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こういうのを絶対に有耶無耶にしたりはしないだろうな・・というのが見て取れる桃子さんとは対照的に、そんな緊張など次の瞬間にはすっかり忘れたような熊井ちゃん。
もちろん悪びれた様子など全く無い彼女が話しを続ける。

「まぁ、部室の中はそれなりになってきたけど、ここ、5階っていうのがちょっとねー」

そう言うと、熊井ちゃんは僕に向き直った。それを受け一気に緊張する僕。
また僕に何か無理難題を言ってくるつもりじゃないだろうな・・・

「ここまで階段を上って来るの面倒だし疲れるじゃない? もっと下の階はないの?」
「下の方の階は由緒あるところの部室なんだよ。弁論部とか映研とか茶道部とか探検部とか」
「じゃあそこに行って直接うちが交渉してくる。それに何か使える備品が手に入るかもしれないし」
「マジでやめて熊井ちゃん!!」

そんな、シャレなんか通じなさそうな団体のところに乗り込まれたら・・・・
背中を冷たい汗が伝うのを感じた。
なんとしても、やめさせなければ。

「熊井ちゃん、下の階よりもここの方がいいでしょ」
「どうして? 1階や2階の方が何かとラクでいいじゃない」
「いや、絶対こっちの方がいいよ! だって、ここの方が偉そうじゃん」
「偉そう?」
「そうだよ。大企業とかの社長室だって、たいていここと同じく上の方の階にあるものじゃないかな?」

僕のこの説得は一応の効果を見たみたいだ。
その理屈に納得してくれたのか、熊井ちゃんは珍しく僕の言ったことに頷いてくれた。

「それもそうだねー。まぁいいかここで」

「でも、やっぱりもぉ軍団の部室としては、ちょっと手狭なんだよね」

それは、ふんぞり返っているあなた御自身が場所を取っているからでは?

      • なーんていう指摘がまず脳内に浮かんで思わず吹き出しそうになった。
もちろん、そんなことしたら生命の危機だから、思ったことを表情には1ミリも出さなかったけど。


「こうやって軍団員が集まるとちょっと狭い感じがするよね。それって、やっぱりそっち半分を他のサークルに使われてるからだと思うんだ」

部室の半分を譲ってもらってから早2日目にして、その善意のアイドル研を邪魔者扱いしてるぞ。


「もう少しゆとりのある空間にしたいよねー。そうだ!この仕切りを1日に1cmずつ向こう側にずらしていったら、気付かれずに全部をうちらのものに出来るんじゃないかな?」

僕を見て、そんな提案をしてくるなよ。
今でさえ無理を言って半分貸してもらってるのに、よくもそんな・・・・
この人たちは、何か物事の考え方が一般人とは根本的に異なっているような気がする。

「いい考えだよ、くまいちょー。半年もそれをやれば一部屋まるまるもぉ軍団のものだね。ということだってさ、少年」
「いやですよ!そんなことしたら僕がアイドル研の人たちから袋叩きにされちゃいます。ただでさえ僕は“お前ごときが”という扱いなのに・・・」
「こういうの、軒を貸して母屋を取られる、って言うんだよね。あはははは」

