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 おそらく無自覚ではあるものの、仮にも「超高校級の希望」という字を賜った苗木誠。
 彼の手によって幾度もの絶望から救いだされた霧切響子が、自分の中に潜む彼への好意に気づいたのは
 空白の二年間を過ごした学び舎を後にして、間もなくのことであった。

「僕、ちょっと食べるものを探してくるね」
 そう言って彼が部屋を後にしたのは、今から数分前のこと。
 学園を出てから根城にしているホテルの一室で、私は彼の帰りを待つ。
 ホテルといってもほとんど廃墟のようなもので、まともに使えそうな部屋は三つしかなく
 『腐川っちに気ぃ使うってわけじゃねえけど、男女一組で一部屋使うべ』という葉隠の言葉には
 あからさまな朝日奈への下ごころが見えていて。
 まあ、朝日奈も十神も、その提案にはまんざらでもない様子だったから、それはそれでいいのだけれど。
 そんな経緯があって、私と彼はなりゆきからか必然からか、同室で生活している。

 住処となったホテルは、今でこそただの廃墟だけれど
 その造りからして、おそらく一年前までは、恋人たちが愛を育むために通うための建物だったのだろう。
 そんな雰囲気もあってか、彼と同室で生活することに、少しの期待も抱いていなかったと言えば嘘になる。
 極限状態で、一部屋に住まう男女ともなれば、自制がきかなくなり、明らかな好意がなくとも行為に発展する、というのが創作話なんかじゃ定石だ。
 あの御曹司と殺人鬼…もとい文学少女ですら、三日目には進展があったというのに(朝日奈に後で耳打ちされた話だが)。
 それなのに、私の淡い期待を裏切って、ここで暮らしてからの数日間、彼は一度たりとも私に手を出そうとはしない。

 嫌われている、というのはないと思う。
 彼の挙動はわかりやすいし、これでも「超高校級の探偵」だ、観察眼には自信がある。
 だとすれば、私が思っているよりも私自身に魅力がないのか、それとも彼が「超高校級の朴念仁」なのか。

 数日間にも渡るおあずけを喰らった私の体と心は破裂寸前で、しかし共同生活をしている手前、見境なしに欲情を吐き出すわけにもいかず、
 だからこそ彼がいなくなったその一時に、私は無意識に自分の下着の下へと手を伸ばしていた。

 けっして自分は淫らな雌ではない、と、必死に自身に言い聞かせる。
 一人で自慰に耽ったことは、ないこともないが、それほど多くもない。
 自制心だって、人並以上にはある。
 けれど、この時ばかりはもう、限界だった。
「んっ…」
 超高校級・と肩書は付けども、所詮は私も高校生だ。
 そういうことへの興味だって無いわけじゃないし、その方面の知識に疎いわけでもない。
 片手で自分の慎ましやかな胸を触り、もう片方の手でするすると、自分を包む衣服を脱ぐ。
 手袋は外さず、下着姿でベッドに腰かけ、改めて自分の体を触り続ける。
「はっ…あ」
 やはり、限界だ。少し指先が触れただけで、電気のような刺激が走る。
 潤、と湿った感触が肌着に広がり、秘部へと手を伸ばすと、既に漏らしたかのように溢れていた。
「…んっ!あぅ、はぁっ…」
 指が触れるたびに、下半身が痙攣しているかのように震える。
 過酷な日々が続いたから、色々と溜まっていたのかもしれない。

 この指が、苗木君の指だったら、なんて

 考えた瞬間に、下腹部が熱くなった。
「っ…あぁっ!!」
 心臓はバクバクと音を立て、膣がギュッと収縮する。
 そして、途端に背徳感に駆られた。妄想の中で彼を汚すことへの罪悪感。
 それでも、私の指は動きを止めず、手袋越しにあそこを愛撫する。
「あっ、や、やぁっ!んんっ、ふ、うぁっ!」
 止まらない。声も、指も、妄想も。
 止めようと思っても、彼の純朴な笑顔が浮かび、そして高ぶる。
 下卑た妄念で彼を汚し、淫らにベッドの上で乱れ狂う。
 最悪だ。
「はっ、苗木、く、ぅんっ!!」
 思わず、彼の名を呼んでしまう。声にすることで一層、体中に劣情がほとばしった。

