kk4_318-321

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「苗木君」 ある日の放課後、今日の授業で受けた教科のノートを鞄に詰めている最中、ボクは霧切さんに声をかけられ顔を上げた。 その霧切さんだが、どこか様子がおかしい。 無表情なのはいつもの事だけれど、今日は何故かロボットのようにぎこちなく右手と右足を同時に動かしている。 どうかしたんだろうか? 「この後、何か用事はあるかしら」 「えっと……」 言われてこの後の用事を思い出す。確か今日は…… 「無ければ、この後体育館裏まで来て欲しいのだけれど」 「ええと、ごめん。今日はちょっと――」 「それじゃ、待ってるから」 言うが早いか、霧切さんは競歩の選手も真っ青の超速度歩行で去っていく。 「ええぇ!ちょ、早――待って、霧切さ……も、もういない……?」 慌てて追いかけたボクの目に入ったのは、巻き上がった埃と誰もいない廊下だけだった。 ---------------------------------------- 仕方なく呼び出された体育館裏へ向かうと、そこにはもう霧切さんが待っていた。 霧切さんはどこか落ち着かない様子で、空を見上げたりせわしなく手鏡を開いたり閉じたりしてりる。 (面白い……) 滅多に見れない霧切さんの奇行をつい観察してしまうが、いつまでも見てはいられない。 「霧切さん」 「あ……」 声をかけただけで、彼女の表情がほっと和らぐのを感じた。 と思ったのも束の間、彼女の顔は再びこわばり、先ほどよりガチガチの酷い有様になってしまう。 「えっと、どうかしたのかな?こんな所で……」 「……これ」 彼女が手にしていた鞄に手を入れる。 何が飛び出てくるかと思わず身構えてしまうが、そこから出てきたのは――何の変哲もない一輪の花だった。 「あげるわ」 「これ……花?」 「……マーガレット。キク科の多年草で、カナリア諸島を原産地とした――」 「ああ、うん、ごめん、わかった。ありがたく貰うよ。でも、これをどうしてボクに?」 「……言わなきゃ、駄目かしら」 「?」 たまに言っている事がよくわからなくなる霧切さんだけれど、今日はそれに輪をかけてわかり辛い。 「ええと、できれば教えて貰えると……」 「それ、は……」 霧切さんは顔を俯かせると、言い辛そうに口ごもる。 その顔は全力疾走を終えた時のように真っ赤に染まっていた。 仕方なくボクは彼女が口を開いてくれるのを待つ。 その時、背後から草を踏む音が聞こえてきた。 「……苗木よ」 「あ、大神さん」 「――――!」 そこに立っていたのは、セーラー服を着た超高校級の格闘家、大神さくらさん。 「遅いので探しておったところだ」 「ごめん、ボクの方から特訓をお願いしてたのに」 「ふむ……霧切よ。何か苗木に用事か?」 ボクと向かいあっていた霧切さんに大神さんが問いかける。 俯いた長い髪が邪魔をして、その表情は窺えない。 「……ごめんなさい。邪魔をしてしまったわね」 「え、でも話があるって――」 「我は遅れても構わぬぞ、霧切」 「いいの……また、今度……」 「あ……霧切さ――」 「ッ――! 来ないでッ!!」 彼女に向かって伸ばした手が振りほどかれる。 その時、彼女の手にあったマーガレットがボクの腕に辺り、地面にぽとりと落ちてしまった。 「あ……」 「っ……!!」 彼女は地面に落ちた花を悲しそうな眼で見、そしてそのまま駆け出してしまった。 「霧切さん……」 「…………」 落ちていた花を拾い上げる。少しだけ砂で汚れてしまったけど、マーガレットは彼女の髪のように綺麗なままだった。 「……苗木よ」 腕を組んで成り行きを見守っていた大神さんが、ボクに声をかけてくる。 「霧切の元へ行ってやれ」 「でも、霧切さんは来るなって……」 「……その花」 「え?」 ボクの手にある白い花を指差し、大神さんは続ける。 