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熊井さん・・・その長身の迫力もさることながら、黒目の小さい切れ長の眼光は、ご本人にそのつもりはなくても、まるで精悍な肉食動物のごとく、眼下にいる者を凍てつかせてしまう。
だけど、私はヲタ。生粋の熊ヲタ。視界に入れてもらってるっていうだけで、悦びにつながっていく。
人生オワタのすぐ後だというのに、もうすっかり熊井さんに見入ってしまっている。花音、ゲンキン!


「かのんちゃんさん」
「はひぃ」
「男の人生には、避けて通れぬ決闘というものがある」
「お、おぅ」
「貴様とは、もっと違った形で出会っていたかった。さすれば・・・」
「ま、待った!」

いよいよ、熊井さんが懐から刀でも取り出しそうな雰囲気になってきたので、私は慌てて両手でそれを制した。

「く、熊井さん!クイズしましょう、クイズ!」
「ん?」
「えっと、鈴木さんのプレゼントをゲットするには、(本来ならかくれんぼしてるところを見つけて)クイズに正解するっていう条件だったと思うので」

すると、熊井さんは「そうだったっけ」なんてにへーっと笑いながら肩をすくめた。


「うち、クイズ考えてなかったなあ。もう魂の殺り合いのことしか。どうしよう、ねえ?」

――おお、熊井様が、私に意見をお求めに!
長い道のりだった・・・ロードオブザ鈴木さんのプレゼント。ここまで来たからには、絶対にゲットして返って、うちの学園の生徒会メンバーに見せびらかしてやりたい。
私のお尻で、悪魔のしっぽがモソリと動いた。


「クイズの内容ですが、熊井さんのこと、というのはいかがでしょう」

「うちの?」
「あーっずるい!そんなのあなただけ有利じゃん!」

勘のいい人が、即座に抗議の声を上げてくる。
ふっふっふ、でも代案は出せないでしょう?ビビッちゃって、直接熊井さんには声もかけられない感じだし。
それに、見たところ、彼女たちは熊井さんのファンというより、鈴木さんのプレゼントがお目当てのようだし・・・熊井さんクイズであれば、私の独壇場になるのは明白。福田まろ大勝利のお知らせ。

「ねっ、ねっ、熊井さんクイズにしましょうよぅ。みんな熊井さんのこと、もっと知りたいって思ってるんですから」

さっきまでの緊張はどこへやら、お調子者の癖がぐいぐい前面に出てきた私は、ついに熊井さんの腕を取っておねだりという暴挙(?)にまで出てしまった。
嗚呼、学園生たちの視線が痛い・・・。嫉妬と羨望を一身に浴びて、いざ、舞踏会の大会場へ、シンデレラ・レボリュー・・・

「OK!うちクイズね!では第1問目!」
「切り替え早っ!」

だがしかし、元気よく指を“1”の字にした熊井さんは、突如そこで動きを止めてしまった。
そのまま、またあの殺戮ピエロッた表情で黙り込む。


「うーん・・・」
「な、何でもいいんですよ!熊井さんの近況とか!」
「なるほどねー・・・かのんちゃんさん頭いい!」


おお・・・今日は絶妙にパスを出せている感じがする。
学校の生徒会じゃ“余計なことしぃ”“一言多い”など散々な評価を繰り出される私だけれど、熊井さんのペースには合っているようだ。

あとは、私の脳内の熊ペディアをフル回転させれば、この勝負、勝てる。熊井さんからの認知・・・鈴木さんからのプレゼント・・・生徒会がなんでも言うこと聞いちゃうよキャンペーン・・・。幸せすぎるワードが、頭を埋め尽くしていく。

「よーし、それじゃあ熊井クイズね!第1問!」

さっと身構える、周りの生徒さんたち。体育祭のリレーの時とかの、あの緊張感を思い出す。


「・・・えーっと、うち、昨日、千聖お嬢様とラーメンを食べに行ったんだよね」

突然、熊井さんはにへーっと笑いながら、くまくまボイスで語り出した。

「それで、うちはつけ麺を頼んだんだけどー、思ってたのと味が違ってー、うちはギョカイ系っていうの?あ、そうそう、ギョカイといえばなかさきちゃんがね・・・」

キタ・・・変幻自在、着地点なしのくまくまトーク。
あっけにとられる面々をよそに、私は一人、このとりとめのない唐突なトークを楽しんでいた。
クイズ?ああ、そのうち始まるんじゃない?それよりも今、私は酔いしれていたいの!このぽわぽわボイス、ほえほえスマイルに!


「・・・で、あれ、なんだっけ?そうそう、つけ麺。あれはあれで美味しかったんだけど、千聖お嬢様の頼んだしょうゆトンコツラーメンが本当に美味しくて!
お嬢様的には、うちのつけ麺がお気に入りだったみたいで、結局交換して食べたんだよね。あ、それで、そんなうちたちが、二人で頼んだサイドメニューは、なんだったでしょうか!はい、答えて!」
「えええ~・・・」

ええぇ、じゃない!真面目に考えなさいっての、せっかくの熊井さんからの出題なんだから!

