苗木誠観察日記

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○月×日  探偵の仕事で出先から帰ってくると、玄関ロビーで苗木君が迎えてくれた。  食堂で出された私の分の夜ご飯を、わざわざ取っておいてくれたらしい。  今回の事件の内容だの、出先の天気はどうだっただの、色々と聞いてくる。  当然事件の経緯は機密事項だし、出先の天気だなんてどうでもいい。  彼には悪いけど早く休みたかったので、質問も適当にいなして部屋に戻った。  …別れ際。苗木君が捨てられた小動物のような、寂しそうな目をしていたのが、少し気にかかる。  明日はお土産でも持って行ってあげようかしら。 ○月△日  苗木君が風邪を引いた。  今日は土曜で、多くのクラスメイトが彼の部屋を訪ねていた。  普段は冴えない彼だけれど、それなりに人望を集めていたようだ。  他のみんなが帰ったあとで、お土産を渡すついでに見舞いに向かう。  顔を見せると、少し火照った顔で微笑みながらも歓迎してくれた。  風邪の原因の心当たりを訪ねると、口籠る。  軽く脅迫して問い詰めると、恥ずかしそうに躊躇いながら白状した。  どうやら昨晩はずっと、私の帰りを玄関で待っていてくれたらしい。  夏とはいえ、最近の夜は冷える。寝巻で外に出ていれば、誰だって体調を崩すだろう。  まったく、どうも肝心なところで抜けている少年だ。  ホント、呆れてしまう。  お人好しにも限度があるというものだ。 (ありがとう、ごめんなさい と書いた上から、何重にも線が引かれている) ○月□日  今日は特に用事も無かったので、苗木君の様子を見に行った。  顔色は良かった。  まだ少し咳き込んではいたけれど、一日寝続けてすっかり熱も引いたらしい。  体調が回復したのは喜ばしいことだけれど、心配して損をした感も否めない。  「心配してくれて嬉しい、ありがとう」だなんて、偉そうに。  どうも癪に障ったので、彼の見ていないところで部屋の物色を開始する。  案の定、ベッドの下にいかがわしい本を発見した。  彼がトイレに立った隙に、その本を大きく見開いてベッドの上に放置し、部屋を後にする。  明日学校で会った時の、彼の反応が楽しみだ。 ○月§日  探偵の仕事が重なったため、一週間ぶりの登校だけど、クラスの様子も相変わらずだ。  私がいない間に変わったことといえば、文化祭の担当が勝手に決められていたくらいだろう。  劇のキャストの中に、苗木君の名前があった。  主役を任されることになるらしい。  どうやら面白半分にクラスメイトに祭り上げられたようだ。  まったく彼らしい。  ヒロイン役の候補に私の名前もあったけれど、冗談じゃない。  人前に出るのは苦手だし、ヒロインだなんてキャラでもないだろう。  帰りのホームルームで、辞退を申し出た。  向かいの席の苗木君が残念そうな表情をしていた…というのは、さすがに私の欲目が入っているだろうか。 ×月☆日  ホームルームでは文化祭の企画が進んでいる。  ヒロイン役は、本人の強い希望で舞園さんに決まった。  苗木君とも旧知の仲だし、きっと良いカップルを演じてくれるだろう。  舞台映えするヒロインとして、『超高校級のアイドル』である舞園さんが多く支持を集めたのも納得できる。  文化祭当日が、楽しみだ。  本当に。 ×月○日  腐川さんが、脚本にキスシーンを加える様だ。  高校生がそんな過激なシーンを、と批判もあったけれど、本当に口付ける訳ではないとのこと。  顔を近づけて、キスをしているように見せるだけらしい。  カップル役の二人は、恥ずかしそうに頬を染めながらも、特に異論はないようだった。 ×月×日  文化祭の企画が進んでいる。  明後日は台本合わせも兼ねて、全体的なリハーサルをするようだ。  私も音響担当として、(修正液を幾重にも塗りなおしたせいだろうか、文字が滲んでよく読めない) ×月△日  一週間後に文化祭が迫っている  苗木君・舞園さんの主役二人には、頑張ってほしい △月☆日  ヒロイン役の舞園さんが、急遽仕事が重なったために文化祭に出られなくなったらしい。  本人はかわいそうなくらいに落ち込んでいたけれど、こればかりはどうにもならない。  主要キャストの欠員ため、劇の台本は大幅に変更されてしまった。  腐川さんお得意のラブロマンスから一転、一人一役全員出演のドタバタミュージカルへ。  とはいっても、私のやるべきことは変わらない。  音響担当の仕事は残っているのだし、舞台に上るとはいえ『通行人A』だ。  今日は久しぶりに、苗木君と下校した。  「舞園さんとキス出来なくて残念ね」と言ってみると、真っ赤になって否定して、動揺のあまり階段を踏み外していた。  期待通りの反応。からかい甲斐のある少年だ。 △月○日  ほんの数分部屋を空け、戻ってくると日記が机の上に投げ出されていた。  それだけじゃない。  表紙には『苗木誠観察日記』といたずら書きされている。  筆跡からして、おそらく犯人は江ノ島さんだろう。  