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「う……ん」
覚醒した頭が、光の差さない暗闇と辺りに漂う腐臭を知覚し始める。
理想とする優雅かつ爽やかな目覚めとはほど遠い、最低な気分の目覚めだった。
「ふぅ……」
最早慣れたもの、と溜め息をつき、身体を起こす。
寝台となっているのは、天蓋付きのベッドではなく古びたソファー。
身体に掛けられているのは、純白のシーツではなく小汚い毛布。
今ではこの生活が、私――セレスティア・ルーデンベルクの日常だった。



ここは希望ヶ峰学園地下ゴミ処理場。
あの日、私は"処刑"のため、魔女狩りの魔女よろしく火あぶりにされ――その最中に飛び込んで来た浪漫もへったくれもない消防車に轢き潰された。
否、そうなるはずだった。
私が生まれつきプログラムされた幸運――勿論、"超高校級の幸運"という触れ込みの彼ほどの物ではないが――これまでのギャンブル人生を支え続けていたそれが作用したのかどうなのか、私は奇跡的に轢殺を免れ、消防車が駆け抜けた後の瓦礫の山に無傷で転がっていた。
モノクマは大仰なセットまで用意した処刑方を失敗したことがえらく気に障ったようで、壊れたセットごと私の周りの床を無造作に落とし、そしてまたしても無事に落下した先がこのゴミ処理場だったという訳である。


その日からもう8日が過ぎようとしている。
それまで特に不自由のない生活を送って来た身としては、この環境は正に地獄と呼んで差し支えない。
ゴミ処理場の名の通り、辺りでは処分されないままのゴミが酷い悪臭を放っている。
どこかに脱出口は無いかと動き回ったせいで自慢の衣装は真っ黒だし、当然身体も洗う訳にもいかず汚れ放題である。
こんな目に合うくらいなら、あそこで処刑されていた方がどれほど良かったか。
「ん……?」
どさ、と何かが落とされてくる音がする。
また新しいゴミだろう。
嫌だけれど、早く漁らないと。
新しいゴミはそれでもまだ口にできる物が多い。少しでも時間が経った物は、すぐに腐って使い物にならなくなってしまう。
此処へ落とされた当初は、そんな惨めな自分の姿に涙を溢したものだが、今では生きるためにその行為を受け入れる事が出来ていた。
少し前の自分からはとても考えられない姿だろう。
それまで何より優雅であろうとしてきた自分が、いざ生きるためとなればゴミをも漁る。
(全く、浅ましいものですわね。人間というものは……)
――まして、自分のように、生きるため他人の命を奪った者が。
「……いけませんわね。そんな事を考えている場、合……じゃ……」
頭を振り、いつもの様にゴミの落とされてくる方へ歩き出そうとし――そして足をもつれさせその場に倒れた。
「あ……ら……?」
身体を起こそうとして、腕に全く力が入らない事に気づく。
そんな、まさか。
確かここ3日はろくな物を食べていない。まともな飲み水ともなれば尚更だ。
もう……限界が来たというの……?
「いや……」
こんな、こんな所で終わりだなんて。
まだ私の夢も叶えていない。
決死の覚悟で行った殺人もあっさり暴かれ、彼らの命を無為に奪ってしまったまま何も出来ずに、こんな――
「いや……いや……いや……ですッ!!」
残された力を振り絞り、上体を持ち上げ――そのまま手を滑らせ、無様に仰向けに倒れる。
「う……あ……」
目に映るのは、空ではなく黒い虚空。
希望の全てを呑み込むかのような、深い暗闇だけだった。

