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――♪ ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る

ポップなアレンジのクリスマスソングを、ステージ上の生徒会の人たちが歌い上げる。
キャミソール型の、テカテカした素材のサンタ服。胸についた雪の飾りがすごく可愛い。
千聖ちゃんって普段、制服もごく普通に着こなす真面目なタイプだから、こういう弾けた格好をしていると、何ていうか・・・刺激的だ。顔つきもいつもより明るい感じで、目を三日月にして可愛らしくぴょこぴょこと動き回るその様子から目が離せない。
しかも、千聖ちゃんはちっちゃいからその衣装のサイズが大きいらしく、しきりに肩の辺を直したり、スカートのすそをイジイジといじったり。そういう幼い感じの仕草、すっごく可愛い。
ふと、それを横目で見ていた風紀委員長さんが、一瞬だけサッと奥に引っ込んで、その後すぐ、さりげなく千聖ちゃんの後ろへ回ったのがわかった。

「あら・・・中島先輩ったら本当に素敵な方ね。うふふふ」

バズーカメラをバシャバシャ鳴らしていたみずきちゃんが、さも嬉しそうにつぶやく。

「どゆこと?」

私が見たところ、風紀委員長さんは、千聖ちゃんに特に声はかけずに自分の定位置に戻って、℃ヤ顔ダンスを披露し直している様子なんだけど。
気になる点と言えば、ちょっとだけ千聖ちゃんが背中を気にしていたぐらい。

「遥ちゃん、よーく見て。大好きな千聖お嬢様のことなんだから、気が付くでしょう?」
「からかうなよー」

そう言いつつ、よーく千聖ちゃんの様子を横目で観察してみる。
・・・なんだかサンタ服の形状?が変わったような気がする。あんなにぶかぶかだったのが、妙にぴったりしてるというか。

「・・・さっきより、何か、強調されてね?あの・・・千聖ちゃんのおっぱい」
「まあ、遥ちゃんたら。うふふふ」
「いや、ちげーってそうじゃなくて。だから・・・あれ?」

さらに目を凝らすと、サンタキャミの背中のところに、何か銀色のものが光っているのがわかった。

「クリップ?」
「そう。お嬢様の衣装のサイズを気づかって、中島先輩はさっき、応急処置を施して差し上げたのね」

なるほど。
服のたるんたるんになってる部分を絞って、裾直しする時みたいに、ギュッとまとめてあげたんだ。それでおpp・・・いや、あの、その、千聖ちゃんはサンタ服のことを気にせずに、踊れるようになったわけだ。

「すっげー、気が利く人なんだね。千聖ちゃんも嬉しそうだ」
「そうよ、遥ちゃん。怖い人って思ってるのかもしれないけれど、優しいの。そもそも、中島先輩の叱責というのは深い愛情の(ry」

みずきちゃんのキモペディア(って言ったら顎を掴んでちょっと持ち上げられた恐怖の思い出)が始まりそうだったから、私は意識をステージへと戻した。

――♪真っ赤なお鼻の トナカイさんは

歌は変わって、千聖ちゃんと、緑色の衣装のふにゃふにゃさんが中心に立って、二人だけで歌い始める。
ああ、やっぱ可愛い声!しかも、めっちゃうまい!ビブラートっていうんだっけ?声がぶわああって震えて、響き渡るやつ。あれをやっている。
ふにゃふにゃさんも透明感のある正統派な歌上手さんだから、二人のハーモニーはとても心地良い。今まで千聖ちゃんの歌って聞いたことがなかったから、貴重なものを目にすることができて気分がいい。

「千聖ちゃーん!」

声援を送ると、周りの人たちがキッと私をにらんだ後、同じように「千聖さまー」「お嬢様―」なんて、歓声を上げだす。
人気者だな、やっぱ。わかってたけど。私が好きになった人は、こんなにも近くて、遠い。切ないような誇らしいような、不思議な感覚を覚えた。


しかし・・・、歌う二人の周りで全力ダンスを披露する、生徒会の人たち(と、元生徒会長と長身美女)を見ていたら、ちょっと笑いが込み上げてきた。

だってさ、赤鼻トナカイだよ?そんなマジになって踊るような曲じゃないのに、さっきのマサキばりに、高度なステップをやってのけている。
千聖ちゃんとふにゃふにゃさんも気分が乗ってきたのか、「♪暗い夜道は~、ピカピカの~」とハモリを入れて歌い出す。しかも、オペラ調。にこにこしてるけど、全然ふざけた感じじゃない。
そのシュールさがツボに入ってニヤニヤしてると、同じくニタニタしてるみずきちゃんが、「ね?すごいでしょう」なんて、何故か自慢口調でささやいてきた。

