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「遅い!!」

店のドアを開けるやいなや、僕の耳に大きな声が飛び込んでくる。
その声がした方向を見ると、いつものテーブル席には既に3人の方が陣取っておられた。

もぉ軍団が勢揃いしているのか。
なんでまた今日のこのときに限って・・・
果たしてそれは僕にとって“吉”なことなのか、はたまた“凶”となるのだろうか。
まぁ、珍しくここに来ている梨沙子ちゃんを見て、そこだけは救われるような思いを感じたんだけど。
りーちゃん・・・ 何というその可愛らしいお姿。こんなときじゃなければ僕は思う存分その姿を・・・(←)


足取りも重く、軍団の人たちが座るテーブルへと歩を進める。

僕の姿を認めるとミョーに楽しそうになったように見える桃子さん。
いじっているスマホに目を落としたままの梨沙子ちゃん。

そして、腕組みをして真っ直ぐに僕を見据えている熊井ちゃん。


・・・・・怖すぎだろ。


「突っ立ってないで座ればぁ?」

目の前の現実を見て固まりかけた僕の耳に、桃子さんのぶりぶりとした声がとてもわざとらしく響く。
言われるままに、空いていた梨沙子ちゃんの隣りの席に座った。
(ずっとスマホに夢中のりーちゃんは無反応)

そんな緊張気味な僕のことを、大きな熊さんがジロリと見下ろしてくる。
そして掛けてきたその声はといえば、あからさまな詰問口調だった。

「ここに来るだけで何でこんなに時間がかかるの?」
「ご、ごめん」


「最近ホントたるんでるよね。このあいだも席取りをサボってシメられたばっかりなのに、もう忘れたの?」

僕を睨みつけてくる熊井ちゃんの肉食獣を思わせる鋭い眼光。怖すぎる。


「このあいだって、なーにそれ?くまいちょー」
「うん。なんかね、軍団の席取りを勝手に放り出してもつ鍋を食べに行ったらしいんだよね。信じられないでしょ」
「へー、そうなんだ。任務放棄とか、そりゃーくまいちょーがお怒りになるのもごもっとも!」
「そんなことがあったばかりなのにさー」

喋っているうちに自分の言った言葉で感情が高ぶっていく大きな熊さん。
僕にとって状況は悪化の一途だ。

「その物覚えの悪さはなんとかならないのかなー。本当に鳥頭なんだから!」


この時点で既に大きな熊さんのご機嫌はこの通りなんだ。

・・・・まずいよ、これ。
大きな熊さんのこのテンション、この後の展開を考えると僕にとっては絶望的じゃないか。

「まぁ、いいや。それより抹茶メロンパンは?早く早く!!」
「いや、それが・・・・」
「ん?どうしたの?」
「無いんだ」
「無いって・・・どうしてよ?」
「ここに来る途中で強盗に襲われて」
「・・・・・」

僕の言ったことを聞いた熊井ちゃんの表情が固まった。
そのやりとりに、頬杖をついてスマホをいじっている梨沙子ちゃんが呆れたように呟く。

「もっと上手いウソは考え付かなかったのかゆー」


熊井ちゃんのその切れ長の瞳がみるみる吊り上がっていく。

「それで奪い取られたっていうの!? ぬわんですってぇぇ!!!11」

憤激した熊井ちゃんの髪が逆立ってるように見える。
僕の目には、その背後からは炎がのぼってるように映った。

「なんで死守しなかったの!? 自分の命に代えても守り通しなさいよ!」

「えっ? その言い訳を信じたの、熊井ちゃん!?」
「ウフフ、面白いなぁw くまいちょーたちはw」

「命を懸けた戦いに挑んでこそ男でしょ!? それなのに何? 少しは男ってものを見せたの?
うちはね、盗られたという結果のことを言ってるんじゃないの。事に際して何もしようとしないその性根が(ry

僕の胸倉を掴んで来そうな勢いの熊井ちゃんだったが、そんな彼女に対して隣に座っている桃子さんが言ったのは意外な言葉だった。

「まぁまぁ、くまいちょー。そんなに言ったらかわいそうだよ。少年も反省してるみたいだしさ」

興奮する熊井ちゃんを穏かな口調でたしなめる桃子さん。
えっ? 桃子さんが僕を庇ってくれているのか?(信じられない・・・)

「ねっ、少年。反省してるんでしょ?」
「えぇ、もちろんです」

「とりあえずさ、謝っちゃえば?」
「え?」
「はっきりとした謝罪の言葉があれば、くまいちょーだって穏便に収めてくれるよ、きっと」

なるほど、確かに僕は動揺のあまり、まだ熊井ちゃんに対してその言葉を言っていなかった。
ここで誠意を見せておく必要はあるだろう。

「ほら、ちゃんと謝って?」
「はい、そうですね・・・」

きっと立場上ってことなんだろうけど、仲介してくれる様子の桃子さん。
そんな軍団の長たる人の優しさに心温まる思いを感じながら、僕は熊井ちゃんに向き直ると改めて頭を深々と下げた。