 カタ、と、何かが倒れたような音がして、
 私は指を止め、ベッドから飛び起きた。

「あ…」

「き、霧切さん、その…」
 真っ赤にした顔から汗をふきだし、狼狽する苗木君が、ドアの前に立ち尽くしていた。


『苗木の視点』

 「超高校級の幸運」なんて呼ばれてはいるけれど、ホントに僕にそんなモノがあるのか、甚だ疑問だ。
 だって、そんな肩書を与えられた僕に舞い込んでくるのは、いつだって幸か不幸か分からない問題ばかり。
 今目の前に広がっているこの現状は、その例として最たるものじゃないだろうか。

「はっ、苗木、く、ぅんっ!!」

 女の子にあまり肉体労働を強いたくないから、と、葉隠君と二人で食糧を探し、
 思いのほか近くにコンビニ(といっても、これも廃墟だ)が見つかったので、めぼしいものを取って帰ってきた所だった。

 自分の部屋でもあるけれど、霧切さんの部屋でもある。
 当然のマナーとして、入室前にノックはしたのだけれど、返事がないのでそのまま部屋に入ってしまったのだ。
 目を疑うような光景。あの霧切さんが、ベッドの上で、下着姿で自慰に耽り、挙句僕の名前を呼んでいる。
 ドッ、と、汗が噴き出した。どうしようもなく湧きあがった色情と、どことなく募る焦燥感。
 この部屋にこのままいるのは、まずいんじゃないだろうか。そう思い、葉隠君の部屋にでも行こうと足を引いた、その時。

 僕に気付いた霧切さんが、ガバッとベッドから飛び起きた。

 互いの視線が交差する。一気に、霧切さんの顔が青ざめていく。
「あ、霧切さん、その…」
 僕は何か言おうと、口を必死に開いたけれど、出てくるのは言葉にならない空気ばかり。
 どうしよう。なんて言えば、正解なんだろう。

「いつから…いたの?」
 下着姿を隠すこともなく、さも平然と、霧切さんが尋ねた。
「ほんの、ついさっき…」
 堂々とした霧切さんの声とは逆に、情けなくも僕の声は消え入りそうなほどか細かった。
「そう…」
 目があった直後は、絶望したような顔つきだったけれど、だんだんとその表情は消えていって、
 いつのまにか霧切さんは、いつも僕をからかう時に見せる、含み笑いを浮かべていた。
「…その、ゴメン」
「なぜ謝るの?」
 なぜ、と聞かれても。僕には、応えることができない。
 『自慰の邪魔をしてしまってごめんなさい』なんて言った日には、二度と口をきいてもらえないだろう。
 何も答えない僕にしびれを切らしてか、下着姿のまま、霧切さんがベッドから降りて、歩み寄ってきた。
 目のやり場に困る。必死に素数を数えるけれど、そんな努力もむなしく下半身が反応している。どこかに消えてなくなりたい。
「で、どうするの?」
「なっ、何が?」
 声が上ずっている。なんとも情けないけれど、だってしょうがないじゃないか。
 綺麗な白い肌の女の子が、少し息を荒げて、黒い下着姿で目の前に立っている。心なしか、良い匂いもする。
 これで緊張しない男子なんか、いない。
「偶然にも自慰の最中を目撃されて、私は今、あなたに弱みを握られているわ。
 他の人に黙っていてくれるなら、出来る限りでどんなことでもしてあげるのだけれど。
 さて、ここまで言えば、あとはわかるわね?」

「えっ…と、その…」
 ずい、と、霧切さんが体を押し出す。僕は思わず、一瞬だけれど、その体に目をやってしまった。
 ホントに、雪のように綺麗で白い肌。服の上からじゃわからないけれど、とても細くて、儚げで。それでいて愛おしい。
 僕は滾る欲望を必死に押さえつけて、努めて冷静に答えた。
「や、やだな…からかわないでよ霧切さん。
 心配しなくても、他の誰かに言ったりなんて、絶対しないから。
 僕、ちょっと外にでてくるね」
 据え膳食わぬは、とはよく言うけれど、僕は武士なんかじゃない。
 あんな挑発的な事を言っていても、霧切さんのことだ、反応に困る僕の表情を見て、楽しみたいだけなのかもしれないし。
 ここで欲望のままにふるまって、今まで必死に諸々我慢して築き上げた信頼を、壊したくはない。

