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 朝比奈がいつものように早めに食堂へ向かうと、セレスから先日の不埒千万の詫びとして、CDを貸してもらった。
 本人が言うには、楽曲ではなく、リラックス効果のある音声データということで、
 運動後の就寝前などに聞くと、より効果があるらしい。

「あたしこういう、磁気とかイオンとか、そういうリラックス効果?みたいなの、結構好きなんだよねー」
「それはよかったですわ…ふふふふ」


 渡した時のセレスは、少し狂気じみた笑い方をしていたようにもみえたけれど…気のせいだろう。

 お詫びなどと言われても、正直気持ちよかったことは事実なんだし、
 大神を交えた約束で、自分が実は淫乱な女だということはばらさないでいてくれるようだし、
 謝られることなど特にないとは思うけれど、貸してくれるのなら素直に受け取ろうと、朝日奈は単純にも考えていた。

 まだ悪意を知らない、純真な少女。
 セレスの毒牙に蝕まれても、彼女にはセレスを疑うことなど念頭になかった。


 プールとトレーニングルームで一通り体を動かして、くたくたになりながらシャワーを浴びて、
 プロテインとドーナツを飲み干し、CDプレイヤーを片手に、朝日奈はベッドにもぐりこむ。


『この音声データは、催眠の暗示によってより集中し、身体をリラックスさせることを目的として――』

 CDの電源を入れると、自動で音声データが流れ出した。
 再生時間には、およそ60分と表示されている。

 少し物騒な言葉は聞こえはしたけれど、まあ大丈夫だろう。
 どこかで聞いたことのある声に思えたけれど、それも気のせいだ。

 朝日奈はイヤホンを耳にはめ、ベッドに横になり、途中で眠ってもいいように明りを消した。

『まずは呼吸法です。頭に大自然の情景をイメージしながら、大きく息を吸って…』

 言われた通りに深呼吸を行うと、催眠術と聞いて幾分か興奮した好奇心が、少しだけ和らいでいった。
 呼吸を行うたびに、少しずつ少しずつ。スポーツ選手の性か、この辺は条件反射かもしれない。

『次に、メトロノームを用いての集中を行います』
 カツ、カツ、と、左右のイヤホンから交互に、小気味良いテンポを刻む音が聞こえる。
 振り子のように、右、左。
『音が聞こえた方に、軽く首を傾けてください』
 言われる前から、朝日奈はそれを行っていた。右から聞こえれば右に、左から聞こえれば左に。
 そうすることが自然のように思えて、そうすることがすごく気持ちいい。


『さあ、ゆっくりと…まぶたが落ちてきます』


 彼女はまだ、その違和感を感じ取れずにいた。

『堕ちる…スーッと、堕ちる…まぶたが落ちると、意識も落ちる…』
「ん…」

 正常な心持ちなら、その言葉の響きの危険性に気づけたかもしれない。
 しかし、催眠という言葉への好奇心と、そしてスポーツ選手のなせる集中力が、簡単に彼女を催眠の世界に引き込んだ。

 両の瞳を閉じた途端、彼女は眠りよりも遥かに深層の世界へと落ちていった。


 そこは、無意識の世界。理性では抗えない、本能の世界。
 朝日奈という人間の根幹の部分に、その声は、けっして抗えない暗示を刻みつける。



『両足のつま先を意識してください。深呼吸のたびに、そこから力が抜けます。
 …つぎは、足首…膝…腰…上半身へ行って、両手の指…』

 無意識の世界は、水泳の最中のように心地よいもので、
 論理的な思考を行えないまま、彼女は聞こえてくる言葉に、素直に身も心も委ねる。
 言葉の通りに、四肢から力が抜け落ちていく。
 体中の力が抜けたまま、彼女は無防備な頭で催眠の言葉を待った。


『今からあなたにかける暗示は、私が再び解除するまで、あなたを支配します。
 けれど、支配されることは、気持ちいい…。何も考えなくていいことは、とても気持ちいい。
 だから、私の言葉があなたを支配するのは、普通のこと。当然の常識。わかったら、「はい」と返事をしてください』

