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「千聖く・・・お嬢様とは、昔少しだけご一緒したことがあってね」

生徒会長さんのいるとこを目指して、私の斜め前を歩く彼女・・・ゆうかさんという人は、淡々と語り始めた。

「私も千聖お嬢様も人見知りだから、最初変な感じになっちゃったんだけど、少しずつ仲良くなれたんだ」
「へー、いいっすね。いつごろの話?」
「中学生になる、ちょっと前。ほんと、すごく楽しかったな」

だけど、そう語るゆうかさんの顔は全然楽しそうなんかじゃなくて・・・サラサラセミロングの髪に遮られた横顔は、寂しげに見えた。
私は慌てて会話を広げようと、無意味に明るい声を出した。

「え、えーっと・・・じゃあ、ちさとちゃんに会いに来たんすね!喜ぶだろうな、ちさとちゃん!プレゼント争奪戦にまで参加してるなんて、びっくりするんじゃない?つか、今日ちさとちゃんとは会えたんすか?」

すると、ゆうかさんの足がぴたっと止まった。

「ううん、会えてない。あの日からずっと、会うことができなくて」
「え・・・」

この人・・・なんて悲しそうに笑うんだろう。色白で華奢な容姿のせいもあって、今にも消えてしまいそうな、まるで人間じゃなくて雪の精みたいな・・・非現実的な存在のように思えた。

「あぅ・・・ちさとちゃんと、喧嘩しちゃったんすか」
「喧嘩なら、まだよかったのかも。私は何の弁明もできなかった。チャンスは何度もあったのに。もしもう一度間違った発言をしてしまったら、もう、完全に縁が切れてしまうんじゃないかって思ったら、怖くて」

一体、何の話をしているのか、ちょっとよくわからないけど。
要するに、ちさとちゃんと何かしらトラブルがあって、謝りたいけど謝れない、そんな感じなのかな。
もし他の誰かなら、ちさとちゃんを困らせるなんて、許しがたいことだと抗議してやりたいところなんだけど・・・なんていうか、この人相手だと、どうも調子が狂う。このふんわりした独特の空気と、儚い雰囲気が、そうさせてしまうのだろうか。

「えーっと・・・いや、でも、ちさとちゃんすっげー優しいから、ちゃんと謝ったら大丈夫だと思うけど。
意地悪したわけじゃないんすよね?誤解があっただけで」
「あはは、ありがとう。優しいね、工藤さん。これから私たち、プレゼントを巡って戦う仲なのに」
「あー、呼び方ハルでいいっすよ。つか、ハルこれでも人を見る目はあるつもりなんで。
戦うっつっても、ライバルじゃん。ライバルは敵じゃないって、みず・・・ハルの友達も言ってたし」
「そうだね、こんなに励ましてくれるハルちゃんが、敵なはずないもんね」

少しだけ、ゆうかさんの寂しそうな表情が和らいだ気がする。

「そういえば、生徒会長さんはどこ・・・」
“うおおおおいええええい”

――おや?

突如、私の耳が、遠くから聞きなれた甲高い声をキャッチした。

「・・・ゆうかさん、ちょっと待っ」
「たすけてー!!!」

私が言葉を紡ぎ合わる前に、ものすごい勢いで階段を下りてきた人が、ガシッと私の肩にしがみついた。

「えええ!?」
「いええええい!!ありわらのおおおおお」

続いて降りてきたのは、予想通り・・・コイツ、マサキ。


「まーちゃんの勇気が世界を救うと信じて!なりひらさんのプレゼントください!!!!1」

バシッと片手を差し出してくるマサキ。ということは・・・。

首をひねって、私の背後に回った高等部の生徒さんを見てみると、それはちさとちゃんが“すぎゃさん”と呼んでいる、まつげくるんくるんさんだった。

「ちょ・・・ええ!?おい、マサキ!いったん落ち着け!」
「ふううううう」

頭の上で手をパンパン叩きながら、見たこともないような珍妙なステップを繰り出すマサキ。・・・まつげくるんくるんさん、ご愁傷様。こんなのに追いかけられたら、そりゃ逃げるよね。


「あはは・・・」

ゆうかさんは、目を丸くして、マサキを凝視している。上品そうなこの人は、こんな謎生物、見たこともないんだろう。
二人のか弱き女の子を救おうと、私はキッとマサキを睨みつける。


「今日は迷惑かけないって約束だったろうが!テンションあがりすぎ!」
「だってだってありわらのおおおお」

地団太を踏むマサキ。・・・こ、こいつ・・・うちの弟と同レベルじゃねえか。自由すぎるとは思っていたが、高等部の、しかもこんないい人そうなまつげくるんくるんさんまで怖がらせるとは何事だ!

私の背後から、恐る恐ると言った感じで、まつげくるんくるんさんが話しかけてくる。


「・・・ありえない。しばらくは見つからないと思ったのに」
「どこに隠れてたんすか」
「5階のトイレの用具入れ。そもそも、開始そうそうに最上階まで上がってくるなんてありえないでしょ。
なのに、一直線に人が走ってくる音がしたの。それで、この子が・・・“あひゃひゃひゃ!み~ぃ~つ~けた~”」
「・・・・・ほんと、すんません」

そりゃ、逃げ出したくもなるわ。完全に、学校に住み着いた幽霊じゃねえか。
マサキは私たちのジト目も気にせず、「はーやーくー」とプレゼントを要求してくる。

「・・・仕切り直します?」

聞いてみると、まつげくるんくるんさんは首を横に振った。

「いや、まあ、ルールは守ってるし。ちょっとびっくりして逃げちゃったけど」

咳払いをひとつすると、まつげくるんくるんさんはスッと歩み出てきた。
それをじっと見るマサキ。黙ってれば賢そうなのにな、コイツ。色々と勿体ない。

「えーっと、じゃあクイズ出します」
「あーい!」
「まあ、有原さんからのプレゼントなんだし、有原さんのことを本当に好きな人にあげたいなーって思うから、有原さんクイズにしまーす!」

「それ、面白そうですね」

すると、事の成り行きをずっと黙って見ていたゆうかさんが、のんびりした口調で言った。

「あ、気使うことないっすよ。うちらはちさとちゃんの方行こう」
「うん、でも、ちょっとだけ。せっかくの機会だから」

そう笑いながら、ゆうかさんはセーラー服の胸ポケットから、意外なものを取り出した。


「・・・あれ?なんで」
「千聖お嬢様のカードは、ライブ観劇を選んだ方に譲ってもらったんだけれど。私のもともとのカードは、これだったんだ」


その白くて細い指で差し出されたのは、真っ赤な“℃”が躍るカード。

マサキの目が、キラリと光った。



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