 と、僕が背を向けたその瞬間、

 どっ、と、霧切さんが僕の背中にもたれかかった。
「…逃げないでよ」
「えっ?」
 さっきとは対照的な、驚くほどに弱弱しい声。その声に、一瞬だけ気を緩めてしまい、
 気づくと僕は、ベッドの上に放り投げられていた。

 あの細い腕のどこに、そんな力があったのかは分からない。探偵だから、護身術なんかも身につけているのかな、なんて
 飛ばされながら、僕は呑気に考えていた。
 ドサッ、と、仰向けに倒れ込んだ僕の上に、霧切さんがのしかかる。
「…苗木君」
 今度は一転して、威圧するような目つき。思わず僕は、その迫力に息を飲む。
「は、はい」
「嫌だったら正直に言って。身の危険だと感じたら、遠慮しなくていい、私を突き飛ばしても構わないわ」
 言うが早いか、霧切さんは僕のベルトを一瞬で外し、ズボンを脱がせにかかる。
「ちょっ、霧切さん!?」
 聞く耳すら持っていない。僕は少し、恐怖さえ感じた。
 霧切さんが、僕のパンツから、既に限界まで腫れあがったアレを取りだした。
「…なんだ、苗木君も興奮していたのね」
「あ、あの…」
「全然反応してくれないから、余程私に魅力がないのかと思っていたんだけど…」

 魅力がなくなんかない、と否定しようと口を開いた瞬間、僕の口から出たのは、なんとも情けないあえぎ声だった。
「う、ぁあっ!?」
 霧切さんの白くて綺麗な手が、僕のそれを、思い切り扱き始めた。

「き、霧切さん、待って…っ!」
「待たない」
 扱かれて数分、最初はぎこちなかった霧切さんの手つきも、だんだんと慣れたものになっていて。
 終いには僕のそれを、口の中に含んで、舌で舐めまわしている。

 あの霧切さんが、だ。

 それだけでもう、僕のそれはハチ切れる寸前で
 彼女を汚してはいけないという一心で、さっきからずっと我慢してはいるけど…
「だ、めだ…も、限界…っ!」
 僕は霧切さんの肩に手をかける。
「霧切さん、離して…出るっ…!!」
 けれども霧切さんは、必死に僕のそれに喰らいついて、ジト目で僕を見上げた。
 もう、我慢できない。
「うぁあっ!!」
 身の縮むような快感。思わず僕は、体を震わせた。ドク、ドク、と、精液が中をかけていく。


「っ…はぁっ!はっ、うぅ…」
 一瞬の絶頂と、その後に押し寄せてくる虚脱感で、僕はベッドにそのまま倒れた。
 霧切さんはしばらく顔をつけていたけれど、やがて頭を離し、口の中にたまった僕の精液を喉の奥に押し込む。
「…話には聞いていたけれど、変な味ね」
 霧切さんが不敵にほほ笑む。僕は茫然として、ろくに反応も出来ずにいた。
「まだ元気なようだけど」
 霧切さんは呆れたように、僕のそれを指さした。
 その言葉通り、一度出したにも関わらず、僕のそれは硬さを失わずにいる。
 ホント、若さって罪だ、なんて頭の片隅で考えていると、
 突然霧切さんが、下着を脱いで僕にまたがろうとする。
「ちょ、ちょっと、何してるの!?」
「何って…まだやれるでしょう、苗木君?」
 そう言って、霧切さんは自分の秘部を僕のそれにあてがう。
 無様な事にも、熱くてヌルリとしたその感覚と、妖艶な霧切さんの裸に見とれて、僕のそれは再び反応しだす。
 けれど、これはさすがに度を越してまずい。
 僕は状態を起こすと、霧切さんの肩を強く掴んだ。
「だ、ダメだ、霧切さん!」
 びっくりしたような眼で、霧切さんが僕を見る。
「こういうことは、ダメだよっ!」

 急に、霧切さんの表情が暗くなった。
「…って何…?」
「え?」
「ダメって、何よ…!」
 霧切さんが顔を振りあげる。そこには、涙が浮かんでいた。


『霧切の視点』

「こういうことは、ダメだよっ!」
 このまま最後までいってしまおう。なりゆきに任せよう。なるようになれ。
 半ばやけくそ気味に思っていた私の魂胆は、彼の悲痛な叫びで中断されてしまった。
「ダメって…何…」
「え」

