635-638

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希望ヶ峰学園を卒業してから数年、私、霧切響子は自分の事務所を開いて探偵活動をしていた。 自分で言うのも何だが、私は最近『クールビューティー探偵』などと呼ばれ、ちょっとした有名人になりつつあった。 今日も私はある事件を解決させ、夜遅くに自宅を兼ねた事務所へと帰ってきた。 事務所の扉を開けた私は、窓から入ってくる光に照らされた自分の机に目をやる。 机の上には一通の綺麗な手紙…結婚式の招待状があった。 差出人は高校時代の同級生である苗木誠、相手は同じく高校時代の同級生であり、今も芸能人として活躍する舞園さやかだ。 私は部屋の明かりも点けずにその招待状を手に取り、そこに書かれた「苗木誠」の名前を指でなぞる。 「苗木君…。」 今日の午前中、苗木君と舞園さんは2人一緒に私の事務所を訪ねてきた。理由は勿論、自分達の結婚の報告と招待状を私に渡すためだ。 あの時の2人の嬉しそうな笑顔は、私の脳裏に強く焼き付いている。 彼らが結婚すると聞かされた時、私はすぐには理解できなかった。 『苗木君が舞園さんと結婚する』という事実を。 大学を卒業する少し前、私は進路の決まっていない苗木君に「私の事務所に来ないか」と誘ったが、彼は首を横に振った。 「自分の進路は自分で決めたいんだ。でも、霧切さんが困った時はいつでも喜んで力になるよ。」 そう言って彼は私の申し出を拒んだ。 その後、彼は何とか就職先を見つけ、平凡なサラリーマンとして生活しつつ、時々私の仕事を手伝ってくれた。 彼との時間が減ってしまったことは寂しかったが、彼と一緒に探偵として活動している時間はとても心地良いものだった。 だが、彼が務めている会社のCMに舞園さんが起用されることが決まってから、状況は大きく変わった。 再び接点が出来たことで、苗木君と舞園さんは頻繁に連絡を取り合うようになった。 勿論、スキャンダルを回避するためプライベートで会う事はなかったが、CM等の打ち合わせのため2人で会う事が多くなった。 そうなってからというもの、必然的に苗木君と私が会う機会は次第に減っていった。 そして、とうとう舞園さんは苗木君に長年募らせてきた想いを直に伝え、彼らは恋仲となった。 国民的アイドルである舞園さやかの熱愛報道は世間を大きく騒がせたが、彼女の真摯な態度と対応により、それはすんなりと世間に受け入れられた。 だが、私はそうではなかった。そのニュースを知った時、私はとてもショックだった。 鈍器で頭を殴られたような感覚とは、あの時の私の心情のことを言うのだろう。 分かっていたはずなのに。苗木君が鈍いだけで、2人は惹かれ合っていたことくらい。いつかこうなる日が来ることくらい…。 でも、私はどうしてもそれを受け入れられなかった。現実と認めたくはなかった。 何故なら、私はずっと彼の事を… どう思っていたのだろう? 異性として好いていたのか。 それとも相棒として彼を信頼していたのか。 はたまた単なるビジネスライクな付き合いだったのか…。 仕事に私情は持ち込まないと決めていたが、今日の午後に私が解決させた事件の捜査中は気が気ではなかった。 こんなにも心を掻き乱されたのは生まれて初めてだった。 だから、少なくとも私と彼はビジネスライクな付き合いではなかった。 でも、私が彼に抱いていた気持ち…それがどうしても分からない。 探偵としての推理力やロジックを駆使しても、答えを導き出せない。 いや、最初から考える必要などない。答えはとっくに出ているのだから。 私と舞園さんが苗木君に対して抱いていた気持ち…。それは恐らく同じものだろう。 だが、私と彼女の違いは一体何だったのか? 