珍しく用法が合っている。
まさにその諺どおり。分かってるんじゃないか。
そんなあくどい行為、僕にはとても出来ない。

「ここは何と言ってもうちらもぉ軍団の拠点なんだからね。それなりの部屋にしていかないと!」
「頑張ってね。くまいちょーならきっと出来るよ」

桃子さん、お願いだから煽らないでください。

そんな張り切っている御様子の熊井ちゃんを、桃子さんが目を細めて見つめた。

「くまいちょー、楽しそうだね。良かった」
「うん。楽しいよ。面白いことがたくさんあるんだー」
「それはもうよく分かったよw」


「でも、そっか。安心した」
「安心?」

どういうこと?と言わんばかりに首を傾げた熊井ちゃんに、桃子さんが話しを続ける。

「佐紀ちゃんがね、残念がってたよ。熊井ちゃん、学園の大学に来なかったんだね、って」


それを聞いた熊井ちゃん、真顔になって桃子さんを見つめた。

「そうなんだ。うちのことも、そんなに気にしてくれてたんだね」
「そりゃ、あの真面目で面倒見のいい佐紀ちゃんだもん。後輩たちのことは心配なんでしょ」

珍しく穏かな笑顔になった熊井ちゃん。
しばしの間をおいてから静かに口を開いた。

「あとは、梨沙子、だよね」
「うん。学園に残ってる後輩で心配そうなのは何と言っても梨沙子だからw 愛理や舞ちゃんは何も心配ないし」
「千聖お嬢様は?」
「ちさとはさ、学園の方で何が何でも卒業させるでしょ。それこそ卒業できるようになるまで何回でも補習なり追試を受けさせてでも」
「そっかー。やっぱりお嬢様ってすごいんだねー」
「で、梨沙子は進路どうするつもりなのかな。もうずいぶん前に、美大に行きたいみたいなことを聞いたことあるけど」
「でも梨沙子はさー、もうちょっと頑張ったほうがいいよねー、勉強」

「やっぱりそうなんだw」
「去年だって、梨沙子テストのたびに赤点だって言ってたしさー。3年になったらすぐにテストがあるでしょ。それもいきなり赤点だったらいよいよヤバいんじゃないかな」
「梨沙子は、のんびりやさんだからね。エンジンかかるのが遅いのかもね」
「かもしれないねー。でもこのままだとさー、梨沙子、ひょっとしたら高校生をもう1年やることになっちゃったりするかもよ」
「卒業できないかもってこと?」
「そうだよ。菅谷梨沙子さん高校4年生のお知らせ、みたいなw」
「もう、梨沙子は本当にマイペースなんだから。やっぱりもぉが面倒見てあげないとダメかー。うん、一度梨沙子の家に行こうかな。またちさとでも連れて」
「でもダブりとかカッコいいねー。そういうの一人ぐらいいてもいいよね。梨沙子の貫禄なら似合いそうだし。あははは」

当人のいないところで、失礼なことを言いまくってる熊井ちゃん。
僕には、この会話が笑っていいところなのか分からない。
そもそも、あなただって去年の今頃は人のことを言えるような成績じゃなかった(ry


でも、そうか。
もしそうなったら梨沙子ちゃんと舞ちゃんが同じ学年になるってことか・・・ それって・・・ 

そのことに気付いた僕の様子を見逃したりはしない人がいた。そう、桃子さん。

「もしそうなったりしたら、少年としては嬉しいんじゃないの、それ」
「え!? ど、どういうことですか?」
「だってさ、舞ちゃんと同じ学年に梨沙子がいるんだよ? もちろんそこに気付いたんでしょ?」
「え!?あの、その、それは毎朝の通学路が来年も楽しみwとか、そんなことは思ってないですよ!!」
「ふーん?」
「いや、その・・・」

僕の心の内は、いつものようにこの人にはバレバレだ。

        • 舞ちゃんと梨沙子ちゃん、か。
楽しみに決まってるでしょ、そんなの! すっごい楽しみだw
2人の卒業式のときには僕も何としてでも出席したいもので。なんとかして潜り込めないかな。
そして、その日こそ僕は・・・・

妄想が止まらなくなってしまった僕。
それはもちろん、この目の前の桃子さんにはバレバレなんだろうな。ぐんだんちょー楽しそう。
そして、楽しそうなのはくまいちょーも同じだった。
まぁ、いま熊井ちゃんの楽しみというのはこういうことらしいんだけど。彼女が言い出したこと。

「よーし、これから学園の視察に行こうよ!学園が今どうなってるのか、OGとして状況を確認しなきゃ!」
「くまいちょーがそう言うなら、もぉも付き合おうかな」
「授業参観だ! これは梨沙子のことが心配だからそこまでするんだからね! うちが梨沙子を更正させる!!」

