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ひとたび、目標を見つけたお嬢様の集中力は素晴らしい。
クリスマス会の企画を生徒会長から任されたお嬢様は、夕食もそこそこに、お部屋へ戻ってしまった。

「どなたの力も借りないという約束だから、今日は一人にして頂戴。いいわね、命令よ!」

キュフフ、久しぶりに“キリッ”顔を見た気がする。本日の添い寝は無しになったと察した栞ちゃんが、無念の表情でダイニングテーブルに突っ伏したものの、寮生みんな、お嬢様のお邪魔をする気はないらしい。

「ふふん、ちしゃとがそうしたいって言うんなら、いいんじゃない?」

ま、そう言いながらも、舞ちゃんは気になって仕方がないらしく、そわそわと食堂の外に視線をやっているけど。
素直じゃない、そういうところも可愛いんだから。キュフフ
かくいう私も、お嬢様のクリスマス会プラン、結構楽しみだったりする。
子犬みたいに愛くるしい外見の通り、ふわふわでぽわんぽわんな、小さな子みたいに可愛らしいお心を持っているお嬢様。
キュフフ、どんなメルヘンでファンシーな企画を立案なさるのだろう。こっちまでウキウキしてしまう。

「クリスマス会かー、いいね!」

そんな幸せ気分の中、デザートの苺をもぐもぐしつつ、みぃたんがニコニコ顔で言う。

「それで、私は何時に学園へ行けばいいかな、なっきぃ!」
「えっ」
「制服着るの久しぶりだなあ。楽しみだね、なっきぃ!」
「はい?えーと」


みぃたん・・・。もう2年も前に卒業したというのに、来るつもりかい。相変わらずその独特の思考は変わっていない。

「あー、舞美。参加者に関しても、お嬢様が計画するってことなんじゃない?まだウチらが学園にお邪魔していいのかはわからないよ」

おお・・・助かった。こういう時は、やんわり諌めてくれるえりかちゃんの存在が頼もしい。

「そうか・・・確かに、えりの言うとおりだね。コラッ、なっきぃも、反省しないとダメだそ!とかいってw」
「ギュフーッ!何で私が!」

私の抗議はいつもどおりサラッと流して、みぃたんはひとつ伸びをすると、おもむろに席を立った。

「今日も美味しいごはん、御馳走様でした。私、ちょっとお嬢様のところに行ってくるね!」
「みぃたん、聞いてた?お嬢様は今お取込み中だから・・・」
「うん、うん。きっと大変だろうから、私手伝ってくる!」
「いやいや、だからね」

もう一度説明しようにも、みぃたんのキラッキラに輝く曇りのない瞳は、“早く早く!楽しみ!”と散歩待ちのワンちゃんのよう。
こうなってしまっては、一切話を受け付けてくれないっていうのは、経験上わかっている。
だが、あたしは生徒会副会長。風紀委員長。デキるオンナ(キリッ)。お嬢様が、茉麻ちゃんからの宿題を滞りなく進められるようにするのは、この教育係であるアタシの任務であり


「・・・ケッケッケ、なっきぃ、舞美ちゃんもう行っちゃったよ~?」

使命に燃え、一人脳内決意表明を繰り出していると、可愛いお顔のブラックちゃんから、楽しそうなご指摘。

「ギュフーッ!そ、そういうことはもう少し早く言ってほしいケロ!」
「まあまあ、茉麻ちゃんの“手伝っちゃいけないリスト”には、舞美ちゃんは入っていなかったはずだかんな」
「なっ・・・かんちゃん!わかってて言ってるでしょ!もう!あれはあの場にいた人を例に出しただけで」

よりによって、お嬢様のことで栞ちゃんに諭されるなんて、冗談じゃない。
しかも、その顔は、悪巧み時特有のニヤーッとしたたちの悪いものになっていて、思わず口調が荒くなってしまう。

「早くみぃたんを連れ戻さないと。道を開けなさい、はぐれ(ry」
「あ?舞に命令とか・・・くらえっはぎ子こちょこちょ」
「ギュフフフフやめるケロやめるケロ!そこはあはんうふん」

な、なぜ!どうしてみんなで私の教育的指導を阻むケロ!

