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“こんな時間から外出なんか出来るわけないでしょ!! 友理奈ちゃんも早く帰らなきゃだめじゃない!!”

熊井ちゃんの提案でしたが、なかさきちゃんが来てくれることなんかもちろんありませんでした。
なかさきちゃんもなかさきちゃんで、相変わらず中学生のようなことを言ってるし。
もう大人なんだからさ・・・ そのことを、ちょっと世間知らずの彼女に一度この僕が直々に教えてあげる必要がry

そんなお堅い彼女のお説教に対して、素直にそれを聞いたりするような大きな熊さんではないわけで。
ハイになっている熊井ちゃんの脈絡の無い演説を、駅前のファミレスで僕は一人延々と聞かされることに。

早く帰りたい・・・


やっと熊井ちゃんから解放され帰宅したとき、僕はもう心身ともにクタクタだった。
でも、まだ体を休めるわけにはいかない。僕にはまだやることがあるのだ。

ビデオカメラに録画されているBuono!のライブ映像を取り込んで再生すると、モニターにいきなり愛理ちゃんのアップが映る。
うわぉ!愛理ちゃん、ひゃっほう!!
思わず顔がデレーッと弛緩してしまったw

このライブ映像、予想通り素晴らしいものだった。
そこには愛理ちゃんの生き生きとした表情が見事に捉えられていて。
愛理ちゃん、なんて神々しい・・・ モニターいっぱいに映る彼女の生き生きとした表情、そして彼女の澄んだ歌声が疲弊した僕の気力を蘇らせてくれる。
疲れ切っていた僕がほとんど徹夜の作業をこなすことが出来たのは、こうして愛理ちゃんの映像が励みとなったからに他ならない。

だがしかし、その編集作業は予想外に大変だった。
それは何故かといえば、撮影された映像には非常に偏りがあったからだ。そのことには再生を始めてすぐに気付いてはいた。

これ、ほとんど愛理ちゃんしか映ってないじゃないか・・・
思い出したように雅さんも映されてるけど。桃子さんに至っては・・・ どうするんだよ、これ。

執事さーーん!! 

まぁ、これを撮影したカメラマンの気持ちはわかるけど。ライブのときの愛理ちゃん、一度目にしたらひたすらその姿を追っていたくなる。
この愛理ちゃんの映像、ホント癒されるなあ。見ているとただもうひたすら幸せを感じる。個人的にはそれだけでもう十分なんじゃないかと思うよ。


でも、もちろんそういうわけにはいかないんだ。
このライブはりーちゃんの誕生日記念ライブなのだ。まず彼女に喜んでもらえるものでなければならない。
だから、まず雅さんの映像を最優先で抜くことに専念する。

速攻USBそして通常盤はこれで何とか形になるだろう。梨沙子ちゃんにも納得してもらえそうだ。
(りーちゃんは雅さんが映ってさえいれば満足してくれるよ)

そしてソロ盤の方も愛理ちゃんは全く問題ないし雅さんも何とかなりそうだな。


問題は、メンバーの中でただ一人だけアップの映像が圧倒的に少ない人・・・・


そう、桃子さんだ。
ソロアングルDVD、桃子さんのはいったいこれでどうやって作れと?

はたして桃子さんを納得させられるクオリティーのものが作れるのか、そのソロDVDは?
脳裏に終演時の桃子さんの意味ありげな笑顔がよみがえる。
僕は身震いした。何が何でもやり遂げなくてはならない。

でもまあやるしかないわけで。
一見無理だと思われるようなことでも、人間追い詰められれば大抵のことはこなせるものなんだ。自分の経験上、それは間違いない。

しょうがない。固定カメラが捉えた引きの映像から何とかするしかないか。
(ちなみに、この引きの映像、最前の熱狂的なヲタの方々の雄姿がバッチリと入っていらっしゃる)

そんな感じで桃子さんのソロ盤は編集に相当手こずりそうだが、まぁいい。ソロDVDの編集は後でじっくり取り掛かろう。
まずは速攻USBを完成させなくては。
しかし、眠い・・・ でも頑張らないと・・・



速攻USBは明け方近くになって完成した。
その完成品を納品するため、僕は大学に向かう前に今いつものバス停で待っていた。熊井ちゃんに指示されたその通りに。

“ブツが完成したら、朝バス停で待ってて。そしたら声を掛けてくる学園生がいるから、彼女にそれを渡してくれる? そこで任務完了だから”

そう、今日からは学園も新学期が始まるんだ。
登校してくる学園生のその人が僕に声を掛けてくるのを待てばいいんだな。

寝不足もあってぼんやりとしながらしばらく待っていると、不意に背後からいきなり声を掛けられる。

うわぁ! びっくりした!! 

