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* * * *

「すごい雪景色だねー。雪を見るとさー、なんか無性にテンション高まるよねー。あははは」

ゴンドラのなか一人ではしゃいでいる熊井ちゃん。
このスキー場に着いて以来とてもご機嫌な御様子。
彼女が楽しいなら何よりです。

そんな熊井ちゃんが山の頂に降り立った。


ロープウェーを乗り継いで最上部まで登ってきた僕たち3人。
ここまで来るのは、それなりに滑り慣れた上級者の人たちだけらしい。
だからなのか、やって来たこの山の頂上には人もまばらだった。
そんなこの場で、熊井ちゃんは堂々とした立ち姿ではるか眼下に見える麓を見渡している。

長くロープウェーに揺られてやって来ただけに、下に降りるまではかなりの距離があるんだな。
これは、滑り甲斐がありそうだ。
でも、いま周りに広がっている大自然の光景を見て、ちょっと、というか、思いっきり気になることがあるんだ。

「こんな一番上まで来ちゃって、初心者だっていうのに大丈夫なの、熊井ちゃん?」
「大丈夫、大丈夫。習うより慣れろって言うでしょ?」

そう言いながらスノーボードを装着した熊井ちゃんが立ち上がった。
カッコいいな、この人。本当に何をさせても様になっている。
まぁ、見た目の格好だけは、だけど。
口を開かずに黙って立っていれば、この人ほどカッコいい人はいないんだ。
本当に惚れ惚れするほどカッコいい人だと思う。黙っていれば。

そんな熊井ちゃんが今言ったこと。
まぁ確かにそうなんだけどさ。
それでも、いま隣りにいるスキー板を履いたなかさきちゃんのその表情を見るとさ・・・

目の前に広がっているのは傾斜30度の最上級コース。
引きつった顔のなかさきちゃんが、絶句したように切れ切れの言葉を発する。

「ここを滑るんだケロか・・・ まるで崖じゃない・・・・ いったい、どうやって・・・・ 」
「なかさきちゃん! 女は度胸だよ! 気合があれば何だって出来る!」

その言葉通りに気合十分な様子の熊井ちゃんがゴーグルを装着した。


「1、2、3、GO!!」

そう言うや否や一気にゲレンデへ飛び出していく熊井ちゃん。
そのまま真っ直ぐに滑り降りて行ってしまった。
この急角度の傾斜面を直滑降。なんというダイナミックさ。

初心者、なんだよね?
テクニック云々よりも先に勢いでやりきってしまうところはいかにも彼女らしい。
さすがだよ熊井ちゃん。

どんどん小さくなっていくその姿、サイドスリップで豪快に新雪を蹴散らしながら視界から消えていった。
傍目にはその姿は雪の中を駆ける大型野生動物のようにも見え(ry

盛大に雪煙を巻き上げて熊井ちゃんが滑って行ってしまうと、この場には僕となかさきちゃんだけが取り残された。
雪のなか一切の音が無くなり、静寂に包まれる。

それにしても、すごい傾斜だな。
スキーなら多少は自信のある僕でもその光景に怯みそうになる。
ま、熊井ちゃんを見習って、いっちょ気合入れて行くとしますか。

ん? なっきぃ、鼻先が赤くなってるけど。
そんなに寒いのかな。


「さて、僕らも行こうか、なかさきちゃん?」

その問いかけに対して、彼女からは返事が返ってこなかった。
一応聞いてみたんだけど、やっぱりなかさきちゃんが僕と一緒に滑ってくれたりする訳が無いか。
そりゃそうだよね。しょうがない、ぼっちで滑るとするか。


「じゃあなかさきちゃん、僕は先に行くね」

そう言ってとりあえず熊井ちゃんの後を追いかけようと滑り出そうとした、そんな僕の背中に声が掛けられた。

「待って!」

その次の言葉を聞いた僕は、その言い方のあまりのカワイさにやられましたw


「一緒に付いて来て欲しいケロ・・・」

滑り出すなり30度の傾斜を直滑降していくなかさきちゃん。すごいなw
でも、ムチャでしょ、それは。いくらなんでも。
案の定、ぐんぐんとスピードが上がっていくなかさきちゃん。
その弾丸のような姿に笑いをこらえつつ、僕は彼女の後ろを追いかける。