「生徒会の皆さん・・・今は、寮生の方だけかしら?うふふ、そう、皆さん、本当に其々が個性をお持ちで、ああして歌やダンスのパフォーマンスがあると、それがより際立つでしょう?
同じ振付でも、全然違って見える。不思議ね」

みずきちゃんの言うとおり、その気合いの入ったダンスは、ばっちり揃っているようでいて、それぞれに趣が違っていた。
千聖ちゃんは間奏に入ると、普段のおっとりぽわぽわなイメージを一転させるかのように、小柄な体をダイナミックに使って、力強く踊り出した。
前生徒会長さんはそれ以上に超全力で、キックのような振りでは、アクション映画のような見事な上段蹴りを見せつけている。
後列でゆるーっと、やや力を抜いてセクシーな感じにアピールしてるのはOGの美人さん。萩なんとかはチラチラと横の風紀委員長さんの振りを見つつ、無難に纏めた感じのダンスを披露してる。・・・運動とか、苦手なんかな。やっとハルが勝てる分野が(ry)
その参考にされちゃってる風紀委員長さんときたら、ダンス部らしく(みずきちゃん情報)キレッキレのダンス。草野球に大リーガーが来ちゃった、なんてCMが昔あったけれど、ほんとそんな感じ。
千聖ちゃんとハモッてたふにゃふにゃな人は、そのおっとりしたイメージを裏切るかのように、意外なほどキレのある動きで室内を沸かせている。
そして、私が個人的に要注意人物と踏んでいる有原とかいう人。
何度か千聖ちゃんにセクハラを働いている許しがたい現場に遭遇したけれど、今日はかなり真面目に取り組んでいるらしく、おすまし顔でクルッとターンを決めてみせている。

こんなに個性的で、なのにきっちりまとまってるあたりが、この人たちのレベルの高さを証明している。
どれだけこのステージのために練習を重ねたのかはわからないけれど、そういう問題じゃなく、根本的な部分で“息ぴったり”なんだろう。
どんなに近づいても、千聖ちゃんに届かない。その理由が、なんとなくだけどわかった気がした。

萩なんとかも気分が乗ってきたのか、さっきより軽快なステップを繰り出しながら、風紀委員長さんとアイコンタクトを交わして笑ったりしてる。

“――♪We wish a merry Christmas・・・”

クリスマスソングはめまぐるしく移り変わり、三拍子の曲でついにメドレーが終了した。


「千聖様―!」
「愛理せんぱーい!矢島せんぱーい!」

大きな拍手と歓声の中、ステージ上の7人は、深々と頭を下げた。


「本日は、クリスマスパーティーに、ようこそお越しくださいました」

一歩前に出た千聖ちゃんが、舌ったらずに挨拶をする。

「ちさとちゃーん!」

思わず声を上げると、一瞬、千聖ちゃんの視線がこっちに向いた(気がした)。
それで、私だけに笑いかけてくれたんだ(と思う)。

男のアイドルのコンサート行って、目が合っただのキャーキャー騒いでるクラスの子たちとか、くだらねーって思ってたけど、今の私には、その気持ちがよくわかる。
しかもハル、あんなすっごい可愛くて人気者な人の別荘にまで連れてってもらったんだぜ?ひそかな優越感に、思わず顔がニヤニヤと緩んでしまう。


「早速ですが、現生徒会と、生徒会OG有志による、クリスマスソング・メドレーをお聞きいただきました。いかがだったでしょうか」

“最高でしたー!”
“かっこいい!!!”

声援と大きな拍手のレスポンスに、千聖ちゃんは目を三日月にしてウフフと笑ってくれた。・・・ああ、可愛いな、やっぱ!

