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お嬢様が、クリスマス会の企画係を任された、翌日の朝。
制服に着替えて自室を出ると、ちょうどお隣のなっきぃが、目をこすりながら戸締りをしているところに出くわした。

「キュフゥ・・・愛理」
「ケッケッケ、おはよう、なっきぃ。寝不足みたいだけど?」

原因は聞くまでもない。お嬢様のことが心配で、眠れなかったのだろう。
茉麻ちゃんから“お嬢様一人で考えるように”とお達しがあった以上、なっきぃの性格上、はぐれ(ryのように、それを平然と破ることはできない。
お嬢様が新しいことに挑戦するのを誰よりも望みながら、その反面、根っからの心配性でもあるなっきぃ。
眠れないほど気にかけてしまうなんて、面白・・・いやいや、なんて思いやりがあるんでしょう、ケッケッケ。

「・・・もし私がお嬢様のように重要任務を任されたら、なっきぃは徹夜で身を案じてくれるかなあ?」
「ギュフーッ!これ以上心労を増やさんといてー!」

ケッケッケ、なっきぃったら、ソソるリアクションをするから、ブラックちゃんが疼いてしまう。気を付けないと。


「おはよー!」
「あ、おはよう」

そのうちに、みんなも部屋から出てきて、ぞろぞろと食堂へ向かう。
扉を開けると、上座席に既にお嬢様がちょこんと腰をかけていた。
ただし、ボーッとしたお顔で、あまりお肌の艶もよろしくない。よっぽど夜遅くまで頑張ったんだろうな、というのが一目でわかる。


「キエーッお嬢様!おいたわしや・・・さっそく今から二度寝を!私の腕の中で!」
「きゃんっ!栞菜ったら、どうしてそんなところに触れるの!おやめなさい!千聖は十分に元気よ、ご心配なく」

見れば、お嬢様はお手元に、分厚いルーズリーフを携帯している。

「それ、企画書ですか?」

問いかけると、目を三日月にしてうなずき返してくれた。

「ええ、千聖のお仕事ですもの。準備が大変だったけれど、今、とても充実感を覚えているわ」

おっしゃる通り、お顔は疲れ果てているものの、表情は暗くない。
いつものふんわりのほほんとしたお嬢様も可愛らしいけれど、こういう一面があるから、お嬢様は人を惹きつけるんだろうな、なんて思った。

「・・・ん?なんでしゅか、愛理。何で舞の方じろじろみてるの」
「いえいえ、ケッケッケ」
「さ、ごはん食べましょう、お嬢様!キュフフ、企画立案の次は、プレゼンがありますからね、まだまだここからです!」

運ばれてきたお味噌汁は、私が最近ハマッている、白みそ×カブの黄金コンビ。

「私これ好きなんですよ~、いつもありがとうございます、執事さん」
「ひぎぃ!あばばば」

ケッケッケ、美味しいもの食べて、今日も一日元気に過ごせそうだ。


*****

「えーっ、と」

ランチタイム。
私、生徒会長須藤茉麻は、目の前のに座るニコニコ顔のお嬢様と、長机の上にどっさり置かれた書類の山を見比べた。

“学園で、クリスマスパーティーを開催したいわ”そんな提案を受け、私が千聖お嬢様に出した宿題。
これがその“答案”なのだろうけど・・・正直、私の想定の範囲を超えていた。

「あまり時間がなかったものだから、準備の足りていない部分があるかもしれないけれど・・・」
「いやいや、何をおっしゃいますか。よくぞこんなに・・・ママは嬉しいよ、うんうん!」

マザーモードで深くうなずく私を、梨沙子が白い目で見てきた。

「ママ、まだ肝心の中身確認してないじゃーん。こんなに頑張ったのはすごいけどぉ、やっぱり内容が大事じゃない?」

――まあ、りしゃこったら、現実的なんだから!大体、そんな言い方したら、お嬢様が・・・


「ねえ、岡井さんだって、ちゃんと見てから評価してほしいんじゃない?」
「ウフフ、そうね。せっかくですから、皆さんのご意見をお伺いしたいわ」

おお、そうか・・・。私ったら、ちょっと過保護すぎたかもしれない。梨沙子の方が、ちゃんとお嬢様の気持ちを理解してたんだな。ベイビーちゃん扱いしていたけど、二人ももう立派な(ry

「それでは、本日のランチ会議は、昨日お嬢様から提案のあった、クリスマス会を議題にしたいと思います!」

書類の束を見た瞬間に睡眠・・・いや、瞑想モードに入ってしまった熊井メンバーはさておき、生徒会室に集まった幹部たちが、一斉にお嬢様に視線を向けた。

「あら、ウフフ・・・いやだわ、なんだか恥ずかしい。あの・・・えと」
「ハァーンお嬢様かわいいかんな大賛成だかんなその案でイクだかんな!」
「まだ何にも言ってないだろっ黙るでしゅ!」