「ダメって何よ…!」
 嫌なら追い払えば良い、と、卑怯にも私は彼に提言した。

「あの、霧切さん…」
 彼が、そんなことを出来る人間じゃないと、知っていたから。

「…こういうこと、したくないなら、ちゃんと拒んで。私が嫌なら、そうハッキリ言って。
 でないと私、あなたへの思いを我慢できない…だから、曖昧な言葉で済ませないで頂戴…
 『他に好きな子がいる』でも、『私をそういう対象として見れない』でも良いから、どんな理由でも良いから断って…
 どうしてもダメなら、せめて希望を持たせるような言葉を言わないで…お願いだから…っ!」

 無茶苦茶を言っていると、自分でも分かっている。
 勝手に彼に、希望や好意を抱き、それを押しつけているのは自分だ。
 それなのに、彼に責任を求めようとしている。
 こんな情けない女なら、彼が今まで手を出してこなかったのも、仕方ない、と
 私は涙をぬぐうこともせず、ひとりごちた。
 きっと目の前の彼は、困ったような顔をしているだろう。自分が面倒な女だと、つくづく思い知らされた。



「――それは、違うよ」
 不意に彼の言葉が、私を射抜く。

「ゴメン、霧切さん…僕、曖昧な態度で、ずっと霧切さんを困らせてたよね」
 失望でもなく、茫然でもなく、ただ真っすぐな誠意を浮かべた目が、私を見ている。

「僕、恐かったんだ…霧切さんに、その…手を出したかったけれど
 あんな事件があって、今も必死に一日一日を生き繋いで、
 そんな中でこんな気持ちを持っているって霧切さんに知られたら、軽蔑されるんじゃ、って。
 でもそれって、自分の気持ちをごまかすための言い訳でしかなかった。

 だから、ちゃんと言弾(コトバ)にする。
 僕、霧切さんのこと、大好きだよ」

 時が止まったような、錯覚。鼓動が聞こえるほどの、静寂。
 数瞬して、怒涛のような幸福感が、体中に広がっていく。
 聞き間違いじゃないだろうか?夢のたぐいじゃないだろうか?さっきまでとは別の意味で、胸が張り裂けそうだ。
「…もう一度、言って」「大好きだよ」
「もう一度」「大好きだ、霧切さん」
「もっと、もっと…」「誰よりも愛してる。ずっと一緒にいたい」

 私は裸のまま、彼に抱きついた。涙が止まらない。
 抑圧されてきた思いが、涙が、決壊したダムのように、流れ出てきた。
「私も…!私も、苗木君のこと…っ、好き…」
 彼の肩に顔をうずめると、優しく頭をなでてくる。



「じゃ、お互いの思いは確認したわけだし」
 けれど、そんな幸せな時間は、
「もう我慢しなくていいんだ…さっきは霧切さんにしてもらったから、今度は僕が霧切さんにしてあげるね」
 怒涛の苗木節に、脆くも崩されることになると、私はこの時、全く予期していなかったのだ。


「…え、ちょっ」
 例の、子犬のような愛くるしい笑みで、彼は体を起こす。
「雑誌で読んだ知識しかないから、ちゃんとできるか分からないけど」
「あの、苗木君、待って…」
「気持ちよくなってもらうために、僕、頑張るから」

「ね、ねえ、苗木君、話を――」

「んっ、……ぷはぁ…っ、んんっ…」
 反論しようとした私の唇を、苗木君が自身の唇でふさぐ。
 ホントに雑誌の知識しかないのか、と疑いたくなるほど、彼の舌が巧みに私の口腔を犯す。
 ぬるり、くちゅ、と、自分の中で響く淫猥な音に、思わず耳をふさぎたくなった。
「胸、触るね…」
 少しだけ口を離してそういうと、彼は私の返事も待たず、右手を私の胸へと回す。
 彼も男子なのだから、と、多少の荒っぽさは覚悟していたが、それどころか彼は、丁寧に私の小さな胸を愛撫した。
 そっと、なでるように。その優しすぎる感覚に、思わずどきりとする。
「はぁ…う、っ…や…」
 彼の掌が胸の尖端をこするたびに、切ない感覚が響く。
 苗木君は私の背に回ると、今度は両手で胸を責めながら、耳をそっと甘噛みした。
「んぅっ!」
 ゾクゾク、と、知らない感覚が背中を駆け抜けた。体中の力が抜けて、私は彼にもたれかかる。
 くちゅ、くちゅ、と、耳の中を彼の舌が這いまわり、一方で、あくまで優しく、胸を責められる。
「あ…あ、んっ!…ぅ、ふぁっ!!あ、や…ひぅっ!!」
 心地いい一方で、少しじれったくもある責めに、私は思わず足をすり合わせた。

