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部室のあるサークル棟までは結構距離がある。
そんな学内を桃子さんを隣りにして歩いていく。
一緒に歩いているとは言っても、この人は決して歩調を合わせたりはせず、気ままに立ち止まって周りを見回したり、そうかと思ったらおもむろにスキップし始めたり。

「あれが僕らの学部棟です。サークル棟はここから反対に図書館の前を通って真っ直ぐ行ったところです」

桃子さんの、そのぷりぷりとした歩き方。
エキセントリックな人だよ、本当に。
でも、そんな桃子さんと一緒に学内を歩くこのとき、僕は正直かなりウキウキとした気分になっていた。
だって、何だかんだ言って、桃子さんってその、やっぱりかわいいから。
そんな人を横にキャンパスを歩くのってさ・・・・ 高まるんだよね。
だから今僕はけっこう嬉しかったりして。


「ふーん、ここがくまいちょーの舞台となるキャンパスかぁ」

恐ろしいことを言わないでください。

「くまいちょーのryって・・・ でも確かにそうなのかもしれないです。早くもその名を学内に轟かせてるし」
「もうそんなに有名なんだw さすがだねーw」
「今も学食にも顔を出さないで、どこで何をしてるんだか。また何か問題を起こしてなければいいけど」
「くまいちょー、忙しいんだね」
「えぇ、なんか毎日飛び回ってますよ。何をしているのかよく分からないことが多いですけどね」
「張り切ってるねー。まぁ、毎年恒例のアレだね。くまいちょー、毎年この季節になると張り切っちゃうからw」
「えぇ、そうですね。もうちょっとして春が終われば落ち着いてくれることでしょう」

だといいんですけどね・・・

「ここがサークル棟です。軍団の部室は、この5階になります」
「へー、いかにもって感じだね。見て見て。中庭に七輪でサンマを焼いてる人がいるよw」
「昼食を自炊してるんでしょう。この建物には色々な人がいますから」
「学園の大学とはだいぶ雰囲気が違うなあw」
「そうなんですか? まぁここには変わってる人が多いとはいっても、ダントツなのは熊井ちゃんry

雑然としているこのサークル棟に全く似合わないそのピンク色の人がブリブリと階段を上っていく。
なかなかシュールな光景だ。
しかし桃子さん、そのミニスカート姿で前を歩かれると・・・ み、見えそう・・・

非常に高度な葛藤と戦いつつ階段を上りきり、そこから暗い廊下をすすんでその真ん中あたり右側にあるドアを開ける。


昨日からもぉ軍団の部室となったこの部屋。
そこにあった、いかにも座り心地のよさそうな長いソファーに身を投げ出したかと思うと、そこにちょこんと座る桃子さん。
その(コンパクトな)脚を投げ出すように伸ばし、その膝にこれまた伸ばした手を置いて周りを見回している姿がとても可愛らしく・・・

・・・って、あれ? なんだこのソファーは?
昨日は無かったぞ、こんな立派な備品。どうしたんだろう、これ。
頭の中に疑問が浮かんでいる僕の耳に、桃子さんの声が入ってくる。

「ふーん、ここがもぉ軍団の部室ね。なかなか立派なものじゃない」
「熊井ちゃんが不法占拠しちゃったんですけどね」
「もともとはどこのサークルの部屋だったの」
「この間仕切りで仕切ってある向こう側は、今でもそのサークルの部屋ですよ。アイドル研究会です」
「アイドル研究会?」

ソファーを立った桃子さん、今度は座椅子の上に立ち上がり、間仕切りに手を掛けて上から覗き込もうとした。
目の前の光景。そう、いま桃子さんはミニスカート姿なのだ。
その彼女が椅子の上で背伸びをして、つま先立ちで向こう側を覗き込んでいる。
今度こそ、その光景に思わず見入ってしまいそうに・・・

「誰もいないや。つまんないの」

どんな人たちなのか見てみたかったのに、なんて言って笑う桃子さん。
でも、このサークルの部長さんは、そうあの桃ヲタさんだ。
うーむ。会ったりしたらどうなるのか見てみたい気もするが、非常に危険だ。このピンクの人達は僕にとって警戒対象・・・

「なるほど、いかにもアイドル研究会!って感じの部屋だねー。こういうのは梨沙子の得意分野じゃない?」

普段の物静かで理性的な梨沙子ちゃんしか知らなければ、彼女がこんなヲタ部屋を見たりしたら「あばば、ギャフン」と逃げ出すに違いないと思うだろう。
ところが、もぉ軍団でこの部屋に一番ハマりそうなのが、実はその梨沙子ちゃんなんだから、世の中わからないものだ。
彼女のあの雅さんへの熱狂度合いを見る限り、梨沙子ちゃんならこの部屋の雰囲気にも十分に馴染めると思われる。
いや、それどころか、あっという間にこの部屋のヌシ的ポジションになってしまうんじゃないか? ヲタモードの時のりーちゃんって、とにかくすごいから。

「見て見て。色々なポスターが貼ってあるよ」

そう言って桃子さんが急に振り向いてきた。
おっと、、、僕は慌てて居住まいを正す。
危ない、危ない、、、 ←(何が?)。

僕を見下ろしている桃子さんの、無邪気で楽しそうなその表情。
この人、(見た目は)本当にカワイイな。 ・・・ゴホン。

でも、貼ってあるよって言われても、僕の位置からはもちろん衝立の向こう側のポスターなんか見えないですよ、桃子さん。

部屋の半分を占拠されたアイドル研究会。
備品の整理ももうついたみたいで。
もぉ軍団のムチャ振りを受け入れて落ち着いてくれたことにホッと安心を覚え、どのような感じになったのかな?と、僕もちょっと覗き込んでみた。

おー、大量のグッズ類や本・DVDも壁面一杯に使ってしっかりと収納し直されている。
うまいもんだw ヲタという人種は結構マメな性格の人が多いのかな。

そこに貼ってある一枚のポスターが、僕の目に入ってきた。
あ、僕が好きな5人組アイドルグループのポスター。
その端っこに立っているメンバー。似てるよなぁ。


舞ちゃん・・・・・


今朝から僕の心を重くしていた苦悩をまた思い出してしまい、思わず顔を伏せてしまう。
だから、そのとき桃子さんがとっても楽しそうな表情を浮かべたのには気付かなかったのだ。
心が沈んでいきそうになった僕の耳に、桃子さんの声が入ってくる。
不意に語りかけられた軍団長の言葉。それは予想外の言葉で、そして、その声はとても柔らかいものだった。

「何か悩みがあるならもぉに話してごらん?」

俯いていた顔をあげると、小首を傾げて覗き込むように僕を見ている桃子さんと目が合った。
その黒く円らな瞳に、意識が吸い込まれそうに・・・

「舞ちゃんのこと、何かあったの?」
「な、な、な、なんでそれを・・・・ 何で舞ちゃんのことを考えてたって分かったんですか!?」

僕の叫ぶような声を聞いた桃子さんが苦笑する。

「だって、いま呟いてたじゃない。『所詮は男と女・・・ そうか、舞ちゃん!!』って」

また無意識に口に出していたのか僕は。
そんな核心的なことをハッキリと。よりによってこの桃子さんの前で。


「何が“そうか、舞ちゃん!”なの? 何を思いついたのか、その言葉の続きを教えて?」



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