「その花の意味について調べてみるがいい」 「この、花を?」 「我に言えるのはそこまでだ」 彼女はさっと踵を返すと、どこかへ歩いていく。 「無骨な我だが、そなた達の武運を祈ろう」 乙女の戦いも、また戦いなれば。 そんな言葉を残して、大神さんは去って行く。 一人残されたボクは、手の中の白い花を眺め、ぽつりと呟いた。 「この花の、意味……」 ---------------------------------------- 脇目も振らず駆けていた私は、寄宿舎の自分の部屋へ辿りつくと、こじ開けるようにして扉を開いた。 飛び込むように部屋に入ると、扉に背中を預けるようにして、そのまま座り込んでしまう。 「はぁ……はぁ……」 心臓が激しく脈を打っているのがわかる。 今の全力疾走と、それ以上にその前の出来事が原因で。 「っ……は、ぁ……」 そうして一人になると、先ほどの自分の行動に自己嫌悪が止まらなくなる。 少し冷静になればわかることなのに。 花言葉なんて、彼が知らなくても当然。 そんな事を頭に入れてなかった私が悪いだけなのに。 「ばか……」 私の、馬鹿。 冷静になれないんだ。彼の前に立つと。 「ごめん、なさい……」 今ここにいない彼に謝る。 彼に直接謝ることもできない、卑怯な私。 そんな自分にさえ自己嫌悪が沸いてくる。 そのまましばらく膝を抱えていると、部屋のインターホンが鳴った。 「……こんな、時に」 涙を拭い、できるだけ平静を装って扉を開ける。 「え……」 「やあ……霧切さん」 そこに立っていたのは――苗木君。 先ほど酷い事をしてしまった彼。 「なん、で……」 「ありがとう。花、嬉しかったよ」 彼の左手には、先ほど私が持っていた白いマーガレットがあった。 取り繕うように髪をかき上げる。 私は、いつもの顔が出来ているだろうか。 「別に、そんなの。ただ余っていたからあげただけよ」 「それは違うよ」 私の欺瞞に満ちた言葉が、彼に真っ向から切り捨てられる。 いつしか彼は、何時のもの子犬のような顔ではなく――強い意志を持った男の顔になっていた。 「『心に秘めた愛』――マーガレットの花言葉だね」 「……!!」 「ごめん。花言葉には詳しくなくてさ。今必死に調べてきたんだ」 彼は照れくさそうに鼻頭をかくと、真剣な面持ちで私に向き合う。 「ボクって何をやっても人並みで。鈍くて。だから霧切さんを悲しませてしまう」 だから、ごめん。 そう言って、苗木君は右手を――その後ろ手に隠し持っていた物を差し出してきた。 「これが、ボクの気持ちだよ」 「あ――」 彼の差し出す、青い花。 それの意味する所に気づく。 私は震える手を伸ばすと、それをそっと受け取った。 「これ……私に?」 「うん」 「私が、受け取っていいの……?」 「霧切さんに貰って欲しい。霧切さんじゃなきゃダメなんだ」 彼の想いがそのまま込められているかのような、青い花。 その想いごと抱き締められるよう、私はそっと胸に抱いた。 「……あり、がとう……苗木、君……」 ---------------------------------------- 「ぬうおおぉぉおおおおお!!」 裂帛の気合と共に繰り出された回し蹴りで、樹高20メートルはあろうかという巨木が蹴り倒される。 ここは市内の高台であり、希望ヶ峰学園を一望できる箇所にある。大神さくらお気に入りの修練所であった。 本来ならば今頃稽古を申し出てきた少年にここで武道の精神を教え込んでいた所だが、それも致し方ない。 果たして、あの二人は上手くいっただろうか。 「……む」 鷹の眼とも形容される彼女の眼が、遥か下方に位置する希望ヶ峰学園の校門を捉える。 手を繋ぎ、校舎を後にする少年少女。そして彼ら二人の手にある花を見て、さくらはふっと表情を綻ばせた。 少年の手に揺れる、白いマーガレット。 その花言葉は、『心に秘めた愛』。 少女の手に揺れる、青い勿忘草。 その花言葉は―― ----