 ふと見ると、彼の掌が私の胸を包んでいる。の、だけれど…
 残念な事に、彼が揉みしだくには、私の胸はいささか…いや、割と…ううん、かなり足りないようだった。

「…ご、めんなさい、ね…」
「へ?」
「胸…男の子は、大きい方がいいんでしょ…私、小さくて」


「そ、それは違うよ!」
 あわてて苗木君が応える。
「ぼ、僕は霧切さんの胸だったら、大きさなんてどうでもいいよ!」
「…そう?お世辞でも、慰めてくれて嬉しいわ」
「ホントだよ!メロン並に大きくても、逆にえぐれてても、霧切さんのなら…!」
「苗木君…えぐれているのは、さすがに私が嫌だわ…」
 くすり、と笑いそうになるのを、必死でこらえる。
 彼は私のために、真剣にフォローしてくれているのだから、笑ったら失礼だ。

 そして、
「ホントにホントだよ、霧切さんの胸、すごく綺麗で…」
 その後の彼の本気の攻めに、私は笑うどころじゃなくなってしまうのだった。

「な、苗木君、何するつもり…っん!」
 彼は私の胸に顔をうずめたかと思うと、胸の尖端を舌の上で転がし始めた。
「あっ、やぁっ!な、苗木く…ふ、ぅんっ!話を…あぁぅ…」
 本当に、初めての感覚。自分でするのとは、全然違う。
 その感覚に戸惑ってしまい、私はどうすることも出来なかった。
 彼が私で気持よくなってくれれば、それだけでいいと、そう思っていたのに。

「っ…ぷは…」
 しばらくして苗木君が舌を離すまで、私はもうベッドの上で身もだえすることしか出来なかった。
「どうかな、霧切さん。気持ちいい?」
 例の無邪気な笑顔。子宮の当たりが、キュン、とくすぐられるような。
 母性本能、とでもいうのだろうか。
「あの、苗木君、私はホント、もう大丈夫だから…早く、その…」
「ダメだよ。こういうのは、二人で一緒に気持ち良くならなきゃって、昔読んだ雑誌に書いてあったんだ」
 出てこい、その雑誌の編集長。

「それとも…あまり、よくなかった…?」
 余程私が仏頂面だったのか、今度は笑顔から一転して、捨て犬のような困り顔を見せる。
 そういう表情は、卑怯だ、さっきから。
 これが某「超高校級の同人作家」の言っていた、「萌え死しそう」というやつか。
「…いえ、そんなことなかったけれど…」
「ホント!?よかった、僕、もっと頑張るから、いっぱい気持よくなってね!」
 この無邪気さは、ホント、反則だ。
 そんなことを言葉にしようと口を開くも、それらの雑音は、私自身の喘ぎ声に消されてしまうのだった。

 そして、彼の手が、そっと下半身に伸びる。
「あっ…!?」
 思わず声を出してしまい、彼は何かまずったか、と顔をあげる。
 もちろん今の私に、そんな彼を直視することなどできない。
 自慰を中断して、ただでさえ疼いていたその秘部は、更にさんざんな胸への責めでお預けを喰らって
 やっと彼の手が触れてくれる、そう思った瞬間に、軽くイってしまったのだ。
「わ、すごい…下着、ぐちゃぐちゃだよ、霧切さん…」
「そ、いうこと、言わないで…」
 彼が脱がした私の下着は、汗と愛液にまみれ、滴が落ちるほどだった。
 途端に恥ずかしくなる。

