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「まったく、お嬢様ったら、活発なのは結構ですけれど、岡井家の御長女としての・・・」

キャンキャンと、なっちゃんが千聖に向かってお説教をかましている。
千聖ったら、私があのKYな中等部の子に捕まっている間に、陸上部の見学で何かやらかしたらしい。可愛い足が、ところどころ赤く腫れちゃってて、大方、障害物競走かなんかだろう。ほんと、子供なんだから。ふふん。


「舞は、料理部に入部するのかしら?うふふ」

なっちゃんのお小言を見事に耳をトンネルさせながら、千聖は私の顔を覗き込んだ。

「入らないよ」

そう答えると、千聖は目をパチパチさせて、小首をかしげた。

「あら、でも・・・」
「今は生田さんに引き止められてただけだから」

“萩原さんすごい!じゃあこれは?”
“メレンゲが上手く作れない!萩原さん、これは科学的には・・・”


こっちの都合なんかおかまいなしに、次々に質問してくるもんだから、つい電子辞書を片手に居残りさせられてしまった。
だけど、入部となると、話は別だ。


「そう・・・」
「ああ、でも、また顔出しに行ってあげようかなとは思ってるよ。あと、文芸部にも」


千聖があんまり悲しそうな顔をするもんだから、つい言い訳口調になってしまう。この舞様が。


本当は、私もわかっているんだ。
千聖の部活動巡りとはいえ、私を巻き込んだのには、ちゃんと意図があるっていうのは。

私は結構、何でもできちゃう方だけど(運動以外)、自分のやり方でないとできないところがある。
誰かと足並みをそろえるなんて、正直、極力御免蒙りたい。
そんな私の性格を知っているから、みんな口には出さないけれど、きっと同じことを考えているんだろう。
その気持ちはありがたい。でもね、でもね、だけど・・・

「まー、その辺はゆっくり考えればいいんじゃないかな?キュフフ」

その時、助け舟とばかりに、なっちゃんが横から口を挟んできた。

「文芸部も楽しかったんでしょ?」
「うん」
「料理部も、調理より理論の面でだけど、関心はある、と」
「まあ、そうだね」
「ほら、ね!お嬢様!舞ちゃんの興味の幅もこんなに広がったことですし、ね!キュフフ」

――もう、なっちゃんって、ほんと・・・


「あははは」
「ケロッ!?な、何で笑うの舞ちゃん!」
「ウフフフ」
「おじょじょ、お嬢様まで!キュフゥ・・・」

本人には悪いんだけど、なっちゃんのヘコみ顔って、妙にツボにはまる。
でも、ちゃんとわかってるから。その思いやりも、私を気づかってくれたことも。

「舞、気が向いたら行くから。あと、生徒会も」

一応そう答えると、なっちゃんは嬉しそうにキュフフと笑った。

*****

―――♪♪♪
―――♪♪

そして訪れた、合唱部の部室前。
発声練習だろうか。「ららら」や「るるる」といった、歌詞のない歌が美しいハーモニーを奏でている。

“うちの部は、結構フランクだから”

愛理が前にそんなことを言っていたけれど、いやいや、なかなかどうして。
ただの喉ならしの段階でも、はっきりわかる。・・・この合唱部、かなり、できる。上から目線だけど、一言でいうと、“愛理のレベル”。
私が知っている人の中では、トップクラスの歌唱力を誇る彼女。それに引けを取らないのだから・・・やっぱり、すごいということだ。


「舞・・・」

同じ感想を持ったのか、千聖の声が小さくかすれて、不安そうに私を呼んだ。

「ふふん、何その声」
「だって、あの・・・」

やんちゃなとこもあるくせに、元々自分に自信がなくて、臆病な千聖。
どうせまた、“私のせいで、みんなの楽しい空気を壊してしまったら・・・”なんて、考えているんだろうな。
理由は違えど、私も新しい場所に飛び込んでいくことが苦手な身として、千聖の気持ちはよくわかっているつもりだ。
だから、私がしてあげることはただ1つ。

「嫌ならいつでも、舞のとこ戻ってくればいいじゃん」
「ま、舞ちゃん?」
「だから、とりあえず見学だけしてみたら?強制じゃないんだし、愛理もいるし」

私の言葉を受けて、千聖はしばらく瞳を揺らした後、小さくうなずいた。

「ええ、そうね。愛理も・・・舞も、なっきぃも一緒だもの」

細く息を吐き出すと、その丸っこい指を、扉にかける。
舞、成長したケロね!となっちゃんがウザったい視線を投げかけてくるのはご愛嬌。・・・そーいうのは、いちいち態度に出さないのがオトナのオンナ(ry


「活動中のところ、失礼します。見学をさせていただきたいのですが」

発声練習が終わり、談笑の声が漏れてきたところで、千聖がうわずった声掛けをする。
室内のおしゃべりがピタッと止み、数秒空いてから、「ケッケッケ、どうぞぉ~」と、聞きなれた緊張感のないふわふわ声が私たちを招き入れてくれた。

「ようこそ、御三方。ケッケッケ。おろ、他の皆様方は?」
「栞ちゃんは文芸部で執筆、みぃたんは陸上部でOB指導があるから」
「なるほどなるほど、独身の皆さんだけがお集まりと。ケッケッケ。
見学と言わず、ぜし体験入部を~。あ、噛んだった。ケッケッケ」

――ケッケッケ
――ケッケッケ

愛理の声に反応するかの如く、独特の笑い声が、そこかしこに溜る部員さんたちの口から発せられる。それで、よくわかった。ここは間違いなく、愛理の領地、愛理の巣、なのだ、と。


「あ、あの…よろしくお願いします。け・・・けっけっけ」


けなげに調子を合わせようとする俺の嫁。マジ天使!きゃわわ!

かくして、優しいけれど曲者ぞろいな合唱部への体験入部が始まった。



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