「えー、遥ちゃん、来たんだぁ」
放課後、会場となる大体育館の受付にいくと、真っ赤なミニスカートのサンタ衣装を着たかりんが、楽しそうにケラケラと笑った。
「いいじゃん別に。・・・つか、かりんも実行委員なの?」
「うん。千聖お姉さまがね、声を掛けてくださったの。ウフフフ、私は受付と、学内のチラシ配布。遥ちゃんも見てくれたんでしょう?」
「あー、覚えてない」
「ひどいなあ。せっかく千聖お姉さまも携わったのに。お姉さま、実行委員長を務めていて、すごいんだから」
――ああ、知ってるよそんなの!何かむかつくから、気づいてないふりしてたけどさ!
「ところで、何か変な奴来なかった?学園生じゃないんだけどさ、多分サンタ帽で・・・」
“キャー業平さーん!あーりーわーらーのー”
“ぎゃああでたかんな!”
「・・・いた」
「あはは、遥ちゃんの友達なんだ、やっぱり」
「どーいう意味だよ」
かりんの奴・・・さあね?なんて澄ました顔で、サラッと毒吐きやがる。
でもでっかりリボンつけて、似合わないぶりっ子やってた時より、ずっとかりんらしくていいと思う。
あの小ももナントカってやつらとまだ仲良くしてるってのは、ハル的にはちょっと納得できないけど・・・まあ、友達には、笑っててほしいと思うのは当然じゃん?
「すどぅ!まーちゃん、ちさとーに会いに行く!」
「ああ?千聖ちゃん忙しいんだよ、迷惑かけたら・・・」
「うふふ、お姉さまなら、多分あっちに。顔、見せてきたら?きっと喜ぶよ」
「そう?まあ、かりんがそういうなら、ちょっとだけ」
「いえーい、まーちゃんのおかげでちさとーが喜ぶ!」
「はあ?何ちょーし乗ってんだよ!ハルが千聖ちゃん(ry」
*****
「ああ、お嬢様だったら、今開会の準備してるけど」
「えぇ~・・・」
かりんに教えてもらってやってきた、“生徒会役員”というテント。そこにいた生徒会長に声をかけると、残念そうに首をすくめて手を“やれやれ”って形にした。・・・リアクション、古っ!
「何せ、実行委員長ですから。ふふふ、ここで待ってる?」
「いや、いいっす。邪魔になったら嫌なんで」
「へー」
生徒会長は、その大きな目を丸くして、私の顔をまじまじと見つめてきた。
「な、なんすか」
「いやいや、意外と聞き分けの良い子なんだねー。どうも、暴れん坊将軍のイメージがあったから」
「そうかな・・・」
暴れん坊将軍、間違ってないと思う。私がこんな風になっちゃうのって、千聖ちゃんにだけ、だし。まあ、恥ずかしいから言わないでおこう。
「うふふふ、恋する乙女はお風呂に入って(ry」
「うっわあびっくりしたぁ!」
突然、背中を指でツーッとされて、むず痒さに思いっきりのけぞって振り向く。
「・・・んだよ、みずきちゃんか」
「ごきげんよう、遥ちゃん、うふふふ」
愛用のバズーカみたいなカメラを構えて、さっそく私の顔をパシャパシャとやるみずきちゃん。
「まだ開会まで、だいぶ時間があるけれど?そんなに楽しみだったのかしら?」
「あったりまえじゃん!ハル、すっげえ千聖ちゃんに会いたいんだよ」
即座にそう答えると、みずきちゃんは満足そうにうなずいた。
「うふふふ、秘めたる恋心もいいけれど、遥ちゃんのように包み隠さないのも潔くて好感が持てるわ」
「だってさー、好きなものは好きなんだから、別に隠すことないじゃん」
「その割には、お嬢様のご機嫌を損ねないように、慎重じゃない?うふふふ」
みずきちゃんの奴、楽しんでやがる。
いっちょおっぱいパンチでもくらわじてやろうかと思ったけれど、意外なことに、その顔つきは優しかった。
「一応、応援しているからね、遥ちゃん」
「一応っていうな、一応って」
「ほら、最初の試練よ。うふふ」
みずきちゃんの視線を辿り、振り向くと、そこには紫色のサンタ服を着た萩なんとかがいた。
「うわー・・・」
「ごきげんよう、萩原先輩」
みずきちゃんの挨拶に、ちょっと眉を上げて微笑む萩なんとか。しかし、視線が私に向かった途端、「ハッ」と鼻で笑ってきやがった。
「ほら、遥ちゃんもご挨拶」
「・・・・・・・・ッス」
「ふん、ちしゃとは忙しいんでしゅ。舞と二人でする仕事がいっぱいあるんだから。暇な初等部とは違うの」
グッと暴言を奥歯で噛み殺して睨み返すと、私たちの間に、火花が散ったのがわかった気がした。
我慢だ・・・ハルよ。不本意ながら、コイt・・・いや、萩なんとかは、私よりも千聖ちゃんに近しい。
今はこの序列を崩すことは難しいだろう。ならば、利用してやればいいんだ。私はほっぺたをひきつらせながら、萩なんとかに笑いかけた。
「あー・・・つか、似合いますね、それ。千聖ちゃんとおそろいなんすか」
「ふふん、色違いでしゅけど?ちしゃとと舞が並んで、初めて完成する世界観かな。あとでステージ上でたっぷり見せてあげましゅ」
「うわ、いらn・・・じゃなくて、楽しみにしてるっす」
「そう?」
いつもと違う私の態度に気をよくしたのか、萩なんとかは「そうだ、これ」とポケットをごそごそし始めた。
「後で正式に配布があるみたいでしゅけど、先にあげる」
「んあ?」
萩なんとかが差し出したのは、「Merry Christmas!」と書かれた、名刺サイズのカードだった。