「押しに弱いって、ホントだったんだな」
 彼がぼそりと呟いた言葉、その詳細を聞く前に、彼の指が私のそこに触れる。
「あっ、んっ…っ!?」

 戸惑いを隠せない。自分で触るのとは全然違うとは聞いていたけれど、これほどだなんて。
「っ、ん、んんっ…んっ!」
 手で口をふさぐ。そうでもしないと、みっともない嬌声を我慢できなかった。
 足を閉じようにも、もう下半身に力が入らない。それどころか、彼の指を求めて、だらしなく腰を突き上げている。
 苗木君も苗木君で、私の気持ちを知ってか知らずか、触れるか触れないかの微妙な愛撫を繰り返す。
 さわさわと、股の間をまさぐっていたかと思うと、一転して突然ぬるり、と指を滑り込ませる。
 変幻自在。ホントに女を知らない男子高校生なのか、疑わしくなる。
「ん、んぅうううっ、ふぅっ、ん゛っ、~~~~っ!!」
 私はもう、声を抑えるので必死で、苗木君の指にただ弄ばれるだけだった。

 そして、ずるりと、彼の指が本格的に私の中に入ってくると、
「~~っっああぁあっ!!」
 私はとうとう、声すらも我慢できなくなった。
「霧切さん、大丈夫?痛かった?」
 そんな私に、相変わらず彼は、例の捨て犬の表情で声をかける。
 今そんな顔を見せられたら…
「だ、だいじょぶ、だか…らっ…」
「気持ちいい?」
「…わか、ら、ないわ…っく、ぅ…」
 大嘘つきだ。分からないどころの話じゃない。耐えがたいほどの、逃げ出したくなるような、快楽。
 彼の指が、的確に私の弱いところを突く。擦りあげ、捻り、抜いて、また入れる。
 私の口からは、声にならない声が、絶え間なくあふれていた。
 こんな、こんな…

 そして、彼の指が、ピンとたったクリトリスをつまむと、
「うっ、あ、やぁあああぁあっ……!!」
 私は体を九の字に曲げて、大きく深い絶頂に達したのだった。
「あっ、うぅ、ふわぁあああぁぁあぁあぁっ、あぁうっ…」

 凄すぎる。こんなの、初めてだ。
 絶頂を迎えた後も波は引かず、定期的に私の体を快楽に引きずり込む。
 もう一度、何もしなくてもイってしまいそうなほど。
 彼の指、というだけで、ここまで違うなんて。


「き、霧切さん…」
「はぁ、は、はぅうっ…」
 息も絶え絶えな私に、再三捨て犬がすり寄ってくる。
「もしかして、今、イった…?」

 こ、の~~~っ…!

 あれほどまで私を責め抜いておいて、そこまで言わないとわからないのか。
 それともこの顔は彼の演技で、実は私の反応を楽しんでいるだけじゃないのか。
 幸福感とともに、なんとも言い知れぬ悔しさに見舞われた私は、

「い…イって、ない、わ…」

 懲りずに、再び嘘をつくのだった。

「そ、っか…」
 苗木君が少し落ち込んだのを見て、私は心の中でほくそ笑む。
 少しはお返しになるか、なんて甘いことを考えていた。
 けれど、正直者を騙したつけは、必ず嘘つきに返ってくるのが世の常なようで、
「じゃ、僕もっと頑張るね!」
 彼は真剣そのものの表情で、そんなことを言うのだった。

「あっ、待って、少し休ん…ぁっ!」
 今度は彼は、自分の体を、私の両足の間に入れて、秘部に顔を近づける。
「…女の子のココ、よく見たことなかったけど…こんな風になってるんだね」
「っ、やぁあっ、そういうこと言わないで…」
「霧切さんの、すごくエッチな匂いしてる…」
 顔を覆いたくなるような羞恥。彼くらいになると、この言葉攻めも天然のものに思えてくるから、やっぱり卑怯だ。
 そして、私が二の句を紡ぐ前に、彼は自分の口を、私のそこに押し当てたのだ。

