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その曲は愛理ちゃんのソロパートで始まる。


♪キスをあげるよ いま気付いた想い どんな言葉でも足りないから~♪


これだ。
この歌声。

体の芯から震えが湧き上がってきて熱い気持ちを呼び起こしてくれる、この愛理ちゃんの唯一無二の歌声。
それを聞いた瞬間、あぁ今この瞬間こそ二度とない瞬間なんだと思った。
一気に気持ちが高まり、叫びだしたいような熱い情熱の塊がこみ上げてくるのを感じる。
じっとしてなんかいられない。

愛理ちゃんの歌い出しが終わって間奏が始まった瞬間、僕は声を出して手を振り上げていた。


その最初の間奏になったところで、雅さんが身を乗り出して梨沙子ちゃんに声を掛ける。

「梨沙子ちゃん、誕生日おめでとーーー!!」

両手で口を覆うりーちゃん。彼女のその大きなおめめがこぼれんばかりに見開かれている。
隣りのお嬢様がそんな梨沙子ちゃんに何か語りかけているようだ。
雅さんの梨沙子ちゃんへの声掛けと同時に、桃子さんが客席を煽る。

「ラストの曲いくよーーー!!」

一気に高まるボルテージ。
これがBuono!ライブだ。カラダが憶えてる。この感覚を。
この熱気が僕は好きで好きでたまらないんだ。


♪当たり前すぎるくらい 友達の時間が長かったせいで あなたのクセや性格だって 他の子より知ってんの♪


いい曲だなあー。
聴いてるだけで、体が勝手に動いていくよ。
愛理ちゃんの澄んだ歌声。聞くだけで心をキレイにしてもらえそうだ。
雅さんの艶やかな歌声。雅さんのその歌声には男としてドキドキさせられてしまうんだ。
そしてそれらが重なることで織り成すハーモニー。
それをライブで聴けることに幸せを感じる。


雅さんにがっついているりーちゃんとお嬢様のキモヲt・・・熱狂的コンビ。
愛理ちゃんのことは、僕の他にも後方でカメラ操作をしながら緑サイを遠慮がちに小さく振っている執事さんがガン見している。
桃子さんには?


・・・・・・


!! も、桃子さんには、、、!?


誰も見ていないじゃないか!!


いや、まだ熊井ちゃんがいる。
熊井ちゃんは? 残る頼みは、もう熊井ちゃんしかいない!

そんな頼みの熊井ちゃんは、この状況でものんびりとテーブルで飲んでいる抹茶シェイクを吸うことに今は夢中の様子。
その幸せそうなクマクマ笑顔。
抹茶シェイク、美味しいんだろうな。良かったね、熊井ちゃん。


でも、それを見て最後の砦が崩れたことを悟った僕は、一気に背中が冷えたんだ。


桃子さんには誰も注目していない・・・・・


・・・まずい。
これはまずいんじゃないか。
うん、まずいよ。間違いなくまずすぎる。

軍団長は見てるよ。そういうの全部。
この人は客席の隅から隅までしっかりと見てるから。
ステージ上の桃子さんを誰も見ていないなんてことになったら、軍団長いじけちゃうぞ。
そして桃子さんのことだ。終わったあと、まるで僕が悪いとばかりに、このことでネチネチといびりかねないじゃないか。


♪Ha~ 鈍感な あなたのこと 振り向かせたいから 勝負かける~の!!♪


ニコニコ顔で歌う桃子さんのその笑顔。
そんな満面の笑顔が、いま僕にとてつもない緊張感を抱かせてくれる。

ど、ど、ど、どうしよう・・・?



そのときテーブルに置いてある一本のサイリウムが目に入った。

これ、ピンクサイだ。
そうか、これはきっと用意してあった3色のうち、赤はお嬢様が、そして緑は執事さんが手にしたんだろう。
そして、ここに残されたのは、余り物のピンク色のサイリウム。

緑のペンライトを持参し忘れた僕の両手は、いま空いているわけで。

愛理ちゃんへの視線を切ってそれを見てしまったとき、僕の運命は決まったのかもしれない。
躊躇している暇はない。

いま誰が桃子さんを応援するのか?

