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3人がステージから掃けても、興奮している客席最前のふたり。
その姿を微笑ましく眺めながら、僕は近いところに立っている執事さんに声をかけた。

「執事さん、お疲れ様! 素晴らしいラスト一曲でしたね!!」
「・・・・・・・」
「執事さん?」
「・・・・・え、あぁ、そうですね。・・・・本当に」

なんだ、その棒読みは。
なんか思考停止状態になっている様子の執事さん。この人、こういう状況になってるのをよく見るけど大丈夫なのかな。
今日もこんなんで、この後お嬢様をちゃんとお屋敷までお送りするという仕事をちゃんと出来るのだろうか。


高まっている僕は、この心の高ぶりを誰かと共有したくてたまらなかった。
僕は話が出来そうな人を矢継ぎ早に目で探した。

執事さんはこんな状態だし、大きな熊さんはちょっと・・ry
目に入ってきた人の中から消去法で選んだのは、最前にいた圧倒的存在感でこの場を仕切っていた隊長の姿。
ライブ中の研ぎ澄まされたテンションも今は落ち着いた様子の梨沙子ちゃん。今なら話しかけられそう。
反射的に今日の主役でもあるその人のところに駆け寄っていた。

近くで見るりーちゃん、上気した表情が妙に色っぽくて・・・ (格好はキモヲタだけど)


「お疲れ様です! 最高のライブでしたね!!」
「あれ? 来てたんだ。さっきまでいなかったよね」
「梨沙子ちゃん、挨拶が遅くなったけど18歳の誕生日おめでとう!」
「ありがとう。いろいろ根回しとかしてくれたんでしょ。ごくろーさま」
「礼なんかいいよー、梨沙子。そういうの照れる」

そんな梨沙子ちゃんとやっと会話を交わすことができた!と幸せを感じたその瞬間、熊井ちゃんが割り込んでくる。
だよね。僕ごときがそんな幸せを満喫できること自体がおかしいんだ。これぐらいじゃ泣かなi


でも梨沙子ちゃん、優しいなあ。僕に「ご苦労様」だなんて、そんな言葉を掛けてくれるとは。
僕のことを気遣ってくれるようなそんな言葉を掛けてくれるのは、もぉ軍団の人たちの中ではこの梨沙子ちゃんだけだよ。
さすがもぉ軍団の良心。僕にとって唯一の心の支え。

しかも彼女のそのかわいらしいお声。ハァァ・・・疲れた体に心地よく染み渡る。
女の子らしい柔らかい口調でりーちゃんが言ったその言葉を、僕はしみじみ噛みしめていた。
これは嬉しすぎるでしょ。

こんな可愛らしい声を聞かせてくれるりーちゃんと僕が会話できる機会なんて、同じ軍団(僕は舎弟部門だけど)とは言えダントツに少ないんだ。
それに比べてピーチベアーズの御2人とお話しする機会のなんと多いことか(棒読み)。
そしてその御2人との会話は、ほとんどが僕に対する無茶振ry



終演後の慌ただしい空気。
今日の主役の梨沙子ちゃんとはこの一言しか言葉を交わせなかった。

そして、愛理ちゃんとは一言も言葉を交わせなかった。
Buono!の皆さんは終演後は忙しいみたいで、すぐ楽屋に戻られたその3人とはそれっきり僕は会うことができなかったんだ。
愛理ちゃんとお話し、したかったな・・・ なんて思うけど、恐れ多すぎて実際彼女を目の前にしたとしても固まってしまうんだけど。
それに、今のこの興奮した状況で彼女と顔を合わせたりしたら、もうその瞬間に記憶が飛んでしまって何も憶えていないことになるだろうし。
今日は彼女の姿を見ることが出来たうえに、彼女も僕を見てくれたのだ。もうそれで十分です。それ以上何も望むことなんか無いよ。

ライブ直後の高揚した空気感。この雰囲気は何度味わってもいいものだ。
僕が興奮した思いでいるところ、目の前に不意に現れた方がいた。
優雅な振る舞い、立ち姿も美しい。そして僕の事を見上げてくるようなその目線・・・

お、お、お、、おじょじょ・・・

お嬢様には、さすがに恐れ多くて自分の方から話しかけるのを自主規制していたのだが、そんな僕にお嬢様の方から話しかけに来てくださるとは!
感激です、千聖お嬢様!!


「大きな熊さんから聞いてましたわ。今日はお忙しかったみたいで、お疲れ様でした」


僕にそんなねぎらいの言葉をかけてくださるなんて!
その一言で、疲れなんてものは吹き飛びましたよ、お嬢様!

「お、お、おじょじょ、、お嬢様!! そ、そんな、き、恐縮です」
「やっぱりBuono!のライブは最高ね! 最初から見られたらよかったのに。お仕事だったのでは仕方が無いのでしょうけど」
「いえ、1曲だけでももう十分です。それぐらい最高のライブでしたよね!! お嬢様の方こそどうでしたか? 最前は楽しめましたか?」
「えぇ。本当にもう皆さんの笑顔がすぐ目の前なの。嬉しくて。すぎゃさんにも色々教えていただいたりして、楽しかったわ」
「そうですか。それは良かった。皆さんが楽しかったなら僕はそれだけで嬉しいです」
「いろいろ準備が大変でしたでしょう。本当にお疲れ様でした。さすが大きな熊さんのry


お嬢様が僕にねぎらいの言葉を掛けて下さるとは!
あぁ、幸せだ・・・


だが、これだけ会話を往復しているんだ。僕がお嬢様と。
そんな幸せな時間が長く続くわけがない。
そろそろクマクマした声が僕らの邪魔をしてきそうだな。
残念だけど、いきなりぶったぎられたりする前にお嬢様とのお話しをきちんと締めくくるか。


