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今日で18歳になった梨沙子ちゃん。

その梨沙子ちゃんが雅さんに向けている熱い視線。
突然僕が現れたこの状況にもステージに対する集中を決して切らさず、現れた僕なんかには目もくれることなく雅さんをロックオンしたままだった。
すごい集中力だ。
もぉ軍団唯一の常識人で普段のちょっと物静かな梨沙子ちゃんとはまるで別人のような、スイッチがオンになったりーちゃん。

現場で見るりーちゃん。今日も凄い存在感だ。凄すぎるよ・・・
いつものことながら、その姿には圧倒される。

ステージ前の最前中央に陣取っている梨沙子ちゃんは、そのように戦闘モード全開だった。
赤いヲタTに、トレードマークの派手な自作ハッピ。
両手には明るく長い電池式のペンライト(高輝度改造済)。
ハチマキをまわし、首からはタオル、更に腰に刺したうちわとフル装備の梨沙子ちゃん。


うわー、そんな重装備の梨沙子ちゃんを久し振りに見た。


そして、あのよく通る力強い声での完璧なコール入れ。
Buono!ライブ、いつどこの現場でもコールリーダーを務めているのはこのりーちゃん。
それはそうだ。新参の僕が見ても、この人に匹敵することのできる力量のヤツなどいないと思うよ。持っているモノが違う(いろいろな意味で)。
周りを引っ張っていくにはこのオーラが必要不可欠なんだ。

完璧にヲタモードのりーちゃん、いつものようにライブの客席をリードして見事に盛り上げてみせたんだろう。
さすがです隊長。

彼女がいれば現場の空気が出来上がる。
たった一人でそのような熱い空間を作り出してしまうりーちゃん。
さすがあの桃ヲタ連中さえ一目置いている伝説のBuono!筆頭ヲタさんだ。格が違う。

彼女の恰幅(ryも相まってか、見るからにすげー貫禄を纏っているりーちゃん。
新参の僕など彼女の近くに行くことさえ憚られる。



そんな熱いりーちゃんの隣りには、みやヲタさんがもう一人いた。
これまた見るからに熱心な雅さんの熱狂的なファンの方。
一人で8本の赤いサイリウムを駆使している、その小柄な女の子。


ん? あれ誰だ?


もぉ軍団以外の人が来てるのか? そんなの聞いてないぞ。

それにしたって、梨沙子ちゃんの隣りはまずくないか? 思いっきりヲタかぶりしてるじゃん。
雅さん推しなのに、あのりーちゃんの隣りに陣取るなんて・・・ あの子、凄い度胸だな・・・
てか、りーちゃんがよく許したな、そんなの。


その小柄な彼女が、桃子さんが僕に向けて発したセリフに反応して振り向いてきた。
振り向いた彼女のその愛らしいお顔。その人は僕の知っている人だったわけで。


お、お、お、おじょ、おじょじょ・・・・・!?


バルログとかどこの迷惑キモヲタかと思ったら、お、お嬢様じゃないですか!!
思わずお嬢様のもとへと駆け寄る(隣りのりーちゃんはそれでも雅さんへの集中を決して切らさず)。

「お嬢様!! 来ていらっしゃったんですか!!」
「えぇ。大きな熊さんが呼んでくださったの。特別なんですって」
「熊井ちゃんが、ですか?」
「すぎゃさんのお誕生日もお祝いさせていただけて本当に嬉しくて。さすが大きな熊さんだわ」
「あの熊井ちゃんがそんな気をまわすなんて奇跡・・・」
「このところ大きな熊さんは千聖のことを何かと気に掛けてくださっているの。昨日なんか千聖に5分毎にメールを送ってきてくださったのよ」

目を三日月のような形にしてクフフフと笑うお嬢様。かわいすぎる・・・・
その可愛さ。かわいいにもほどがある。


だが、そのメールって・・・
まさか・・・

川*^∇^)||<お嬢様のお世話をするために生まれてきたうちが、これからはお嬢様をお守りするから!

高らかに宣言する熊井ちゃん、絶句するなかさきちゃん。
まだ脳裏に鮮明に憶えている先日のそんな光景がフラッシュバックする。


「5分おきにお嬢様の安否確認メール・・・・ 熊井ちゃん・・・・」

本当にそんなことしてたのか・・・
熊井ちゃん! 5分ごとにメールとか、そんなのお嬢様の迷惑になるでしょ!!

