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「じゃあ~、まずは、パートを決めましょうかぁ。お嬢様は、ソプラノとアルト、どちらで?」
「え・・・えと、あの・・・」
「あ、じゃあ、発声して決めましょうか。ケッケッケ。ピアノ、いいですかぁ?」

愛理に促されるがまま、千聖はピアノの前に立った。

「フツーに、音楽の授業と同じでいいので、ピアノの音に続いて、同じ音階で歌ってみてくださーい」

――おお、愛理のくせに、張り切ってやがる。そして、その可愛らしいお顔の上に黒いツノが、お尻に黒い尻尾が、ピコピコと揺れているのが見える気がする。


「黒愛理・・・」

横でなっちゃんがつぶやいたのだから、間違いないだろう。まあ、千聖相手におかしなことはやらかさないだろうけど・・・黒愛理モードの彼女は、この舞様の斜め上を行く、トンデモ行為をやらかすので油断はできない。


―――♪♪♪


ピアノの音に続いて、少し上ずった千聖の歌声が室内に響いた。
ふふん、舞の嫁だから当然だけど、可愛い声。喋り声同様、ふわふわしているけれど、そこに一本筋の通った、はっきりした音色が加わっている。

「いいねぇ~ケッケッケ」
「新鮮な声ですなぁ~ケッケッケ」

合唱部の人たちのヒソヒソ声に、なぜか私が誇らしい気分だ。
千聖の歌好きは、寮生みんなが知っている事。
だけど、当の本人は、その歌声を聞かせてくれることはほとんどない。はずかしい、とか言って、えりかちゃんの後ろとかにぴょこんと隠れちゃう。

それでも、特別機嫌がいい時なんかに、屋上の給水塔で聞くその歌声ときたら、本当に絶品。
ふふん、なっちゃんなんて、初聞きに近いんじゃない?ちしゃとのガチ歌。
自分だけが知っている、と思うと、知らずにテンションも上がってしまうというもの。

みんなが舞のちしゃとの声に酔いしれている。この優越感は、誰にもわかるまい。深く目を閉じて、私はしばしその天使の歌声に聞き入ることにした。



「・・・はぁーい、じゃあ、これぐらいにしておきましょうかぁ」


やがて、かなり高音部まで達したところで、愛理から声がかかる。
ほっぺたを上気させて、興奮気味な様子の千聖。お屋敷のお庭での全力スポーツしかり、好きなことに熱中していると、ほんと子供みたいな表情になっちゃうんだから。ま、そこが(ry


「高音も綺麗ですが、低音、すごく魅力的ですねぇ。ケッケッケ」

お、ということは、アルトパートにいくのかな?


「それでは、お嬢様はソプラノということで。ケッケッケ」
「「ええ!?」」

なっちゃんの声と私の声が綺麗に重なる。


「低音が魅力って言ったじゃん。なら、何でソプラノ?」

私たちの疑問もよそに、アルトパートの人たちは、ケッケッケと笑いながら、千聖を自分たちの輪の中へ引きいれてしまった。

「あ、あの・・・よろしくおねがいします」

「あ、愛理ちゃーん・・・意味がわからないんだけどぉ」

なっちゃんからの当然なツッコミにも、愛理は眉1つ動かさずに、いつもの飄々とした笑顔。

「いやいや、お嬢様がアルトだと、困ったことが起こるのでぇ」
「何が困るの?」

愛理のその邪悪な笑みが、どんどん深まってくる。同じ魔族(?)として、ここは俺の嫁を守るためにバトルに持ち込みたいところだけれど、その意図がわからないうちは、どうにも動きようがない。
愛理はあれだ、食虫植物タイプ。自分から仕掛けてくることはないけれど、相手のカードがわかった途端、ものすごい勢いで捕食してくる。
下手な動きは禁物だ、舞よ。経験上、奴(ひどいですぞ、ケッケッケ)がちしゃとに危害を加えることはまずありえない。
今はじっと待つとき。つばしゃからぶんどってやった、帝王学の本にも書いてあったでしゅ。攻めるだけの戦法では、守備に穴を作るだけ。情勢を見極め云々


「お、お嬢様の希望を聞くべきだと思うケロ!!」
「・・・ああもう、なっちゃんたら!」

せっかく私が脳内でシミュレーションを始めたところだっていうのに、このせっかちさんめ!
案の定、「獲物を捕らえた」とばかりに、愛理の黒―いシッポが、ハタハタと動くのが見えた気がした。

「あー、そうそう。ごめんね、なっきぃ。ケッケッケ」
「わ、わかってくれたならいいの。キュフフ」
「うんうん、私ったらうっかりさん。なっきぃのパートも決めなきゃね」
「はい!?」

愛理の発言を受け、ケッケッケ隊もとい合唱部の皆様が、なっちゃんの腕を取って、ピアノの前に連行していく。


「ギュフーッ!!私は関係ないケロ!私はおじょじょ、お嬢様の」
「ケッケッケ、ピアノの音に合わせてくださーい、ラララーララー」
「ラ、ララ、ラーって、おい!」

生真面目ななっちゃんらしく、文句を言いながらも発声練習に興じさせられてしまっている。
愛理、恐ろしい子・・・!相手によって、作戦を細かく変えてくるんだから、あなどれない。

「舞様も、どーお?ケッケッケ」
「いーえ、舞は付き添いだから結構。それより、舞は愛理の矛盾について追及したいでしゅね」
「んー?矛盾?」
「さっきも聞いたけど、アルトの声を褒めておいて、何でちしゃとをソプラノにしたの?」


ソプラノグループから漏れ聞こえる、千聖の可愛らしい歌声に耳をゆだねながら、再度そう問いかけると、愛理はまたケッケッケと低く笑った。

「私ね、ずっとソプラノだったんだけど、今期はアルトに挑戦してるのね」
「ふーん?え、だったら、なおさら愛理と同じアルトならよかったじゃん。面倒見てあげられるだろうし」

すると、愛理はちょっと目を見開いてから、思いっきり細めて、挑発的な表情を浮かべた。「わかってないなあ」とばかりに。

「なんだよー、その顔」
「ケッケッケ、だって、それじゃ何のためにお嬢様をお誘いしたのか」
「どういうこと?」

何を言い出すつもりなんだ、黒愛理ちゃんよ。
おもわず身構えた私をチラリと一瞥しながら、愛理は言葉をつないだ。


「だって、ソプラノにきてもらってしまったら、私とお嬢様でハモれないでしょ?」と。



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