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「そうなんだ」

真剣な表情で佳林ちゃんの答えを聞いたお姉ちゃんだったが、一呼吸おくと何かに思い当たったかのようにその表情が強張ったように見えた。

「あっ、、、でも、まさかそんな・・・ あの学園で本当にそんなこと・・・」

務めて感情を抑え気味にしている様子のお姉ちゃんが佳林ちゃんに重ねて質問をする。

「佳林ちゃん、いじめられてるんだね?」


あえてストレートに聞いたのかも知れないお姉ちゃんが口にしたその言葉に僕の緊張もこの上なく高まる。

彼女の持つ出生の秘密。
それを心無い人たちに知られてしまい、そのことで苛められたりしているってことか。
小学生ぐらいの年頃だと他人の心の痛みというものに残酷なほど無頓着だろうから、その標的とされて・・・

あぁ、何と言うことだ。佳林ちゃん・・・・・

いじめ。
そんな耐え難い苦難がこの彼女の上に降りかかっているなんて。
彼女の可愛らしい姿からは、そんなことまるで窺い知ることが出来ない。
この小さい体でひとり受け止めているというのか・・・ なんていじらしい・・・

そんな彼女に対して、僕はどうやって接すればいいんだろう。
出来ることならば、僕が傍らに立って彼女を守ってあげたい。でも彼女が通っているのは男子禁制の学園の初等部。
いま僕が感じているのはただ無力感だけだった。

すっかり重たい空気となってしまったこの場の雰囲気。
だが、お姉ちゃんの固い口調とは対照的に、佳林ちゃんの返答は意外なほどさっぱりとした口調だった。

「え? いや、全然そんなことされたりはしていないですよ?」
「でも、お嬢様があのとき言ってたのは、、、そのことでめぐと言い合いになってしまって、、、そうだったよね?」

・・・いや、僕に聞かれても。
お姉ちゃんが何を言ってるのか、その意味すら全然分からないんですけど。


でも、目の前の佳林ちゃんはお姉ちゃんの言ったことに反応を示す。

「?? お姉さまが何か?」
「そうだよ! あのときお嬢様は佳林ちゃんが苛められたりしてるんじゃないかって!!11」

思い出したことが刺激になったのかちょっと興奮気味になったお姉ちゃんだったが、当の佳林ちゃんはその言葉を聞くと何故か吹き出したんだ。

「あぁ、あのときのこと、ですね。それは全部みなさんの勘違いですよ」

小さく笑う佳林ちゃん。でも次の瞬間、彼女の表情が変わる。
その円らな瞳が遠くを見つめた。


「でも、お姉さまが私のことであんなに・・・ 嬉しかった・・・」


そう言った彼女の瞳が潤んだものになったのを僕は見逃さなかった。
話しの流れが僕にはさっぱり分からないけれど、きっと佳林ちゃんにとっては自分の姉たる千聖お嬢様との大切な思い出なのだろう。

緊張感が続くようなこの場の雰囲気。
口に出す言葉すら見つからない僕の今の頼みはお姉ちゃんだけだったけれど、そこはさすがに年長者。
お姉ちゃんは、ふっと包み込むような優しい微笑みを浮かべて佳林ちゃんの言葉を受けた。

「そうだよ、佳林ちゃんにはお嬢様がいるんだから」

お姉ちゃんの言ったことに笑みを浮かべた佳林ちゃん。
だが、切り替えるように表情を真顔に戻すと、再び話しを戻した。

「それでも、やっぱり私には友達と呼べる人は少ないんだと思います」


「休み時間も一人で過ごすことが多いですし・・・・」
「そんなの別に気にするようなことじゃないよ。なっきぃだってしょっちゅう一人ぼっちだよ!」

お姉ちゃんが言ったことに、佳林ちゃんの表情が緩んだ。(緩んだ、というか、吹き出しそうになった、とも受け取れる表情だが)
意を決して悩みを打明けているのかもしれない後輩の告白を、すぐに受け止めてあげられるお姉ちゃん。
さすが元生徒会長さんだ。
だからこそ、佳林ちゃんも安心したのか言葉を続けたわけで。

「あ、もちろんクラスにも友達はちゃんといますよ。小もぉの子たちだって今でも友達です」

「ただ、本当の親友という意味となると・・・ やっぱり私には友達が少ないのかも」

「でも、一度は離れそうになってしまった遥ちゃんが私のそばにいてくれるから。
彼女がいてくれれば、それだけでもう十分なんです」

「工藤遥ちゃん。私にとってとても大切な、昔からの友達・・・」

心の内を長く語ってくれる佳林ちゃんの言葉を受けて、お姉ちゃんが言葉を返した。

「工藤遥ちゃんっていうと、えーと・・・ 分かった!あの子か!団地妻とか言われてる!!」
「いえ違います。それはたぶん聖ちゃんのことですね。確かに中等部の譜久村さんにも親しくしてもらってますけど」
「あれ? また間違えちゃったw わたし後輩の名前を憶えるのがどうも苦手で・・ しょっちゅう間違えちゃうんだよね。あははは」

「遥ちゃんは私のひとつ下の学年なんですけど、私と違ってとても行動的だし、さっぱりとした性格は明るくてみんなの人気者です」
「佳林ちゃんだって人気者じゃないか」
「人気者?私が? そうでしょうか?」