なかさきちゃんはそのことを知ってるのかな。・・・いや、知らないわけがないよね。
彼女の反応が怖い。お怒りモードのなかさきちゃん、大学に乗り込んできそう。
で、またいつものように一方的に僕が悪いみたいな雰囲気に・・・ なんでだよ。熊井ちゃんのしたことじゃないか・・・


「あ、いや、そんなことより! お嬢様!ライブ、楽しんでいらっしゃいますか?」
「もう最高のライブだったのよ! ももちゃんさんにも最初から見ていただきたかったわ」

興奮気味に話すお嬢様。とても楽しそう。
その美しい鳶色の瞳を見て、いま憂鬱になりかけていた僕の気持ちも一瞬で切り替わる。
そんな笑顔のお嬢様が僕に話しかけてきてくださっているんだ。何という幸せ!


幸せだ・・・ 
このまま時間が止まってしまえばいいのに・・・



でも、そんな幸せを僕がそう長い時間感じていられる訳もなく。
手招きで僕を呼び寄せる人により、その至福の時間は強制終了させられた。
その最前エリアからちょっと下がった立ちテーブルにいたのは、さっきまで僕と大学で一緒だった人。熊井ちゃん。

「ライブ終わるまでに何とか間に合ったねー。でもあとラスト一曲だけどね」
「ありがとう熊井ちゃん、呼んでくれて。一曲でもいいよ。Buono!の曲をライブで聴くことができるんだもん」
「むふふふw」
「なに、その笑いは?」
「いやー、今日のこのライブ、素晴らしいライブだよ」
「やっぱりそうなんだ! でもまぁ、そうだよね。Buono!の皆さんだもん!素晴らしくならないわけがないよ!」
「実はね、このライブ、HDで録画してるんだけど、これはかなり売れそうだなーって思うとさ、笑いがw むふふふー」

ん? どういう意味だろう?


熊井ちゃんが指さした客席後方を見ると、ごつい三脚に固定されているビデオカメラが数台。
なんだ、その本格的な録画態勢は。
そして、そのカメラを操作している男性の姿に僕はびっくりしてしまった。

燕尾服をまとっているその男性。


「し、執事さん!? 何をやってるんですか!?」
「お嬢様の付き添いでこのお店までお送りしにやってきたんですが、こちらの彼女にこのビデオ機器の操作を頼まれまして」


なるほど。これは本来僕がやらされる仕事だったんだろう。
それなのに僕が来ないもんだから、やって来たこの執事さんにちょうどいいとばかりビデオ係をお願い(たぶん命令)したんだな。
人のよさそうな執事さんのことだ、そんな熊井ちゃんの言ったことを断ることなんかできなかったんだろう。
本当にすみません、執事さん。

しかし、いま熊井ちゃんは何て言った? 「これは売れそうw」だって?
その言葉の意味は、今この光景を見て一発で理解できた。

熊井ちゃん、このライブをDVDにして売るつもりなのか。


「だって、もったいないじゃん!」


もったいない、っていうのはBuono!のライブをやるんだから多くの人に見てもらわなきゃ勿体無いってことかな。
それとも、せっかくカネを取れるコンテンツがあるのに何もしないなんて勿体無い!ってことだろうか。

その点については、あまり深く考えないほうがいいのかもしれない。
重要なのは今僕に向けられている、楽しそうなその熊井ちゃんの表情。
彼女が楽しいなら何よりだ。

それなら僕のやることはいつものようにただ一つ。


「うん、もったいないよね! Buono!ライブ、たくさんの人に見てもらおうよ。さすが熊井ちゃんだ!」


そんなわけでカメラマンをさせられている執事さん。
彼は、忙しそうにカメラを操作しながらも、反対の手ではペンライトを握り締めていた。
その手に持っていたのは緑色のケミカルライト。

ふーん。ちゃんと推しのメンバーがいるんだ。

って、おい! 愛理ちゃん推しなのかよ、この人!

僕とかぶるじゃないか!
そういうの困るんですけど。

執事さんのその緑のペンライトの握り方。その手には力が込もっているのが分かる。
そんなにしっかりと握りしめられているのは、緑のペンライト・・・・


しまった。
僕は急いで来たこともあって、ペンライトとか今日は何も用意してきていないぞ。
緑サイなしでライブに臨むとは、僕としたことがこれは何たる不覚!

「ちょっとぉ! もう次の曲に行くからね!! 次がラストだよ。準備はいいのぉ!?」

そこまでの間に目の前に次々と繰り出される刺激。もう僕の頭は満杯だった。
そのおかげで、ステージの上にいる軍団長のことすっかり忘れてましt


いよいよ最後の曲が始まる。

桃子さんの言葉でステージに集中した僕のその視線は、ただ真っ直ぐ愛理ちゃんのみを捉えた。
客席のひとりひとりに視線を配っている(といっても5人しかいないんだけど)愛理ちゃん。
そして、その最後には僕のことも見てくれたんだ。
僕に微笑みをくれた(!)愛理ちゃん。その視線が最後の僕から外されたその瞬間、彼女の表情が変わったんだ。


その瞬間、愛理ちゃんはアイドルの顔になった。


そして、最後の曲が始まった。



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