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今日は成人式。
見事な冬晴れのなか、ここ市民ホールには新成人のみなさんが集まっている。
20歳になった僕もその一人として、この成人式会場へとやって来た。

そう、僕も今日から大人の仲間入り。
いよいよしっかりとした人間にならなければ、と強く思うのだ。
ま、舞ちゃんのために・・・


ホール前の広場は、大勢の新成人のみなさんでごった返している。
そこに着くと、すぐに懐かしい顔ぶれと出会うことができた。
久し振りに会う中学や高校のときのクラスメートたち。
しばらくは懐かしい友人たちと話し込んだりして過ごしていた。

ひとしきり旧交を温めると、僕はもう一度会場の周りを見渡してみる。
その姿は、やっぱり見当たらなかった。

ここまで来る間も、ずっと気になってはいたんだ。
そういえば、今日はまだ熊井ちゃんに会っていないな、ということに。

いつもならすぐに出会う彼女の姿がいつまで経っても全く見えないこと。
それって、やっぱり珍しいことだから。
気になって仕方が無い。また何かやってるんじゃ・・・という不安も高まってきてしまう。
まぁ、あの目立つ熊井ちゃんのことだ、会場に行けばすぐに彼女の姿が目に入ってくるだろうと思っていた。
しかし、一向に彼女の姿を見かけることは無かったんだ。そして今に至る。

あれ?
熊井ちゃん、いったいどこにいるんだろう?

そのとき、そんな僕のことをじっと見つめているひとりの女の子がいることに気付いた。

振袖姿も艶やかな、とてもカワイイ女の子。
その子の大きな瞳は、確かに僕のことを見つめていたんだ。
それはもうはっきりとした真っ直ぐな視線で。

すっごいカワイイ女の子だな!
しかし、見つめてくる彼女のその姿に、僕は見覚えが無かった。

ん? 誰だろう?
高校で一緒だった子では無い。
ってことは、小学校や中学校のときに一緒だった女子だろうか?
ちょっと記憶に無いけど・・・


思い当たらずにいる僕の反応を見て、その子の方から僕に歩み寄ってきてくれた。
どうやら間違いなく僕のことを知っている子のようだ。

えー? 誰だろう? どこで一緒だったんだ?? 思わず見とれちゃうぐらい可愛らしいこの子が!?
こんなカワイイ子がいたことを憶えていないなんて、なんということでしょう・・・

そんな自責の念にかられている僕に、着飾ったその子が声を掛けてきた。


「なんだオメー、この私に対して挨拶してくるのが遅いかんな」


・・・・・
そのとき僕が受けた衝撃は、それはそれは大きかった。
どこの美少女が僕を見つめているのかと思ったら・・・

「か、栞菜ちゃんか!?」
「そうだよ?」
「う、ウソだろ?」
「嘘って、何だかんな?」
「え、いや、その・・・」

だってさ、目の前のこのとてつもない美少女。
そりゃあ、ウソだろ!?と思ってしまうよ。
いつものあの僕を見下すようなイヤーな笑いを浮かべた栞ちゃんとは全く違うんだもん!!

お、女の子って・・・・・


それにしても、信じられないほどの美少女っぷり。
まぁ、確かに栞菜ちゃんは元から美人顔の人ではあるんだけど。それは理屈では分かっているんだけれど。
でも、僕には今までのトラウマになる数多の出来事が頭から離れないので、どうしても彼女のことは先入観で見てしまうんだ。