「苗木君」 ある日の放課後、今日の授業で受けた教科のノートを鞄に詰めている最中、ボクは霧切さんに声をかけられ顔を上げた。 その霧切さんだが、どこか様子がおかしい。 無表情なのはいつもの事だけれど、今日は何故かロボットのようにぎこちなく右手と右足を同時に動かしている。 どうかしたんだろうか? 「この後、何か用事はあるかしら」 「えっと……」 言われてこの後の用事を思い出す。確か今日は…… 「無ければ、この後体育館裏まで来て欲しいのだけれど」 「ええと、ごめん。今日はちょっと――」 「それじゃ、待ってるから」 言うが早いか、霧切さんは競歩の選手も真っ青の超速度歩行で去っていく。 「ええぇ!ちょ、早――待って、霧切さ……も、もういない……?」 慌てて追いかけたボクの目に入ったのは、巻き上がった埃と誰もいない廊下だけだった。 ---------------------------------------- 仕方なく呼び出された体育館裏へ向かうと、そこにはもう霧切さんが待っていた。 霧切さんはどこか落ち着かない様子で、空を見上げたりせわしなく手鏡を開いたり閉じたりしてりる。 (面白い……) 滅多に見れない霧切さんの奇行をつい観察してしまうが、いつまでも見てはいられない。 「霧切さん」 「あ……」 声をかけただけで、彼女の表情がほっと和らぐのを感じた。 と思ったのも束の間、彼女の顔は再びこわばり、先ほどよりガチガチの酷い有様になってしまう。 「えっと、どうかしたのかな?こんな所で……」 「……これ」 彼女が手にしていた鞄に手を入れる。 何が飛び出てくるかと思わず身構えてしまうが、そこから出てきたのは――何の変哲もない一輪の花だった。 「あげるわ」 「これ……花?」 「……マーガレット。キク科の多年草で、カナリア諸島を原産地とした――」 「ああ、うん、ごめん、わかった。ありがたく貰うよ。でも、これをどうしてボクに?」 「……言わなきゃ、駄目かしら」 「?」 たまに言っている事がよくわからなくなる霧切さんだけれど、今日はそれに輪をかけてわかり辛い。 「ええと、できれば教えて貰えると……」 「それ、は……」 霧切さんは顔を俯かせると、言い辛そうに口ごもる。 その顔は全力疾走を終えた時のように真っ赤に染まっていた。 仕方なくボクは彼女が口を開いてくれるのを待つ。 その時、背後から草を踏む音が聞こえてきた。 「……苗木よ」 「あ、大神さん」 「――――!」 そこに立っていたのは、セーラー服を着た超高校級の格闘家、大神さくらさん。 「遅いので探しておったところだ」 「ごめん、ボクの方から特訓をお願いしてたのに」 「ふむ……霧切よ。何か苗木に用事か?」 ボクと向かいあっていた霧切さんに大神さんが問いかける。 俯いた長い髪が邪魔をして、その表情は窺えない。 「……ごめんなさい。邪魔をしてしまったわね」 「え、でも話があるって――」 「我は遅れても構わぬぞ、霧切」 「いいの……また、今度……」 「あ……霧切さ――」 「ッ――! 来ないでッ!!」 彼女に向かって伸ばした手が振りほどかれる。 その時、彼女の手にあったマーガレットがボクの腕に辺り、地面にぽとりと落ちてしまった。 「あ……」 「っ……!!」 彼女は地面に落ちた花を悲しそうな眼で見、そしてそのまま駆け出してしまった。 「霧切さん……」 「…………」 落ちていた花を拾い上げる。少しだけ砂で汚れてしまったけど、マーガレットは彼女の髪のように綺麗なままだった。 「……苗木よ」 腕を組んで成り行きを見守っていた大神さんが、ボクに声をかけてくる。 「霧切の元へ行ってやれ」 「でも、霧切さんは来るなって……」 「……その花」 「え?」 ボクの手にある白い花を指差し、大神さんは続ける。 「その花の意味について調べてみるがいい」 「この、花を?」 「我に言えるのはそこまでだ」 彼女はさっと踵を返すと、どこかへ歩いていく。 