「ギョーザ、とか・・・」
「違いまーす」
「じゃあ、小ライス?」
「はずれー」

――ダメダメ、全然わかってないなあ、熊井さんのこと。この方が、そんなフツウのメニューに手を出すわけがない。

「なんだー、誰もうちのことわかってないんだねー。そんなんじゃ、愛理のクリスマスプレゼントは渡せないなあ」

そんな大熊理論にも、ツッコミを入れられる人は誰もいない。
だって、相手は熊井さんだから。ギャフンと言わせたいのなら、もうこのクイズに正解するしか道はないのだ。

「かのんちゃんさんは?まだ答えてないよねー」
「はい、しばしお待ちを!」

不正解なんて、絶対にありえない。私はじっくり思考を巡らせてみた。


「・・・答えます。熊井さんと千聖お嬢様がオーダーしたサイドメニュー。それは、ジェラートアイスの盛り合わせです。違いますか?」

熊井さんの目が、カッと見開かれた。
そして、しばらくの沈黙の後、唐突にガシッとアゴを掴まれる。

「かのんちゃんさん」
「ぶぎゅ。・・・ひゃい」
「何でわかったの?」
「ごへひゅめいひまひゅ」

まさか、つけたんじゃ・・・なんて周囲からの下衆の勘繰り。じょーだんじゃない、まろ様をなめてもらっちゃ困るわ!


「・・・まず、千聖お嬢様とご一緒というところがキーポイントになります。
千聖お嬢様の生活サイクルからすると、寄り道といっても、そう遠くまでは足を伸ばせないでしょう。ということは、学園の近くか、林道・・・。でも、駅前まで出ないと、めぼしいラーメン屋さんは見つからない。ということは、この付近のお店というよりもむしろ」

「そう、大学の学食だよ。すごいねー、かのんちゃんさん」
満面の笑みで拍手をしてくださる熊井さんにつられるように、しぶしぶと言った感じに、周りの人たちもパチパチと手を鳴らしてくれる。

「だけど、ジェラートだというのだとわかったのはなんで?」
「それはもう、まろ・・・いえ、私の熊井さん愛ゆえの分析です。
まず、うちの大学の学食は、結構ボリュームがあることで有名です。
その恵体のわりに、さほど量を召し上がられない熊井さんと、ただいまプニ期に入って体重調節中のお嬢様。お二人が、点心やご飯といったサイドメニューを選ぶとは考えがたいです。
次に、ジェラートの根拠。それは3日前の、もぉ軍団公式ブログです。熊井さんはこんなことを綴られていました。“暖房30℃にしてストーブつけてタンクトップでアイス食べてたら、お母さんに怒られた!ヒーン!”
この素敵すぎるエピソード・・・。そして、思ったんです。熊井さんは、ご自身が楽しんでいることを強制終了させられたのを悔しく思ったことでしょう。そして、果たせなかった“あったかいところでアイスをいっぱい食べる”というイベントは、熊井さんの中で燻っていたんじゃないかと。
そして、昨日。適温に保たれた室内で、あつあつのラーメンを食べた後、熊井さんはメニュー表の中から期間限定販売のジェラートを見つけ出した。・・・今、フルーツフェアで、大々的にアピールしてますからね、ジェラート。
見事に目的を果たすことが出来、嬉しく思った熊井さんは、今、それをクイズの題材として扱うことにした、という経緯では。
そうそう、余談になりますが、学食の冬限定の生チョコケーキも美味ですので、是非次回はお試しあれ!」
「かのんちゃんさん、すごい!ちゃんともぉ軍団のブログも読んでるとは、これはもう名誉団員だね!さっそくうちの舎弟に、名誉会員カードを作るように指示しておくから」
「いやいやそんな、もったいのうございます!フヒヒ!」

もはや、二人の世界。誰も触れない二人だけの国。ほかのクイズ参加者さんたちは相変わらずドン引きだけど、私は有頂天だった。

「あのー・・・もし、福田さんに決まったなら、私たち、体育館のライブの方に移動したいんですけどぉ」

しばらくすると、おずおずと挙手をしながら、そんな提案があがった。
――考えてみれば、私は幸せの絶頂にいるわけだけれど、彼女たちにとっては、まったくわけのわからない状況ということになるだろう。
かくれんぼは全然かくれんぼじゃないし、クイズは超個人的な問題で、ヲタ以外には不利にもほどがあるし・・・。
今更ながら(遅いケロ!)少々、申し訳ないような気持ちになってきたのだった。

「えー、もう行っちゃう?何か寂しいなあ、それ。もっとウチのクイズで盛り上がろうよ!」
「く、熊井さんクイズ・・・ですか」

いくら鈴木さん目当てとはいえ、こんな超美人に拗ねられては、リアクションに困ってしまうのもわかる。
だが、半ば強引に熊井さんクイズの勝者にしてもらった恩もある。私はもう一度口を開いた。

