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「なかさきちゃんも今日が入学式だって言ってたからね・・・

そう言いながら、スマホをタップする熊井ちゃん。
今度の電話はちゃんと相手につながったようだ。


「もしもし、なかさきちゃん?」

「今どこ? えっ? いま大学を出て帰るところ? これから電車に乗るんだ。それはちょうど良かった!!」

「それならさ、今からうちの大学に来て。帰り道の途中でちょっと乗り換えるだけで来られるでしょ。正門から入ったらすぐのところで一杯やってるから」

「来ればすぐ分かるよ。それじゃ、待ってるからね」


聞いている限りでは、熊井ちゃんが一方的に喋ってるようだったけど、それだけ言って電話を切った熊井ちゃん。
僕に向き直ると、張り切った口調の熊井ちゃんがこう告げる。

「よし。なかさきちゃんが来るまでに用意しておこうか!」
「用意するっていっても何も無いんだから。機材をこれからいろいろ買出しに行ったりする時間は無いと思うけど」
「周りにこれだけ人がいるんだから、借りればいいでしょ!」


その、人のものは俺のものという思考。
まぁ、“貰う”とか、ましてや“奪う”じゃなくて、“借りる”という言葉だったのは、ちょっとホッとしたけど。

でも、その調達を実際に行うのはこの僕なわけで。
非っ常に頼みにくいことではあるが、熊井ちゃんがこんなに張り切ってるんだ。
しょうがない、やるしかないな。

その無茶なお願いをするために僕は周りで花見をしているグループに声を掛けることにした。



親切な人というのはどこにでもいるものだ。

声を掛けさせていただいたところ、シートを貸してくれるという人たちに一発目から出会うことができた。
(背後の熊井ちゃんが無言の圧力を加えていたとか、そういうことは無いよね・・・)
それだけでなく、いい気分でやっているその人たちは、僕らにいろいろとおすそ分けまでくれたんだ。
それをきっかけに、それを見ていた周りのグループの人たちも同じように、いろいろと。

なんて気持ちのいい人達なんだ。
僕らを同じ学校の仲間として見てくれて、それで気を使ってくれたのかな。
そんな仲間意識を感じられて、なんだか暖かい気持ちに包まれたよ。



こうして、準備も何もせずやってきたのに、あっという間にお花見に必要なモノは全て揃ってしまった。

  さすが、大きな熊さんだわ! 

と、お嬢様なら仰るのかもしれない。
この引きの強さ。最後にはちゃんとこうやって全て上手くコトが進んでいる。
熊井ちゃんって、こういう星の下に生まれているんだろうか。

敷いたシートの上で御満悦の熊井ちゃんを見ていると、そんな気がしてくるんだ。


「お、なかさきちゃん、やっと来た!」


熊井ちゃんのその声に顔を向けると、そこには歩いてくるスーツ姿の女子学生。

なかさきちゃん(18)登場。

今の彼女の、その真顔がまた・・・・ 真一文字に結んだそのくちびるといい・・・・ カワイイ・・
うわーなかさきちゃんやっぱりかわいいなー、なんて思って表情が緩みそうになった。
が、決してそれが顔には出ないように気をつける。
なかさきちゃん、僕には厳しいんで。僕が内心でそんなこと思ってるなんてバレたら、過剰に反応されたあげくまた変態扱いだ。


やってきた彼女のそのキッチリとした格好。なるほど、確かに入学式帰りなんだな。
うん、これこそが入学式に臨む人の一般的なスタイルだよね。

一方、そんな一般的な姿とは間逆の、非常に特殊な格好をなさっている方がここにはいるわけで。
その学ラン姿の熊井ちゃんがなかさきちゃんに声をかけた。

「ここがすぐに分かったんだねー。良かった! あははは」
「そりゃあすぐ分かったよ、ゆりなちゃん、一目でね。まさか学ラン姿とは・・・・ そんなの思いもよらなかったケロ」


現れたなかさきちゃん、僕を睥睨すると冷たく声をかけてくる。

「やっぱりあなたも一緒なのね・・・」

恐縮です。

「熊井ちゃんのやりたいことをフォローするのは僕の仕事なんで」
「キリッ!じゃねーよ」

現れたなかさきちゃんの姿に気付いたのか、周りの人たちが再びこちらのことをチラチラと伺っている。
僕の耳には再び、こちらのことを囁き合っている周りの声が聞こえてくる。

(おい!またすごいカワイイ子が来たぞ!!)
(カワイイ!)
(カワイイ!)
(カワイすぎるだろ!!)

