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入学式の会場は第1体育館だった。

「すごい人だねー。これみんな新入生なの?」

そう、この大学は結構なマンモス校なのだ。
だから、入学式の会場となるこの大きな体育館の前もたくさんの人でごったがえしていた。

「これだけの人数をうちが仕切っていくことになるんだねー」
「・・・・・」

聞かなかったことにしよう・・・

その群集のなか熊井ちゃんが歩を進めると、彼女の前には自然と道がひらけていく。


ここに来るまでのあいだもずっとそうだったのだが、それにも増して会場に到着するやいなや熊井ちゃんは注目の的だった。
まあ、そりゃそうだよね。入学式にマントを羽織った学ラン姿で臨んでいるのなんて、この人ぐらいだ。
しかも、その学ランを着てるのは、このモデル級長身美少女。
注目されないわけがない。

熊井ちゃん、大学でも1日目から注目されまくりなんだね。
彼女のその特異な姿を目撃した人により、すでにツ○ッターとかでネット上に情報を拡散されているのかもしれない。
最早その名を学内にとどろかすのも時間の問題だろう。大学でも当然のようにそうなるんだな、さすが熊井ちゃん。
この大物感。まぁ、いつものことだけどさ。

気に入らないのは、熊井ちゃんに注目した人が、続けて彼女の横にいる僕を見て何か納得いかない表情を浮かべることだ。
僕に対してその何かを含んだ視線が向けられていることには、実はさっきからもうずっと気付いてはいたんだけど。

なんだよ、その「なんでこの美人さんがこんなのと?」と言いたげな顔は?
どういう意味なんだよ、それ。
“こんなの”とは何だ!!

ふん、何も知らないクセに。
熊井ちゃんを普通の人だと思うなよ?(←もちろん誰も普通の人だとは思っていない件)



そのとき、ふいに声をかけられる。


「すみません、新入生の方ですよね。大学新聞の者なんですけど、ちょっとお話しを伺ってもよろしいですか?」


メモ帳を片手にボールペンを持った女性と、立派なカメラを構えている男性。
腕章には「大学新聞」の文字。

新聞部の人たちか。
そうだよね、入学式の会場でこれだけ目立ってるんだ。新聞部の目にも留まるってものだ。
格好のネタとして食いついてこられるよ、そりゃ。

「今ではとても珍しい格好だと思うようなお姿をされてますけど、どうしてそのような格好で?」
「入学式に正装で臨むのは当然のことだと思います!」
「正装、ですか・・・」
「そうですけど?」
「えーとですね、彼女の中ではこれが正装なんだそうです。僕のような格好をしている方がおかしいという認識だそうなので」
「そ、そうですか・・・ えーと、大学生活が始まるにあたって、今どのようなお気持ちなのか聞かせてもらえますか?」


その質問か。これは長くなるかもしれないな・・・・・・
ひょっとしたら、いま彼女の頭の中では、この大学を仕切っていくのはうちだから!とかいう恐ろしい気合が入っているのかもしれないんだ。
普通の感覚では理解できないような、そんな彼女のキャラ設定を聞かされるのか。

待ってました、と言わんばかりに長説明を始める熊井ちゃん。
ただし、そのクマクマとした口調で話し始めたことは、長い割りには内容は大したことはない。
大層なことを言い出した割にはこのスカスカ感。いつものことだ。


「やっと大学生になれたなーと思って。これでまずこの大学をうちのものにするのに、何日かかるのかなーと思ってますけどー
それでも、うちらが世界に出るためには、まずこのぐらいのことはあっさりクリアーできるぐらいの力量を示していきたいなーとry
「・・・・・・・・」

仕事柄いろいろな人間を見てきたであろう記者さんでさえ言葉に詰まってしまう熊井ちゃんの返答。
ペンの動きが止まった記者さんが困ったような視線を僕に向けた。
はい。お答えします。

「彼女は、大学に入学したことで、ここで始まるだろう新しいことに期待で胸を膨らませているんです。そしてその中で自分も成長していきたいと」
「な、なるほど。よく分かりました・・・・」

熊井ちゃんが得意気に微笑む。
とても楽しそう。彼女が楽しいなら何よりだ。

でも、このまま熊井ちゃんに話しを続けさせたら、うちらもぉ軍団がryなどということを言い出しかねない。
もぉ軍団の思想についての講釈はこれ以上に長くなる。
それが分かっているから、このやりとりはなるべく簡略にすませたい。
なので、意訳した同時通訳で適当にまとまるような方向に持っていくこと。これも僕の仕事だ。


「とても面白いお話を聞かせてくれて、どうもありがとう。。」
「どういたしまして」

ドヤ顔の熊井ちゃん。
僕はマネージメントの一環として今の取材について一応確認しておく。

「あ、あの・・・・ 今のこれ、記事になさるおつもりですか?」
「もちろん。とても興味深い話しを聞けたからね。明日の紙面に載るから良かったら読んでみて」


明日には今の内容が新聞記事として学内にばらまかれるのか・・・・

あぁ・・・・・

もう間違いなく有名人への道を一直線だよ。さすが大きな熊さん。
初登校からものの数時間で、その道筋をはっきりと作ってしまった。

取材中からも、周りの視線を集めていた熊井ちゃん。

空いていた席を見つけそこに座ると、周りの席からいっせいに突き刺さってくる視線で背中が痛かった。
その空気にも大きな熊さんはもちろん全く動じていない。たいしたものだなあ、と思うよ。
そんな僕らを包む空気にも、この僕もだんだん慣れてきた。人間って、本当にどんなことにも慣れるんだなと実感する。


並んで座った僕に、まわりを見回していた熊井ちゃんが呟く。

「うん。あのステージに、この広さなら十分かな。ここ、使えそうだね」

使えそう、って・・・
二千人規模で入れるぐらいの、この大きいアリーナを何に使うつもりなんだろう。
コンサートでもしようっていうのか・・・・

既に熊井ちゃんの頭の中では何かが始まっているのだろうか。怖すぎる。



壇上では新入生の代表が入学の辞を述べている。
それを見た熊井ちゃんはどことなく不満そうだった。

「新入生代表だってさ」
「代表って事はあれでしょ。入試の成績がトップだったとか、そういうことなんだよ、きっと」

そう答えて彼女を見ると、当然のように僕の言ったことなど聞いてない様子。

「新入生代表っていうんなら、あの入学の辞っていうのはうちに頼んでくるべきじゃない?」
「ソウデスネ・・・」

べきじゃない?とか言われても・・・
どういう選考基準で自分が新入生の代表に選ばれるべきだと思えるんだろ。
どこをどう考えれば、そういう発想にたどり着くことができるのかな?

でも、そんな反論は頭の中だけ。
彼女が言ったこと、僕はいつもと同じ対応をする。
聞かれたことには即答で、彼女の言ったことにあいまいに肯定をしておくだけだ。


「しょうがない。新入生の演説にうちが出ない訳にもいかないよね。それじゃ飛び入りでうちも何か一言喋って来るかr
「マジでやめて熊井ちゃん!!」

そう言って腰を浮かせた熊井ちゃんを慌てて止める。

頼むからおとなしく座っていて下さい。お願いしますお願いします。
熊井ちゃんがいつ暴走を始めるかと、式典のあいだ僕は気が気ではなかった。


だが、そんな高度の緊張を強いられる時間も、意外と早く終わりを告げることになる。
次々と壇上に上がる来賓の長い挨拶に、大きな熊さんは腕組みのまま目を閉じて寝、、瞑想に入られたからだ。


このあとの式次第は平穏に進み、そして入学式はつつがなく終了した。



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