「…はい」


『あなたにかける暗示は、数字の暗示です…。あなたは「ゼロ」という数字が大好き。
 「ゼロ」はあなたにとって、一番いやらしい、エッチな数字です…
 カウントダウンが始まると、あなたは「ゼロ」が待ち遠しくて、いてもたってもいられなくなります。
 「ゼロ」を聞いた瞬間、あなたは絶頂を迎える。「ゼロ」と言われなければ、どれほど気持ちよくても絶頂は来ない。

 わかりましたね?』

「…はい」

『では次に、私が手をたたくと、この無意識下の世界は終わります。
 あなたは目が覚めると、ここでの出来ごとを忘れるけれど、暗示にはずっとかかったまま。
 自分で身体を動かすことも出来なければ、「ゼロ」という言葉で絶頂を迎える。では…』


 パチン


「ん…」
 ぼんやりと視界が元に戻る。

 一瞬寝てしまったのか、と、朝日奈はけだるい頭で考えた。
 うたた寝に就く寸前のように、体を動かすのが億劫だった。
 心地いい眠りにつけていたのに、何の拍子で起きてしまったのか。

『おはようございます』

 音声データがそう言うのを聞いて、自分がセレスのCDを聞いていたことを思い出した。
 けれど、「おはようございます」?なぜ自分が寝ていたことが分かるのだろう。
 少しだけ混乱する。

『気持ちよく眠れましたか?まだ、頭がぼーっとしているかもしれませんね。
 体中の力が抜けて、今も眠ってしまいたいような心地よさに包まれていますね?』
「…はい」

 無意識に、返事をしてしまった。

 でも、その通りだ。
 本当に体中の力が抜けて、まるで動かせない。このまま眠ってしまいたい。



『ふふ…では、もっと気持ちよくなりましょう』
 聞き覚えのある、含み笑い。
 嫌な予感がする。


『あなたには今から、私の声の通りにオナニーを始めてもらいます』

「!?」
 朝日奈は飛び起きようとして――自分が本当に、身体の自由を奪われていることを知った。

『先に言っておきますが、もうあなたの身体は私のモノ。自分の意思で動かすことはできません。
 けれど、私の言葉には従順に反応します。右手をゆっくりあげて…』

 言葉の通り、右手が宙に浮いた。
 まるで何かに吊りあげられているかのように、勝手に。

 途端に、得も言われぬ恐ろしさが、彼女の脳を支配した。
「な、何コレ…怖いっ…」
 イヤホンを外そうと頭を振り乱すことすらできない。


『それではゆっくり、衣服を脱いで、生まれたままの姿になってください』

 両手が下着を脱がしにかかる。
「いやっ、やだぁあ!!」

 反抗できるのは、声だけだった。

 いつかのように服は全て剥ぎ取られ、身体の自由を奪われる。
 あの時は、快感に身を委ねたくても委ねられなかったのに、今は委ねたくもない快感に身を委ねなければならない。

『裸になったら、ゆっくりと深呼吸してください。吸って…』

 言われた通りに、肺が呼吸を始めるのを感じて、朝日奈は真に恐怖した。
 呼吸の自由も奪われている。それはつまり、自分の生死をこの音声に握られているということに他ならない。

 息を止めろと言われれば、今の自分は息を止めてしまうのだ。


「ひっ、ぃ、ひいぃ…ふぅううぅ…」
 奥歯をカタカタ震わせながら、ぎこちない深呼吸を繰り返す。
 助けを求める悲鳴――もとよりそんなもの誰にも届かないのだが――すらも、呼吸に邪魔されてしまう。


 そんな朝日奈を見透かしたかのように、音声は言った。

『リラックスして…肩の力を抜いてください。大丈夫、何も怖くない…
 衣服を脱いだ、一糸纏わぬ今のあなたは、とても自由。何もあなたを束縛することはできません。
 周りの人間関係や、世間の常識、そしてあなた自身の常識からも、あなたは自由なのです。
 今だけは、私の言葉があなたの常識、私の意思があなたの意思…わかったら、返事をしてくださいね』

「…はい」
 口を衝いて出た返事は、恐怖からか、それとも催眠の暗示からか。

『呼吸を続けながら…右手を意識してください。指、手首、肘から肩まで…左の手も、同様です。
 それらはもう、あなたの腕じゃありません。感覚はあるけれど、あなたの意思では動かせない。
 なぜなら、その腕は私の支配下にあるから。私の言うとおりに動かさなければならない…いいですか?』
「はい…」