後ろに立たれていたことに全く気付かなかった。いつの間に・・・

びっくりしながら振り向くと、そこには長い黒髪もお上品な学園生が立っていた。青いチェックの制服に身を包んだ高等部の生徒さん。

「おはようございます。うふふふ」


僕に声をかけてきたこの人が、熊井ちゃんの言った商品を学園に配布するべく彼女が指定してきた人。
その艶やかな長い黒髪。すっきりとした顔立ちも見るからに上品で、いかにも学園生といった風情のその生徒さん。そう、譜久村さん。

「熊井さんから伺ってました。お疲れ様です」
「お、おはようございます。み、みずきちゃん」
「さっそくですけど、完成品は?」
「はい。これがその例の物です」

徹夜で完成させた速攻USBを聖ちゃんに渡す。

「あらあらw こうやって見るとすごい数ですね。こんなに予約が入ってるなんて。さすがBuono!の皆さん」
「ソロアングルの方はもうちょっと待っててくださいね。桃子さんのソロDVDが出来たら、みずきちゃんには真っ先にお渡ししますから」
「御配慮ありがとうございます。素晴らしいライブでしたし、とても楽しみにしていますね」
「えぇ、本当に素晴らしいライブでした!・・・って、まだ見ていないのに、どうしてそれを?」
「どうしてって? それはですね当日はワッch・・・ わたし一人スレもチェックしていますので。
そちらにレポを上げていた方もいましたし、いつものように隊長さんのとてもクリアな音質の音源だって。うふふふ」

深い笑みをたたえる団地妻。
熊井ちゃんのよく言う闇のフィクサーって、むしろこういう人のことを言うんじゃないのだろうか。
そんな聖ちゃん。いつものことながら、そばにいると何となく緊張を覚える。
うん、熊井ちゃんに感じるそれとは全く違う意味だけど、聖ちゃんが醸し出している今のこの雰囲気。こ、怖いよ。
雰囲気を変えよう!

「み、聖ちゃん、その制服!高校生になったんですね」
「はい。いよいよ私も高等部です。気が引き締まる思いで」
「ますます御活躍される機会が増えますね」
「えぇ。いつまでも先輩方に頼ってばかりではいられないですから。でも、本当にこの学園は面白い人が多くて。これからも楽しみですわ」

僕らが会話を交わす横をそのとき通りがかった中等部の生徒さん。顔見知りなのか聖ちゃんに挨拶する。

「おはようございます譜久村さん」
「香音ちゃんおはよう」

無邪気な笑顔で聖ちゃんに挨拶した彼女。
これまたとってもかわいらしい子だな。(本当に学園生ってカワイイ子が多いよね!)
そのまま足を止めることなく行こうとする彼女に、聖ちゃんが声を掛けた。「待って、香音ちゃん。一緒に行きましょう」

「それではこれで失礼しますね。熊井さんによろしくお伝えください」

僕にそう告げると、足早にいま声を掛けた彼女に駆け寄っていく。聖ちゃんのその後ろ姿、美しい長い髪がまた何と言うか男心をくすぐるんだ。

“今日のクラス発表、鞘師さんと一緒のクラスだといいわね。でも、香音ちゃんいい表情してる。それなら大丈夫かな。うふふふ”


聞こえてくる聖ちゃんの声が小さくなっていく。
彼女達のその後ろ姿を見送ったあとも、僕はそのままバス停で待ち続ける。

そう、高校時代そうやって彼女が来るのを待っていたのと同じように、いま僕は待っていた。
そして、そう時間をおくことなく彼女はやってきた。

舞ちゃん。

やってきた舞ちゃんは、お嬢様と御一緒だった。その見慣れた光景。今年も全く変わっていない。

千聖お嬢様も御一緒か!
やって来たお嬢様のお姿を見て、昨日のことを話しかけたいな、なんて一瞬だけ思ったりして。
だが、やって来た2人のその様子を見たとき、僕にはそんな2人に話しかけることなど、とても出来なかった。

