kk5_722-724

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「舞園さん、あなた苗木君と同じ中学校だったらしいわね」  お昼休みを持て余していると、霧切さんが私を廊下へと手招いた。  何の用事だろうか、と付いていけば、いつも通りの冷ややかな表情でそう尋ねられる。 「それが…どうしたんですか」  思わず身構えてしまう。  相手は超高校級の探偵。尋ねられるということは何かあるということだ。  その上、彼女が「探偵同好会」と称して、苗木君を引っ張りまわしているのは知っていた。  「同じ中学」という繋がりを持っている、私を好ましく思っていないのかもしれない。 「…誤解しないで、あなたに難癖をつけに来たわけじゃないのよ」  私の緊張に気付いたのか、ゆるやかに霧切さんがほほ笑む。 「あなたとは、むしろ…そうね、協力関係を結びたいと思っているのだけれど」  協力関係。  違和感のある単語に、思わず首を傾げる。 「――単刀直入に問うわ。苗木君の恥ずかしい秘密とか、知っていたら教えてもらえないかしら?」 「は、恥ずかしい秘密…ですか?」  そりゃ、三年間同じ中学校だったんだから。 「知らないことは、ないですけれど…」  クラスは違ったとはいえ、色々と噂話は耳に入ってくる。  けれど、なぜ霧切さんはそんなことを知りたいのだろう。 「深い理由はないけれど…まあ、純粋な興味とでもいうのかしら」 「興味、ですか」 「それと…彼が言うことを聞かなかったときに…ちょっと、ね」  冷たい目をして、口だけを微笑ませる。  そんな仕草に、ゾクリと背筋が寒くなった。  入学して初めて出会った時も思ったけれど、やっぱり霧切さんは少し怖い。 「き、脅迫…するんですか?」 「そんな物騒なものじゃないわ」  恐る恐る尋ねると、軽い調子で返される。 「でも、苗木君の許可も無しに、そんな勝手に秘密をバラしたり…」 「もちろん、タダとは言わないわ」  私の話を聞いていないかのように、霧切さんは携帯電話をいじり出す。  そして、画面をこちら側に向けながら、 「授業中にこっそり撮影した、苗木君の寝顔写真…これと引き換えでどうかしら?」 「何でも聞いてください、霧切さん!」  私の掌の返しように驚いたのか、霧切さんがビクっと震える。  そんな彼女を横目に、私は携帯画面の中の苗木君をしっかりと確認する。  机に頬杖をついたまま、明後日の方向に顔を向けている。  口端から涎の垂れる瞬間を、見事に捉えたベストショット。  ケータイの待ち受け決定である。  心の中で苗木君に詫びながら顔を上げると、若干引き気味に霧切さんがこちらを見ていた。 「…コホン。それで、どんな秘密がいいんですか?」 「え? あ、そ、そうね…」  テストで自分の名前を間違えて零点を取った話、先生を「お母さん」と呼んでしまった話。  捨て犬に給食の残りをあげて、懐かれてしまった話。  私は知っている限りの彼の噂を、片っ端から霧切さんに語る。  そのたびに彼女は、クスクスと笑ったり眉尻を下げたり。  ポーカーフェイスだと思っていた『超高校級の探偵』は、ゆるやかに表情を変える。  別に、おかしなことじゃない。  彼女も私と同じ、高校生の女の子だった。  それだけのこと。  どうして、特別な存在のように思っていたんだろう。  大人びて振舞う彼女が、いつも澄ました顔の彼女が、少し怖いだなんて。 「…ふう。ありがとう、舞園さん」 「どういたしまして」  御礼だけ告げて、無言で頬笑みを向ける。  彼女はすぐに意図を理解して、携帯を取り出した。 「えっと…赤外線で良いかしら?」 「あ、はい」  と、私も携帯を取り出して、  ふと、思いつく。 「あの……どうせなら、アドレスも交換しませんか?」  思い切って、口にする。 「…私、と?」  彼女は目を丸くして、驚いている。  ちょっと唐突だったかもしれないけど、これを逃すと次の機はないかもしれないから。 「構わないけれど…」  そういうと、再びポケットに手を入れる。  今度はお財布を取り出して、そこから切手のような紙を取り出した。  それは、おそらく仕事用の名刺。  ゴシック体で、名前の隣にメールアドレスが載せられている。 「その宛先に、メールを送って。依頼なら、三割引きで請け負うわよ」  私も予定帳の一ページを破って、そこにアドレスを走り書いて渡す。 「あなたは、いいの…?こんな一般人に、自分のアドレスを教えてしまって」 「一般人じゃ、ないです」  友達、と呼ぶのは、さすがにこの歳では恥ずかしいけれど。 「苗木君の、ヒミツの話をした仲じゃないですか」 「……そうね」  クスリ、と、また彼女がほほ笑む。  と、そこで、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。 「…教室に戻りましょうか」 「あ、私午後は仕事で…」 「そう」  そっけない口ぶりだけど、 「頑張ってね」  緩やかに、微笑む。 「あ、あの! 他のヒミツも思い出したら、メールしますから!」  教室に戻っていく背中に、私は呼び掛ける。  一度だけ振り向いた霧切さんは、いたずらっぽい笑みを返してくれた。  さて、約束の苗木君の画像を要求するために、どんな文面で最初のメールを送ろうか。 ----

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