『胸に手を当ててください。…呼吸のたびに、ゆっくりと上下しているのがわかりますね」

 始まった。

 朝日奈の手は、身体を這うようにして胸まで登ってくる。感覚はあるのに、それは自分の意思じゃない。
 鼓動はどんどん速くなるのに、呼吸は一様にして静かだ。


 服を脱がされた時から、期待していたのかもしれない。
 セレスに自覚させられた。自分が、淫乱なメスだと。

 こんな、一歩間違えば命だって危うい状況なのに、もう興奮してきてしまっている。

『さあ…乳首を触ってあげましょう』

 音声データは、同じ調子で話しかけてくる。

『もう待ちきれなくて、硬くなってきていますね。優しく指で摘まんであげてください。興奮しますか?』
「はい…っ」
『ゆっくりと、摘まんだ指を上下に動かして、擦ってあげてください。ゆっくり、焦らずに…』

 音声に動かされる身体は、朝日奈の意思とリンクし始めていた。
 自分の意思のように、両手が胸を愛撫する。
 激しくはなく、あくまで優しい愛撫が、逆に朝日奈の興奮を高めていく。
「はっ…あっ…」

『もっと激しく弄りたいですか?でもまだダメ…今は下準備の段階です。
 あとで思う存分に弄らせてあげるから、それまでは我慢…わかりましたね?』
「はぅ…はい…」

 あとで思う存分、弄ることができる。
 その言葉を聞いて、どこか安心してしまった自分が憎い。

 ダメだ、先ほどまでは身の危険を意識して恐怖していたのに。
 ココを弄られると、頭が蕩け出してしまう。

『左手は胸を弄ったまま、右手をゆっくりと下へ向かわせてください。
 胸の尖端から、なぞるようにして…脇腹、おへそ、下腹部…今ちょうど子宮のあたりかな?
 ふふ、期待しちゃいますか?でもまだ、あそこは弄ってはいけません…』
「ふぅ、うぅう~…」

 右手がパタパタとせわしなく、下腹部で悶えている。
 セレスに責められるまで気づかなかったことだが、朝日奈は自分が焦らしに弱いと知っていた。

『早く弄りたいですか?おまんこぐちゃぐちゃにして、気持ちよくなりたいですか?』
「くっ、ふ…ん、やぁう…」

『では、ちょっとした暗示をかけましょう。簡単な暗示です…
 自分自身を変態だと、そう認めるだけ…それで、あなたの右手はおまんこを好きなだけ虐めてくれます。

 ちょっと恥ずかしいかな?でも…ふふ、あなたにとっては簡単な暗示かもしれませんね。
 おっぱい虐めただけで、こんなに気持ち良くなってる、エッチなあなたにとっては…』

「あぅ…認める、認めます…!」
 朝日奈は声を荒げた。
 セレスに調教されて以来、羞恥心は彼女を興奮させるための助燃剤にすぎなくなっていた。
 一度タガが外れてしまえば、狂ったように自分を責めあげてしまう。
「私は、朝日奈葵は、おっぱいだけで気持ち良くなっちゃうくらい、エッチで変態です…ふやぁああっ!!」

 潤と濡れたそこに、何の前触れもなく指が滑り込んできた。


『それでは…ココから先は、私の音声は必要ありませんね。一度、あなたの両手を、あなたの支配下へ返します。もう、自由ですよ。
 いつもしているように、オナニーを始めてください。一番気持ちがいいところは、あなたが知っているはず。
 胸、乳首?クリトリス?それとも中の方がいいのでしょうか?自分で自分を、虐めてあげてください。ふふふ…』

 自由といっても名ばかりで、そこにあるのは、意志を介さない両手による体の蹂躙。
 自分の好きなように動かせるわけではなく、自分の好きなところを際限なく弄られるだけ。

「はぁあっ、ひゃぁああぁ!…あっ、や、ソコ…っ、んっふっあぁあぁぁああっ!!」

 それは本当に不思議な感覚で、自分の手だという感覚はあるのに、言うことを聞かない。
 さんざん焦らされた朝日奈の、先ほどまでの恐怖はどこかに潜んでしまっていた。

 かわりに頭を支配したのは、どうしようもない興奮。
 いつもと同じように弄っているのに、他人に弄られているような背徳感。
「あっ…ふぁ、ん…」
『どんどん濡れてくる…とても気持ちいいですね…返事は?』
「は、い…」