絶賛されているなかさきちゃん。
そりゃそうだ。

(なんでこんなカワイイ子がこんなのとry

再度囁かれているその言葉に続いて僕の耳に入ってきたのは、あまり聞きたくないような言葉だった。


(おい、ちょっと声かけてみようぜ。一緒にやろうって)


だよね。
ここで花見をしている人たちは酒も入ってることだし、気安く声を掛けてきたりするやつも出てきそうだなと思っていたところだ。
それを聞いた瞬間、僕はちょっと緊張した。

ぼ、僕がなかさきちゃんを守らねば。

ところが、実際には誰も声を掛けてきたりはしなかった。

それは、ここにいる学ラン姿の大きな熊さんがあまりにも異様すぎるからだ。

そりゃそうだろ。
ふんぞり返っているこの異様な風体の人物を見れば、そんな格好の人とはなるべく関わりたくないと思うだろう。
誰だって近づくのを躊躇するに決まってる。
でもそのお陰で、とりあえず僕はホッと胸をなでおろすことができた。


周りのそんな空気など全く気付いていない様子のなかさきちゃん。
いつものお説教モードだ。

「ゆりなちゃん、一杯やってるからって言ってたけど、あなたはまだ未成年じゃない!」
「大丈夫だよ、なっきぃ。これお酒じゃないから。焼酎の空き瓶に水を詰めただけ。雰囲気を出すためだって」

熊井ちゃんよりも先に答えた僕のことを、なかさきちゃんはこれ以上ないくらい冷たい視線で見つめながら声を返してくれた。

「だから、その馴れ馴れしい呼び方はやめて下さいっていつも言ってるでしょ!」

僕の言葉に過剰に反応するなかさきちゃん。いつものこと。
一方、そんな彼女の様子などお構いなしの熊井さん。
なかさきちゃんのキンキンとした声と対照的な、そののんびりとしたクマクマボイスで話しかける。

「なかさきちゃん、大学はどうだったー?」
「入学式に出てきただけだけど、総長さんの言葉を聞いて身が引き締まる思いだったケロ」
「さすがなっきぃ。マジメだよね」

僕が口を開くたびに睨んでくるなかさきちゃん。

僕らの間に流れたそんな空気なんか気にもしていない熊井ちゃんが、不意に真顔になってなかさきちゃんに問いかけた。

「あれ、なかさきちゃん、なんか疲れた声してるね。まだ1日目でしょ。そんなに疲れるほどの遠距離通学だっけ?」
「そういうわけじゃないんだケロ。何かちょっとね。学園とはすっかり環境が変わっちゃったから、とまどっちゃって」
「なかさきちゃん、レベルの高い大学に進んじゃったからねー。うちらみたいに程々の大学にすれば良かったのに。気楽でいいよー」
「そういう訳じゃなくて。ほら、私たち女子校だったでしょ。だから、男性のいる環境、しかも周りの殆どが男性っていうのに慣れてないじゃない。それで色々・・・」
「えー、そんなことでとまどうなんて変なのー。女子校出身だとそういう風に感じるものなのー?」


あなたも女子校出身じゃないか。
そして、なかさきちゃんと同じように男性の方が多い共学の大学に進んだんじゃないのか?

それなのに何のとまどいも全く感じていない熊井ちゃんの方が奇特なんじゃないかと、僕なんかは思います。
とまどうどころか、初日からこの大学をこれ以上ないぐらいの我が物顔で闊歩するような、そんな突き抜けた行動を取っている熊井ちゃん。


同じ女子校出身でもここまで感じ方が違うんだな。
まぁ、熊井ちゃんの場合は超特殊事例だろうから、参考にもならないんだろうけど。



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