「人気者っていうのは、そうですね、同学年だと鞘師さんみたいな人のことを言うんじゃないかと思います」
「サヤシさん?」
「知りませんか?鞘師里保ちゃん。彼女は本当に積極性があって活動的で。生徒会でも部活でも活躍しているし、まさしく私のイメージする人気者です」
「鞘師、ちゃん・・・ どこかで聞いたような・・・」
「生徒会長さんも活躍されていた陸上部のエースと言われている子ですよ。初等部なのに飛び級で先輩達の練習に参加するぐらいの」
「あぁ、あの子か! 思い出したよ!とってもカワイイ子だよね。うん、あの子の動き、とても愛くるしくて!!本当にカワイイ!!」


「そして、友達だなんて、そんなことはおこがましくてとても言えないですけど」

そう前置きして語ってくれたのは、いよいよ千聖お嬢様に関することだった。


「千聖お姉さま。私が苦しんでいるとき救いの手を差し伸べてくれた方・・・」

「お姉さま・・・・ あの時、もし千聖お姉さまがいなかったら今ごろ私は・・・・・」
「うんうん。佳林ちゃんが妹になって、お嬢様もそれはそれは嬉しそうだったんだよ?」
「お姉さまが?」
「うん!それはもう!! お嬢様もやっぱり小さい子が大好きなんだね!!」


妹になったって、またその話題にいくのか。
お姉ちゃん、その件についてはあまり触れたりはしない方が・・・
でも、あまりタブー視したりするほうが却って傷つけたりしちゃうんだろうか。
そのことでは佳林ちゃんにどうやって接するのが一番いいのか、僕にはちょっと分からなくて。
それでも、やっぱりその話題は軽い気持ちで扱えるものでは無いのは間違いないわけで。僕なんかが聞いててもいいことなんだろうか・・・

お姉ちゃんがそんな僕の表情を見て、僕の思っていることを察知してくれたようだ。

「そうか、意味が分からないんですね?」

??
お姉ちゃんが僕に問いかけてきたその質問こそ意味が分からないんですが・・
僕に向かってそう言った美人さんは、笑顔で頷くと言葉に詰まっている僕へ更に話しを続けられた。

「佳林ちゃんはね、千聖お嬢様と姉妹の契りを交わしたんですよ。それでお嬢様の妹になられた!」


姉妹の契り・・・・

はい??
なんですか、それは??

予想もしていなかった説明を受けて、思わず混乱してしまった。
平凡な男子高校生には想像もつかないその言葉に、まるで現実感というものを感じることが出来なかったし。

でも、独特の香りが漂うその名称。
その単語は僕の意識の中で何か引っかかるものを感じたんだ。

そして、思い出した。
同じ単語を以前に聞いたことがあったということを。


あれは、熊井ちゃんが僕の高校にやってきたときのこと。
そのときに彼女が言っていたことに、いま思い当たったのだ。
彼女が僕の下駄箱を覗き込んで言ったとき出てきたのが耳慣れないその名称だったな、確か。

熊井ちゃんの妹になろうと申し出た人たちのその後も気になるところだが、それよりも今は、千聖お嬢様にそういう申し出をしたという佳林ちゃん。
その申し出が晴れて受け入れられた結果、佳林ちゃんは千聖お嬢様の妹となったと、そういうことなのか。
熊井ちゃんから聞いたときは、小熊軍団を妄想させられたその制度の趣旨にイマイチ賛同できなかったのだが、
目の前のこの佳林ちゃんと、そして、千聖お嬢様との2人の微笑ましい間柄を思うと、素晴らしい制度のように思えたのだった。


ん? 待て待て!?

ちょっと話しを戻そう。
この佳林ちゃんは千聖お嬢様と姉妹の契りを交わしてお嬢様の妹になった?
妹になっていうのは、あくまでも学園生の間で流行っているというその制度のうえでのこと?

ってことはさ・・・・

佳林ちゃんは千聖お嬢様の腹違いの妹ってわけじゃないのか!


僕の勘違いだったのか・・・・・


・・・またやってしまった。

早 と ち り。

一人で先走ったあげくの、完全なる脳内妄想。
断片的な情報を基に脳内で物語を作り上げていってしまう僕のこのクセは、いいかげんちょっとどうにかしたほうがいいな・・・


あまりの勘違いっぷりに、さすがに凹む。
そんな、一人で若干ちょっと落ち込んでいた僕だったが、顔を上げて佳林ちゃんの顔を見ると気持ちが上向いた。
見た人全ての心を明るくする彼女の愛くるしい表情が、いま落ち込んでいる僕の心を上向かせてくれたんだ。
こんな笑顔の彼女が人気者じゃないわけがないじゃないか!!(二重否定=強い肯定)

そして、いま彼女が語ってくれた千聖お嬢様への想い。
語ってくれた彼女の表情を見れば、そこにあるのはひたすら純粋な気持ちだということが一目で分かる。
そんな彼女のことを、お嬢様は自分の妹として受け入れられた。
いまさっき僕が聞いたお姉ちゃんとの会話の内容、それだけでも二人の揺ぎ無い信頼関係を感じることができた。

佳林ちゃん。
千聖お嬢様が妹として大切にしている存在。



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