℃突き漫才をニコニコと見届けたお嬢様。
製本された資料を配り終えると、「では・・・」と口を開いた。


「まず、これは実現できない、と感じたプラン・・・ということですが」
「うんうん」

軽く息を吐いたお嬢様は、真面目な顔でこう言った。


「サンタクロースさんに来ていただく、というのは、難しいかと思いました」


部屋の空気が、一気に何とも言えない生温いもの変わったような気がした。

「あー・・・サンタ、さん」
「ええ。どちらにお住まいなのか、詳しいことはわからないのだけれど、きっと遠方でしょう?交通費は千聖の家の運転手を派遣する形でも構わないけれど、ただでさえ今はお忙しい時節でしょうし・・・」

眉を困らせて、残念そうに呟くお嬢様。・・・世間一般の高校2年生は、さすがにもう、ねえ?
当然ながら同い年トリオの二人、梨沙子と愛理も、お嬢様に同調している様子はなく、梨沙子にいたっては、どうしたもんかといつものあばば癖が出始めている。

「う、うん。・・・なるほどね。うん、学校でのイベントだから、よそから来てもらうのは、ねえ?よし、じゃあ他には?」

その可愛すぎるプレゼンに栞菜がノックアウトされ、舞様も呆れ顔をしつつ口を挟んでこない今だから、とりあえず先を促してみることにする。


「ヘリコプターで、イブの夜景をと思ったのだけれど、夜遅くでは参加が難しそうだわ」
「トナカイ牧場を訪ねて、クリスマスのルーツを(ry」
「全校を上げてのクリスマスプレゼント交換会(ry」
「校庭いっぱいに巨大なクリスマスケーキを(ry」


――お嬢様、次々と自分の考えた実現不可能なプランを上げては、セルフダメ出しでぶったぎっていく。

「・・・本当に、役に立たない案ばかり。私、何もできないわ」


そのうちにどんどん声のトーンが落ちていき、しまいには謎の凹み芸まで。
何せ、その膨大な会議資料のほとんどが、没案・・・つまり、自分への牽制のような役割を果たしてしまっていて。
確かに私は言った。実現不可能な案もプレゼンするようにと。しかしそれは、そこから拾えるものを考えるためであって・・・まさか、メインに持ってくるとは思わなかった。

「よく考えてみたら、自分の考えた企画の穴ばかりを考えて、昨日は“これをやりたい”という具体案は1つも出すことができなかったわ。千聖の力不足で・・・何1つ決めることすらできない・・・」

おお・・・なんて重い空気。お嬢様が隠れネガティブというのは聞いていたけれど、これほどまでとは。

「おじょじょ!逆に素敵じゃないですか、ねえ!いい意味で!キュフフ」
「なっちゃん、少し落ち着いたら?ふふん」

寮生たちは、こういうお嬢様の性格をよくわかっているからなのか(なっきぃを除いて)概ね慌てずに見守っているスタンス。
だけど、心優しい私の梨沙子なんて、落ち込みモードのお嬢様を気の毒に思ったのか、もう涙目だ。人の痛みに敏感な我が子よ、さあママの胸に(ry

「えー、何で落ち込むんですか!すごくないですか!!!」

しかし、その微妙すぎる空気を、くまくまボイスがぶわっと吹き飛ばしていった。
寝起k・・・いやいや、瞑想後だから超元気だ、この人。目をらんらんとさせて、お嬢様の企画書に見入っている。


「こんなたくさん、企画を思いつくなんて。うちじゃ絶対無理!お嬢様はアイデアマンですね!・・・いや、違うな。お嬢様はアイデアお嬢様ですね!」
「熊井ちゃん、そこは別に言いなおさなくてもいいでしゅから」
「でもでも、せっかくこんなに考えたのに、全部没にするっていうのはもったいなくない?時代はエコでソーラー自家発電が(ry」

いつもどおり脱線していくくまくま演説はともかく、 “もったいない”というのはおっしゃる通り、。

「お嬢様、諦めるのはまだ早いよ!」

この世の終わりみたいに凹んでるお嬢様に声を掛けると、子犬みたいな黒目でおずおずと私を見つめ返してくる。

「サンタさん、この時期は忙しいからね。来てもらうのは難しいね。でも、例えば“他のサンタさん”に、頼むことはできるんじゃないかな」

「まあ・・・他のサンタクロースさん?」
「ほら、お嬢様のお父様が、海夕音お嬢様のために、サンタさんの恰好をして、パーティーでプレゼントをお渡しなさったりするでしょう?ケッケッケ」
「ああ、そうね。執事が代役を務めることもあるわ」
「この時期だと、商店街やショッピング街で店員さんがサンタになりきってることもあるかんな」

