※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



「じゃあ先に帰ってるからねー」

軍団の部室を確保できたことによるのか、満足感あふれる表情の熊井ちゃん。
彼女は僕にそう言うと、このサークル室を後にする。

♪何だか 困ってるあなた~
今日は 私の BIRTHDAY~♪

とても機嫌がいいのだろう。鼻歌交じりに去っていく、もぉ軍団自称リーダー。
お疲れ様でした。




このようにして熊井ちゃんが占領したアイドル同好会のサークル室。

そこを半分もぉ軍団の部室として使うため、彼女が帰ってしまったあと僕は一人残ってその仕切り設置作業を行っていた。
これが意外と大変な作業だということに、着手してから気付くことになったのだ。

そんな建材、入手するのにどこまで行けばいいんだよ・・・なんて思っていたら生協に売っていた。
この大学の生協は品揃えがとてつもなく豊富だとは聞いていたけど、そんなものまで売っているのか。
(ちなみにコ○ドームも各サイズ取り揃えて売ってるよ)

一応領収書を貰ったけど、これはどこに提出すればいいんだろう。
これ、経費としてちゃんと落ちるんだろうね?


その購入した資材をサークル棟へ搬入するだけでも大変だったのだが、それを更に5階のこの部屋まで運び込むのが、これが一仕事だった。
狭い階段しかないこのサークル棟。予想以上に時間がかかってしまう。
そして、それを設置し終わったとき、もうすっかり日は暮れていて。

大体改装の終わった部屋を見つめているのはアイドル研の部長さん。
被害者といえる立場なのに、搬入を手伝ったりしてくれて。この桃ヲタさん、意外といい人である。


「このたびは災難でしたね。でも、これも運命なんだと思いますよ。あきらめてください」

どことなく放心状態に見える部長さんに声をかけると、部長さんは乾いた笑いをあげた。

「ははは。そうだな、まぁ別にいいよ。これはこれで楽しそうだし」
「そうです。そう前向きに捉える方が精神的にも負担にならないですみますよ。これからもいろいろあると思いますし」

固定するアンカーを打ち込んでいる僕に、部長さんが語りかける。

「それにしても、彼女、何者なの?」
「彼女は、・・・熊井ちゃんです」

この説明で通じるようになるところが正に大きな熊さんの真骨頂。
部長さんもその言葉の意味するところをはっきりと感じてくれたようで、何か悟ったかのような表情を浮かべた。


「少年も大変そうだな」
「そうでもないです。部長さんがさっき言ったのと同じように、僕もこれはこれで結構楽しいですから」


そう。
大学生活はまだ3日目だけど、何て刺激的な毎日なんだろう!(いい悪いは別にして・・・)、と本当に思うよ。
そしてその刺激はあの大きな熊さんの横にいられるからこそ経験できることで。
大学っていうところは面白いところなんだろうなとは思っていたけれど、ここまでとはね。
はい。これも全て熊井さんのおかげですから。


「もうこんな時間か。思ったより時間がかかっちゃいました。もう間に合わないかな」
「何か用事でもあったのか?」
「えぇ。いま知り合いの誕生パーティーをやってるんですよ。これが終わったら行こうと思ってたけど、思ったより時間がかかっちゃったんで」


そう、今日は梨沙子ちゃんの18歳の誕生日。
もぉ軍団プレゼンツの誕生パーティー。まさに今それを行っているはずだ。

りーちゃん、18歳の誕生日おめでとう。
高校生活も残るところあと1年だね。そんな梨沙子ちゃんの18歳の毎日が素敵な日々になりますように。

梨沙子ちゃんの誕生パーティー。軍団長の考えたサプライズ企画は上手くいったかな?
サプライズで登場した雅さんの姿に、りーちゃん喜んでくれたかな。
そして、いきなり始まるBuono!ライブを楽しんでくれたかな。


僕もその場にいるはずだったのに。
18歳になった梨沙子ちゃんにお祝いの言葉をかけてあげるつもりだったのに。
同じ軍団員(僕は舎弟部門だけど)とはいえ、僕が梨沙子ちゃんとお話し出来る機会は少ないんだ。
でも、今日ならりーちゃんに話しかけたりしても何もおかしくない。今日なら気兼ねなくお話しすることができる。
軍団の中で唯一僕の心を癒してくれる、あのりーちゃんとお話しをするひととき・・・・


そしてそして、今日はBuono!の皆さんもお見えになるのだ。
だから、りーちゃんとお話しをしたあと、きっと今頃僕は愛理ちゃんの隣りに座って、そのかわいらしい笑顔を見ながら彼女とのお喋りだって楽しんでいるはずだったのに。