 思わず言葉に従ってしまう。
 音声データの言葉すらも自分の意思であるような、自問自答をしているような、そんな錯覚を受ける。
 言葉に出して快感を認めることで、朝比奈の被虐心はいっそう膨れ上がった。

「んっ…ふぅ…っ、まだ…?…あぅ…」
 いつもなら既に絶頂してしまうほど弄っても、なかなかそれは訪れず、
 朝日奈の体には、徐々に快感がため込まれていく。

『気持ちいいでしょう?でも、あなたの体に暗示をかけているから、私が合図するまでイくことはできません。
 どんどん深く、堕ちていく…思う存分、好きな所を弄ってくださいね』
「はぅ、はんっ!…あ、やぁ…」
『返事は?』
 声に合わせるかのように、指が膣内をえぐった。
「は、はいぃ!」


 既に、催眠に呑まれている。
 朝日奈の頭には、抗うという考えすら浮かばなくなっていた。


『人間の体は、ある程度までしか快感を蓄積できません。脳が危険を察知して、強制ストップをかけるからです。それが絶頂…
 絶頂という天上があるから、そこに達することで身体は満足感を得るし、それ以上の快感は蓄積できないのです。
 じゃあ…催眠術で、この天上を頭の中から消してしまえば…どうなるんでしょうね、ふふふ』


 足は快感を恐れて閉じようとするのに、その隙間を、指が巧みにすり抜ける。
 露わになった胸は隠すことすらかなわず、もう片方の手と、自分の舌の餌食になってしまっている。
 自分でも知らなかった性感体すら責めあげられ、朝日奈は身体をよがらせることも叶わずに悲鳴を上げた。

『おまんこ、気持ちいいですね…。もうとっくにイけるくらいの快感なのに、身体はイけないから、もっともっと快感を欲していますね』
「んっ、ぅ!あ、あぁ、イけない…イきそうなのに…っ」

『そろそろ、イきたいですか?』

 音声データがそう言うと、大きく心臓が脈を打った。

『女の子の部分をさんざん虐められて、もう我慢できないですよね?思いっきりイきたいですよね?』
「んっ、はい…」

『ふふふ…では、今からあなたが絶頂を迎える暗示をかけます。私がカウントダウンを始めると、
 あなたは溜めこんだ快感の波に襲われて、最後の数字に達した瞬間に、最高の絶頂を迎えることができます。
 …逆に言えば、最後の数字を言わなければ、いつまでも絶頂はお預けのまま…わかりましたね?』

「はい、はいぃいっ…わかったから、は、早く…」
『カウントをいつ始めるかは、教えません…。いつ訪れるか分からない絶頂に悶えながら、快感を溜めてください。
 オナニー、気持ちいいですか…?ずっと夢中に弄って…まるで、本当に変態のようですよ』
「やっ、やだ…そういうこと言わないで…」

 言わないで、と言いつつも、朝日奈の体中を、心地の良い羞恥心が駆け巡る。
 一人でする自慰よりも、何倍もの快感を感じていた。
 捕食者としての、攻められる気持ちよさ。
 マゾヒズムが開花しつつあった朝日奈にとって、自慰を促す催眠誘導は、これ以上にない最高の嗜虐者だった。

『変態と言われることも、もはや快感なのですね…本当に、いやらしくて、エッチな、変・態・さん』
「うぁっ、ふぁあぁあ…」
 変態といわれるたびに、子宮が収縮する。
 それは、自分が本当に変態だという、まぎれもない証拠だった。

「じ、焦らさないで、ぇ…早く、早くぅう…」


『じゃあ、まずは「一回目」…そうですね、カウントは100から始めましょうか』
「ひゃ、く…?」

 朝日奈の顔に絶望が浮かぶ。
『99、98、97…』
 既に、爆発してしまいそうなほど、快感が身体を圧迫しているのに。
 そんなに焦らされては、頭がおかしくなってしまう。

 それでも自分には、数字を待つことしかできない。
 普段の彼女なら数回は達しているほどの快感なのに、寸止めされているかのように達することはできない。
『93、92、91…』
「ふぐ、ぅう~~~…んっ、ふ、あぁあぁ…」