簡単なことだ。 一歩踏み出せた舞園さんと、一歩踏み出せなかった私…ただそれだけだ。 舞園さんは今まで自分が築いてきたものを失う覚悟をもって自分の気持ちを伝えた。 対する私はと言えば…。 苗木君。ここまで言えば、わかるわね? なんてことを言って、私が1から10まで言わずとも、苗木君なら分かってくれると思い込んでいた。 ああ、何て自分勝手な考えなのだろう…。 私は彼の優しさに甘えて、彼なら分かってくれると決めつけて、自分の本心を伝える努力を怠った。 だから、私の一番大切な想いは彼に届かなかった。 2人で私の事務所に来て結婚の報告をしている時、舞園さんは時々私に対して申し訳なさそうな表情を向けていた。 きっと舞園さんも私の気持ちに気付いていたのだろう。何せ彼女、エスパーのように勘が鋭いから。 舞園さん、あなたがそんな顔をする必要なんてない。私に気を使う必要なんてない。 私は苗木君を巡ってあなたと争うことから逃げた。あなたの不戦勝なのよ。 だから、精一杯彼と幸せになって。 でも…やっぱり、辛い。 「好きよ、苗木君…。」 もう、この想いが彼に届くことはないのだと思うと、止め処なく涙が溢れてくる。 胸が締め付けられ、何も考えられなくなり、私はその場に蹲って泣くことしか出来なかった。 どうせなら今の内に泣けるだけ泣いてしまおう。後悔の念や悔しさの念も、涙と一緒に流してしまおう。 彼らの結婚式で、2人の門出を笑って祝えるように…。 ひとしきり泣いた後、私はシャワーを浴びてからベッドに横になった。 そして翌日、私は招待状に同封されていた葉書サイズの書類にある【出席】の文字を丸で囲んだ。 「好きだったわ、苗木君。舞園さん…いえ、さやかさんとお幸せにね。さようなら、私の初恋…。」 そう呟いた後、私は先程の書類を入れた封筒をポストへと投函した。 終わり ----
希望ヶ峰学園を卒業してから数年、私、霧切響子は自分の事務所を開いて探偵活動をしていた。 自分で言うのも何だが、私は最近『クールビューティー探偵』などと呼ばれ、ちょっとした有名人になりつつあった。 今日も私はある事件を解決させ、夜遅くに自宅を兼ねた事務所へと帰ってきた。 事務所の扉を開けた私は、窓から入ってくる光に照らされた自分の机に目をやる。 机の上には一通の綺麗な手紙…結婚式の招待状があった。 差出人は高校時代の同級生である苗木誠、相手は同じく高校時代の同級生であり、今も芸能人として活躍する舞園さやかだ。 私は部屋の明かりも点けずにその招待状を手に取り、そこに書かれた「苗木誠」の名前を指でなぞる。 「苗木君…。」 今日の午前中、苗木君と舞園さんは2人一緒に私の事務所を訪ねてきた。理由は勿論、自分達の結婚の報告と招待状を私に渡すためだ。 あの時の2人の嬉しそうな笑顔は、私の脳裏に強く焼き付いている。 彼らが結婚すると聞かされた時、私はすぐには理解できなかった。 『苗木君が舞園さんと結婚する』という事実を。 大学を卒業する少し前、私は進路の決まっていない苗木君に「私の事務所に来ないか」と誘ったが、彼は首を横に振った。 「自分の進路は自分で決めたいんだ。でも、霧切さんが困った時はいつでも喜んで力になるよ。」 そう言って彼は私の申し出を拒んだ。 その後、彼は何とか就職先を見つけ、平凡なサラリーマンとして生活しつつ、時々私の仕事を手伝ってくれた。 彼との時間が減ってしまったことは寂しかったが、彼と一緒に探偵として活動している時間はとても心地良いものだった。 だが、彼が務めている会社のCMに舞園さんが起用されることが決まってから、状況は大きく変わった。 再び接点が出来たことで、苗木君と舞園さんは頻繁に連絡を取り合うようになった。 