「わぁ、ゃ、待って苗木君、ホントに…うぅんっ!はぅ、は、ダメっ…そこ、きたな…あっん!!」
「霧切さんの体に汚い所なんかないよ。それに、さっき霧切さんも僕にしてくれたでしょ」
 ただでさえ一度イって敏感になっているのに、ホントにこの少年は、わざとやってるんじゃないだろうか。
「あぁんっ、ふぁあああ、ああぁうああっ!」
 ジュルジュルと、音を立てて吸い込む。
 もうだめだ、負けを認めるしかない。
 これ以上意地を張り続ければ、本当に、どうにかなってしまう。
 だけれど、この快楽は、私に敗北を認める言葉さえ、なかなか出させてくれない。
「苗木く、ぅ、んんっ、はぁっ!…やぁあ、お願い、待って…っ、ら、らめ…」
「ホントに、汚くなんかないんだから」
「ちが、そうじゃな…っ、あぅ、っ、う、イ、イってるから…あ、さっきから、ずっとイキっぱなしなの、
 だから…っ、や、やらぁっ!!!~~~っうぁあああ、も、もう…ゆるし、て、くだ、さいっっ……ぃいぁああああああっ!!!」

 絶頂。

 二度目、それも一度目よりもさらに深く、更に大きい波。
 とうとう間に合わず、私は「許して」と口にしながら、大きく腰を跳ね上げた。
 尿のようなものが激しく飛び散り(潮、というのだと、後で彼に聞いた)、苗木君の顔中にそれを撒き散らして、
 そんな汚いことをしながら、私はその背徳にやられ、波が退いた後も小さく絶頂を繰り返した。

 ベッドに横たわり、汗と自分の愛液にまみれて、私はしばらく悶え続け、
 そしてそんな私を、彼はさも愛しそうに抱きしめてくれた。



 しばらくして、少しだけ体の熱も引いてきた頃。
 それでも私の体は欲張りなようで、また愛液が膝のあたりまで伝っている。
 私自身の心は、このまま彼の腕の中で眠るのもいいかも、などと思っていたけれど、
 彼が切なそうにアレを滾らせ、そしてそれを気づかれまいと必死に振舞う姿を見ていると、
 やはりこの少年への愛しさを感じ得ずにはいられなくなるのだった。

「…苗木君」「…はい」
「まだしたいの?」「…僕は、その…」
「…正直に答えて」「…あの…入れたい、かな…でも、霧切さんの負担になっちゃうから、今日は…」

 まったく、このお人好しは。
 あれほど私が自分の好きなように振る舞い、そしてあれほど私を気持ちよくしてくれたのに、
 この期に及んで、まだ見返りを求めずに、人の気遣いばかりして…

「ハァ…」「ご、ゴメン、呆れるよね」
「…そうね、呆れるわ。何を遠慮することがあるの?」
 私はゆっくりと上体を持ち上げた。まだ腕に力は入らなかったけど、それでも。
 彼を、感じたい。彼に、感じてほしい。

「もう、恋人同士なんだから…この体、苗木君の好きなように、していいのよ」
 私は自分の秘部を、彼に広げて見せた。死ぬほど恥ずかしいけど、さっきまでのに比べれば、これくらいなんともない。
 広げたそこからは、愛液が滴り落ちて、自分でもはしたないと思う。
 けれど、彼が満足してくれるなら、それだけでいい。もう、何もいらない。
 一瞬、彼の瞳に、獣らしさが宿った。ああ、本当に男の子なんだな、と、ここでやっと実感する。
「苗木君…」
 彼は無言で立ち上がり、下着を下げた。既に完全な復活を遂げた、その荒々しいものを、私の秘部に再びあてがう。
「…霧切さん」
「…ええ」
「いくよっ…」


「うっ、つ、~~~~っ!!」

 激痛。
 ぶちぶち、という生々しい肉の切れる音。
 それに伴う、心地いい充足感。
 彼も先ほどまでと違い、しばらくは私の激痛を気遣う余裕もないようだった。
「っ、は、ぅ…霧切さんの中…すごい…」
「い、言わなくて、いいから…」
「熱くて、狭くて、うねうねして、すごい気持ちいいよ…」
「言うなって言ってる、の、に…っ、あぁあ゛っ!!」
 その言葉に反応して、無条件で膣が収縮する。
 そして再び、激痛。
 彼が愛しすぎるから、いけないんだ。だから、彼の言葉にいちいち反応してしまう。
「苗木く、ん…動いて…」
「…いいの?まだ、痛いでしょ?」
「これくらい、なんともない…から、っ…お願い…」
「わ、わかった。ゆっくり、動くからね」