・・・なーんて言ってみたけど、実際は愛理ちゃんの横に座るなんて恐れ多すぎて絶対ムリ。

実際はいざ彼女を前にしたら、緊張で意識は飛んでしまい体は硬直して固まってしまうだけで。いつものことだ。

でも、妄想の中の僕は愛理ちゃんの隣りに座る度胸もあるのだ。
ぎこちないながらも会話を交わすことで次第に僕らの心が通じ合っていくのが分かる。
そして、見つめあう2人・・・

そのように、僕は愛理ちゃんと。りーちゃんはもちろん雅さんの隣りで。それぞれ至福のひとときを過ごすはずだった。
(桃子さんと大きな熊さんは、お2人でどうぞごゆっくり)

それなのに、僕はまだ大学のサークル室で作業中。
これから行っても、もう間に合わないだろう。
あぁ、愛理ちゃん・・・・ さようなら、愛理ちゃん。

でも、しょうがない。自分のやるべき仕事が終わらなかったんだから。
男だったら何よりも仕事が優先だ(涙目)。
うん。しょうがないことなんだ。いさぎよく諦めよう。



「じゃあ俺はもう帰るけど、頑張ってな。最後に戸締りだけしっかり頼むよ」
「はい、お疲れ様でした」

そう言って部長さんが帰ってしまうと、部室には僕だけとなった。
窓の外はもう真っ暗。一人だけになるとやけに寂しい。

作業もだいたい目処がついたし、ちょっと一休み。改装も終わりつつある部屋を見渡してみる。
我ながらなかなか綺麗にまとまったじゃないか。

いま設置したこの仕切りの向こう側は、アイドル研究会の部室なんだ。
さっき見たとおり、そこには大量の写真集やらDVDがある。

いまここにいるのは僕一人。他に誰もいない。


どれどれ、どんなのがあるのかちょっと見てみようか←


手にとってみたのは、「MIZUKI」というタイトルの写真集。
表紙には上品そうな女の子。
ページをめくってみるとアイドルの写真集らしくそこには水着の写真が。

うわー、マシュマロみたいだ。やわらけー・・・


思わず食い入るように見てしまったが、そんな写真集やらDVDがここには大量にあるのです!
これは何という宝の山。ここと共用の部室なんて素晴らしすぎる!!

思わずテンションが高まってしまったが、まぁもちつけw

いま手にした写真集。慌てて見るのも勿体無い。じっくりと見たいな、これ。
そして、この付属のDVD。これはぜひ見てみたいという気持ちを抑えられない。
この写真集ちょっと借りていこうかなw
1日ぐらい借りてもいいよね。いいんじゃないかな。たぶんいいと思う。
よーし、これ借りちゃおう!


お持ち帰りするつもりでその写真集を手にしたまま、更に本棚へと目を戻す。
目がとまったそのタイトルは、ファーストソロ写真集「千s

僕がそれに手を伸ばしたとき、ケータイの着信メロディーが鳴った。

この着メロ、熊井ちゃんからの電話だ。
伸ばした手を戻して、すぐに着信ボタンを押す。


「もしもし? いまどこ?」

いきなり用件のみ手短に聞いてくる。
そんなせっかちなところはいかにも彼女らしい。

「どこって、サークル室で作業中だけど」
「え?まだ大学なの? まだ作業してるの?」
「ちゃんと作業してるって! ほ、本当だから!」
「なにあせったような声だしてんのさ?」

「いや、あの、その、別に・・・」
「まぁいいや。それで、作業はもう終わりそう?」
「結構手間取っちゃったけど、でも丁度いま終わるところ」

その答えを聞いた熊井ちゃんの次のセリフは僕にとって予想外のものだった。


「それなら、まだ間に合うから急いで来て。待ってるんだからさ。まだ来ないのかって桃とも言ってたんだよ」

なんということでしょう!!

僕のことを待っててくれたりしていたのか!

熊井ちゃん、わざわざ電話をしてきて、そんなことを言ってくれるなんて。
仕事をしている僕のことを気に掛けていてくれたんだ!!
さすがリーダー(自称)さんじゃないか。その彼女の心意気を感じて。

なんか胸に熱いものが一気にこみ上げてきたよ。
感激のあまり、思わず言葉に詰まってしまった。

「・・・・・・・」
「ちょっと!聞いてるの?」
「分かった!! フルスピードで向かうから。ごめん、もうちょっとだけ待ってて」
「大丈夫だよ。まだライブ終わるまでは時間あるから。でも早く来て。待ってるからね」
「熊井ちゃん・・・・」


みなさんが僕を待っててくれてるんだ・・・・
心が暖かいもので満たされてきている僕の耳に、熊井ちゃんの明るい声はなおも続いた。


「だってさ、支払いをする人が来てくれないと困っちゃうでしょ? 分かった? だから早く来てね」



TOP