こちら苗木誠探偵事務所3

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「本当にありがとう! いやぁ、なんとお礼を言ったらいいか……」 「そんな、お礼なんていいですよ」 「いや、そういう訳には。是非お礼がしたい。させてくれ!」 「本当に、大丈夫ですから。僕らも好きでやってることですし」 「そうか……なら、せめてこれを受け取ってくれ。食堂で使える――」 「――それなら」 「うん?」 「……それなら。二枚、頂けないかしら。その食券」  苗木誠探偵事務所は、基本的にボランティアだ。  そもそもからして部活動で金銭のやりとり、というのがありえない。活動資金は部費で十分にまかなえるし、霧切さんも僕もお金が目的で探偵事務所をやっているわけじ ゃない。  じゃあなんで探偵事務所なんかやっているのかと尋ねられれば……それは、僕にもわからないけど。霧切さんは未だに理由を教えてくれない。  閑話休題。とにかく僕らは金銭を受け取らない。けれども霧切さんは優秀な探偵で、望外の依頼遂行にお礼をと、何かを取り出す人は後を絶たず。  そんな時に、霧切さんは。消費できるものなら、ふたつ。もしくは二の倍数で、報酬を要求するのだった。 「霧切さんは、何食べるの?」 「そうね。今日は……せっかくだから定食にしようかしら。苗木君は?」 「じゃあぼくはラーメ……」「………」「ぼ、僕もなにか定食にしようかな……」  今回の報酬は食券二枚。一度きりで好きなものが食べられるスグレモノで、文化祭など学内イベントでの景品でよく見かけるものだ。  というわけで、僕と霧切さんは翌日の昼食を学食でとることにした。  結局僕はとり南蛮、霧切さんは焼き魚定食を選び、空いている席に向い合せで腰かけた。なんだか事務所にいるみたいだ。 「……? なにがおかしいの、苗木君」 「ううん、なんでもないよ。いただきまーす」「……いただきます」  二人で合掌。味噌汁をすすって、ほう、と息をつく。 「ねえ、霧切さんはラーメン嫌いなの?」 「どうして?」 「いや、さっき……」「なんのことを言ってるのか、わからないわ」「……そう」  首を傾げつつ、ご飯を口にする。暖かい食事が食べられるのが、お弁当にはない利点だと僕は思う。自炊もあんまり、得意じゃない。 「(霧切さんは……料理、得意なのかな)」  ほんのりとした酸味のある鶏肉を口に運びながら、ちらりと霧切さんを伺う。  ちまちま、ちまちまと。霧切さんが器用にサンマの身と骨を分けていく様子は、なんだか可愛らしくさえ思えた。  そう言えば以前、海外生活が長かったというような話を聞いた覚えがある。それにしては随分箸の扱いが上手い。 「…………何よ?」  ――と、目が合う。その瞳は無感情にも見えるし、なんとなく僕を責めているようにも見える。 「あまり人の食べるところをジロジロと見るものではないわ」 「ご、ごめん」  慌てて自分の食事に戻る。思い出したように鶏肉を一口。このタルタルソースは絶品だ。鶏肉もしっかり揚げてあって言うことない。ついでに未だ湯気を上げているご飯を ぱくり。 「うん、美味しい」 「……ねえ、苗木君」 「どうしたの?」 「その、とり南蛮? って、美味しいのかしら」「美味しいよ。食べたことない?」「ええ。初めて見る料理だったから」「だったら、ほら」  とり南蛮の味を知らないなんてもったいない。僕はひょいと食べやすそうなサイズの鶏肉を箸で摘みあげて、霧切さんに差し出した。 「ほら、霧切さん。ぱくっ、と……――」  ――僕は。一体、何を。  霧切さんの口許に突き出した僕の箸。今更それを引っ込めるようなことはできなくて。というか気づくのが遅いよ僕。 「………ぁ」ぱくり。もぐ、もぐ。もぐ、……ごくん。  その、白くて細い喉が上下するのさえ、僕は凝視してしまって。 「ええと、」「……」「……美味しかった、かな」「味なんて、分かる訳、無いでしょう」「ご、ごめん。……それじゃ、もうひとつ」「――ッ!?」「うぁ、ええと、違くて、その、」  その一瞬だけ、僕らは今いる場所がどこか完璧に忘れて。 「……また、食べに来ようか、霧切さん」「……ええ」  僕らは互いに顔を伏せ。見知ったクラスメイトが通りかかって話しかけるまで、そうしていた。 |CENTER:Next Episode|CENTER:[[こちら苗木誠探偵事務所4]]| ----