「ライブも家に帰るまでがライブですから。お嬢様、お気をつけてお帰り下さい。僕はこの後すぐに片付けがありますのでここで失礼します」
「そうですか。それは大変ですね。ご苦労様です」
「お嬢様、お帰りはクルマですか?」
「えぇ、皆さんをお乗せして一緒に帰ります。いま執事が運転手に連絡して車を回してくれているところですわ」
「そうですか。お気をつけて。それでは、ま、また・・・」
「はい。また今度。そのときは大学のお話しも聞かせてくださいね」


お嬢様のその言葉。僕はあまりの幸せに返事もできないほど固まってしまった。
だって、お嬢様が僕に「また今度」って・・・


そのとき傍らに来た梨沙子ちゃんに、お嬢様が話しかける。

「あぁ、そうだわ、すぎゃさん。お願いがあるのだけど」
「私にお願い? なになに?」
「すぎゃさんのおうちまでお送りする前に、先に屋敷に寄っていただいてもいいかしら。空翼が、私の弟がすぎゃさんに渡したいものがあるそうなの」
「へっ?私に渡したいもの?岡井さんの弟くんが?」

 * * * *

お嬢様が皆さんとともに帰られると、一気に静かになった店内。
支払いも終えて、誰もいなくなったステージでセットや機材を一人片付けていると、僕に声を掛けてくる人がいた。
振り向いてみるとそこにいたのは、、、

熊井ちゃん?


「あれ? 熊井ちゃん、お嬢様のクルマで一緒に帰ったんじゃなかったの?」
「うん、違うよ。ちょっとね、えーじに言いたいことがあったから」

お!? なにそれ。
ひょっとして、ありがとう、とか、ご苦労様、とか言ってくれるのかな?

それこそ礼なんていいよ。そういうの照れる。
でも、嬉しいな。熊井ちゃん、僕のことをちゃんと気に留めててくれたんだ。


僕が心の中でにまにましていると、そんな僕に熊井ちゃんが手提げ袋を渡してきた。

なんでしょう、それ?
まさか、今日一日頑張った僕へのねぎらいの差し入れか?
熊井ちゃん・・・

僕に手渡された、ちょっとした重量を感じるその紙袋。
この重さ。これはそれなりのものが入ってるということが伝わってくる重さだった。そんな大したモノを僕に?

何だろうと中を見てみると、僕の目に入ってきたのは予想とはちょっと異なるものだった。

紙袋の中にあったのは、さっきまで執事さんがBuono!ライブを録画していたビデオカメラ。
そして、大量のUSBメモリ。

何だ、これ?

僕がその疑問点を口にする前に、熊井ちゃんがにこやかに僕に告げる。

「これ、今日中に編集して、ここにあるUSB全部に落としておいて」


「DVDの方はソロアングルも含めて編集はじっくりやってもらっていいけど、こっちの速攻USBは鮮度が命だからねー」
「そ、速攻USBって、何ですか?」
「すぐに見たいっていう人に応えるのも仕事じゃない?(某事務所社員)。もう予約がたくさん入ってるの。
購入してくれた人には明日学園に行って届けることになってるんだから、絶対に今日中に編集作業を終わらせて。
間に合わなくて返金なんてことになったら大問題になっちゃうでしょ?(某事務所社員)
楽しみにしているファンの人を裏切るようなことは許されないからね!」


僕に対して、いかにもそれが当たり前のように言い放つ大きな熊さん。
いつからそんな仕事に従事するようになったんだ、僕は。

いま僕はとても疲れてるんだけどな。
さっきまでだって大学で部室の改修作業をずっとやってたんだ。
それなのに、このあと再び某芸能関係者さんの言うその作業に入らなければいけないのか。


でも、彼女の命令なんだ。やらなきゃ。
それにBuono!のファンの人の気持ちを裏切るようなことなんかできるわけがない。

今日は徹夜になりそうだな。頑張ろう・・・・
帰りに栄養ドリンクでも買って帰るとするか。

ため息をつきそうになった僕だったが、そんな僕に対して次に熊井ちゃんが発したのは予想外の言葉だった。

「じゃ早くここの片付け終わらせて。一緒に帰るんだよ」
「えっ! 僕が片付け終わるの待っててくれるの?」
「当たり前でしょ。夜道をかよわい女の子ひとりで帰すつもりなの?」

かよわいって・・・
そこ、ツッコんだ方がいいのかな?

居残っていても僕の片付けを手伝ってはくれないんだなw
なーんて思ったけれど、彼女の言った事に僕の心は軽くなっていた。

熊井ちゃん、僕が仕事を終わるの待っててくれるんだ・・・

感激です、リーダー。
だから、僕は残りの仕事も張り切ってこなして、それをサクッと終わらせることが出来たのだ。
先ほど支払ったこの店のお勘定の請求額なんてのも忘れてしまうぐらい、いま僕の心は軽くなっていたんだ(財布も軽くなっていたんだけど)。



「お待たせ! 熊井ちゃん」
「じゃ帰ろうか。なんか気分がいいねー。駅前で一杯やってく?」
「いや、熊井ちゃん、僕らはまだ未成年だから・・・ それに僕は早く帰って編集作業を・・・」
「そうだ! なかさきちゃんも呼ぼう!!」

僕の言うことは一切聞いてくれない熊井ちゃん。

そんな彼女が言ったその提案、僕の心は更に軽くなった。
なかさきちゃん来るのか・・・・ なら、作業はその後でもいいかなw ムフフ。
まだまだ夜は長いんだし。

よーし、今日はなかさきちゃんと語りあっちゃうぞ!!



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