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「・・・あぁ、そうか。3分ぐらいが限界だった。」

3分?何のことだろう。
愛理は眠る千聖にも泣きじゃくる私にもそんなに驚いてないみたいで、いつもと変わらない口調で「飲む?」とペットボトルを差し出してきた。

「ありがと。」

私が麦茶に口をつけている間、愛理は何にも言わずに千聖の髪を優しく梳いていた。
苦しそうだった千聖の表情が少しずつ和らいで、寝言も収まってきた。

「すごいね、愛理。千聖辛そうにしてたのに、愛理が来ただけで落ち着いてる。」
「私も最初はどうしたらいいかわからなかったんだけど、お泊りのときとかこういうこと何度かあって、それでいろいろ試してみたの。頭に触れられると安心するみたい。
それより、梨沙子は大丈夫?」

愛理は千聖の顔を見つめたまま、私に話しかけてきた。
「あ、うん。お茶飲んだら落ち着いた。」
「そっか。」


その後しばらくの間、私と愛理は黙って千聖の頭を撫で続けた。
いっぱい話したいことはあるけれど、何をどう言ったらいいのかわからなかった。
愛理は私と違って、困ったり傷ついたりしてもあんまりそれを表には出さない。
こういうデリケートな話の時は特に、知らないうちに愛理を追い詰めてしまいそうで怖かった。
同い年だけれど大人っぽくて、とても優しい愛理。
できれば困らせたくないけれど、このまま黙り続けているのは辛い。
私は千聖の髪を滑る愛理の指を掴んだ。

目が合った。
愛理はいつもどおり、穏やかで優しい眼をしている。

「梨沙子、ごめんね。」
「えっ」

愛理の手が、千聖から離れる。
そのまま、私の肩を優しく抱きしめてくれた。
「気づいてたんだよね、梨沙子。黙ってるの、辛かったでしょ。本当にごめん。」

何のことかなんて言わなくてもお互いに通じ合っていた。
「謝らないで。愛理は悪くないの。私が馬鹿だから、勝手に悩んでただけだよ。」

ああ、また気を使わせてしまった。
さっきまで平気な顔してたのは、これ以上私を刺激しないためだったんだ。

「本当に気にしないで。それよりも、私が千聖にしてあげられることがあったら教えて。愛理の言うことだったら、何でもやるよ。」
さっき思い切り泣いたから、今度は落ち着いて話すことができた。

「いいよ、梨沙子まだ調子悪いんでしょ?今はキュートで何とかできるから。」

「でも私だって、千聖のこと助けたい。だって愛理は、いつも自分のことより私とか、千聖のこととか、そっちばっかり優先してくれるでしょ。
私だって愛理の役に立ちたいもん。私たち、中2トリオでしょ。」
「梨沙子・・・」

それから私と愛理は千聖の側を少し離れて、ちっちゃい声で情報交換しあった。

キュートの楽屋に行く前から、千聖のお嬢様キャラについて知っていたこと。
ももにだけそのことを話してあること。
さっきプロレス技を仕掛けたのは、自分でちゃんと今の千聖のことを確認したかったから。
愛理は生真面目にメモまで取って、熱心に聴いてくれた。

「そっか、もう楽屋に来たときには知ってたんだね。キュート全員、慌てちゃったよ。ばれたらどうしようって。」
「多分、何にも知らなかったら気づかなかったと思う。千聖、演技するの上手いんだね。」
私がそう言うと、愛理はちょっと難しい顔になった。

「でも、そのせいで千聖を追い詰めてるとしたら」
「えっ」

私たちの目線は、眠っている千聖に向けられた。
まだ口をむにゃむにゃ動かしているけれど、もう怖い顔はしていないみたいだ。

「キュートの中で今、もとの千聖に戻って欲しい人とこのままでいい人とで意見が別れてるの。
前の千聖がいい人にとっては今の千聖の存在自体が許せなくて、その気持ちを直接千聖にぶつけてしまったこともあったらしいんだ。」
これは、多分舞ちゃんが千聖に謝っていたあのことだ。

「皆にはそこまで強く言ってないけど、私は今でもそのことが許せなくて。
もともと、私はどっちかって言ったらお嬢様キャラのままでいてほしい派だったのね。何か、前より共通点が見つかったり、気があったりしてたから。
でももうそんなことどうでもいい。ただ、最新の千聖の心を守りたい。
だから、今の千聖にとって不自然じゃない状態・・・・それがお嬢様なら、そのままでいたほうがいいんじゃないかって思ってる。
いくら上手に前の千聖を演じてたって、こうやってすぐに疲れちゃうよね。
夢の中でまで苦しいなんて、そんなのは可哀想だ。
でも私はさっき、梨沙子にバレたら困るからって、明るい千聖になって、梨沙子と接してって千聖に言った。矛盾してるよね。」

愛理はすごい勢いでまくしたてる。私は黙って、愛理の吐き出す言葉を受け止めてあげることしかできなかった。



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