 ずっ、ぬるっ、ずっ、ぬるっ、

 繰り返し動くうちに、少し、本当に少しずつだけれど、痛みにも慣れてきた。
 ただ必死に息を荒げ、腰を振る彼が、愛おしくてたまらない。
「ペットとか、飼ったら…こんな、気持ちなのかしら…っ」
「ペットって、ひどいな…ハハ」
 笑って見せたものの、彼の顔にはもう、余裕がなくなってきていた。
 動きたい、激しく動きたい、中に出したい、そんな欲望が明らかに見てとれる。
「…苗木君、大丈夫?」
「え、僕?僕、は、なんともないけど…」
「もう、好きなように動いていいわ…痛いのも、消えてきたから」
「…でも、手加減できないかも…ホントに、止まれないかもしれないんだ。気持ち良すぎて…」
 ほら、そんなことをいうから、また中が締まる…
「うぅっ!」「あぁっ!」
 高さの違う二つの喘ぎ声が、部屋に反響する。
「…馬鹿、ね…遠慮なんてしなくていいって、言ったでしょ…」
「霧切さん…」
「でも、一つだけ、お願いがあるの」
「何…?」


「…名前…」
「名前?」
「今だけで良いから、下の名前で呼んで…終わるまで」

「…響子、さん」「私の名前に、「さん」は、付かないわ…」
「…っ、響子」「聞こえない。もっと、大きな声で…」

「はぁっ…きょ、響子っ!」
 堰を切ったように、彼が暴れ出した。はぁ、はぁ、と息を荒げて、私の中を蹂躙する。
「響子、好きだ!大好きだよっ…!」
「あ、あぁああっ、あああっ!!」
 激痛も快楽も超えた、充足感が、私の中を満たしていく。
 髪を振り乱し、必死で彼の腰遣いに自分を合わせる。もっと、感じて。もっと、気持ちよくなって、私で。
「響子、気持ちいいよ、すごくっ…」
「なえ、ぎ…ま、誠君っ!誠君、もっと動いて…っ、あぁああっ!」

 一段と大きく早く、彼が腰を振る。
 私はとっさに、最後の力を振り絞って、彼の腰を両足で縛りつける。

「あっ、き、霧切さん、ダメ…」「名前っ!下の名前で呼ぶのぉっ!」
「響子、ダメだよ、でちゃうっ!」「出して、中に!出してぇっ…」

「「うっ…ああぁああぁあああっっ!!!」」

 彼の射精を感じた瞬間、
 私は、これまでにないくらい、先ほどまでの行為でもなかったくらいの、
 大きな絶頂に達していた。



 しばらく私たちは、そのまま繋がっていた。彼が私の上にまたがり、私がそれを抱きとめる、そんな構図で。

 ふと、思いついたように、苗木君が私の頬を舐める。
「…ね、霧切さん」
 もう、下の名前ではない。それが、すこしだけ残念に思える。
 けれど、下の名前で呼び捨ては、彼からすればやりにくいだろう。私も、彼に合わせる。
「何?苗木君」
「その…」
 見ると、彼の顔は、最初私の自慰を見たときと同じくらいに、真っ赤に染まっていた。
「…して、いいかな」
「ん?何?」
「さ、最後にキス…だめ?」
 そして、捨て犬モード。こんな至近距離で、そんな爆弾級の愛くるしさに見舞われる、私の身にもなって欲しい。
「…ダメっていったら、しないの?」
「しな…」
 彼は、そこでハタ、と考え直し、少しだけ精悍な顔つきになる。
「ううん、ゴメン、間違えた。最後にキス、するね」
「…ハイ、どうぞ」
 私は彼の目を見ながら、ゆっくりとまぶたを閉じる。
 今度こそ、このまま、眠ってしまうのも良いかもしれない。

 目を閉じながら、私は思う。

 例え二度とこの目が開くことがなくても、
 どうか最後にこの目に焼き付けるのは、私を絶望から救ってくれた、
 この希望に満ちあふれた、ちょっと頼りない少年の笑顔であればいいな、と。



「…やーっと、結ばれやがったか、あの奥手カップルども…ゲラゲラ」
「なかなかくっつかなくて、じれったかったもんねー」
「わざわざ気を使って同じ部屋にしてやったというのに、全く…」
「ま、よしとするベ。終わりよければ何とやら、ってな」