それが、いま目の前のこの美少女を見て、僕は予想外の感情が脳内に広がっていた。

栞菜ちゃん・・・
やべ、カワイイぞw


「なんだよ、そのニヤケた顔は。オメー大丈夫なのか?」

いつものことだけどさ、と呟きつつ、おなじみの口調で話しかけてくる栞菜ちゃん。
そんな彼女に対して、いま僕はちょっと心がときめいてしまっていた。

やべ、まじカワイイんですけど・・・

その高まったテンションで張り切って栞菜ちゃんに話しかけようとした。

だがそのとき、目の前の美少女は声を掛けてきた女の子たちによって、あっという間に囲まれてしまった。
駆け寄ってきた女の子たちが口々に叫ぶ。

「栞菜! 久し振り!!」

どうやら中学校時代の同級生らしい。
楽しそうに話しがはずんでいる彼女たちと栞菜ちゃん。

へぇ・・・ずいぶん無邪気そうに笑うんだな。
栞ちゃんのそんな笑顔を見れるなんて。
微笑ましさを感じるその様子を眺めつつ、僕はその場を後にしたんだ。

* * * *

ここが成人式の会場か。
ホールの中に入り、さてどこに座ろうかと考えながら通路をずっと歩いていくと、一人の振袖姿も艶やかな女の子の姿が目に入った。
前方席に、ひとり座っているその女の子。その子は僕のよく知っている人だったわけで。

なかさきちゃんじゃないですか!!

晴れ着姿のなかさきちゃん。
なんという可愛らしさ!!

その姿を見て一気にテンションが高まった僕は、反射的に彼女が座っているその場所を目指した。

足取りも軽く彼女に近寄ると、なかさきちゃんは僕が来たことには全く気が付いていない御様子。
ひとりでポツンと座っているなかさきちゃん。その無表情、これがまた妙に惹かれてしまうんだ。

やべ、まじカワイイw

隣りの席が空いていたので、迷わずその隣の席に腰をおろす。

「こんにちは、なっきぃ!」
「!!くぁwせdrftgyふじこlp;@:[]!!!!」

僕の姿を認めると、いつものようにリアクション芸を披露してくれたなっきぃ。
狼狽から、ひとつ咳払いをすると、冷たい声で僕に話しかけてきてくれた。

「・・・・あのですね、いつも言ってるけど、その呼び方はやめt
「あのさ、熊井ちゃんの姿が見えないんだけど、なっきぃ知らない?」
「人の話しはちゃんと聞けや・・・・ それ、私も気になってるんだけど。ゆりなちゃんどこにいるんだろ」


会場の中に入っても熊井ちゃんの姿は見えなかった。
本当にどこにいるんだろう。さすがにちょっと心配になってきたぞ。


思案顔になって考え込んでいた僕に、隣のなかさきちゃんが話しかけてくる。

「ずっとこの席に座るつもりなの?」
「そうだけど、何か?」

意味が分からずきょとんとしてしまった僕を見て、なかさきちゃんはため息ひとつ。

そうこうしているうちに、だんだんと席も埋まってきた。
もうすぐ式典が始まる。

「ここの成人式は比較的平穏だよね。会場前で騒いでる人もいなかったし」
「そんなの当たり前じゃない。大人になろうって人が集まってるんだから」
「それがそうでもないんだよ、なっきぃ。最近は荒れる成人式って本当に多いらしいからね」

そう、毎年のようにニュースになってるじゃないか。成人式でのトラブル。
そういえばさっきのこと、この会場の外にもパトカーが停まっていたっけ。
警察が待機しているということで物々しい雰囲気を感じ取ってしまい、思わず緊張してしまう。
それに、何でだろうか。いつからか僕はパトカーの姿を見ると反射的に体が身構えてしまうんだ。

いま自分で言ったその言葉、“荒れる成人式”。
そのフレーズが妙に頭に残って、何となく不安な気持ちが湧き上がってくる。

「ここの成人式は何も無いよね、なかさきちゃん」
「大丈夫でしょ。そのあたりは実行委員の人がちゃんとやってるだろうし」

なかさきちゃんがそう言うなら安心だろう。
鼓動が早まっている自分にそう言い聞かせる。

でも、なんとなーく嫌な予感が止まらない。
いま僕にはどうしても引っかかることがあるんだ。
僕の心の中でどうしようもなく巨大化してきているこの不安の源。


そう、熊井ちゃんの姿が見えないことに。



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