僕でしょ。



腹をくくった僕はそのピンク色のサイリウムを手にすると迷わずそれを折った。

ピンク色に発光するサイリウム。色が違うだけで何となくしっくりこない感じを覚えるものの、僕はいま使命感を持ってピンクサイを持ったのだ。
だから、そのピンクサイを緑サイのときと同じように全力をこめて振る覚悟を決めた。

そうやって僕がピンクサイを掲げたとき、ちょうど入るところだった。桃子さんのソロパートに。


♪友達同士 そんな境界線 今すぐに飛び越えたいの~♪


そう歌い上げるや躍動する桃子さん。愛理ちゃんや雅さんとは全く違うその歌声。
でも、いま心から楽しそうに歌う桃子さんのその歌声は僕の心に真っ直ぐに響いてきたんだ。

いつも思う。
桃子さんという人はある一面だけ見てその人物像が分かるような単純な人じゃないんだ。
でも歌っている桃子さんを見ると、そのときだけは桃子さんの素の姿が見えているんじゃないかとも思えたりするわけで。
それぐらい、心から楽しそうに歌う桃子さんのその姿。なんてピュアなんだろう。

これがあのいつもの桃子さんと同じ人なのか?とさえ思ってしまうぐらい(何だとー!!いい?もぉはねry)。

桃子さん、本当に歌が好きなんだな。
そして、それ以上に、歌で人を喜ばせたいと思ってるんだろうな。この人は。
そんな桃子さんの歌声は、まっすぐ僕の心に響いて。

桃子さん! カッコイイ!!

その瞬間、僕はこれ以上ないくらいの思い入れを持ってピンクサイを高く掲げ、力いっぱいステージに向けて振ったのだった。
その桃子さんの歌声に応えようという思いで。


♪キスをあげるよ 今さら「好き」なんて言葉より効き目あるでしょ♪


こんなに抑えられないほどの気持ちの高ぶりを感じるような出来事っていうのは、そうそう無いことで。
僕がそんな感情を抱くほどに熱く盛り上がったこの曲も、あっというまに終盤に差し掛かっていた。
このステージの全て、その一瞬一瞬を脳裏に焼き付けておきたい。


そして、ついに訪れてしまった。
この曲の終わり。最後のパート。3人の歌声が重なる。


♪あなたにだけは そっと教えてあげる 胸の奥 小さいつぼみのぬくもり 感じて~♪


その瞬間、こみ上げてくるものを抑え切れなかった。
反射的に飛び跳ねてしまい、頭上高く掲げた拳を思いっきり振り下ろす。叫び声を上げていたかもしれない。
たった一曲でこれだけのパワーを僕に与えてくれたBuono!の皆さん。

ステージの上に立つその3人のオーラ。それはまるで本当に後光すら目に見えるように感じられた。
言葉では言い尽くせない素晴らしいこのライブを共有できたこと。まさにそれは感動的な瞬間だった。

「「「どうもありがとーーー!!」」」

掃けながら、雅さんは客席最前でがっついている熱心な女の子ヲタ達に手を振っている。
雅さんはステージから身を乗り出すように、その子達に何か声をかけていた。
そんな雅さんに、最前列にいる子たちは感極まっている様子。

そして、愛理ちゃん。
やっぱり愛理ちゃんはすごい。圧倒的だった。
彼女は僕の手の届く人じゃないんだ。そんな当たり前のことを改めて再確認させられた。

そんな愛理ちゃんが僕のことを見てくれた。完全に一線の向こう側の人のその笑顔。眩しすぎる。恐れ多すぎて目を逸らしてしまいそうになるぐらいだ。
が、彼女が僕を見てくれたのはほんの一瞬。すぐに愛理ちゃんは僕から視線を移して会場中の人ひとりひとりに視線を配っていく。

その最後に彼女が視線を移した先は、その手に緑色のサイリウムを持ったまま、今は棒立ちになってしまっている男性だった。
そんな感じで愛理ちゃんが見てくれているというのに、その男性=執事さんは全く反応しなかったんだ。

すっかり固まってしまっている様子の執事さん。
あーぁ、あの様子じゃ記憶が飛んじゃってるのかもしれないな。
せっかく愛理ちゃんがわざわざあんなに手まで振って爆レスしてくれているというのに。


そんな光景を眺めていた僕だったが、すぐにステージの上に再び注目をせざるを得なくなる。
このピンクサイを持っている僕に対して、桃子さんがニッコリと微笑んでくれていたのだから。
満面の微笑みなのに、明らかに何か意味を含んでいるような、その軍団長の意味深な笑顔。
僕は多少顔が引きつるのを自覚しながら、ステージの桃子さんに向かって頭上で拍手をするのだった。


こうして、Buono!ミニライブは終わった。



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