「なえ……ぎ……く」
自分の口から思わず出た名前に、はっと目を見開く。
その驚きは、すぐに哄笑に変わった。
「ふ、ふふふ……あはは……」
おかしな話だ。
こんな時に浮かんでくるのが、あの凡庸という言葉を人型に当て嵌めたような少年だなんて。
戯れにナイトなどと呼んでからかったりもしたけれど、確かに彼との時間は楽しかった。
将来性も含めてCランクなどと、私としたことがかなり甘めの採点をしてしまったけれど、でも、本当は――
(ああ……)
光を失ってきた瞳に、彼の姿が写ったような気がした。
最後の時に、幻といえど顔を見せてくれるとは、なかなか気が利く男の子だ。
これなら、世界で初のランクBに格上げしてあげてもいいかもしれない――
(流石は、わたくしのナイト、ですわ)
そして、私の意識は、闇の中へと沈んでいった。



「う……」
覚醒した頭が、光の差す空間と調理された食べ物の匂いを知覚し始める。
「……ここ、は?」
横になったまま、周囲の様子を確かめる。
簡素だが清潔なベッドと、物は少ないが整理の行き届いた部屋。
天国というには味気無いし、地獄というには物足りない。
そして何より、その景色はここ数週間を過ごした部屋と余りに酷似していた。
(寄宿舎……?どうして)
がちゃ、と扉の開く音がする。
そちらの方へ顔を向けると、そこにはここ数日ですっかり見慣れてしまった少年が立っていた。
彼は私の顔を見ると、抱えていた果物を取り落とし駆け寄って来る。
「セレスさん――!」
「苗木……君?」
駆け寄ってきた彼は床に膝をつき、両手で私の手を握る。
温かい。
幻ではない確かな温もりが、心と身体にじんわりと染み渡ってくるようだった。
「良かった……生きててくれて……」
「苗木君……わたくしは一体」
状況のわからない私に、彼は一通りの説明をした。
私が地下に落とされた後の経緯。
真相に近づきすぎた霧切さんを殺すため、黒幕が彼女を処刑するためにルールを無視した裁判を行ったこと。
それを庇った苗木君が代わりに処刑されそうになり、そしてゴミ処理場に落とされ、倒れていた私を発見したこと。
彼が作ったという卵雑炊を口に運びながら、私は静かに彼の話を聞いていた。

「そうですか……地上は随分と忙しない有様だったのですわね」
「これからボク達は、きっと黒幕と直接戦うことになる。セレスさんも、ボク達と一緒に――」
「――いいえ。それはできませんわ」
きっぱりと、彼の話を断る。
……彼がそう言うであろうことはわかっていた。
けれど、それだけは出来ない。
「わたくしは、一度は仲間と呼んだ人を殺めた人間です。そんな者を再び仲間と呼べる人など……何処にいるでしょうか?」
「セレスさん……」
山田君。それに、私が直接手に掛けた訳ではないとはいえ、石丸君。
私の身勝手で命を落とした二人。
そんな彼らに今更詫びることなど出来ないし、かつての仲間達にも同じ事が言える。
私は、もう、皆と一緒にはいられないのだ。
しかし――そんな私の思いに反論するかのように、熱い掌が私の手を握ってくる。
「そんな事ない」
「苗木君……?」
彼は時折見せる、強い意志のこもった眼差しで私を見つめてくる。
「悪いのは黒幕だ。ボク達を殺し合いせざるを得ない状況に追い込んで、そうせざるを得ないように仕向けた」
沈痛な面持ちで彼は言う。
「誰もが、犯人になってしまう可能性があったんだ。……だから、ボクには犯人だった人も恨むことはできない」
「…………」
本気、のようだった。
彼は本気でそう言っている。
被害者となってしまった皆。そして――私を含めた、犯人となってしまった皆。
その両方を思い、彼は悲しんでいるのだ。
「……そう言って頂けるのは、とても有難い事です。ですが、苗木君はそう言って下さっても、他の皆は……」
「ボクが説得する。わかって貰えなかったら、わかって貰えるまで何度だって」
彼の強い視線に、それ以上何も言えなくなってしまう。
「ボクは引き摺って行くよ。山田君や石丸君、舞園さん、不二咲君の事も……犯人になってしまった、皆の事も。だから、もしセレスさんが彼らの事を少しでも思うのなら――ボクと一緒に引き摺って行って欲しい」
「――――」
仲間の死と自分の罪を背負い、引き摺っていく。
彼の言うその道は、きっと険しいものになるだろう。
罰を受け処刑されるより、あの地下での生活より、ずっと。
けれど、彼が隣に居てくれるのなら、這いずってでも進んでいけるかもしれない。そう思えた。
「――ありがとう、ございます」
決して罪が消えた訳でも、罰を受けた訳でもない。
それでも、この絶望的な学園の中で、少しだけ救われた気分になっていた。
「……不思議な方ですね、苗木君は。いつもは頼りない男の子ですのに、こんな時ばかりは頼もしく思えてしまいますわ」
「あはは。人より少しだけ前向きなのがボクの唯一の取柄だから」
彼は気付いていないのだろう。
彼のそんな姿が、私に――そしてきっと、今もこの学園を生きている仲間達にも希望を振り撒いていることに。
「謙遜することはありませんわ。わたくしのナイトなのですから、それくらいは当然です」
私に光を与えてくれたように。
彼はこれからも誰かを救って行くのだろう。そういう人なのだ。
「ふふ、うふふ……そんな苗木君をいつまでもCランク扱いしているのは失礼に当たりますわね」
私の心は決まった。
彼ならば、きっと後悔することはない。
「――おめでとうございます。これで苗木君は、晴れてBランクに昇格致しましたわ」
「あ、うん、どうも……」
彼はよくわかっていない様で、曖昧に頷く。
私の、生涯初にして唯一のBランク。
それが一体何を意味するのか。
……ああ、やっぱり。
あの時、無意識に彼の名前を呼んでしまった時からおぼろげには自覚していたのだけれど。
どうにも、私は、本気で彼の事を――