だって、舞ちゃんはそれは本当に楽しそうに一生懸命にお嬢様に話しかけているんだ。
お嬢様もそんな舞ちゃんの話すことを天使のように柔らかい笑顔を浮かべて丁寧に聞いていらっしゃる。

それは僕ごときが割り込んで話しかけることができるような雰囲気ではなかった。
むしろ僕がここにいることなんかお2人に気づいて欲しくないとまで思う。
うん、楽しそうに話す2人のその空気を壊したりなんかしては絶対にダメだ。
思わず、バス待ちの人の後ろにさりげなく身を隠すようにする。

お嬢様を独占しようとするようなその舞ちゃんの熱心な話しかけっぷり。完全に2人の世界に入り込んでいる。
お嬢様も舞ちゃんも僕がここにいることには全く気づいていない様子。
良かった。舞ちゃんの笑顔を壊すことはしたくないから。


いま僕の目に入ってきた舞ちゃんのその笑顔。
心の内の喜びをストレートに表しているだろうな。それは無防備なほどに。あの舞ちゃんが。
それを見ることができること、僕にとってそれは幸せを感じる。

舞ちゃんは嬉しくて仕方がないんだろう。
だって、この春なかさきちゃんと栞菜ちゃんも卒業してしまったんだ。
ほとんどの寮生が卒業した今、残る愛理ちゃんはあの通り慎み深い方だし、学園への通学は舞ちゃんがほとんどお嬢様を独占できるようになったのだろうから。

657 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2013/08/25(日) 22:40:42
656
舞ちゃんが千聖お嬢様に向けている気持ち。
歳を重ねるにつれて学年も上になっていけばそれも薄まっていくだろう、と思ったりもしていたけれど、全くその気配は見えてこない。
むしろ、舞ちゃんのその気持ちは年々高まっているように僕には見えるんだ。いや、それは間違いなくそうなのかもしれい。

今も正にその光景を目の当たりにして。
新しい学年になって初めて舞ちゃんの姿を見れたことがとても嬉しいのに、僕は心のどこかで何か吹っ切れないものを感じている。

僕はいつか舞ちゃんの気持ちが僕に向いてくれる日が来るのをひたすら待っているんだ。
願いつづければそれはきっと叶うと信じて。

でも、それっていつまで待っていても永遠にやって来ないんじゃ・・・


舞ちゃん・・・・


突きつけられた残酷なまでの現実。
どうすればいいのか僕にはわからない。



頭が真っ白になってしまった僕は、上の空で乗り継いで、気付けば大学に着いていた。
教室へと向かうと、熊井ちゃんはまだ来ていないみたいだ。そして授業が始まっても彼女の姿は現れなかった。
気まぐれな彼女のことだ。僕はそのことを特に気に留めることもなかった。(それよりも今は・・・舞ちゃん・・・)
授業を受けても、全く頭に入ってこない。(それでも、、それでも僕は舞ちゃんのことが・・・)

「元気ないな。どうした?」

クラスメートが聞いてくるが、僕はそれに返事をすることも出来ない。(・・・こんなに苦しいのが初恋ですか?)

そんなとき、熊井ちゃんがやってきた。
現れた彼女に席を譲るクラスメート。何故か僕の後ろの席が彼女の指定席となっているらしい。
重い気分でいる僕だったが、やって来た熊井ちゃんの姿を見て声をかける。

「熊井ちゃん、どこ行ってたの?」

僕の発した声は、やはりひたすら低い声になってしまった。我ながら暗い。暗すぎる。
そんな僕の様子には全くお構いなし。いつものように朗らかな大きな熊さんが見事なまでに対照的な明るい声で答えた。

「部室を見てきたんだよ。なかなかいい感じじゃない」


なるほど、部室の視察に行って、そのまま居眠りでもしてきたんだろう。予想通り彼女の昼寝部屋と化したか。
居眠りしたいのはこっちだよ。さっきまで徹夜で作業してたんだから。
そんなことを思ったら急激に眠気が襲ってきた。昼休みからは僕も部室に行ってちょっと寝てこようかな。
なんて思った僕だったが、そんなこと僕には許されないことなのだとすぐに思い知らされる。

「そろそろ行った方がいいんじゃない?」

熊井ちゃんに促されて時計を見た。
もうそんな時間か。

そう、学食の席取りに行く時間なのだ。



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