<すっちゃかめっちゃか~>

入学式の翌日、今日からクラスの教室へと向かう。

僕と熊井ちゃんは同じ大学の同じ学部に通うことになった。そして、学科も同じ僕らはクラスも一緒のクラスになったのだ。
それは、僕は熊井ちゃんと全て同じ履修科目だから。

そう、僕は選択科目も全て彼女と同じ科目を選んだんだ。


・・・・・違う。

選んだ、じゃなくて、選ばされたんだ。
なぜ彼女が僕にも自分と同じ科目を選ばせたかといえば、もちろん、そのほうが「便利」だから。

それだけの理由により、僕の履修科目は全て彼女と全く同じものにさせられたんだ。
その結果、僕らは見事に同じクラスになったわけで。



熊井ちゃんと学部棟に向かって歩く。

今日の熊井ちゃんはもちろんもう学ラン姿ではなかったので安心した。
まさかあれを制服として毎日着てくるんじゃないかと、僕は内心とても不安だったのだ。

そんなおかしな格好さえしなければ、おしゃれさんの熊井ちゃんのこと。
お、今日はニットのポンチョか。(この姿、彼女に似合ってて僕はとても好きなのだ)
現れた彼女のその姿は、とても美しくて・・・・

そのギャップ。
この人は(黙ってさえいれば)こんなに大人っぽい見た目なのに。

着いた学部棟で掲示板をチェックしているとき、気が付くと熊井ちゃんの姿が見えなくなっていた。
あれ? どこ行ったんだろ。

突然姿を消したことに何となーく嫌な予感もするけど、いくら彼女でもそうそう問題行動ばかりしているわけじゃない(よね?)。
何かどこかに用事でもあったんだろう。

気にはなるけど、まぁいい。
別に僕はずっと彼女と一緒に行動しなければいけないって訳じゃないんだ(よね?)。
これ幸いとばかり僕は一人でクラスの教室へ向かった。(一人だとこんなに感じるのか!この晴れやかな開放感!!)


ここが僕たちのクラスの教室。手近な席に腰を下ろすと、途中で手に入れた大学新聞を広げる。

しっかり載ってるよ、昨日の記事が。写真付きで。
あ~ぁ、学部に学科、そして名前までバッチリ載っちゃってるし。
熊井ちゃんが大学でもその名前を学内に轟かすのに要した日数は、わずか1日だったか。さすが熊井ちゃんとしか言いようが・・・
その記事を読んでみる。

『息を飲むほどのその圧倒的な存在感。唯一無二のカリスマ性を感じずにはいられない』

『我が大学の新たな扉を開いてくれるのは間違いなく彼女だろう。短い時間でもそれを確信させられるだけのポテンシャルを見せてくれた』

『彼女の前に道はない。彼女の後ろに道ができる。伝説の幕開けに立ち会った高揚感とともに、これからの4年間、彼女の活躍を思うと胸の高ぶりを抑えられなくなるのだった』


なんかベタ褒めされてるんですけど。
昨日のあんなインタビューからこんな記事を書いてくれるなんて、記者さんってのはさすがだなと思うよ。

でも良かった。好意的な記事で。
これなら熊井ちゃんが読んでも大丈夫。きっと彼女はこの記事の内容に納得してくれるだろう。
どうやら「うちの言いたいことと違う!!」とか言って新聞部に殴り込みをかけたりすることはなさそうだ。心底ホッとした。

一安心しつつ読み終わった新聞をたたみながら、それでも今ため息が出てしまった。

熊井ちゃんに、目立つな!という方が無理なことだというのは分かる。
でもだからといって、あまりにも目立ちすぎだよ。
ただでさえその体格で目立つのに、更に目立つような格好なんかするんだもん。とにかく彼女の行動は目立つのだ。
その結果、それを決して見逃したりはしない新聞部の人の目に留まって。

更に気になって、ちょっと検索をしてみたところ、既にかなりの数のつぶやきがあがってるのも発見してしまったんだ。
あろうことか、後ろ姿なんか画像にまで撮られちゃってて・・・・ (でも、これって盗撮だろ!ふざけんな!!)
気をつけないとダメだよ、熊井ちゃん。でも、あの人はそんな細かいことに気配りなんかしそうにないからなぁ・・・

熊井ちゃん、あっという間に有名人になってしまわれたか、やっぱり。


そんな熊井ちゃんは今ここにはいないけど、僕らの過ごすこのクラス。
バンカラな校風のうちの大学のなかで、僕らの学部は女子の割合が多少は高いので、このクラスも半数近くが女子のようだ。
少人数制のクラスなだけに、打ち解けるのも早そうだし楽しそうな感じもする。

誰からともなく話しかけたりしながら、顔見知りになっていく。
僕がそうやってクラスの人たちと仲良くなっているところにやってきました。たぶんこのクラスの真打となる人物の登場。