「そうだ。セレスさんが起きた時のためにお菓子も作っておいたんだ。ちょっと持ってくるよ」
「あ、待って――」
「あ」
「え?」
起き上がった為、身体に掛かっていたシーツがはらりと剥がれ落ちる。その下の私の姿は――一糸纏わぬ全裸だった。
「――――!!」
「ご、ごめんッ!!」
咄嗟に両腕で身体を隠すのと同時に、彼が超高校級の反応で後ろを向く。
「あの、地下から出てきた時、セレスさん汚れてたから、その……霧切さんが綺麗にしてあげた方がいいって。も、勿論ボクは見てないし触ってもいないから!!」
確かに、今の自分からは長い地下生活で汚れていた形跡などまるで見えない。霧切さんが丁寧に清めてくれたのだろう。
こうして地上に出た以上、あの時の自分の酷い匂いなど思い出したくもない。
服は今頃ランドリーに出されているのだろう。ただでさえ洗い辛い特注の衣装だ。乾くまでには時間がかかる。
「もう、よろしいですわよ」
手早くシーツを身体に巻きつけると、彼にこちらを向くよう促す。
「ごめん……」
彼はこちらの方に向き直り、しかし視線は明後日の方へ向けながら、重ねて謝罪する。
でも、私の方はといえば――恥ずかしさは勿論あるけれど、決して嫌な気分ではなかった。
「……何を謝ることがあるのです?」
「何を、って、それはその……」
「うふふ……」
彼は言い辛そうに口篭る。
世界でただ一人のBランク。
私のナイト。
彼になら、私は――
視線を外している彼に気付かれないよう、軽く身体の調子を確認する。
……うん。少し疲れが溜まっているけれど、"出来ない"ほどじゃない。
まあ、実際にやってみた事がある訳ではないから、多分、という但し書きが付くけれども。
「――苗木君、わたくし喉が渇いてしまいましたわ」
「あ、うん。何がいいかな。水と……それとセレスさんが好きな紅茶も」
伸ばされた腕を掴む。え、と驚く彼を尻目に、そのまま投げの要領でベッドへ引き込むと、その反動を利用して馬乗りの体勢になった。
彼の体格が小さくて良かった。他の男子ならばこうはいかない。
体を入れ替えるようにベッドに仰向けに寝るかたちで倒された彼が、子犬のような瞳で見上げてくる。
「セレスさん、何を……!」
「ふふ……言わなければわかりませんか?」
心臓が高鳴るのを感じる。これほどまでに大胆になれた勇気に感謝しながら、私は言葉を続けた。
「御礼――ですわ」
そして、彼の顎に手を添え、少しだけ上を向かせると、勢いに任せて唇を重ねた。