食堂に出かけていただけとはいえ、鍵をかけ忘れるとは迂闊だった。  それにしても、他人の部屋に勝手に入り込み、挙句日記に落書き。  …彼女の人としての品性を疑いたくなる。  日記の内容についても決して口外しない様に、あとで釘をさしておこう。  しかも『苗木誠観察日記』だなんて。  そんなにこの日記で苗木君のことばかり書いているわけじゃないだろう。 △月×日  …書いていた。  昨日確認してみたところ、私の日記には十中八九苗木君が登場している。  観察日記といっても大げさじゃないだろう。  そんなに私は、普段から彼のことを気にしてしまっているのだろうか。  それとも私自身が、それ以外に日記のネタを持たない寂しい女なのだろうか。  『苗木誠観察日記』とは、まさにうってつけ。  本人の名前も相まって、夏休みの自由研究のようなタイトルになってしまった。  …どうせなら本当に、彼専用の日記にしてしまおうか。  どちらにせよ、彼という人物に興味を抱き初めていたところだ。 ―――――  さて、問題は僕本人がこの日記を目にしてしまっているということだ。  文化祭の準備も終盤に差し掛かったこの日。  教室に残された僕は、他の面々が買い出しから帰ってくるのを待っていたんだ。  そこに、買い出しをサボった江ノ島さんが現れて。  「面白いものがある」と差し出してきた一冊の日記帳を、反射で受け取ってしまったのが運の尽き。  まさか江ノ島さんが差し出したものが、霧切さんの所有物だなんて思わない。  それと気付いたのは、日記を半分以上読み終えてからだった。  人の日記を無断で読む。  立派なプライバシーの侵害だ。  買い出し班や霧切さんが返ってくる前に、この日記を隠さないと。  僕について、書かれた日記。  いや、隠したところでどうするんだ。  霧切さんの所有物だ、霧切さんに返さなければいけないのに。  けれど僕の手から渡すことは憚られる。理由は言わずもがなだ。  だからって、江ノ島さんに返して来いって頼んでも素直に頷くわけないし…  などと四苦八苦している最中に、  カラカラ、と、マンガのようなタイミングで扉が開く。  まさか、と思いつつ振り向けば、  最悪のタイミングで、教室に霧切さんがやってきた。 「苗木君? 江ノ島さんに、あなたから話があると呼ばれたのだけ、ど…」  隠す暇もなかった僕を、霧切さんが見据える。  僕の腕の中には、彼女の日記帳。  さっ、と、互いの顔から血の気が引いていった―― ----
○月×日  探偵の仕事で出先から帰ってくると、玄関ロビーで苗木君が迎えてくれた。  食堂で出された私の分の夜ご飯を、わざわざ取っておいてくれたらしい。  今回の事件の内容だの、出先の天気はどうだっただの、色々と聞いてくる。  当然事件の経緯は機密事項だし、出先の天気だなんてどうでもいい。  彼には悪いけど早く休みたかったので、質問も適当にいなして部屋に戻った。  …別れ際。苗木君が捨てられた小動物のような、寂しそうな目をしていたのが、少し気にかかる。  明日はお土産でも持って行ってあげようかしら。 ○月△日  苗木君が風邪を引いた。  今日は土曜で、多くのクラスメイトが彼の部屋を訪ねていた。  普段は冴えない彼だけれど、それなりに人望を集めていたようだ。  他のみんなが帰ったあとで、お土産を渡すついでに見舞いに向かう。  顔を見せると、少し火照った顔で微笑みながらも歓迎してくれた。  風邪の原因の心当たりを訪ねると、口籠る。  軽く脅迫して問い詰めると、恥ずかしそうに躊躇いながら白状した。  どうやら昨晩はずっと、私の帰りを玄関で待っていてくれたらしい。  夏とはいえ、最近の夜は冷える。寝巻で外に出ていれば、誰だって体調を崩すだろう。  まったく、どうも肝心なところで抜けている少年だ。  ホント、呆れてしまう。  お人好しにも限度があるというものだ。 (ありがとう、ごめんなさい と書いた上から、何重にも線が引かれている) ○月□日  今日は特に用事も無かったので、苗木君の様子を見に行った。  顔色は良かった。  まだ少し咳き込んではいたけれど、一日寝続けてすっかり熱も引いたらしい。  体調が回復したのは喜ばしいことだけれど、心配して損をした感も否めない。  「心配してくれて嬉しい、ありがとう」だなんて、偉そうに。  どうも癪に障ったので、彼の見ていないところで部屋の物色を開始する。  案の定、ベッドの下にいかがわしい本を発見した。  彼がトイレに立った隙に、その本を大きく見開いてベッドの上に放置し、部屋を後にする。  明日学校で会った時の、彼の反応が楽しみだ。 ○月§日  探偵の仕事が重なったため、一週間ぶりの登校だけど、クラスの様子も相変わらずだ。  私がいない間に変わったことといえば、文化祭の担当が勝手に決められていたくらいだろう。  劇のキャストの中に、苗木君の名前があった。  主役を任されることになるらしい。  どうやら面白半分にクラスメイトに祭り上げられたようだ。  