ってことだもんね」

すると、お嬢様は少し寂しそうに微笑んだ。

「・・・そんなに、私たち家族は、特殊なように見えるのかしら」
「あ、ごめんね、そういう意味じゃなくて!」

私は慌てて、お嬢様の両手をがっちりと握った。


「なんか、うちとか全然平凡だからさ!知らない世界のことに興味あって、ほら、だから新聞部に入ったっていうのもあるし!
てか、別に批判じゃないから!あ、でもさ、お金持ちでお嬢様なのは事実なんだから、もっと自慢してもいいと思う!うちならそうしてる!札束ビンタぐらいぶちかましてるかも!」

かなり大音量で、わけのわからないの言い訳だったけれど、お嬢様は眉をしかめるようなこともなく、ジッと私の目を見つめて聞いてくれた。

「・・・千奈美さんのご意見は、明日菜のものと近いのね」
「あ、妹さん?え?マジ?」
「ええ。私達の家は特殊だから、学園の皆さんとは少し立場が違うことを理解すべきだと、妹は言っているわ。それは、私たち姉妹のためというよりも、周囲の方々のためであると」

――ああ、そういうことか!札束ビンタの下りかと思ったぜ!

「でも、千聖は、特別な扱いを受けたいとは思わないわ。
自分の力で何かを成し遂げたわけでもないのに、畏まって接していただく理由はないもの」

千聖お嬢様は、いつものふわふわした声色のまま、それでいてはっきりとした口調で言い切った。
それで私は、千聖お嬢様がいかにこの問題と真剣に向き合っているのか理解できた。
だから、思った。
私も自分の気持ちをはっきり伝えなければと。
概ねちゃらんぽらんな私だけれど、真剣な気持ちには、まっすぐに向き合うというポリシーは持っているのだ。

「そっか、変な言い方でごめんね。
だけど、千聖お嬢様がうちに本音で話してくれたんだから、うちの意見も聞いてくれる?」
「ええ、喜んで」
「あの・・・ほら、前に、ね?新聞部で、あったでしょ、いろいろ。お嬢様のことを悪く言うような・・・。
うちは新聞部だけど、やっぱりあのことは今でも思い出すとしんどいし、嫌な気持ちになるよ。
でもね、どこかで、そんなバカなことやっちゃった部員の気持ちがわからなくもないんだ」
「まあ・・・」
「いや、もちろん!もちろんそんな記事は今後絶対に書かないよ!あくまで、人間のさ、心の弱い部分っていう意味で・・・。
うちは舞美の友達だったり、共通の友達も結構いるから、こうやってお嬢様と一緒にいる機会もあるでしょ?
だけどやっぱり思うもん、一般生徒とは違った存在だなって。
それはもう、運命なのさ!仕方ないことなのさ!うちがいつまでたっても、自分一人専用の部屋を与えてもらえなくて、おねーちゃんや妹たちと毎日バトルしてるのと同じ!自分の力でどうにもならないことってあるじゃん」

語りながら、自分がいつになく、熱くなってきているのを感じる。
私、こんなキャラだっけか?某Mぉ軍団長のウッザイ部分が乗り移ってきてるのか??偉そうな演説口調を、自力で止めることができない。

「でもうち、知ってるから。お嬢様が、寮のみんなとか許してにゃんの人とかと関わっていくうちに、どんどん自分の殻破っていってたこと。舞美から聞いたし。
それに、誰もが姿を見ただけで(いろんな意味で)腰を抜かすといわれる、あの熊井ちゃんとフツーに接することができるなんて、並大抵のことじゃないよ!
だから、お嬢様はやっぱり普通じゃないんだよ。そこがいいんじゃん!自信持ってこうぜ!」

そんな締め方で果たしていいのか・・・と思わなくもないけれど、語尾に思いっきり力を入れて、お嬢様の肩をポンッと叩く。
目をぱちぱちさせて、私の顔をじっとみる姿が、びっくりしちゃったワンちゃんみたいだ。
ミラー越しに、運転手さんが笑いをこらえているのも見える。・・・テンションの調節がおかしかったかな。
でも、お嬢様にはいつか、伝えておきたい気持ちだったのも事実。新聞部の記事に関する謝罪の気持ちは、今までにもお嬢様に伝えたことはあるけれど、自分の気持ちを交えたのは初めて。

「つ、伝わったかな。うちの言いたいこと」
「・・・ええ。あの、私、あまり理解力に優れていないから、今ゆっくりと心に染み込ませているところなのだけれど」

少しだけ、口元に微笑みが戻っていくのがわかって、安心感を覚える。

「ありがとう、千奈美さん。物事は、考え様ということね」
「そうそう、ほんとそう!開き直るぐらいでちょうどいいんだよ。“お金持ちですが、それが何か?”って」
「まあ、ウフフ」

お嬢様はそれ以上特に何も言わなかったけれど、少しでも嫌な考えから遠ざけてあげることが出来たならいいと思う。

“千聖お嬢様には、いっぱい助けてもらっているから。私も千聖お嬢様を助けられるようになりたいな”

いつか舞美が、彼女らしくもないしっかり者な表情でこんなことを言っていた。
今ならその気持ち、わかる気がする。

「千奈美さんは、太陽のような方ね。分け隔てなく、誰の心にも明かりを注いでくださる」
「ええ!?ありえないからそれ!口が上手いなぁ~」

照れ隠しの私の軽口にも、千聖お嬢様のまっすぐな視線は変わらない。

「舞美さんも、よくおっしゃっているわ。千奈美さんの元気なお姿に、いつも励まされていると」
「え?まじっすか!な、なんか照れるね、いないとこでそういうの言ってもらえると」