「熊井さん!素晴らしいご提案ですが、まずはプレゼントをいただきたいかなー・・・なーんて」
「ん?」

私を見つめるその眼光、最高!
熊井さんは、話し相手を睨みつけるようなことはめったにないのだけれど、ものすごくじーっと観察する癖がある。
だから、怖くなんか全然ない。むしろその目に映していただいたという幸福感が(ry


「そっかそっか、うん。愛理のプレゼント、ほしいよねえ」

やがて、私の読み通り、特に怒った様子でもなく、熊井さんはへにょっと目じりを下げて、トートバッグから緑色の包みを取り出した。

「はい、これ!ハッピバース・・・じゃなくて、メリクリ!」
「えへへ、どうもです。・・・あ、待って皆さん、帰らないで!」

ライブ会場へと戻っていこうとする、鈴木さんのファンの人たちを寸でのところで引き止めると、私は大慌てでラッピングのリボンを解いた。
そこに入っていたのは、抹茶のお菓子の詰め合わせ。
目視で数を確認し、私は大きく息を吸った。


「これ、皆さんにお分けしまーす!はい、はい、どうぞ!」
「えっ?いいの?」
「何で何で?」

抹茶マシュマロに、抹茶パウンドケーキ。
個包装だから、配るのには持って来いだ。とまどいながらも、みんなそのお菓子を嬉しげに受け取ってくれている。

「あれー、あげちゃうの?」
「ええ、せっかく一緒にクイズに参加したので。袖擦り合うも多生の縁といいますし、楽しい気持ちで終わることができれば、ねえ」

――こういうことを、“よっしゃこれでイメージアップだにょん”とか若干ちょっと思いながら言ってしまうのが、私の悪い癖だけれど。
でもでも、実際こうしておけば、多少なりともこの学園の人に好印象を持ってもらえるのは間違いないだろうし、鈴木さんを一番好きな人に、鈴木さんのものをおすそわけするのは学園ヲタ(?)のマナーだと思う(キリッ)
現に鈴木さんのファンの人たちも嬉しそうにしているし、さっきまでブーブー文句言ってたのがウソみたいに、「ありがとう!」なんてニコニコ話しかけてきてくれる。まったく、女の子ってゲンキンだにょん!


「優しいんだね、かのんちゃんさん」
「ドゥフフ、それほどでも」
「愛理にはちゃんと報告しておくから。かのんちゃんさんは、実に素敵な人だったって!さすが、もぉ軍団名誉団員だね、あははは」

落ち着け・・・調子に乗るな、かにょんよ。
熊井さんはご機嫌だからこう言ってくれてるけれど、そもそも名誉団員などというものはないはずだ。
どれほどこのお方が自由に振る舞おうとも、最終権限を持っているのは、“あの方”であることは間違いないんだから(ウフフッ)
実用的な舎弟Σ(少△年)はさておき、特にメリットのない私を在籍させるとは、とても・・・。

昔からそう、調子に乗っては痛い目に合うのが私の宿命。
紗季と授業おさぼりしてみたら私だけ怒られ、憂佳とふざけていたら私だけ注意され、彩花にイタズラを仕掛けたらすぐにバレて逆襲され・・・嗚呼、まろったら悲劇のシンデレラ!

「よかったねー、泣くほど嬉しかったなんて!あはは」
「へ?」

余計な黒歴史を次々脳裏に浮かべていたせいで、気が付くと涙目になっていたらしい。
慌てて目じりをごしごし拭うと、熊井さんは小っちゃい子にするみたいに、頭をぽんぽんと撫でてくれた。

「メリークリスマス、かのんちゃんさん」
「は・・・はい、メリークリスマス!私、熊井さんとお話できてうれしかったです!」
「あははは」

私の思いは果たして届いたのか。それはよくわからないけど、熊井さんは実に楽しそうに笑いながら、校舎の方へと去っていってしまった。


「あ・・・、じゃあ、私たち、愛理さんのステージを観に行くから。えっと、さっき、部外者みたいに言ってごめんなさい。プレゼントの御裾分け、ありがとう」
「いえいえ、はは・・」

冷たくされると悔しいのに、いざ下手に出られるとそれはそれで困っちゃうのが私の性分。
私もライブ後半戦、観に行こうかな。
抹茶のチョコをぽりぽりと食べながらそんなことを考えていると、ポケットの中のケータイが、軽妙な音楽を奏でた。

「お、憂佳じゃん」

今日のクリスマスパーティーに、一緒に足を運んでいた友人。
かくれんぼイベントには参加しないと言っていたから、今は寮生さんのライブ観てるのかと思ってたけど・・・。


“花音へ
熊井さん、見つけられたかな?実は、お願いがあって。
私、岡井さんのプレゼントを手に入れたいんだ。”



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