さすがの阿吽の呼吸と言ったところか、はぐれ(ryのお二人は、私がギブアップするまで、わき腹に攻撃を与え続けてきたのだった。

「キュフゥ・・・」

息も絶え絶えに、床に崩れ落ちる私を、ケッケッケさんと心優しい寮長えりかちゃんが、苦笑しながら介抱してくれる。
か弱いえりかちゃんはともかく、楽しんでやがる・・・黒愛理ちゃん。もっと早くに止めに入ってくだされば、あの二人を止めることだってできたはず。

「なっきぃ、そんなに無理しなくていいんだよ。はぐれ(ryに敵う人類なんてそういないんだから・・・」
「そんなこと言ったって・・・はっ!そ、そういえばどこ行ったケロ!舞ちゃんに栞菜!」

私の声に答えるがごとく、奥の廊下から、楽しげな笑い声と、バタバタと階段を駆け上がっていく音がする。


「や、やられた!待ちなさーい!」

とはいえ、お屋敷で走り回るのはあまりにもマナー違反。ということで、競歩で必死に追いかける私を、ギョッとした顔でメイドさんたちが振り返る。

「待ちなさい、あーたたち!」
「グヒョヒョ、なっきぃキター!」
「ふふん、何か用?もう一回くすぐってあげようか?」
「う、うるさーい!お嬢様の邪魔をしないでって言ってるの!」

手をわきわきさせながら、二人して私ににじり寄ってくる。・・・ったく、こういう時だけは結託するんだから、ほんと怖い!

「・・・お嬢様は、クリスマス会の企画を任されて、すごく張り切ってるんだから。
茉麻ちゃんとの約束通り、一人で頑張ろうとしてるの。いくらお嬢様の事が気になるからって、うちらが手を出したら、きっとお嬢様が悲しむんじゃないかなって、私は思ってるんだけど」

少し声のトーンを落として、そう告げてみる。
すると、意外なことに、二人は顔を見合わせて首をかしげた。

「なっちゃん、別に舞たち、ちしゃとの部屋に乱入するつもりはないけど」
「あ、あれ?」
「はーん?こんなに可愛い天使コンビなのに、信用ないかんな?悲しいなあ。シクシクだかんな」

二人して、わざとらしくエーンエーンと泣き真似をしてみせる。
またそーやって、事態を有耶無耶に・・・。いつもサンドバッグ扱いされてる、あの若い執事さんの気持ちが少しだけわかったような気がした。

「・・・いや、だって今までの前科が・・・ま、まあ、それはいい。だったら、二人は今どこに向かって走ってたの?どう考えても、お嬢様のお部屋でしょうが!」
「うん、そーだよ。舞たちはちしゃとの部屋に行くの」

――おっしゃっている意味がわからない。
おまけに二人とも、いぶかしむ私の様を楽しむようにニヤニヤしているもんだから、だんだんと頭に血が上ってきた。

「ふふん、そんな怖い顔しないでよ。舞たちは、ちしゃとの安全を見守りたいだけなんだから」
「それってどういう・・・」
「なっきぃもついてくればいいかんな」

そう言うと、二人はまた階段を上がり始めた。

「ま、待ってよ」

よく見れば、かんちゃんたらバッテリーみたいなの手に持ってる。舞ちゃんはノートパソコン。
やっぱり手伝う気なんじゃん!と憤りかかる私なんざ気にもせず、ついにお嬢様のお部屋のベージュのドアまでたどり着く。

「じゃー・・・始めるかぁ」

舞ちゃんは軽く腕をプラプラさせると、大きな丸い目でかんちゃんを見た。

「有原」
「あいよ」
「ん。次あれ」
「ほれ」

斜め向かいの倉庫から、手際よく備品を舞ちゃんに手渡していくかんちゃん。
それを駆使して、延長コードをつないだり、パーテーションをテキパキ組み立てたりしていく舞ちゃん。
あっけにとられているうちに、扉から少し離れた廊下の奥に、ちょっとした事務ブースみたいなのが出来上がってしまった。

「ほら、なっちゃんもこっち来て。あんまりうるさくすると、いるのバレちゃう」

手招きで招待されたその場所には、折りたたみ式の机と椅子。先ほど舞ちゃんが持ち寄っていた、ノートパソコン。
ケーブルやらコードやらが地面を這っていて、テレビや映画で見る、スーパーハカーの作業場を思わせる。

「・・・こんなとこで、何するの?」
「ん?言ったでしょ。ちしゃとの身の安全を見守るって」

舞様は、私としゃべりながらも、キーボードをノールックでカタカタと小気味よく打ち鳴らしている。

「・・・はい、接続完了!(ッターン!)」

LOADING…の文字が画面に現れ、しばらくすると、見慣れた部屋が、モニターいっぱいに映し出された。

アイボリーのソファに、ピンクベージュを基調にしたキングサイズのベッド、重厚で存在感のあるデスク。

「ま、舞様・・・これは一体・・・」
「ふふん。カメラの取り付け位置って、決めるの難しいんだよね。死角があるのは困るし」
「おま、そ、はんざ、とうさt」
「でも、こうやって部屋に近づかないと作動しないようになってるから。鬼軍曹が設定ガチガチにいじっちゃってさぁ」

――な、なんかとてつもなく恐ろしい陰謀の中に、足を突っ込んでしまったようなが気がする。
気を紛らわせるがごとく、私はとりあえず、そのモニターの中からお嬢様とみぃたんを探すことにした。



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