「!?」
「ん……」
最初のキスは軽く。
けれども決して親愛の情というだけでは済まされない深さで、唇を重ねた。
……そのまま、たっぷり5秒は経過した辺りで、そっと唇を離す。
「セ、セ、セレス、さん……?な、今、何……!」
顔を赤くし、慌てて後ずさりするように下がって行くものの、元より狭いベッドの上。
すぐに終点に辿り着いた彼を追い詰める様に、ゆっくりと近づいていく。
「ですから、御礼と。わたしくの命を救ってくれたのですもの。……勿論、このくらいでお返し出来るとは思っていませんわよ?」
再び馬乗りの体勢になり、しなだれかかるように体を倒すと、彼はより一層狼狽を強める。
「ダメだよ!カメラが……」
彼は私たちを今この時も監視している無粋なカメラに眼をやる。
……気に入らない。
私がこんなに近くに居るのに、私よりカメラなんかを気にする彼が。
「……関係ありませんわ。むしろ見せ付けて差し上げましょう」
「そ、そんな……んんっ!?」
二度目のキスは、より情熱的に。
唇を重ねるだけの幼稚なキスから、彼の口中に舌を差し込む濃厚なものに変化する。
こんな行為、精々が歳相応の知識だけで経験はまるで無かったのだけれど、驚くほどスムーズに身体が動いてくれた。
これが人の本能というものなのだろう。
身体の熱と昂ぶり、そして彼への想い。それに身を任せるだけで。
「ん……ちゅる……れぇろ……ちゅ」
「んー!?んんっ――!」
何度目かの唾液を彼の口に送った所で、彼の顔が真っ青になっているのを確認する。
……どうやら、息をすることを忘れてしまっているらしい。
名残惜しいけれど、ここで気絶されては元も子もない。
最後に小鳥が啄ばむようなキスを送ると、彼の唇を開放した。
「ちゅ――は、ぁ……」
「んーっ!……ぷはぁっ!セ、セレスさん……」
ようやく息を継げた彼の呼吸は荒く、顔はこの上ないほど真っ赤になっている。
きっと自分の顔も同じくらい赤くなってしまっているのだろう。
さあ、この後は――
(……どうしましょう)
勢いに任せてここまで来てしまったものの、既に相当恥ずかしい。
そして恐ろしいことに、これから更に恥ずかしい事をしなければならないのである。
努めて表に出さない様にはしているけれど、既に心臓はばくばくだし、頭は茹ったまま冷めようとはしない。
(いいえ……大丈夫、大丈夫です)
自分の中に生まれた弱気を消し去るように、心に強く念じる。
ここで引く訳にはいかない。
乙女は度胸。乙女は愛嬌。そして乙女は任侠だ。
勝負士の勘が告げている。ここが、勝負所だと――
かっと目を見開く。
狙うはただ一点。
今は腰の下に敷いている彼の股間部分へ手を伸ばすと、神業的な速さでベルトを外しジッパーを降ろす。