『…ふふ、冗談ですよ』
 いたずらっぽく、音声データが笑いかけた。


 そして、最初のそれは、唐突に訪れた。
『5、4、3、2、1…0』


「えっ…?」

 朝日奈が思わず、その「えっ…?」を口にした、まさにその直後。
 彼女の体の中に溜まりに溜まった、本来ならとっくに天上を突き破っているはずの快感が、途端に爆発した。

 まずは、大きく腰が跳ねあがる。

 足ががくがくと震え、秘部から脳天に快感が突き抜ける。
 驚愕の一色に塗り固められた朝日奈の表情は、徐々に苦悶と愉悦の入り混じったものへと変わっていった。

「えっ……あ…カ………っ……!!」
 喘ぎ声も忘れてしまったかのように、朝日奈は口をパクパクとさせるだけだった。
 首を絞められたかのように、喉から出るのは風邪のような呼吸音だけ。
 ぐるり、と、白目をむく。

 自分の絶頂を知覚したのは、その後から。
「ひっ、ぎ……っ…!…っ!!」

 シャアアアア

 と、押し留めることすらかなわず、小水を撒き散らす。
 それが尿道を駆け抜ける感覚で、もう一度イってしまいそうだった。

 支配された右手を引きぬくことも出来ず、指が膣に締め付けられるのを感じる。

 セレスに責め立てられた時とは、別の絶頂感。
 自分の手で達しているという違いが、朝日奈の官能をいっそう高めた。

「あっ、あぁ、あぁあっあぁあぁああ…」
 ようやく、喘ぎ声が追いついた。
 余りの感覚を脳が処理しきれない。

『気持ちいいですか?』
 音声データが、白々しく尋ねた。
「ひっ、ひぃっ…」
『気持ちいいですよね。い~~っぱい我慢した後にきめたアクメ…あ、でもこの場合は、我慢とはちょっと違うかな?
 寸止めじゃなくて、ホントはイってるはずなのに絶頂できなかったんですものね』
 朝日奈は返事をすることも出来ず、肩を震わせて息をしていた。


 我慢したわけじゃなく、「絶頂」という天上を取り払われた。
 達することができないから、身体は絶頂を求めてもっともっと快感をため込む。
 過冷却のような状態で与えられた絶頂。余剰した快感が、絶頂に上乗せされる。

「あっ…ぐ…?」
 朝日奈はまだ、自分の身に何が起きたのか、理解できなかった。
 部分的な情報しか、頭が把握できないでいた。
 震える身体。あり得ないほど巨大な絶頂を迎えた自分。

 そんな朝日奈をあざ笑うかのように、
『さ、質の次は量、ですね』
 音声データは再生を続ける。

『休んでいる暇はありません。再び、右手を動かしてください』

 ぐちゅり

 絶頂によって緊張を失った秘部が、さらに奥へと指をくわえこんだ。
「ひゃ…ふあぁっ!!」
 本当に、自分でも出したことのない女の悲鳴が、喉の奥から飛び出てきた。
 既に腰は悲鳴を上げ、ぶるぶると痙攣を続けている。

 無理もない。かつてない絶頂を迎えて敏感になっている秘部を、容赦なく責められているのだから。

 朝日奈は軽いパニック状態になって叫んだ。
「待っ、あぁぅっ!!や、やめ…イってる、もうイってるからぁ…っ!!」
『いつもよりもずっとずっと、敏感になってますね。普通なら脳が危険信号を出して、身体が痙攣して、触るのを止めるレベル。
 でも、あなたの腕は私の言うことしか聞かないから、止めることはありません。普通じゃ絶対に味わえないオナニー…新鮮でしょう?』
「やだっ、やだぁああっ!!怖いよぉおぉっ、あぁあぁあっ!!」

 快楽の恐怖。
 頭が溶けてしまいそうなほど、強烈。
 指は相変わらず、彼女の中を責めたてる。

 今度は、左手がクリトリスの包皮をめくり、むき出しのそれを責めあげ、
 右手は膣内で、もっとも敏感な部位を執拗に擦りあげてくる。

 本来なら気絶しているほどの快感。いや、気絶できたなら、まだ救われたかもしれない。
 気が遠くなるたびに、話しかけてくる音声データによって、意識を引きもどされてしまう。

