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「・・・よし、全員時間内に戻ってきたね。約束を守れる娘たちで、ママは嬉しいよ!」

それから数十分後。私たちは、再び生徒会室にいた。
意外なことに、ライブがどうのと言っていたカノンさんという人は、まだここに残っていて、心配そうにユウカさんを見つめている。

「プレゼント、見つかった?」

生徒会長さんからの質問に、一番先に答えたのはユウカさんだった。

「いいえ、残念ながら当てが外れてしまいました。中庭の礼拝堂に行ってみたのですが」
「そっか、うん。礼拝堂も、お嬢様の大好きな場所だもんね。今回はそこじゃないかったけど・・・憂佳ちゃん、本当にお嬢様の事好きなんだね。なんだか私まで嬉しい」
「光栄です」

ユウカさんはさして残念そうな様子でもなく、微笑して生徒会長さんの話を聞いている。

「私、千聖お嬢様とお話できるチャンスが欲しくて。このイベントでプレゼントを勝ち取ることが出来たらと思ってたんですが、力及ばず・・・というところですね」
「んー、お嬢様と話がしたいなら、機会作るけど?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、自分で決めていたことなので。このチャンスを逃すようなら、もう千聖お嬢様に接触することは諦めようって」
「憂佳・・・そんな」

――一体、この人はなぜ、ここまで頑固になっているんだろう。
ふんわりした外見だから、先入観を持ってしまうだけで、自分のポリシーみたいなのが強いタイプなのかもしれないけど・・・自分で自分を追い込んでるっていうか。

「ふーん・・・。まあ、それはまたあとで、ね。そちらの二人はどうだった?」
「トイレでした!」
「・・・・・・・・・・・・うん、トイレではなかったはず。まーちゃんは残念賞だったんだね。それじゃあ、」

生徒会長さんの大きな目が私を捉える。深く息を吐き切ると、私はポケットに突っ込んでいた左手を差し出した。


「おー!!ハルちゃん、おめでとう!」
「・・・ッス」


パチパチパチ、と拍手を受けながら、私はどうしても笑顔を返すことができなかった。
たしかに、私の手のひらには、小さなラッピング袋に包まれたプレゼントが乗っかっている。ちゃんと、「from Chisato」と手書きの署名入りカードも添えられている。
間違いなくこれは、ちさとちゃんが用意してくれたもの。不正だってしてない。ちゃんと自分で探して、見つけた。それなのに私が笑えない理由は、2つあった。


「一応聞くね。どこにあったの?」
「…屋上の、給水塔の影に」

そう、これが1つ目の理由。プレゼントが置いてあった場所。
ちさとちゃんと仲良くなってから、“ここ”の話は何度か聞いていた。空が近くて、でも給水塔が日の光を程よく遮ってくれるから、いつもうたた寝しちゃうんだって。
で、ハルもそこに行きたいなってお願いしたら、千聖ちゃんはニッコリ笑ってこう続けた。“ええ、もちろん。学園の皆さんには、千聖と舞だけの居場所と思われてしまっているようだけれど、そんなことはないのよ”と。

ちさとちゃんには、きっとわかるまい。その言葉がハルにとって、どれだけショッキングなものなのかなんて。
結局私は、今日まで屋上の給水塔には意地でも足を運ばなかった。ちさとちゃんの大好きな場所であっても、一応こっちにだってプライドってもんがある。・・・ま、結局はプレゼントにつられてこうなっちゃったわけだが。


「うんうん、私が置いたところで間違いない。よく見つけてくれたねー、ママは嬉しい!」
「ああ、はい・・・」

嬉しさ半分、悔しさ半分。
だってさ、“そこ”にあるってことは、ちさとちゃんが大事にしている場所ってだけじゃなく、生徒会長さんもそう思ってたってことじゃん。
生徒会公認、押しも押されぬオシドリカップルの愛の住処。そんな場所が、学校内にあるなんて。

「ハルちゃん、よかったねー」
「・・・ッス」
「まーちゃんのおかげ様でございました!えっへん!」
「あはは、そっか、まーちゃんも一緒に探したんだ」

      • で、もう1つの理由というのが、“ユウカさん”。
ユウカさんがイヤーな感じの人だったら、私はプレゼントをゲットできたことを喜んでいただろうし、こんなにヤキモキすることもなかっただろう。
だけど、本当にいいのだろうか。この心優しいユウカさんから、ちさとちゃんとの対話のチャンスを奪ってしまって。
とはいえ、さっきのやりとりを見るに、ユウカさんは私からプレゼントを譲り受けたいとは思ってないだろう。
それだけに、このモヤモヤッとした気持ちをどう解消したらいいのかわからない。