「ちょ、そこは――!」
彼の制止も聞かず、少しだけ下着を押し上げている塊を手探りで取り出すと、覚悟を決めてえい、と露出させた。
「――――っ!!」
「これが……」
初めて見る男性の性器は、柔らかめのゴムのような、それでいて私の中の女性を刺激せずにいられないような、そんな印象だった。
衝動に駆られ、思わずそれに手を伸ばす。
「熱い……これが、苗木君の……?」
「セレス、さんッ――!」
完全に露出されたそれを、掌で撫で回すように弄ってみる。こうすると気持ちいいのだと聞いたけれど……。
「っ……!ん……あ……!」
「……どうでしょうか、苗木君?気持ちよくできていますか……?」
「き、もちいい……よ」
微かな喘ぎを溢しながら、彼はそう言ってくれる。
快感を覚えてくれているのだ。この私で。
「う、ふふ……ふふ」
その事が、純粋に嬉しい。
もっと彼を悦ばせたい。
昔読んだ雑誌の記憶を辿り、手を筒状にして更に彼のモノを刺激する。
そのまま数回、ゆっくりと上下に擦っていると、にちゃ、と手が粘液で濡れた。
掌で性感を刺激された彼の性器は、半分固くなっていた状態から完全に勃起し、先端からひくひくと先走りを出していた。
(これが、私の中に……?)
彼の可愛い顔に似合わず凶悪なフォルムと大きさを誇る性器を前に、弱気の虫が騒ぎ出す。
(だ、大丈夫……女性の体は男性を受け入れられるように出来ているはずです。だから、大丈夫……)
心の中で自分に言い聞かせると、少しだけ腰を持ち上げ、狙いを定めるように体勢を整える。
「セ、セレス、さん……」
「いいから、動かないで下さい。……わたくしも、こういった睦み事に慣れている訳ではありませんの」
「え?」
「なんでもございませんわ。さあ――始めましょう」
大きく息を吸い込むと、身体を包むシーツを一息に剥ぎ取る。
再度明りの下に晒け出された裸体に、彼がごくりと唾を飲み込むのが見えた。
(興奮、してくれているでしょうか……?)
胸には、その……同年代の女子と比べても余り自信は無い。
しかしこんな物の大きさなど、ほとんどが生まれつきDNAで決まっているものなのだ。
そんな物を重要視するのは、少しでも綺麗になるために日々涙ぐましい努力を続けている女の子に対する冒涜というものではないか。
手入れと美容を心がけてきた身体のラインならば多少は自慢できる、と思うのに。
「だ、ダメだよセレスさん!お礼だからって、そんな事までするのは……」
「……そんなこと?」
「そうだよ!こういう事は、その、好きな人とするもので――」
……何処まで鈍感なのでしょう、この人畜無害のナイト様は!
「苗木君は、一つ勘違いをしているようですわね」
「かん、ちがい……?」
「貴方は、わたくしが御礼だからと言って簡単に身体を差し出すような女だと、そう思っていらっしゃる訳ですわね?」
「!? そ、そんな事は――!」
「好きです」
「あ……」
彼の頬に両手を沿え、目を合わせる。
嘘ばかりついてきた人生だけれど、こんな時ばかりは、私も狼少年にはなりたくはない。
「好きです。貴方の事が。――それが理由では、いけませんか?」
「セレス、さん……」
心から告げる、紛れもない真実。
ここまで本心を晒け出すのは、いつ以来のことか。

「……苗木君は、誰か想う方がいらっしゃいますの?」
「いや、そういう訳じゃないけど……」
「そうですね。霧切さんは美人ですし、ミステリアスな所も含めて男性にはたまらないかもしれませんわね。朝日奈さんは明るくて可愛らしくて……スタイルも、とても良いですし。腐川さんは――まあ置いておくとして」
「ちょ、ちょっと待って!どうして皆なの?」
「……だって」
彼の周りにいる女の子は、みんな魅力的な娘ばかりだから。
だから、不安になってしまう。
「彼女達は、別にそういうのじゃないよ」
「……そうですか。まあ、どちらにしても関係ありませんけれど」
内心嬉しかったのだけれど、ついそんな風に言ってしまう。
結局基本的には嘘つきなのだ、私は。
「――わたくし、欲しい物は力づくでも奪い取る主義ですの」
そして心の中で再度覚悟を決めると、一気に腰を落とした。