それから私たちは、“共通の友人”ということで、舞美の話に花を咲かせた。
ほんっとに、あの前生徒会長様ときたら、色々と話題のつきない、ミラクルなキャラクターなもので、話題は尽きない。


「でね、その柿の種を見た舞美がー、・・・お嬢様?」

聞き役に回っていたお嬢様が、なぜか顔を赤らめている。


「どうかしたの?」
「いえ、あの・・・ウフフフ」

――ま、まさか、お嬢様ってば、舞美のこと・・・?じょ、女子校だからな。ましてあの、泣く子も黙る長身イケメンの、やじさんですし。いやいや、だけど、それは親友として止めにゃならんのでは・・・


「私、千奈美さんのことを、もっと知りたいわ」
「はいい!?まさかの私かい!」
「ええ。せっかくこうして、ご縁があったのだから・・・舞美さんのお友達、ではなくて、えっと・・・」

ああ・・デスヨネー。ちなみん、早とちり!

「オッケー!!何話そっか!!」
「そうね、千聖は弟や妹が多いのだけれど、千奈美さんは・・・」

お喋りがつきないまま、その後数十分ほど車は走り続けて、ついにお嬢様のおじーちゃんおばーちゃんの家にたどり着く。


「うわー、緊張する・・・」


目の前に現れたそこは、お嬢様のお屋敷とは全然違った雰囲気で、一見するとこじんまりした平屋建てのおうち。

だけど、お庭の広さがハンパない。この一区画だけ、森林公園が出来ているような感じ。
家自体も、よくよく見れば風情ある屋根瓦に、落ち着いた色合いの重厚な壁が、フツーの家とは一線を画した迫力を醸し出している。

お嬢様が門扉に手を掛けかけたタイミングで、小柄なおばあちゃんが、庭先からこちらへ歩いてきた。


「いらっしゃい、千聖」
「ごきげんよう、おばあ様。こちら、学校のお友達の、千奈美さん」
「は、はい、はじめまして!いつも私がお世話になっております!(从o゚ー゚从<うーん??)」
「まあ、遠いところまで、ようこそ。上がって頂戴」

笑うと目が三日月になるところは、千聖お嬢様そっくり。
可愛らしいおばあちゃんだな。気取ったところがなくて、ホンモノのお上品な方特有の、余裕に満ちている。

「季節の変わり目で、体調を崩されたと聞いていたから、お見舞いも兼ねて。
ウフフ、おばあ様、このお菓子お好きでしょう?きっと元気が出るわ」
「あら、嬉しい。千奈美さんも、ゆっくりなさっていってね」

駅ビルで買った和菓子を囲んで、しばしの歓談。
しばらくしてお嬢様が少し席を外した時に、正面に座っていた、お嬢様のおばあちゃんが、ウフフと笑いながら私を見た。


「千聖に、あなたのような素敵なお友達ができてうれしいわ」
「はい?え・・・うち、いや、わたくしでござりますか!」
「ええ。失礼ながら、先ほど運転手から、千奈美さんと千聖の車中の会話を聞いたの」

おばあちゃんは、愛おしそうに、千聖お嬢様の持ってきたお菓子の紙袋を撫でた。

「あの子は、臆病なのに頑固なところがあるから・・・。
息子夫婦の仕事の都合で、家族揃っては暮らせないことも、本当は寂しく感じているのでしょう。
当たり前のように家族の息づけいを感じられる、“普通”の家庭に育った方たちのことが、眩しいのでしょうね。
だからこそ奇異の目を向けられたり、特別な存在のように扱われることが、辛いと感じるのだと思うわ」

「はー、ないものねだりですねぇ。私なんて、親子姉妹ケンカの度に、家族全員ウザくなって“明日から一人暮らししてやるー!”とか叫んでますよ」

私の言葉を受けて、おばあちゃんは、楽しそうにケラケラと笑った。

「そう、そう。車中でも、そういった風に、千聖の袋小路に迷ったような考えを追いやってくださったのでしょう?」
「いやー、ただ単に思った通りのことをしゃべっただけなんですけどー」
「だとしたら、その率直さは、千奈美さんの素敵な財産だと思うわ。どうかこれからも、千聖の心の雲を吹き飛ばして差し上げて頂戴ね」

私の手をそっと包み込んだ、おばあちゃんの手はとても柔らかくて・・・千聖お嬢様が、あんなふうに天真爛漫に育った理由を感じさせてくれた。


「あら、何のお話をなさっていたの?」

席を外していたお嬢様が戻ってきて、好奇心いっぱいの子犬みたいな顔を向けてくる。・・・い、イジワルしてやりたくなっちゃうじゃないか!


「ウフフ、私と千奈美さんだけの内緒話よ。ね?」
「あはは、そーですねぇ」
「まあ、千聖だけ仲間外れにするなんて!・・・ああ、それよりも、さっきね、舞からメールが来ていて・・・」

・・・まさか、こんな休日になるとは思ってもみなかったけれど・・・すごく楽しい。新しい世界を知るって、わくわくと心が弾む。


――翌日、もぉ軍団残党にお嬢様のおばあちゃんちに行った話を披露したところ、終日舞様から殺戮ピエロッた視線をぶつけられたのはまた別の話。(招待されたことなかったらしい・・・)

(o・ⅴ・#)<新聞部のくせに・・・舞の本妻に手を出すとは・・・呪恨苦怒憤・・・


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