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「りーさん。じゃなくて、りぃちゃあん!・・・・ちょっと違うわね。りーちゃん♪りーちゃ・・・」
しばらくぼんやり窓の外を眺めたあと、いきなり千聖は私の名前を呼ぶ練習を始めた。
り、りーさんだって。ププッ

真面目な顔で名前を連発されるのがおかしくて思わずフンッと鼻息を漏らしてしまった。

「ん?」
千聖が顔を近づけてくる。私は慌てて寝返りを打つふりでごまかした。

「暑いのかしら・・・」

目を閉じていても、至近距離で見つめられているのが気配でわかる。
何だか甘い匂いがする。とっても甘い、バニラみたいな。
多分これは私の好きな魔女っぽいブランドの香水だ。
そういえばさっき頭をゴーンとやってやった時も、ふわっと香っていたかも。
ちょっと高いし大人っぽいアイテムだから、まだ買おうか検討中だったのに、まさか千聖に先を越されてしまうなんて。
プロレスやスポーツじゃ千聖に負けていたけど、オシャレ関係は絶対私の方が詳しいし気を使っていたはず。
何か悔しいな。千聖、前はシャンプーの匂いぐらいしかしなかったもん。

「ずるい。」
「ひゃっ!な、なんだーりーちゃん起きてたの?びっくりしたぁ。」

ブランケットから目と鼻だけチョコンと出して、千聖を睨んでやった。

「りーちゃん倒れたって聞いて、心配だからあいりんと様子みにきたんだよ。・・・で、ずるいって何が?千聖が?」
「知らないもん。」
「何だよぅそれ~」
さっきとは表情も喋り方も全然違う。今は、私が一番よく知ってる千聖だ。

「今あいりんが飲み物会に行ってるからね。何かやってほしいこととかあったら言って?」

・・・あぁ、でも笑い方とかはやっぱりちょっと違うな。何かお姉さんぽい。

「千聖、何でもしてくれるの?・・・・じゃあさ、悩み相談に乗ってくれる?ももと違って、本当に相談したいことがあるの。」
「悩みかあ。うん、私でよければ!」

私はゆっくりと起き上がって、ベッドに腰掛けている千聖の手を握り締めた。

「あのね、私、友達の内緒話を偶然聞いちゃって。」
「うん。」
「でもち・・・その子は私がまだそのことを知らないって思ってて、全然話してくれないのね。他の子は知ってることなのに。」

あれ・・・・。何か目がじわじわ熱くなってきた。


「でね、わ、私にだって、ちゃんと教えてほしいの。ずっと前からの仲間だし、できることがあったら手伝いたいのに。知らないふりするの、辛いよ。」
「りーちゃん。」

繋ぎあった私と千聖の手の上に、私の涙がポツポツと落ちた。


泣いたりするつもりなんかなかったのに、いちどあふれ出したら止まらなくなってしまった。
まともに顔を見たらもっとワンワン泣いてしまいそうだったから、おでこをゴチッとぶつけて歯を食いしばった。


「りーちゃんは・・・・その人のこと、すごく大切なんだね。」
「うん。私千聖のこと、大切だと思ってるよ。」
「・・・・・えっ・・」

あっ



千聖の手がピクッと反応した。
うつむいた私の目線の先で、柔らかそうな唇が、何かを言おうとしてるように閉じたり開いたりを繰り返している。

「あっ、と、えと、今、のは、あっ、ちがくてっ」
ど、どうしよう。
ゆっくりおでこを離すと、千聖と思いっきり目が合った。


千聖の目は不思議な色をしている。
黒目がとても大きくて、いつもきらきらしていて、私の憧れている魔女みたいに、全部を見通してしまうような魔力があるような気がする。
この目に見つめられたまま何か聞かれたら、きっともうごまかせない。

千聖の口が開く。



お願い、何も言わないで。




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