勿論、スキャンダルを回避するためプライベートで会う事はなかったが、CM等の打ち合わせのため2人で会う事が多くなった。 そうなってからというもの、必然的に苗木君と私が会う機会は次第に減っていった。 そして、とうとう舞園さんは苗木君に長年募らせてきた想いを直に伝え、彼らは恋仲となった。 国民的アイドルである舞園さやかの熱愛報道は世間を大きく騒がせたが、彼女の真摯な態度と対応により、それはすんなりと世間に受け入れられた。 だが、私はそうではなかった。そのニュースを知った時、私はとてもショックだった。 鈍器で頭を殴られたような感覚とは、あの時の私の心情のことを言うのだろう。 分かっていたはずなのに。苗木君が鈍いだけで、2人は惹かれ合っていたことくらい。いつかこうなる日が来ることくらい…。 でも、私はどうしてもそれを受け入れられなかった。現実と認めたくはなかった。 何故なら、私はずっと彼の事を… どう思っていたのだろう? 異性として好いていたのか。 それとも相棒として彼を信頼していたのか。 はたまた単なるビジネスライクな付き合いだったのか…。 仕事に私情は持ち込まないと決めていたが、今日の午後に私が解決させた事件の捜査中は気が気ではなかった。 こんなにも心を掻き乱されたのは生まれて初めてだった。 だから、少なくとも私と彼はビジネスライクな付き合いではなかった。 でも、私が彼に抱いていた気持ち…それがどうしても分からない。 探偵としての推理力やロジックを駆使しても、答えを導き出せない。 いや、最初から考える必要などない。答えはとっくに出ているのだから。 私と舞園さんが苗木君に対して抱いていた気持ち…。それは恐らく同じものだろう。 だが、私と彼女の違いは一体何だったのか? 簡単なことだ。 一歩踏み出せた舞園さんと、一歩踏み出せなかった私…ただそれだけだ。 舞園さんは今まで自分が築いてきたものを失う覚悟をもって自分の気持ちを伝えた。 対する私はと言えば…。 苗木君。ここまで言えば、わかるわね? なんてことを言って、私が1から10まで言わずとも、苗木君なら分かってくれると思い込んでいた。 ああ、何て自分勝手な考えなのだろう…。 私は彼の優しさに甘えて、彼なら分かってくれると決めつけて、自分の本心を伝える努力を怠った。 だから、私の一番大切な想いは彼に届かなかった。 2人で私の事務所に来て結婚の報告をしている時、舞園さんは時々私に対して申し訳なさそうな表情を向けていた。 きっと舞園さんも私の気持ちに気付いていたのだろう。何せ彼女、エスパーのように勘が鋭いから。 舞園さん、あなたがそんな顔をする必要なんてない。私に気を使う必要なんてない。 私は苗木君を巡ってあなたと争うことから逃げた。あなたの不戦勝なのよ。 だから、精一杯彼と幸せになって。 でも…やっぱり、辛い。 「好きよ、苗木君…。」 もう、この想いが彼に届くことはないのだと思うと、止め処なく涙が溢れてくる。 胸が締め付けられ、何も考えられなくなり、私はその場に蹲って泣くことしか出来なかった。 どうせなら今の内に泣けるだけ泣いてしまおう。後悔の念や悔しさの念も、涙と一緒に流してしまおう。 彼らの結婚式で、2人の門出を笑って祝えるように…。 ひとしきり泣いた後、私はシャワーを浴びてからベッドに横になった。 そして翌日、私は招待状に同封されていた葉書サイズの書類にある【出席】の文字を丸で囲んだ。 「好きだったわ、苗木君。舞園さん…いえ、さやかさんとお幸せにね。さようなら、私の初恋…。」 そう呟いた後、私は先程の書類を入れた封筒をポストへと投函した。 終わり ----

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