「ヌホホホ千聖様ったら本当に可憐で愛くるしいお方・・・ドゥフフフ」
「・・・みずきちゃん、連写しすぎだろ・・・あと気持ちはわかるがヨダレは拭いてくれよな」


「この後も、色々なレクリエーションを予定しておりますので、どうぞお楽しみに。それでは改めまして、メリークリスマス!」

千聖ちゃんが手を挙げると同時に、ステージだけに絞られていた照明の雰囲気が変わった。
館内の灯りも一応点いたけれど、最初の時と違って、ブルー系のほの暗い感じの・・・
キョロキョロしていると、顔の前を、小さい光の粒が落ちてきたような気がした。

「お?雪?」

その粒々はどんどん増えていって、また、館内にざわめきが広がっていった。


「ウフフ、遥ちゃん、見て」

カメラを降ろしたみずきちゃんが、楽しげに頭上を指さす。


「あっ!なにあれ!」

ちょうど体育館の真ん中あたりの天井付近で、ワイヤーでつるされたサンタとトナカイの形をした大きな電飾が、ゆっくりと動いていた。
サンタクロースが移動していくたびに、背中に背負った大きな袋の中から、さっきから室内にこぼれている雪の形の光が降り注いでいく。

“ウフフ、先ほどステージを観覧していただいている間に、会場にスノードーム風のイルミネーションを仕掛けました。
幻想的な雰囲気を楽しんでいただけたらと思います”


「えー・・・すっげー・・・」

気付けば私たちは丸いドーム状に光の中にいて、普段は味気ない体育館の壁には、雪の積もった道やモミの木と言った、クリスマスムード満点の冬景色が映し出されている。
足元にも、雪のような白いふわふわのシルエットが浮かんでいて、一瞬、本当に雪が落ちてきたんじゃないかって錯覚を覚えた。

「綺麗でしょう?遥。ウフフフ」
「うわああ、ちさとちゃん!」

いつの間にか、千聖ちゃんが私の横に並んで、光の雪に手を翳して微笑んでいた。
一気に周囲が沸き立ち、千聖ちゃん(と私とみずきちゃん)を中心に、円が出来てしまった。
さっきのサンタキャミでは寒いのか、白いモコモコケープを被っていて、それがまた、可愛いんだ。小人のお姫様みたい。


「ス、ステージ、かっこよかったよ」
「まあ、ありがとう。遥の声援が聞こえたから、張り切ってしまったわ」
「い、いしょ、衣装もすごく似合ってる。まるで雪の妖精のような」
「プギャー」
「うるせーぞ、マサキ!」

そうだ・・・コイツもついてきてたんだった。マサキめ。

「ちさとーの解散ライブ感動しますた。まーちゃんはいつまでもちさとーの笑顔を忘れません」
「何も終わってねーよ!不吉なこというな!」
「あらあら、仲良くしなさい、二人とも」

くっそー・・・またこのパターンか。私は千聖ちゃんにかっこいい言葉をかけたいのに、コイツがいると、どうもうまくいかない。

「スノードーム!スノードーム!」
「綺麗でしょう、まーちゃん。
これはね、生徒会の中でもとてもアイデアが豊富な二人がプロデュースしたのよ。ウフフ、千聖の思いつきを、こんなに素敵な形にしてくれるなんて」
「・・・それって、あの萩なんとかさん」
「ええ、そうよ。舞をご存じなの?ウフフ、舞はね、少し気難しいところもあるけれど、とても優しくてね・・・」

あ・・・ちょっとこれ、辛いぞ。千聖ちゃんがこんなに楽しげに、他の人の話をするなんて。
たしかに私じゃ、こんなすごいやつ、絶対に作れないし・・・でもでも、私は萩なんとかに負けるわけには

「ねえ、遥」
「・・・うん?」

きっと私今、すっごいふてくされたブチャイクな顔してるんだろうな。
千聖ちゃんを困らせたくないって気持ちと、大人になりきれない部分が心の中でケンカして、すごく複雑。
でも、そんな私に、千聖ちゃんは笑いかけてくれた。本当に本当に、天使みたいに綺麗な笑顔で。

「クリスマス会に、来てくれてありがとう、遥」

それは何気ない一言だったのに、背後の雪の装飾や、ブルーグレーの照明が千聖ちゃんを本物の女神みたいに引き立てるから、私は声を失って、コクコクとうなずくことしかできなかった。

「ウフフ、それではまたあとでね」

いつもどおり、私の制服の紐リボンを直した千聖ちゃんは、足取り軽く役員席の方へと戻っていく。
嬉しさ、名残惜しさ、切なさ・・・。色々な感情が押し寄せてきて、自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。

「ウフフ、順調にどつぼにはまっていっているわね、遥ちゃん」
「面白がってんだろ、みずきちゃん・・・」

もはや、親友の言葉に毒づく余裕もない。
千聖ちゃんのバニラのコロンの残り香を吸い込みながら、私はまた1つため息をついた。



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