「んっ――!う、あ……!」
「うあっ……!」
息を大きく吸い、そして吐き出すのを繰り返しながら、少しずつ彼の性器を体内に納めていく。
初めて進入を許すそこは堅く強張り、体内の異物を潰さんばかりに締めつけている。
「い、痛くはない、ですか……なえぎ、くん」
「ぼ、ボクは平気……むしろ、あったかくて、きもち、よくて……!」
「そう、ですか……んんっ……!」
そのまま彼の性器を半ばほど納めた所で、それ以上の進入を邪魔をする感触があった。
これが、処女膜。
私の、純潔の証。
生涯に、ただ一度だけの――
「…………こ、の」
ええい、全く、目障りな――!
生涯で一度だけと言うのなら。
私の大事な物だと言うのなら。
私と彼の、大切な生涯初の繋がりを、邪魔するんじゃない!!
恐怖を怒りで振り払うと、腰を性器が抜ける直前まで持ち上げ、意を決し思い切り体重をかけた。
「ッッ――――――!!!!」
何かが千切れる感触と共に、身体がずぶ、と深く沈む。
私の腰と彼の腰が隙間なく密着し、彼の性器を最奥まで納められたのがわかった。
「う…………あ…………」
痛い。いや、痛いなんて生易しいものじゃない。死ぬほど痛い。
ものの本でも確かに最初は痛いと書いてあったけれど、これは、そういった次元を超えてしまっているような――
「セ、セレスさん!大丈夫?」
「だ、だい、じょうぶですわ……この程度……宇都宮市民の意地に賭けて……」
自分でも何を口走っているのかわからない。
それほど私は切羽詰まっていた。
しかし、男女の営みはまだまだこれだけでは終わらないのである。
「う、ぐ……うごき、ます、わね……」
震える腕と脚を叱咤すると、少しずつ腰を持ち上げ、そしてまた奥まで彼の性器を迎え入れる。
「痛っ……!う、あ……」
本当にこれで正しい作法なのだろうか。
世の女性達は皆このようなものを乗り越えていたのだろうか。
こんなことなら、もっと勉強しておけばよかった。

「い……如何、ですか……?なえぎ、君……」
腰を落とす度に走る激痛に涙さえ滲んでくる。
でも、これで彼が悦んでくれるなら――
「――無理、しなくていいよ」
「え……」
……そんな。
どうして、どうしてそんな事を言うの……?
「無理などではありません!わたくしが苗木君と、その……最後までしたいのです……」
「…………」
彼が無言で腕を伸ばしてくる。そのまま上体を引き寄せられると、身体を優しく抱き竦められた。
「無理、しなくていいから」
「――――」
裸の胸同士が合わさる。
彼の心臓の鼓動が伝わる。
私の心臓の高鳴りと完全に一致していたそれは、不思議と私を落ち着かせてくれた。
「うん。ボクもセレスさんと最後までしたい。だから……」
「きゃっ!?」
彼が身体を起こす。自然、彼の上に跨っていた私は、ベッドに倒される形になった。
「あ……」
「行くよ……」
主体が移り、今度は彼が身体を動かし始める。
彼は私のような強引な挿入ではなく、入り口から少しずつほぐすような出し入れを繰り返していく。
「んっ、あ……うっ……」
彼は私の反応を見ながら、身体への愛撫も織り交ぜつつ身体を動かす。
奥まで刺されると痛いのは変わらないけれど、体位が変わった分だけ楽になっていた。
「あっ、んはっ……苗木、くん……キス、キスを……」
「うん……」
口づけをねだる私に、彼は身体を倒すと、優しいキスを落としてくる。
その首に腕を回すと、私は夢中で彼の唇を吸った。
「んっ、んんっ!ふぁ……あむ、ちゅ……」
「ん……セレス、さん……」
「はぁ……あ……んふ……ちゅる、ちゅぱ……あ……」
そうして口づけを繰り返しながら挿入されていると、先程までの痛いだけの行為とは違う、くすぐったいような、それでいて甘い疼きが少しずつ身体の奥底から生まれ始めるのを感じた。
「ぷはっ、あぁ……あ、んぁっ!な、苗木くん、わたくし……」
「うん……濡れてきたね……」
彼の言う通り、私の秘所はいつの間にか濡れそぼり、出し入れする彼の動きもスムーズになっていた。
(これが……感じるということ……?)

