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<思い立ったら 吉でっせ!>

4月4日。
今日は健康診断があった。
測定した項目のうちのある一点について、隣りのこの人の結果を知りたいところでもあるが、もちろんそんなこと聞けるはずもなく。
誰もが知りたいであろうその数値については決して触れないのが暗黙の了解。
検診のあと、そんな微妙な雰囲気のなかキャンパスを熊井ちゃんと歩いていた。


「血液検査の採血で泣いたりしなかった?」
「泣くって・・・ どうして僕が泣いたりしなきゃいけないんだよ?」
「小学校のときから予防注射のたびにビビってたでしょ。先に打ち終わった人に「痛くなかった?」とか泣きそうな声で聞きまくってさ」
「そんな昔のことを。今の僕はそんなヘタレじゃないから」

はい。採血のとき、思いっきり手に汗を握ってました。だって、本当に僕は注射が苦手なんだ。
しかも今日はただの注射じゃなくて採血。針を刺した後にシリンジに噴出してくる自分の血液を見て卒倒しそうになったりして・・・

でも、そんな恐怖心にも耐えることが出来たのは、今日このあと僕も参加するあるビッグイベントを心の支えにしたから。
今晩のそのことを考えれば、どんなつらい事も乗り切ることが出来る。


そう、今日は梨沙子ちゃんの・・・



そのとき、不意に僕に声をかけてくる人がいた。


「少年じゃないか!」


こんなところで僕のことを呼びかけてくる人がいるとは。
いったい誰だろ?

振り向くと、そこには男の人が立っていた。

??
誰だったっけ?
でも、どこかで見たことあったような・・・
そして、それは何か苦々しい思い出を伴っている気がする。

「去年の学園祭のライブ以来になるのか。久しぶりだな」

あ、思い出したよ。
この人、あの桃ヲタさんの集団の一人だ。

「もう高校は卒業したのか。それで、うちの大学に?」
「えぇ。今年入学しました」
「そうか、そうか!」


僕の横にいる熊井ちゃんをチラ見した桃ヲタさん、僕の耳元で小声で聞いてくる。

「この美人、まさか彼女か?」


違います。


でも僕達の関係を説明するのは面倒くさい。

“僕はこの人の子分です。”

そのようなストレートな説明をするのは何となく気が進まないもので。
一応、僕にも自尊心というものはあるのだ。

かといって、ウソの説明もできないし。
いっそ、その質問にYesと答えられたらどんなにラクだろう。

でも、それは有り得ないんだ。(当たり前だかんな!!)

だって、僕のその相手となる人はただ一人舞ちゃんだけ・・・


「違いますよ。ただの友達です」


いまはそう言ったけど、でも僕の気持ちの中では、僕は彼女とただの友達ではないという自負もあったりもしたりして。
僕らはいったいどういう関係なんだろうね。

そんな心境で思わず言葉を続けてしまう。

「でも・・・・・」
「・・・・・でも?」

首を傾げて僕の答えを待つ桃ヲタさん。

僕が続けるべき言葉を探していると、そんな流れに全く関係なく、僕らの話しに熊井ちゃんが割り込んできた。

「知り合いなの?」
「学園祭のBuono!ライブで知り合った人なんだ。桃子さんのファンの人たちの一人だよ」
「へー、もものファンなんだ」

熊井ちゃんに対して、愛想のいい笑顔を浮かべる桃ヲタさん。
僕に対する表情とはあからさまに違う。別にいいけどさ。
男である以上、そうなるのはある意味で当然だと思うし。



そんな彼が僕らに聞いてきた。

「ところで君達、サークルとかは何か入ってる?」
「うちらはもぉ軍団として既に活動を始めてるから!」

くまいちょー即答。

「もぉ軍団?」
「そう、もぉ軍団。知らないの?」

そりゃ知らないだろ・・・
返答に詰まってしまった桃ヲタさんを見て、僕は心の中でいつものツッコミを入れる。


またいつものやりとりをするのか・・・

もぉ軍団の概略についての説明を要するこのやりとり、入学以来もう何回繰り返してるだろう。

いろいろな人と初めて会うたびにしてきた、このやりとり。
そのときの相手のリアクションはいつも同じ。一度として好意的に受け取ってもらえたことが無い。
というか好意的も何も、彼女のする説明そのものについて理解してもらえた試しが無い、と言った方がより適切。

そりゃ、そうだろう。当の軍団員(舎弟部門だけど)の僕でさえそう思ってるんだから。
こんなこと思ってるのがバレたら、熊井ちゃんにどやしつけられるから決して口には出さないけどさ。


いつもなら同時通訳が必要だけど、さて今回はどうかな?と思ったが、相手がヲタさんでもやっぱり同じか。
桃ヲタさんはあからさまに引き気味の様子。


でも、もぉ軍団は桃子さんが軍団長なんだから、そこを言えば桃ヲタさんなら食いついて来そうなものなのに。
熊井ちゃん、そこには触れないんだな。
ひょっとして、もうすっかり自分がこの軍団のリーダー気取りなんだろうか。
(ひょっとしても何も、完全に自分がリーダーだと思ってるでしょ・・・・)


あ、そうか、だからこそなのか。
桃子さんファンの人が入ったりして桃子さん派の人が増えてしまうことになるのは歓迎していないことなのかもしれない。

うん、間違いない。
桃子さん派が最大派閥になったりして自分の立場が脅かされることを警戒しているんだろうな。
(もぉ軍団、派閥争いとかあるのか・・・怖すぎる・・・)

「そ、そうなんだ・・・ 良かったら俺達のサークルに入らない?なんて思ったんだけど。もう既に他の団体で活動されてましたか」

聞けば桃ヲタさんはアイドル研究会というサークルの部長さんをやっているそうだ。


意外なことに、それを聞いた熊井ちゃんが興味を示した。

「アイドル研究会・・・・」
「そう。もし良かったら是非入会s
「ねぇ、そのアイドル研究会ってのは部室は持ってるの?」
「うん、サークル室もあるよ。サークル棟の5階にね」
「ふーん」

何か考え込んでいる様子の熊井ちゃん。
熊井ちゃん、アイドル研究会に興味があるのか?

「熊井ちゃん?」
「そこに案内してもらえる?」

熊井ちゃんの言ったことに、目を輝かせた桃ヲタさん。
こんな美人さんが興味を示してきたってことに、桃ヲタさんも何か張り切っている様子。

「いいよ。是非覗いてみて下さい!」


あーぁ、この人もか。
熊井ちゃんという人のことを分かってない人は、例外なく彼女のこの美しい外観に惑わされてしまうのだ。
なにか勘違いしてるみたいだけど、たぶんあなた達にとって良い話しでは無いことが起こると思うよ、間違いなく。



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