萎れていたお嬢様の表情が、だんだんと溌剌としたいつものものに戻っていく。

「パーティーを開催するとして、どなたかに、サンタクロースさんの役を引き受けていただけば、盛り上がることでしょうね。さっそく執事に・・・」
「ちしゃと、学内でやることなんだから、家の人に頼むのは筋が違うんじゃない?
ふふん、“千聖は子供じゃないのよ”なんて言うなら、家族に頼ったらかっこ悪いでしゅ」

しかし、間が悪く落とされる舞様爆弾。
正論とはいえ、完全に蛇足だったその言葉は、さらにお嬢様のお顔を、不機嫌時のそれに変化させていってしまう。


「・・・ええ。ええ、舞に言われなくても、わかっているわ。私は子供じゃないもの。ちゃんと、学内の方に依頼させていただくわ。さっきのは言葉のあやというものよ。
でもね、それなら言わせて頂くけれど、舞だって昨日、給水塔でお昼寝しているときに寝言で、舞のお母様の・・・」
「それ今関係ないじゃん!ちしゃとのほうが絶対ガキだもん!」

おーおー、可愛らしい子犬のケンカがはじまった。
そのうち熊井裁判長の仲裁が入ることだろう。そう考えて、私はお嬢様の作成した資料に目を通すことにした。
手書きの文字が躍るノートに、大きなクリスマスツリーやプレゼントの挿絵が入って、お嬢様の並々ならぬ気合いを感じさせる。
こんなの、どうしたって、叶えてやりたくなっちゃうじゃないの、ママとしては!
見れば、愛理になっきぃ栞菜、梨沙子まで、各々お嬢様の提出したノートを手に取って、付箋やらマーカーやらでチェックを入れていっている。

「岡井さん、頑張ったもんね。いいイベントになるように、私も考えてみる」
「まあ、ベイビーちゃんったら!みやびのこと以外でも、ちゃんとやる気だすこともあるんだね!」
「何それー!ママ、失礼じゃーん!」

やがて、「ケンカ両成ばーい!」という大熊さんのドスの聞いた声と、ゴスッという音(たぶん強制的に仲直りのごっつんこを・・・)の後、ようやく子犬たちの言い争いの声は収まった。

「会議、続けるよー?」
「・・・わかった」

赤くなったおでこをさすりながら、舞様が着席し、目をチカチカさせているお嬢様もそれに倣う。

「えっへん」
「あのね、熊井ちゃん・・・まあいいか。
んで、お嬢様。とりあえず、参加者の範囲を決めようか」
「まあ、茉麻さん・・・。こんな穴だらけの企画なのに、採用してくださるの?」
「あはは、いい企画を、より進化させていくのが、生徒会の仕事でしょう?ネガティブ発動させてないで、ほらほら企画会議始めるよ!
で、さっそくだけど、舞ちゃんに栞菜、この巨大スノードームっていうの、なんとか作れないかな?予算は・・・えっと、まあ愛理様の御采配で・・・」
「できましゅ。っていうか」
「やるかんな。お嬢様の期待に応えるのが、添い寝係兼肉よkいででで萩原つねるなよ!」

舞栞菜はさっそく肩を並べて、素材がどうの規格がどうのとやり始めた。


「あー、私、やっぱまーさママ大好き!イヒヒ」
「私もまーさちゃん大好き!キュフフフ」

上手いこと事が進んでるのがよっぽど嬉しいのか、めずらしくなっきぃまでもが抱きついてきてくれた。
その温もりに和みつつ、残る二人の動向を目で追うと、大熊お嬢様コンビは、熱心にパソコンに向かっていた。

「まーさ!うちとお嬢様は、招待状とポスターを作るから!それが終わったら何すればいいか考えといて!茉麻たち三人は、もう一度お嬢様のプランを読み直して、アイデアを広げていくこと!OK?」

おお、熊井ちゃん、スイッチ入ってる。目がつりあがって殺気立っていてなかなか恐ろしい形相だけれど、やる気を出した時の特徴だ。これは頼もしい。

「熊井ちゃーん、まだお客様決まってないよー・・・先そっち決めた方がいいよ」
「なんだとー!とりあえず、みやびは呼んでいいよ、うちの生徒だからね!」
「なんっわたっそんなあばばばば」

――はいはい、その辺もこっちで詰めてくからご心配なく、熊井ちゃん。

当日、クリスマスのBGMの中、キャッキャウフフとはしゃぐ学園生の姿を想像しながら、なっきぃたちとの打ち合わせに没頭していった。



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