その名も熊井友理奈。


「お、熊井ちゃん!」


僕がそう声を掛けた相手にクラスの人たちも注目する。
教室の中、現れた長身の美人さんの姿に、どこからともなく「おぉ~!!」なんてどよめきが聞こえてきたりして。
その反応。それを見ると大きな熊さんがすでにどれだけ有名人なのか僕は理解することができた。
これはもう、熊井ちゃんという人物はそういう立場になってしまっていることをはっきりと自覚しないといけないのかも。

そんな熊井ちゃんは教室を一瞥すると、真っ直ぐに僕の座るこの席までやってきた。

「く、熊井ちゃん、どこ行ってたの?」
「いろいろと手配をしてきたの。勧誘のブースを設置するためにね」

手配してきた?
勧誘って何だ??

彼女の言ったことを理解することができず、状況がつかめない僕。
まわりから注目されていることにもお構いなしの熊井ちゃん、そんな僕を見下ろしてこう言った。
それはいかにも彼女らしい、上から目線の物言いだった。

「クラスに友達できた?」
「う、うん。何とか出来そうかな」
「そう、それは良かった」

妙に優しげな口調でニッコリと笑う熊井ちゃん。
その妙に優しい笑顔。これは何かが起こる前触れだ。こ、怖い。
状況把握ができないことも相まって、僕は一気に緊張した。


「じゃあ行こうか」

上から目線を終始崩さず僕に物を言う熊井ちゃん。
まわりのクラスメイトもびっくりしちゃってる。言葉を失って、僕らのそのやりとりに注目しているようだ。

「え?行くってどこへ」
「もぉ軍団の新人勧誘に決まってるでしょ!」

新人勧誘って・・・・ 僕らが新入生なんだけど。
って、ツッコミどころはそこじゃない。今「もぉ軍団」って言った?

事態が把握できず絶句してしまった僕のことを熊井ちゃんが促してくる。


「グズグズしない! ほら、行くよ!!」


そう言う熊井ちゃんに引きずられるようにして、あわただしく教室を後にすることになったのだった。
こんな連れ出され方をして、もう僕がこの人のどういう立場なのかクラスメイトにもバレバレだよ。

まぁいいか・・・
遅かれ早かれわかってしまうことだろうし・・・
これぐらいじゃ泣かない・・・


で、なんだって?
もぉ軍団の勧誘?
そう聞こえたんだけど、本気なんだろうか。

「もぉ軍団の勧誘って・・・ この大学で、もぉ軍団の活動を・・・?」

いま僕の脳内は相当の混乱をしているが、どうやら事態は既に動いているようだ。
学部棟を飛び出して颯爽と歩いていく熊井ちゃんに、僕は足早について行きながらも疑問点を質問する。

「そ、それ、桃子さんの許可を取ってるの? 勝手に活動なんかしたら・・・」
「面白そうだしいいんじゃない、ってももも言ってたからね」


軍団長、本当にそれでいいんですか?
「面白そう」というその言葉の意味が、軍団長と熊井さんの間ではだいぶ異なるような気もするが・・・・
意味ありげな笑みを浮かべる軍団長の楽しそうな顔が脳裏に浮かんだ。

・・・・・僕は大学生になったら明るいサークル活動を夢見ていたんだ。

やっぱり、どこかのサークルに入って大学生活を明るく謳歌したいな。
またサッカーをやろうかな。それとも、フットサルなんかはどうだろう。でも文科系のサークルってのも面白そうだな。
思い切ってヲタク系趣味のサークルとか入っちゃおうか。自分の知らなかった世界が広がっていくかも。
女の子の多いサークルだといいな。でもうちの大学だとそこは厳しいかなやっぱり。
まぁ、合コンっていうのも楽しみだしな。他の女子大との合コンとか!
そうやって色々な女子大と交流して、どんどん女子大生とお友達になっていくわけだ。素晴らしい!
キャンパスライフ!生まれてきて良かった!!

という期待で胸一杯だったのに。
それなのに・・・・


いま僕の目の前の光景、これこそが現実。
肩で風を切って歩いている彼女が僕に言ったこと。その言葉がリフレインのように頭の中を渦巻いている。


川*^∇^)||<この大学で、もぉ軍団の活動をするよ!


熊井ちゃんが言い出したってことは、それは冗談などではなくこれはもう本気の本気なのだ。本気(マジ)でもぉ軍団の活動をするらしい。
この大学でももぉ軍団の活動をするという現実・・・

「それで、今からもぉ軍団の勧誘を・・・ って、ちょっと待って。もぉ軍団って一般人お断りじゃなかったの?」
「そうだよ?」
「えっ? じゃあどうして・・・?」
「ひょっとしたら、この大学に宇宙人とか未来人とかがいるかも知れないじゃない?」
「・・・・・・・」

まったくもって意味が分かりません。



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最終更新:2014年02月02日 19:47