「・・・ハルちゃん、どうした?」

よっぽどドヨーンとした顔をしていたのか、心配そうに生徒会長さんが私を見る。


「あー・・・なんつーか・・・うーん」
「ハルちゃん、もし私のことだったら・・・」

「すどぅ!ちさとーの!プレゼント!まーちゃんに見せて!」

その時、マサキがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、思いっきり腕にしがみついてきた。

「な、なんだよお前」
「マロも見たいな!セレブからのプレゼント!」

気を使ったのか、カノンさんもマサキに同調して、みんなの視線がこの小さなプレゼントボックスに注がれた。


「あ、でも、もしかして一人で見たい?」
「・・・いや、ここで開けます」

手のひらよりも小さい、水色と紺色のチェック柄の包装紙に包まれた箱。
リボンを解いてそっと開くと、そこには白と薄いピンク色の花の飾りみたいなのが入っていた。

「これ・・・」
「ヘアアクセサリーじゃない?しかも、手作り!」

淡い色合いの花飾りが先っぽについたヘアピン数個と、小さなバラの花がそのままくっついたような綺麗なヘアゴム。

「このバラ、プリザーブドフラワーって言って、本物の植物をそのまま使ってるんだよ。お花、好きだもんね。千聖お嬢様」
「可愛い!さすが千聖お嬢様!ねえねえハルちゃん、着けてみてよ!」

言うが早いか、カノンさんと生徒会長さんがアクセサリーを手に取り、私の髪をわしゃわしゃとやり出した。

「ショートの子もロングの子も使えるように、どっちにも馴染むようなデザインになってるねぇ」
「さすが、気配りと優しさと安心安全のお嬢様!マロもこういうレディに・・・あ、ハルちゃん頭動かさないでちょ!三つ編み編みこんであげるから」

うわー・・・まるで、ねーちゃん二人のお人形にされてる弟みたいな。
人の頭、ぐちゃぐちゃ弄繰り回して、楽しげにキャッキャとやってる。

そんな二人の間から視線をくぐらせ、ユウカさんを見ると、やっぱり読めない表情で、曖昧に笑って私の方を見ていた。
私・・・なにやってんだろ。こんな綺麗な髪飾りなら、絶対にユウカさんの方が似合ってるだろうに。

モヤモヤが胸に広がって、全然楽しい気持ちになれない。

「でーきた!見て見て、ハルちゃん!可愛いでしょ?」
「はあ・・・」

生徒会室の大きな鏡の前に立たされて、自分の顔をまじまじ見る。
前髪を細い三つ編みにして、花のついたゴムでくくって。
逆サイドの髪を小さなピンで止めた“女子”って感じのヘアスタイル。

「やっぱり可愛いねー。ハルちゃん、元がいいから」
「ですよねー、超美少女!マロ、ハルちゃん子役でもやってるのかと思ったもん!」
「顔がカワイイのは、すどぅのゆういつのとりえです!えっへん」
「おいコラマサキどさくさにまぎれて何シツレーなこと言ってんだ」

いつものマサキとのバカ漫才にも、どこかハリがないって自分でもわかる。
ハル、ガサツだって思われがちだけどさ・・・結構気にしぃなんだぜ、これでも。

「えっと、それで、プレゼント見つけたらどうするんでしだっけ」
「あー・・・じゃあ、ハルちゃん少し残ってくれる?この後の、新聞部の取材のこともあるし」
「ッス」

「それなら、私たちはライブ、いこっか、花音ちゃん」
「うんうん、急ごう!せめてダンスパーティーには参加したい!」

女子っぽく手なんかつないで、ユウカさんとカノンさんは生徒会室を後にしようと背を向けた。・・・が、ユウカさんは廊下に出る直後、くるりと振り返った。


「ハルちゃん、いろいろありがとう。
プレゼントを見つけたのが、ハルちゃんでよかった」
「むきー!まーちゃんは!!!11」
「あはは、まーちゃんこっちおいで。ライブ一緒に見よう」
「望むところだ!まーちゃんが返り討ちにしてやりましょうね!」


マサキも部屋を出ていって、私と生徒会長さん、二人っきりになる。


「ハルちゃん、悔しい?」
「え?」

振り向くと、楽しげに笑う生徒委会長さんと目が合った。

「何の事だかわかんないっすけど」
「ふふふ、とぼけちゃって。
プレゼントの在り処が“あの場所”で、ハルちゃん実はヘコんだんじゃない?」

――な、なんてイジワルな笑顔!生徒会長さんはそっち系じゃないと思ってたのに。
しかも、私の心情を的確に言い当てている。そりゃそうだ、屋上の給水塔は、ちさとちゃんだけの憩いの場所じゃないんだから。否、というよりも、ちさとちゃんは一人ではあの場所には行かないんだ。だって、ちさとちゃん自身がそう言ってたんだから。