『はーい、二回目行きますよ。今度はゆ~っくり』
「止めて…ふゃあっ!!……止めてぇっ…!」
『じゅーう…きゅーう…はーち…』


 カウントダウンが始まると、やはり心臓が高鳴る。
 嫌なのに、二度とイきたくはないのに、無理矢理絶頂を「期待させられる」。
『なーな…ろーく…ごーお…よーん…』
「あぁ…あぁああぁ…や、らぁ…」
 ゾクゾクと、ゆっくり腰を巡り這う快楽。延々と寸止めされているような錯覚に陥る。
 一瞬でイかされてしまった先刻とは違い、今度は自分が、徐々に絶頂に上り詰めていくのを、直に感じねばならなかった。
 数字がゼロに近づくにつれ、その快感は次第に絶頂に近づいて行く。

『さーん…にーーーーい……いぃぃいいいいいいいいち…』
 引き延ばされる数字。「一」は、絶頂するかしないかの本当の瀬戸際。
「ひっ、ぃぎっ…っ!!!」
 その最ももどかしい一瞬を、何秒分にも引きのばされた朝日奈は、また呼吸すら奪われて、喘ぐことも叶わない。

 最後の数字を紡ぐために、音声データがわざとらしく息を吸う。
 もうイきたくなんてないのに、身体は無理矢理な絶頂を受け入れる体勢に入っていた。

『ぜーーーーーーー「あっ、ひゃ、ぃぎぃいっ!!!ふに゛ゃあぁあああぁあぁあ…!!」ーーーーーーーーろっ!』

 「ぜ」から「ろ」まで、絶頂は続く。
 引き延ばされたその絶頂の中で、朝日奈の上げた悲鳴は、もはや猫などの獣が喘ぐようだった。

 女性の絶頂は、数秒から十数秒にも及ぶ。
 しかし元々感じやすくイきやすい朝日奈の身体は、負担をかけないように、絶頂の天上は低く設定されていた。
 感じたら、すぐイく身体。早く、軽い絶頂。
 十数秒にも及ぶ、重い絶頂を味わうのは、当然これが初めてであった。


 そんな彼女を追い詰めるかのように、音声データは続ける。

『54321ゼロ!ゼロ!ゼロっ!!』
「ひぎぃっ!!?あがっ!!はぐぅううっ!!!!」

 まだ絶頂の余韻の残る身体が、再び絶頂を迎える。

 今度は一気に、三回分の絶頂。
 前の絶頂が収まりきる前に、さらに上の絶頂に押し上げられる。
 天井など、既に突き破っていた。
「は…あぁ、あ…」
『はい、絶頂三回分。油断していましたか?余韻に浸っている暇はないですよ』

「も…う、許してぇ゛…死ぬぅ…こ、れ…以上は、死んじゃうよぉお…」
 涙も鼻水も涎も、蛇口をひねったように流れ続ける。「ガチ泣き」というやつだろう。
 恐怖から歯をカタカタと噛み鳴らし、やや過呼吸気味に、少女は懇願する。

 そしてもちろん、音声データはデータ。彼女の声など、届くはずはない。
『それじゃあトドメ、いきますよ…』
「やだ、やだぁあああっ!!あたま、おかしくなっちゃうよぉおおっ…!!」

『さーん』
「やめて…おねがい…」

『にーーい』
「ひっぃ、ひやぁあああああぁああっ!いやだあぁああぁっ…!!」

『いーーーち』
「あ…っ……あぁ…助、けて、っ…誰か…サクラ、ちゃん…っ…」

『ゼーーーーーーーロっ!ゼーロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロ…………っ、ゼロぉ~♪』

「いっ、ぎ、に゛ゃあぁああぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁああぁあ!!!!!!!!」



 朝日奈の意識は、そこで途切れた。
 余りにも大きな感覚を知覚して、ショートする前に、自動でブレーカーが落ちたのだ。
 ただ、身体だけが、その絶頂の一つ一つに大きく反応し、電気を通されたかのように跳ねまわっていた。