まったく彼らしい。  ヒロイン役の候補に私の名前もあったけれど、冗談じゃない。  人前に出るのは苦手だし、ヒロインだなんてキャラでもないだろう。  帰りのホームルームで、辞退を申し出た。  向かいの席の苗木君が残念そうな表情をしていた…というのは、さすがに私の欲目が入っているだろうか。 ×月☆日  ホームルームでは文化祭の企画が進んでいる。  ヒロイン役は、本人の強い希望で舞園さんに決まった。  苗木君とも旧知の仲だし、きっと良いカップルを演じてくれるだろう。  舞台映えするヒロインとして、『超高校級のアイドル』である舞園さんが多く支持を集めたのも納得できる。  文化祭当日が、楽しみだ。  本当に。 ×月○日  腐川さんが、脚本にキスシーンを加える様だ。  高校生がそんな過激なシーンを、と批判もあったけれど、本当に口付ける訳ではないとのこと。  顔を近づけて、キスをしているように見せるだけらしい。  カップル役の二人は、恥ずかしそうに頬を染めながらも、特に異論はないようだった。 ×月×日  文化祭の企画が進んでいる。  明後日は台本合わせも兼ねて、全体的なリハーサルをするようだ。  私も音響担当として、(修正液を幾重にも塗りなおしたせいだろうか、文字が滲んでよく読めない) ×月△日  一週間後に文化祭が迫っている  苗木君・舞園さんの主役二人には、頑張ってほしい △月☆日  ヒロイン役の舞園さんが、急遽仕事が重なったために文化祭に出られなくなったらしい。  本人はかわいそうなくらいに落ち込んでいたけれど、こればかりはどうにもならない。  主要キャストの欠員ため、劇の台本は大幅に変更されてしまった。  腐川さんお得意のラブロマンスから一転、一人一役全員出演のドタバタミュージカルへ。  とはいっても、私のやるべきことは変わらない。  音響担当の仕事は残っているのだし、舞台に上るとはいえ『通行人A』だ。  今日は久しぶりに、苗木君と下校した。  「舞園さんとキス出来なくて残念ね」と言ってみると、真っ赤になって否定して、動揺のあまり階段を踏み外していた。  期待通りの反応。からかい甲斐のある少年だ。 △月○日  ほんの数分部屋を空け、戻ってくると日記が机の上に投げ出されていた。  それだけじゃない。  表紙には『苗木誠観察日記』といたずら書きされている。  筆跡からして、おそらく犯人は江ノ島さんだろう。  食堂に出かけていただけとはいえ、鍵をかけ忘れるとは迂闊だった。  それにしても、他人の部屋に勝手に入り込み、挙句日記に落書き。  …彼女の人としての品性を疑いたくなる。  日記の内容についても決して口外しない様に、あとで釘をさしておこう。  しかも『苗木誠観察日記』だなんて。  そんなにこの日記で苗木君のことばかり書いているわけじゃないだろう。 △月×日  …書いていた。  昨日確認してみたところ、私の日記には十中八九苗木君が登場している。  観察日記といっても大げさじゃないだろう。  そんなに私は、普段から彼のことを気にしてしまっているのだろうか。  それとも私自身が、それ以外に日記のネタを持たない寂しい女なのだろうか。  『苗木誠観察日記』とは、まさにうってつけ。  本人の名前も相まって、夏休みの自由研究のようなタイトルになってしまった。  …どうせなら本当に、彼専用の日記にしてしまおうか。  どちらにせよ、彼という人物に興味を抱き初めていたところだ。 ―――――  さて、問題は僕本人がこの日記を目にしてしまっているということだ。  文化祭の準備も終盤に差し掛かったこの日。  教室に残された僕は、他の面々が買い出しから帰ってくるのを待っていたんだ。  そこに、買い出しをサボった江ノ島さんが現れて。  「面白いものがある」と差し出してきた一冊の日記帳を、反射で受け取ってしまったのが運の尽き。  まさか江ノ島さんが差し出したものが、霧切さんの所有物だなんて思わない。  それと気付いたのは、日記を半分以上読み終えてからだった。  人の日記を無断で読む。  立派なプライバシーの侵害だ。  買い出し班や霧切さんが返ってくる前に、この日記を隠さないと。  僕について、書かれた日記。  いや、隠したところでどうするんだ。  霧切さんの所有物だ、霧切さんに返さなければいけないのに。  けれど僕の手から渡すことは憚られる。理由は言わずもがなだ。  だからって、江ノ島さんに返して来いって頼んでも素直に頷くわけないし…  などと四苦八苦している最中に、  カラカラ、と、マンガのようなタイミングで扉が開く。  まさか、と思いつつ振り向けば、  最悪のタイミングで、教室に霧切さんがやってきた。 「苗木君? 江ノ島さんに、あなたから話があると呼ばれたのだけ、ど…」  隠す暇もなかった僕を、霧切さんが見据える。  僕の腕の中には、彼女の日記帳。  さっ、と、互いの顔から血の気が引いていった―― ----

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