彼はキスをしていた顔を胸の方へ向けると、今度はそちらへキスを落としてくる。
「くふぅん……!ふぁっ、苗木君……そんな……」
控えめな乳房を口に含まれ、敏感な突起を舌で転がされると、我慢しきれない声が溢れてくる。
「やあっ!ああんっ!わた、し……こんな、声っ……!」
口から漏れている嬌声が自分のものだとは思えない。
いつしか彼に貫かれている箇所は痛みを忘れ、快感だけを伝えてくるようになっていた。
「いっ!やあっ!あっ、ひゃああっ!」
何かに急かされるように、彼の腰の動きが早まってくる。
同時に私の中の快感は水位を上げ続け、繋がっている箇所から響く音はほぼ掻き回される水音となっていた。
「いやっ、駄目!ダメです、苗木く――ひゃああうんっ!」
「っく……!出す、よ……セレスさんッ!!」
「……!は、はいっ!はいっ!出し、て……!わたくしの、なか……いっぱい……!」
自分が自分で無くなるかのような感覚。
縋りつくものを求めて、気がつけば彼の身体を全身で抱きしめていた。
「ッッ――――!!!!」
「っ――あああああああああぁっ……!!!!」
膣内が熱いもので満たされる感覚と、意識を塗りつぶすほどの快楽。
彼を力いっぱい抱きしめる腕と脚は、精を注ぎ込まれる度に痙攣を繰り返す。
やがて彼の腰の動きが完全に止まり、私は全身の力を失ってベッドへ倒れこんだ。
「なえ……く……わた、くし……」
「セレ、ス……さん……」
視界一杯に写る彼の顔。
全身から香る彼の匂い。
優しく頭を撫でてくれる手の感触。
それら全てから伝わる彼の存在に幸せを感じながら、私は彼の腕の中で意識を失った。



「ん……は、くしゅん!……あ、セレスさん……?」
「うふふ。お目覚めですわね」
彼の鼻をくすぐっていたこよりを隠すと、まだ寝ぼけ眼の彼を見てくすくすと笑う。
この学園に閉じ込められて以来、こんなにも光に満ちた朝を迎えられるとは思わなかった。
「うん……おはよう」
「はい。おはようございます。苗木君」
「…………」
彼はしばらく押し黙ると、私の手を取って真っ直ぐに見つめてくる。
「昨日、言いそびれたけど」
「はい」
「ボクだって、なんとも思ってない女の子とこんな事したりしない。――セレスさんの事が、好きだ」
「……はい」
嬉しかった。
彼にそう言って貰えることを、どれ程望んでいたか。
「だから、改めて言うよ。ボクと一緒に歩いて欲しい。ボクと一緒に、全部を引き摺りながら」
「……は、いっ……!」
思わずこぼれてしまった嬉し涙を拭う。
けれど、後から後から溢れ続ける涙が止まらなかった。
こんな顔じゃ締まらない。
私の理想は、もっと優雅で典雅な物じゃないといけないのだから。
「それでは――」
涙を拭うことを諦め、すっと手を差し伸べる。彼も私の意図を理解したようで、恭しく手を重ねてくれた。
これから私を待つ未来は決して明るいものではないだろう。
仲間との事。
私の罪の事。
全てを解決するには私は余りに無力で、その重さに押しつぶされてしまうかもしれない。
それでも、この手を離さない限り、私の心から希望が消えることはない。
そう信じさせてくれる、彼と一緒なら――
「参りましょう。わたくしの――たった一人のナイト様」