 既に目に光はなく、焦点は定まらず、どこか虚ろを見て、時々「ぁ…ぅ…」と、死にかけの猫のように、小さく鳴くだけだった。
 そのまま気を失うように眠りにつき、




 彼女が目を覚ましたのは、翌日、日が昇り、そして再び沈んでからだった。

「ん…」

 まだ身体に力が入らない。汗や涎や恥ずかしい液で、体中がベトベトのままだ。
 まどろむ頭を振り起こして、自分の状況を整理しようとしていた、そのとき。

「おはようございます…とはいっても、もうこんばんわの時間ですけれど。よく眠れましたか?」

 部屋の隅から聞き慣れた声がして、朝日奈はビクッと身をすくませた。
 昨日の自分を嬲りあげた、あの音声データと寸分違わぬ声。
 徐々に記憶が舞い戻る。

 そうだ、自分はこの声に、徹底的に弄ばれたのだ。
 その音声データを渡してきた相手こそが、この声の主。
「いかがでしたか?私の作った、リラックス催眠オナニー誘導CD…」
「セレス…ちゃん…」

 ギリ、と、朝日奈はセレスを睨みあげた。
「そんな怖い顔、しないでくださいません?一度は身体を重ねた仲ではありませんか」


 彼女が、どんな意図でこのCDを渡したのか。
 その答え如何によって、朝日奈はセレスを、ここに来て初めてだが、危険な相手と認識する。

「あんな変なCD渡してきて、どういうつもり…?」
「ふふふ…あなたの乱れっぷり…なかなか見ごたえがありましたわ」
「っ…見てたの?」

 朝日奈の声は、震えている。怒りからか、恐怖からか。

「あ、あんなの聞かされたらしょうがないじゃん!アレさえなければ、私…私、あんなこと絶対しないもん!」
「さて、アレとはなんのことでしょう。私が見たのは、一人でオナニーに没頭する、変態な朝日奈さんの姿だけですわ」
「ふざけないでよっ!私、怒ってるんだから、ね…?」

 す、と、セレスがピンク色の箱――山田から没収したカメラだが――を突きつけた。
「っ!!」
 朝日奈は息をのむ。
 写されていたのは、ドロドロになりながらも自慰に耽り、よがり狂う自分のエロチックな姿。
 耳に繋がるイヤホンはともかく、この写真だけ見せたら確かに、朝日奈が一人激しく自分を慰めているようにしか見えない。

「な、何でそんなの撮ってるの!?消してよ、消してってば!!」
 朝日奈がベッドから乗り出し、カメラとセレスに手を伸ばした瞬間。


「『ゼロ』」

 その手は届くことなく、朝日奈の体ごと、地面へと堕ちていった。
「あっ…んっぐ…っ!?」
「これだけよくかかっていれば、脅しとしての写真など、必要なかったかもしれませんわね」
 セレスはそう言って、急な絶頂に見舞われ、何が何だか分からないまま地面に臥している朝日奈に手を伸ばした。
 あごを指で支え、無理矢理に自分の顔と目を合わせる。

「な、にを…?」
 朝日奈は、紅潮した蕩け顔のまま、セレスを睨む。
「まだ状況が飲み込めませんか?もう一度イけば、少しは理解できますか?『ゼロ』」
「あぐっ、ひゃぁあぁっ!!?」

 しばらく休んだ分、快感がより鋭敏なものとなっている。
 地面に臥したまま、朝日奈は背筋をのけぞらせた。

「あなたはもう、私の奴隷なのです。私の言葉一つで、絶頂に達してしまう、淫らな性玩具…」
「そ、そんな…っう…」
「ふふ、ふふふ…これでこの学園の生活も、退屈せずに済みそうですわ。ああ、そうそう、念のため…
 万が一私の命令に逆らったら、あの写真を…そうですわね、苗木君あたりにでも見せてしまいましょうか」
「っ!!?」

「ではまず、ドロドロの身体を『ゼロ』きちんと洗い流してしまいましょう。
 大丈夫、身体に『ゼロ』力が入らないでしょうから、私が『ゼロ』手ずから洗って差し上げますわ。
 お楽しみは、それからですわ…ふふ、うふふふふふふふふ…」

 既に言葉を失くし、『ゼロ』のたびに跳ね上がる玩具を見て、セレスは悪魔のように恍惚と、その場で笑い転げた。


 シャワールームで汗を流す間も、じっくり、ねっぷりと体中を弄りまわされながら、
 朝日奈は、この学園に入学し、この悪魔と知り合いになった、自分の運命を呪った。

 これ以上にない、恍惚の表情で。