「本当にありがとう! いやぁ、なんとお礼を言ったらいいか……」 「そんな、お礼なんていいですよ」 「いや、そういう訳には。是非お礼がしたい。させてくれ!」 「本当に、大丈夫ですから。僕らも好きでやってることですし」 「そうか……なら、せめてこれを受け取ってくれ。食堂で使える――」 「――それなら」 「うん?」 「……それなら。二枚、頂けないかしら。その食券」  苗木誠探偵事務所は、基本的にボランティアだ。  そもそもからして部活動で金銭のやりとり、というのがありえない。活動資金は部費で十分にまかなえるし、霧切さんも僕もお金が目的で探偵事務所をやっているわけじ ゃない。  じゃあなんで探偵事務所なんかやっているのかと尋ねられれば……それは、僕にもわからないけど。霧切さんは未だに理由を教えてくれない。  閑話休題。とにかく僕らは金銭を受け取らない。けれども霧切さんは優秀な探偵で、望外の依頼遂行にお礼をと、何かを取り出す人は後を絶たず。  そんな時に、霧切さんは。消費できるものなら、ふたつ。もしくは二の倍数で、報酬を要求するのだった。 「霧切さんは、何食べるの?」 「そうね。今日は……せっかくだから定食にしようかしら。苗木君は?」 「じゃあぼくはラーメ……」「………」「ぼ、僕もなにか定食にしようかな……」  今回の報酬は食券二枚。一度きりで好きなものが食べられるスグレモノで、文化祭など学内イベントでの景品でよく見かけるものだ。  というわけで、僕と霧切さんは翌日の昼食を学食でとることにした。  結局僕はとり南蛮、霧切さんは焼き魚定食を選び、空いている席に向い合せで腰かけた。なんだか事務所にいるみたいだ。 「……? なにがおかしいの、苗木君」 「ううん、なんでもないよ。いただきまーす」「……いただきます」  二人で合掌。味噌汁をすすって、ほう、と息をつく。 「ねえ、霧切さんはラーメン嫌いなの?」 「どうして?」 「いや、さっき……」「なんのことを言ってるのか、わからないわ」「……そう」  首を傾げつつ、ご飯を口にする。暖かい食事が食べられるのが、お弁当にはない利点だと僕は思う。自炊もあんまり、得意じゃない。 「(霧切さんは……料理、得意なのかな)」  ほんのりとした酸味のある鶏肉を口に運びながら、ちらりと霧切さんを伺う。  ちまちま、ちまちまと。霧切さんが器用にサンマの身と骨を分けていく様子は、なんだか可愛らしくさえ思えた。  そう言えば以前、海外生活が長かったというような話を聞いた覚えがある。それにしては随分箸の扱いが上手い。 「…………何よ?」  ――と、目が合う。その瞳は無感情にも見えるし、なんとなく僕を責めているようにも見える。 「あまり人の食べるところをジロジロと見るものではないわ」 「ご、ごめん」  慌てて自分の食事に戻る。思い出したように鶏肉を一口。このタルタルソースは絶品だ。鶏肉もしっかり揚げてあって言うことない。ついでに未だ湯気を上げているご飯を ぱくり。 「うん、美味しい」 「……ねえ、苗木君」 「どうしたの?」 「その、とり南蛮? って、美味しいのかしら」「美味しいよ。食べたことない?」「ええ。初めて見る料理だったから」「だったら、ほら」  とり南蛮の味を知らないなんてもったいない。僕はひょいと食べやすそうなサイズの鶏肉を箸で摘みあげて、霧切さんに差し出した。 「ほら、霧切さん。ぱくっ、と……――」  ――僕は。一体、何を。  霧切さんの口許に突き出した僕の箸。今更それを引っ込めるようなことはできなくて。というか気づくのが遅いよ僕。 「………ぁ」ぱくり。もぐ、もぐ。もぐ、……ごくん。  その、白くて細い喉が上下するのさえ、僕は凝視してしまって。 「ええと、」「……」「……美味しかった、かな」「味なんて、分かる訳、無いでしょう」「ご、ごめん。……それじゃ、もうひとつ」「――ッ!?」「うぁ、ええと、違くて、その、」  その一瞬だけ、僕らは今いる場所がどこか完璧に忘れて。 「……また、食べに来ようか、霧切さん」「……ええ」  僕らは互いに顔を伏せ。見知ったクラスメイトが通りかかって話しかけるまで、そうしていた。 |CENTER:Next Episode|CENTER:[[こちら苗木誠探偵事務所4]]| ----

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