k2_214

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 ――最初は、ほんの少しからかってあげようと。  ただそれだけのつもり、だったのに。 「――だって、霧切さんが笑った顔って、すっごく、かわいいんだよ!?   だから、隠すなんてもったいないよ! 笑った方が絶対にいいって!」    何を言っているのだろう、この少年は。  彼が、苗木君が無理をしているのは、すぐにわかった。おそらく本人は私をだましているつもりなのだろうけど。  苗木君がかわいい、という言葉を発した時、ほんの一瞬だけ、彼の目線が床へとそれた。それを私は見逃さない。だって私は、超高校級の――、  ……ええと、なんだったかしら。  とにかく、彼はウソをついている。ひどく稚拙で、くだらない、見え見えの、苗木君らしい、――でも苗木君らしくない、ウソ。  私が年頃の少女のように、……たとえばあの朝日奈葵のように頬を染め、恥じらうなどと思っているのだろうか? まさか、そんなこと。  でも、そうだとするなら本当に。    ……私は笑った方が良いのかもしれないわね。あなたが、本当に。そんな馬鹿げたことを信じているのなら。  だから、少しだけ。ほんの少しだけ気になったのだ。  彼がどんな反応をするのか。どんな言葉を私に向けるのか。  だから私は、からかってみようと思って。 「きゅ、急に…何を言ってるのよ……か、かわいいなんて…いきなり…そんな風に言われても…」    彼のお望みどおり頬を染めて、それこそただの高校生のように振る舞ってみる。  感情を押し殺して表情を隠してしまうより、嘘でもなにかを装う方がずっと簡単。  苗木君。さあ、どう?  ひっかかったね、霧切さん。そんな風に言う? それとも? 「…………」  でも。  私の予想は、……いえ、それはほとんど確信に近かったのに。  それはあっさりと打ち砕かれたのだ。   「…………ほら、」  苗木君は、少し呆けたような表情をして。ああ、その時点で私の予想は大ハズレ。  それで、苗木君は、 「ほら、霧切さん。……やっぱり、もったいないよ」 「え? ……え?」  かわいいよ、と。ヒトを安心させるような顔でにっこり笑って。何故だか彼も頬を染めて。  ぽりぽりと頬を掻くその仕草は、確かにただの高校生で。 「えっと、……その、えと、……苗木、くん?」  そして、簡単なはずの演技さえできなくなった私も、ただの高校生だった。 「どうしたの? 霧切さん」    ああ――、 「……あ、ありがとう」    どうやら私は、超高校級の、ただの女子高生だったらしい。 ----
 ――最初は、ほんの少しからかってあげようと。  ただそれだけのつもり、だったのに。 「――だって、霧切さんが笑った顔って、すっごく、かわいいんだよ!?   だから、隠すなんてもったいないよ! 笑った方が絶対にいいって!」    何を言っているのだろう、この少年は。  彼が、苗木君が無理をしているのは、すぐにわかった。おそらく本人は私をだましているつもりなのだろうけど。  苗木君がかわいい、という言葉を発した時、ほんの一瞬だけ、彼の目線が床へとそれた。それを私は見逃さない。だって私は、超高校級の――、  ……ええと、なんだったかしら。  とにかく、彼はウソをついている。ひどく稚拙で、くだらない、見え見えの、苗木君らしい、――でも苗木君らしくない、ウソ。  私が年頃の少女のように、……たとえばあの朝日奈葵のように頬を染め、恥じらうなどと思っているのだろうか? まさか、そんなこと。  でも、そうだとするなら本当に。    ……私は笑った方が良いのかもしれないわね。あなたが、本当に。そんな馬鹿げたことを信じているのなら。  だから、少しだけ。ほんの少しだけ気になったのだ。  彼がどんな反応をするのか。どんな言葉を私に向けるのか。  だから私は、からかってみようと思って。 「きゅ、急に…何を言ってるのよ……か、かわいいなんて…いきなり…そんな風に言われても…」    彼のお望みどおり頬を染めて、それこそただの高校生のように振る舞ってみる。  感情を押し殺して表情を隠してしまうより、嘘でもなにかを装う方がずっと簡単。  苗木君。さあ、どう?  ひっかかったね、霧切さん。そんな風に言う? それとも? 「…………」  でも。  私の予想は、……いえ、それはほとんど確信に近かったのに。  それはあっさりと打ち砕かれたのだ。   「…………ほら、」  苗木君は、少し呆けたような表情をして。ああ、その時点で私の予想は大ハズレ。  それで、苗木君は、 「ほら、霧切さん。……やっぱり、もったいないよ」 「え? ……え?」  かわいいよ、と。ヒトを安心させるような顔でにっこり笑って。何故だか彼も頬を染めて。  ぽりぽりと頬を掻くその仕草は、確かにただの高校生で。 「えっと、……その、えと、……苗木、くん?」  そして、簡単なはずの演技さえできなくなった私も、ただの高校生だった。 「どうしたの? 霧切さん」    ああ――、 「……あ、ありがとう」    どうやら私は、超高校級の、ただの女子高生だったらしい。 ----

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