「!! と、止まらないケロー!!」
「なかさきちゃーん、左右の板を平行にしてるとどんどんスピードが上がっちゃうからハの字にして。あっ、でもスキー板の先が重ならないように注意だよ!!」
「いきなりそんないろいろな事を言われても困るケロ!!」
「ひょっとして、基本動作とか何も知らないの?」
「知るわけないでしょ! いきなり友理奈ちゃんにこんなところへ連れて来られて!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、なっきぃ。この先カーブしてるから重心を傾けて」
「曲がり方なんて分からないケロ!!」


猛スピードでコーナーに真っ直ぐに飛び込んでいくなかさきちゃん。
その慌てふためく姿が面白すぎて大笑いしそうになったが、すぐに正気に戻る。
あのスピードでカーブに突っ込んだら・・・

これ、いくらなんでも止めないとヤバい。
すごいヤバい。

「なかさきちゃん!!」

僕は彼女を止めるべく前に回りこんで行こうとした。

あ、でも、待てよ?
止めるためには彼女の体を掴まないと。
でも・・・ そんなことしたら、間違いなく僕は痴漢扱いされることになるだろう・・・
ただでさえ僕は彼女から変態扱いされているんだ。
その僕が彼女の体に触れるなんて、そんなことをしたら・・・

でも、しょうがないじゃないか。
これは彼女を止めるためなんだ(キリッ!)。

一応ここは控えめに、腕を掴ませていただきますね。
べ、別に僕の個人的な意向で彼女に触れたくてそうするわけじゃなくて、これは非常時の緊急避難でしょうがなく・・・


もちろん今はそんなことを言ってる場合ではないのだ。
だがしかし、この一瞬の躊躇が運命を分けることになった。


なんとか彼女の手首をつかんだときには、もう遅かったんだ。
・・・・間に合わなかった。
僕らは盛大なスピードでもってコースを外れた。


整地されてない雪の中に突っ込む。
あっという間にスキー板はどこかに飛んで、彼女ともつれるように転倒し、急斜面を転がり落ちる。
どこまで落ちるんだと思わされるほど、それはとても長い時間に感じられた。

一瞬気が遠くなったりしたけれど、気が付くと落下する感覚を感じなくなっていた。
どうやらなんとか止まることが出来たようだ。
やけにシンと静まり返った景色のなか、ふらふらと立ち上がる。


ぼうっとしていた意識がだんだんと戻ってくる。

そうだ!!
な、な、なかさきちゃんは!?

慌てて周りを見渡したが、探すまでも無かった。
彼女は僕のすぐ横でひっくり返っていた。

なんと!
これだけ滑落しても僕らは離れ離れにならなかったんだね。
やっぱり僕らは強い絆で結ばれ・・・

って、そんな当たり前のこと(←)を再確認している場合ではない。
そんなことより、な、なかさきちゃん!!

「な、なかさきちゃん、大丈夫!? ケガは無い!?」
「・・・大丈夫だケロ」

頭を振りながら立ち上がるなかさきちゃん。
何事もなかったようだ。良かったー・・・
本当に良かったよ。極度の緊張が急激にほぐれて脱力しそうになる。

「でも・・・どこなの、ここ?」

そう言ったなかさきちゃんが不安そうに周りを見回した。
そう、今の状況は彼女の言った通り。
見渡す限り一面の針葉樹林。
どこだ、ここ?

「コースから相当外れて落ちてきたし。元のコースまで上るのはちょっと厳しそうかな」

時刻は夕方。もう間もなく日が暮れようとしている。
運悪く天候は下り坂のようで、いつの間にか大粒の雪がしんしんと降りはじめていた。


「もう暗くなってきたし、ヘタに動かない方がいいのかも」


そのときだった!
あそこにロッジのようなものがあることに気付いたんだ(←)!!


「とりあえず、あそこに避難しよう!!」




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(※筆者注。これは全て少年の妄想の中のお話です)
後半になります。また3日連続で更新して書き終える予定、です

なっきぃへの少年の呼び方
基本的には「なかさきちゃん」と呼んでいますが、ある特定のテンションのときは「なっきぃ」と呼んじゃうんですね
その呼び方をしているとき、それはもちろん、少年の気持ちが舞い上がって調子に乗っているときです