いや、別に梨沙子ちゃんは道を踏み外したりなんかしていない。(てか、むしろ大きな熊さんこそry)。
そんな指摘を、この鼻息も荒い大きな熊さんに対して僕が出来るはずも無く。

それにしても、大丈夫なんだろうか。
新学期早々の学園に、この2人が揃って乗り込んだりして。
もう学園生ではないのに、そんなことはコンプレイヤンス上どうたらじゃないのかな。

なかさきちゃんも卒業してしまった今、学園にこの強烈な2人を止めることのできる人はいるんだろうか。
学園の生徒会の皆さんに迷惑がかかったりするようなことが起きたりするんじゃ・・・
なんとしてでも阻止したほうがいいのかもしれないが、いかんせん僕ひとりではこの2人に対して絶対的に力不足だ。

これ、至急なかさきちゃんに報告とかした方がいいのかな。

でも、なかさきちゃんの連絡先知らないし。
こういうこともあるんだから、やっぱりなっきぃとは繋がりを持っておく必要があるよな、うん。

急な展開に対し僕が状況判断に困っていると、熊井ちゃんは更に何かを思いついたようで。


「学園に行くの久し振りだー! あ、そうだ!久し振りに学園の制服を着てみようかなー」


「うん、そうすることにする! もももそうしなよー! 一緒に制服着て乗り込もうぜ!」
「くまいちょーがそう言うなら、もぉも付き合おうかなw」

はしゃぐくまいちょーのその言葉。
見れば桃子さんも満更じゃなさそうな表情。てか、やる気十分じゃないですか。

僕はその光景を想像する。この2人の学園の制服姿。特に、桃子さんのその姿を。

20歳を過ぎてるというのに高校の制服ですか・・・
思いっきりコスプレ・・・・

でも、もう大学3年生なのに、高校生といっても案外通じるのかもしれない桃子さん。
そんな軍団長の久し振りの制服姿、見たいかも。
そして、熊井ちゃんのその長身で着こなす制服姿。あれを再び見れるのっていうのか。

うん。
2人のそのコスプレはちょっと見てみたくて。


「なに緊張感の無い顔してるの? ほら、もう行くんだからね。すぐに用意する!」
「ぼ、僕も一緒に行くの・・?」

なーんて驚いたふりして言ってみたけど、本当は学園に行く2人に僕も一緒について行ったりできるのかなと期待はしていたわけで。
そんな僕の考えていることなんかお見通しと言わんばかりに、ニヤリと笑う桃子さん。

「その方がいいんじゃなーい? 舞ちゃんだっているんだよ?」
「舞ちゃん? 舞ちゃんのところにも行くの、もも?」
「そうだよくまいちょー。これは視察ですから! 各学年とも見て回らないとね♪」
「じゃあさ、久し振りに中等部にもお礼参りしに行こうよ!」
「くまいちょー、お礼参りはダメw でもそうだね、最近の中等部や初等部にはどういう子がいるのか見に行く必要はあるね♪ 小もぉ軍団に新しく入ったっていう浜浦ちゃんって子をry」


2人してやたら盛り上がってるけど、だ、大丈夫なんだろうか・・・
もぉ軍団ツートップが話しているその内容。
学園の平穏な日々が、いままさに危機に晒されているのでは・・・
そんなこと何も知らずに今も粛々と授業を受けているだろう学園の皆さん。
あぁ、心配だ。


「よーし、学園に向かってレッツゴー! 梨沙子、いま行くからねー!!」



この春、大学生になってから本当に刺激的な毎日。
今日もまだまだ面白い一日になりそう。

なんて、お気楽に考えていたんだけど、僕はこのあと再確認することになる。
もぉ軍団ツートップの2人がすることに関わるということが、それほど甘いものでは無いということを。
そう。このピーチベアーズの2人には常識なんてものは全く通用しないんだ。
それぐらい僕はもうよーく分かっているはずなのに、それでもやっぱり振り回されるのはいったいどうして・・・



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