「熊井ちゃん、どうか許してください」

「違うでしょ? 謝るときはこう」

そう言って、猫のようなポーズをする桃子さん。
とても楽しそう。

なるほど、それがやりたかっただけなんだな。

だが、桃子さんが言ったことはこれで終わりじゃなかったんだ。
軍団長は更に言葉を繋いで、今度は熊井ちゃんに語りかける。

「聞いたでしょ、くまいちょー。少年がこうやって頭を下げてるんだよ?
自分がしたことを反省するのは大切だからさ、それでいいじゃん」

穏かな表情でもって話しの落とし所を提示するような、そんな理知的な軍団長の姿勢が今の僕にはとても心強く感じられて。

・・・桃子さんって、やっぱり大人なんだ。
大学生ともなると、やっぱり僕なんかとは器量が違うものなのかな。
きっと、さっきのも場の雰囲気を和らげるために、あんな冗談(だったのか?)を挟んだのだろう。

「桃子さん・・・」
「それにしょうがないでしょ。取られちゃったのも、悪いのは少年じゃなくて盗っていく人の方なんじゃない?」


それでも大きな熊さんはお怒りがそうそう簡単には収まらない御様子。

「もも!甘やかさないで。緊張感が無いからそんな大切なものを奪われたりするんだよ!」
「でも、相手が悪かったんでしょ。くまいちょーが頼んだものを少年が渡しちゃうような相手なんだよ?」

なおも僕のことを庇ってくれているように見える桃子さんが次に言ったこと。


「どんな相手だったんだろうね?」

そう言って僕を見た桃子さんのその表情。
??
なんで口角が上がってるんだろう?


「よっぽど怖い人だったんじゃない?」
「その、そういうあれでは・・・」
「くまいちょーが楽しみにしてたモノを盗っていった相手だからね?やっぱり極悪人としか思えないよ」
「その言い方もちょっと・・・」
「それにしてもひどいことするよね。人が買ったものを奪い取っていくなんてさ。そんなの人としての道から外れてるよね」
「いや、そこまで言わなくてもいいんじゃないですか?」
「なに言ってるの? その人のした行為はね、許されることじゃないでしょ。それって犯罪だよ」

全く無関係の彼女があらぬ誤解で汚名を着せられそうになっているのが僕には我慢できなかった。
だから、桃子さんの言ったことを聞いた僕は反射的に叫んでいたんだ。


「愛理ちゃんはそんなことしてません!!」


僕がそう叫んだ瞬間、桃子さんの目が細められた。
実に満足そうなものとなったその表情の変化は、桃子さんの前に座っている僕にしか見えなかっただろうけど。


「えぇっ!? その相手って愛理のことだったのぉ!?」

目を見開いた桃子さんが、いかにも驚いたように言った。
なんてわざとらしい口調なんだろう・・・

桃子さんはそのことに最初から気付いていたのだろうか。
それとも話しの途中のどこかで?
この人、本当に恐ろしすぎでしょ。

僕に対して妙に優しいように見えた桃子さんの態度。
今となれば全てが思い当たる。
なるほど、ここまでが一連の流れだったんだな。
桃子さん、強すぎです。
僕はこの人には永遠に敵わないということを改めて実感させられる出来事だったよ・・・


いや、そんなことはどうでもいい。
それよりも今僕が可及的速やかに対処しなければいけないのは、目の前にいるこの見るも恐ろしい表情に変わった自称リーダーへの対応だ。

これ以上ないぐらい目が吊り上っている熊井ちゃん。
その瞳は怒りのあまり瞳孔が開いてしまっているようにも見えるぐらいにして。
ここまでの恐ろしい形相を目の前にして、僕はもう気絶してしまいたい思いでいっぱいだった。
本当に気を失うことができればどんなに楽なことだろう。


「そんなウソまでついて!! か、覚悟しなさい!!!!11」


その熊井ちゃんの剣幕は、相変わらずスマホと睨めっこしていた梨沙子ちゃんが一瞬顔をあげるぐらいだった。
(でも、別に珍しいことでもないからか、すぐにまたスマホ弄りに戻られたけど)

すさまじい形相で僕を睨みつける熊井ちゃん。
彼女の言う覚悟はもうとっくに決まってますけどね。
頭が真っ白になりつつある僕の視線は、この場をとても楽しそうに眺めている桃子さんの姿を捉えていた。
そのワクワクとした表情。そう、ショータイムの始まりを今か今かと待っているかのようだったんだ。



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