「無骨な我だが、そなた達の武運を祈ろう」 乙女の戦いも、また戦いなれば。 そんな言葉を残して、大神さんは去って行く。 一人残されたボクは、手の中の白い花を眺め、ぽつりと呟いた。 「この花の、意味……」 ---------------------------------------- 脇目も振らず駆けていた私は、寄宿舎の自分の部屋へ辿りつくと、こじ開けるようにして扉を開いた。 飛び込むように部屋に入ると、扉に背中を預けるようにして、そのまま座り込んでしまう。 「はぁ……はぁ……」 心臓が激しく脈を打っているのがわかる。 今の全力疾走と、それ以上にその前の出来事が原因で。 「っ……は、ぁ……」 そうして一人になると、先ほどの自分の行動に自己嫌悪が止まらなくなる。 少し冷静になればわかることなのに。 花言葉なんて、彼が知らなくても当然。 そんな事を頭に入れてなかった私が悪いだけなのに。 「ばか……」 私の、馬鹿。 冷静になれないんだ。彼の前に立つと。 「ごめん、なさい……」 今ここにいない彼に謝る。 彼に直接謝ることもできない、卑怯な私。 そんな自分にさえ自己嫌悪が沸いてくる。 そのまましばらく膝を抱えていると、部屋のインターホンが鳴った。 「……こんな、時に」 涙を拭い、できるだけ平静を装って扉を開ける。 「え……」 「やあ……霧切さん」 そこに立っていたのは――苗木君。 先ほど酷い事をしてしまった彼。 「なん、で……」 「ありがとう。花、嬉しかったよ」 彼の左手には、先ほど私が持っていた白いマーガレットがあった。 取り繕うように髪をかき上げる。 私は、いつもの顔が出来ているだろうか。 「別に、そんなの。ただ余っていたからあげただけよ」 「それは違うよ」 私の欺瞞に満ちた言葉が、彼に真っ向から切り捨てられる。 いつしか彼は、何時のもの子犬のような顔ではなく――強い意志を持った男の顔になっていた。 「『心に秘めた愛』――マーガレットの花言葉だね」 「……!!」 「ごめん。花言葉には詳しくなくてさ。今必死に調べてきたんだ」 彼は照れくさそうに鼻頭をかくと、真剣な面持ちで私に向き合う。 「ボクって何をやっても人並みで。鈍くて。だから霧切さんを悲しませてしまう」 だから、ごめん。 そう言って、苗木君は右手を――その後ろ手に隠し持っていた物を差し出してきた。 「これが、ボクの気持ちだよ」 「あ――」 彼の差し出す、青い花。 それの意味する所に気づく。 私は震える手を伸ばすと、それをそっと受け取った。 「これ……私に?」 「うん」 「私が、受け取っていいの……?」 「霧切さんに貰って欲しい。霧切さんじゃなきゃダメなんだ」 彼の想いがそのまま込められているかのような、青い花。 その想いごと抱き締められるよう、私はそっと胸に抱いた。 「……あり、がとう……苗木、君……」 ---------------------------------------- 「ぬうおおぉぉおおおおお!!」 裂帛の気合と共に繰り出された回し蹴りで、樹高20メートルはあろうかという巨木が蹴り倒される。 ここは市内の高台であり、希望ヶ峰学園を一望できる箇所にある。大神さくらお気に入りの修練所であった。 本来ならば今頃稽古を申し出てきた少年にここで武道の精神を教え込んでいた所だが、それも致し方ない。 果たして、あの二人は上手くいっただろうか。 「……む」 鷹の眼とも形容される彼女の眼が、遥か下方に位置する希望ヶ峰学園の校門を捉える。 手を繋ぎ、校舎を後にする少年少女。そして彼ら二人の手にある花を見て、さくらはふっと表情を綻ばせた。 少年の手に揺れる、白いマーガレット。 その花言葉は、『心に秘めた愛』。 少女の手に揺れる、青い勿忘草。 その花言葉は―― ----

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