“ウフフ、舞の考えだと、屋上の給水塔はね、本当は舞の場所なんですって。だから、千聖は舞と一緒の時だけしか、あそこへ行ってはいけないと言われたわ。だから、遥と千聖が給水塔に行くときは、舞には内緒でね”

そんな萩なんとかのチョー自己中なテリトリーなのに、少なくとも生徒会長さんは、そこをちさとちゃんの“大切な場所”だと判断した。これはつまり、萩なんとかと千聖ちゃんの仲を認めてるってわけで。一番ヘコむパターンだわ、これ・・・。

「なんで、給水塔にしたんすか」
「ん?」
「あー、だから、生徒会長さんなら、ちさとちゃんのこと色々知ってると思うんすけど、あえて給水塔ってのが・・・」

生徒会長さんはますます面白がるように、ふふんと余裕の表情で私を見据える。

「まあ、あそこにしたのには、色々と理由はあるんだけどね。
お嬢様を連想させる場所で、あんまり人が殺到しなさそうで、・・・それでやっぱり、お嬢様が一番大切にしている場所」
「一番っすか」
「そうっすね」

はー・・・。
大きなため息を、隠すことも出来ない。

そりゃ、私だって、自分がちさとちゃんと・・・だなんて思えるほど、おめでたいアタマをしてるわけじゃない。
それでもやっぱり、落ち込むものは落ち込むんだ。

「ねえ、ハルちゃん」
「・・・ッス」
「私はハルちゃんだって、お嬢様の大切な人の一人だって思ってるんだよ?お嬢様、生徒会のメンバーにだってハルちゃんの話、よく聞かせてくれるんだから」
「どどど、どんな内容っすか!」

よもや苦情では・・・と思ったけれど、生徒会長さんの表情からすると、そういうわけでもないらしい。

「お嬢様の海辺の別荘に泊まったんでしょ?また一緒に行きたいって、嬉しそうに言ってたんだから」
「マジッすか・・・ハルと・・・また一緒に」

過剰な期待は禁物。優しいちさとちゃんと付き合っていく上で、これはかなり重要なことなんだけど、やっぱり嬉しいものは嬉しい。

「ハルちゃんはさ、お嬢様と、どうなりたいんだろ」

ふと、真面目な顔をした生徒会長さんが、私の顔を覗き込んでつぶやいた。

「どう、って。もっと仲良くなりたいとは思ってます」
「仲良くなるっていうのはさ・・・」

何かを言いかけて、口をつぐんだ生徒会長さん。
この人・・・結構派手目な顔の美人だから、黙ってると迫力がある。ハルともあろうものが、つい緊張させられてしまう。

「・・・いいや、うん。まだそれは早い話だった」


やがて、何か自己完結した様子の生徒会長さんは、いつものようににっこり顔に戻って私の肩をぽんぽんと叩いた。


「きっと、ハルちゃんとお嬢様だけの、秘密の場所っていうのもあるんだろうけど、残念ながら私はそこを知らなかったんだよね」

「いや、そういうのはないっすよ」
「じゃあ、これから出来るかもしれないね」

励ましなのか、はたまた面白がっているのか。
だけど生徒会長さんと話していると、不思議と心が落ち着く。この人がそう言ってくれるなら、本当に上手く事が進むんじゃないかな、なんて。


「会いに行っておいで、ハルちゃん」
「えっ」
「お嬢様のライブ、見てきな。ちゃんとその髪飾りも見せるんだよ」

生徒会長さんは私の手を取ると、右手首に赤いリボンを結んだ。

「私からのプレゼント。メリークリスマス!ハルちゃんにいいことがありますように!」

行ってこい!とばかりに、私の体を軽々反転させて、背中をぽんと押してくれる。

「が、頑張るっス!」

ガッツポーズの生徒会長さんに励まされながら、私は廊下へ飛び出した。


心臓がドキドキと高鳴る。
私の髪を見たちさとちゃん、どんな顔をするんだろう。三日月の目を見せてくれるのかな。早く会いたい。

「・・・の前に。あのー・・・ハル気づいてるんで。出てきてください」

生徒会室の正面の倉庫。
不自然に半分扉の開いたその場所から、肩をすくめたカノンさんが出てきた。

「バレたか」
「ハルのこと監視してたって、何にも面白いことないっすよ」

「いやーだって、ハルちゃんの恋路がどうなるか興味あったし」
「コイジってなんすか」
「まあ、大人になればわかるよ。ふふふ」

――どうも、今日は子ども扱いが過ぎる。この扱いは納得できん。
少しは知恵の働くとこも見せておかないと。そう考えて、私は口を開いた。

「カノンさん、ハル、いろいろ考えてることがあってさ。ユウカさんのことも、上手くいくかもしれないから、協力してくんねーかな」

カノンさんの目が、キラリと光った。



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