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千聖は不思議な子だ。

ずいぶん長い付き合いになるけれど、昔の千聖はとにかく明るくて、無邪気で、いたずら好きで、絵に描いたような子供らしい子供だった。
誰にでも分け隔てなく接する千聖はみんなに可愛がられていた。
キッズにいたときからすでに浮きがちだった私なんかといるより、中心のグループで楽しそうに大口開けて笑っているほうがふさわしい。
そう思っていたんだけれど、なぜか千聖は私に対して強い興味を示してきた。

「ももちゃん、大好き。」
「ももちゃん、かわいいー」

そんな風にストレートな言葉で私を褒めて、日に焼けた顔をクシャクシャにして抱きついてきた。

どうして、私に?

そう思わないこともなかったけれど、何の計算もなくただ純粋に慕われるというのは決して悪い気分じゃなかった。
そして千聖は私にだけじゃなく、ある意味同じような境遇だった舞波ともすごく仲が良かった。
千聖は見た目どおり男の子っぽい性格で、こと人間関係においてはやたらとあっさりしたものを好むから、私たちぐらいのゆるい関係が好ましかったのかもしれない。

私も千聖といる時は肩の力を抜くことができて、2人ではしゃいだりたわいもない話をしているだけで、ゆったりした安心感に包まれていた。
どんな状況でも自分を受け入れてくれる人がいる、ということがどれほど尊いことなのか、私は千聖と接することで知った気がする。

私が先にデビューが決まってからも、千聖の態度は全く変わらなかった。
ある意味キッズで取り残されてたメンバーであるにも関わらず、屈託のない笑顔でベリーズ工房全員をハイタッチで送り出してくれた。
あの時の千聖の手の感触は、今でも忘れられない。

そして、千聖は今でもあの頃と全然変わらない態度で、私の側に寄り添ってくれる。
大人になっていくうちに失ってしまう子供らしい感受性やひたむきさを、千聖は14歳の今でもまだたくさん内に秘めて成長している。
その分、年のわりに大人びている舞ちゃんや愛理と比べてずいぶん子供っぽいところはあるけれど、私は千聖の純粋さをいつまでも守ってあげたい、と思っていた。

今の千聖の「秘密」を梨沙子から聞いたときは、表には出さなかったけれど、かなり動揺した。

何だ?お嬢様って。
私の頭には、昔の少女漫画みたいにブリブリピンクのドレスを着た縦ロールの千聖が、超ワガママになって高らかにオホホ笑いをしながら練り歩く薄気味悪い姿がよぎった。キモッ!

もちろん実際見たらそういうことではなくて、言葉遣いと所作がとても綺麗になって、あとは足を閉じて座るようになったりしたのが目立つ変化みたいだ。あとは、服装とか。
千聖が私の小指を直そうとするように、私が千聖の足をガッと閉じさせるのが2人の間のお約束だったのに、それをする必要がなくなったのはちょっと寂しい。
まあ、だからといって、今の千聖に失望したとかそんなことはまったくない。
千聖がどう変わろうとも、私の千聖に対する気持ちは揺ぎ無いものだ。

千聖が私を支えてくれたように、私も千聖を助けたいと思うのは自然なことだ。
中2トリオにも、キュートのメンバーにもできないような方法で、千聖を守ってあげる。
きっと、私にしかできないことがあるはずだから。



「あれ?もも、梨沙子は?」

みんなが待つ控え室まで戻ると、みやが首をかしげてこっちを見た。

「一緒に戻ってくるのかと思ってたんだけど。」
「あー、愛理と千聖がお見舞いしてた。また少し経ったら見てくる。」
「じゃあ次私が行くよ。」
「いやっいい!ももが行ってくるから!」

まだ千聖がいるかもしれない。3人とも気が昂ぶってる今、私以外の誰かと接するのは危ない気がした。

「・・・なんかもも、今日変だね。梨沙子もだけど。」
まぁが口を開くと、みんないっせいにうなずいた。

「変といえば、千聖もちょっと変だったよ。さっき廊下で見かけたけど。」
「千聖?」
「ちがっ!千聖は関係ないでしょ!」
今ここでその話を膨らまされると困る。
慌てて割ってはいると、また訝しげな視線を向けられてしまった。

「・・・まあ、別にいいよ。ももがうちらに心を開かないのなんて、前からじゃん。どうせ、ベリーズはキュートと違って、家族的じゃないからね。」

さっきまでのケンカ口調とは違う、ちょっとしずんだような声で徳さんが皮肉っぽく笑った。

「ももぉ。」
あー。困った。


「ねえ、ももってば・・・」
「ごめん!今のはももが悪い。でも、いろいろ話すのはまだ待ってて。事情があるの。
ちょっと私、もう一回梨沙子のところ行ってくる。」


返事も待たないで、私は逃げるように部屋を出た。

女の子の集団って、本当に難しい。
一人で空回りして、私は何をやってるんだか。
ケンカ中とはいえ、徳さんのあの表情を思い浮かべたら胸が痛んだ。



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