表面がシール貼りになっていて、駄菓子屋さんとかによくある、ラッキーくじを思い出した。
「くれるんすか、これ」
「そう。これ、あとのゲームで使うから。ふふん、舞にもらえるのは運が良かったんじゃない?」
言ってる意味がよくわからないんだけど、私に向かって、7枚のカードをぐいぐいと突き出してくる。
「運がいいって?」
「舞のなら、全部に可能性があるってこと」
「ちょっとわかんないすけど」
「いいから、さっさと1枚選ぶでしゅ」
「ちゃんと説明しろよな」
「はぁ?人が親切にしてやってんのに。もーいい。あとで他の人に貰えば?」
「何その言い方。おとなげねーな」
「うっさいな、大体、初等部のくせに舞のちしゃとに」
自分の頭がヒートアップしていって、ついでに萩なんとかのつりあがった目じりもきつくなっていくのがわかる。
よもやとっくみ合いか・・・そう思った次の瞬間、館内に流れていたクラシックがぴたりと止まり、鈴の鳴るような可憐な声が、スピーカーから聞こえてきた。
“ご来場の皆様、お待たせしております・・・・”
私の動きも、萩なんとかの動きもぴたっと止まる。
「・・・ちしゃと」
その舌たらずな声が、大切な宝物の名前を口にするように、甘い響きで千聖ちゃんの名前を綴る。
ああ・・・こいt・・・じゃなくて、この人、ほんと好きなんだ、千聖ちゃんのこと。本当に、本当に好きなんだな。
そう思うと、何か変な仲間意識みたいなのが芽生えてしまって、自分の中に芽生えた対抗意識とのせめぎ合いが(ry
“・・・・それでは、準備が整いますまで、しばしの間、御歓談をおたのしみください”
どうやら、もう少しだけ時間がかかるらしい。
歓談・・・っつってもな。この人と・・・?
手持無沙汰でキョロキョロとあたりを見回してみると、結構な人数の生徒や地域の人たちが集まってるのが分かった。
200人ぐらいいるのかな?見たところ、招待客は小~高の女の子に限ってるっぽい。
「男性をお呼びするとなると、何かと大変だからねえ。男と女の間には深くて暗い川がある・・・」
――演歌ですな、みずき殿。
「ねえ、萩なんとかさん」
「いいかげん名字覚えろや」
「さっきのカード、ちょうだい。ハル、よくわかんないけど、萩なんとかさんからもらったら、運が強くなる気がするし」
「・・・ふふん、まあいいけど」
それで、私はやっと、その謎のカードを手にすることができた。
「みずきちゃんもどうでしゅか」
「ええ、それでは一枚。ヌホホ」
あ、キモボイスきた。変なカードじゃあるまいな、これ。
「シール部分、まだ開けないでよね。舞、そろそろいかないと。じゃ、楽しんで。メリークリシュマシュ」
「あ・・・どうも」
萩なんとかは、バタバタと慌ただしくかけていってしまった。
ま、実行委員だから忙しいのか。紫のサンタ服のその姿はかなり目立っていて、萩なんとかが通るそばから、人が飛びのいて道が出来ていく。
「うふふ、遥ちゃん、遥ちゃん」
みずきちゃんが、さも嬉しそうに、私の腕を引っ張る。
「なに、みずきちゃん」
「このカード、遥ちゃんにあげるわ」
「なんで?ゲーム、参加しないの?」
「うふふ、私には私の立ち位置というものがあるから」
「よくわからんけど・・・」
みずきちゃん、変態入ってるけど、頭はいいからな。これがどういうカードなのか、もう理解できてるらしい。
「萩原さんが持つのは7枚のカード・・・全ての可能性・・・うふふ、つまりはそういうこと・・・」
――バチッ
突然、体育館の電気がすべて消えた。
「お、何だ!?」
周りからも、小さな悲鳴の声何かが聞こえる。
しかし、ほどなくして、明かりが室内を照らし出していく。
正確には、舞台上にでっかいスクリーンが現れて、映画館みたく、そこだけが光っているような状態。
“えー、みなさーん、停電ではありませんよー?キュフフ、ご心配なく”
ドヤ顔ならぬドヤ声、とでも形容できそうな、ちょっとはずんだ声が、スピーカーから聞こえてくる。
“それでは、クリスマスパーティーを開催いたします。メリー、クリスマス!!”
クリスマスソングとともに、スクリーンが暗転し、すぐに7つのシルエットが浮かび上がる。
そのうちの1つ――小柄なショートカットの――が、誰のものであるかを私が認識した次の瞬間、舞い散る金銀のキラキラリボンとともに、サンタ服の上級生たちが、姿を現した。
大爆発のような歓声が耳をつんざく。
そこにいる人たちを、私は一応、全員知っていた。紫のサンタ服は萩ナントカ、赤があのヘンタイっぽい人、緑がフニャフニャしてる人、オレンジが風紀委員長、そしてそして、青色がハルの千聖ちゃん。めっちゃかわいい!!
あとは・・・なぜか、卒業生の、生徒会長ともう一人、生徒会にいた美人な人。
ちょっとしたアイドルユニットみたいだ。全員個性の違った美人で、この人気ぶりもうなずける。
「こんばんはー、まずは現生徒会と、生徒会OG有志によるパフォーマンスをご覧ください!」
え?え?歌うの?千聖ちゃんが????
衝撃的なイベントを前に、頭が真っ白になっていく。
大声で歓声を上げる周囲に溶け込むかのように、私もいつしか、ステージ上の千聖ちゃんに向かって、声を張り上げていた。
最終更新:2014年06月13日 12:18