kk5_804-807

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「うぷぷぷぷ、おはようございまーす!」  起き抜けに見るモノクマの姿ほど、不快な気分にさせるものはない。 「…勝手に就寝中の女子の部屋に入るなんて、良識すらもないのかしら?」 「いいじゃん、そもそも監視カメラで全国放送中なんだよ?」  それを言えば身も蓋もない、と思いつつも、寝ぼけた眼を擦る。  時計を確認すれば、午前四時半。  早朝と言えないこともないが、こんな時間に起こしに来るなんて、嫌がらせ以外の何物でもないだろう。 「…それで?」  不機嫌を隠さず、私は大柄な人形を睨みつける。 「何か用事があって、この部屋を訪れたんでしょう?」 「うぷぷ…コレコレ」  モノクマがどこからともなく取り出したのは、一枚の硬貨。 「じゃじゃーん、モノクマメダルー!」 「……」 「あれあれ、食いつき悪いなぁ。霧切さん一人だけモノモノマシーンやってないみたいだからさぁ」  何かと思えば、そんな用事か。  いや、モノクマにしてみれば、用事自体はどうでもいいのだろう。  ただ嫌がらせに、適当な用事をでっちあげて、私を叩き起こすのが目的なのだ。 「せっかくだから、メダルを分けてあげるよ。これで一人だけ仲間外れにされずに済んだね」 「メダルゲームだなんて幼稚な真似、興味ないの」 「メダルゲームじゃないよ、ガチャガチャだよ」 「大差ないわ。用件は終わり?なら、さっさと出て行って」  付き合うのも馬鹿馬鹿しい。  適当にあしらうと、モノクマはメダルを残して部屋から唐突に消え失せる。  まだ眠気の覚めやらぬ私は、もう一度ベッドに潜り込んだ。 ――――― 「モノモノマシーン?」  恒例の朝食会がてらに今朝の出来事を伝えつつ、私は苗木君に尋ねる。 「ええ。モノクマは皆やっていると言っていたけれど…あなたたち、本当にあんな子供だましに手を出しているの?」  メダルの文様からして、今回の事件の黒幕が用意したものだろう。  それに平気で手を出せるなんて、なんとも危機感のないことだ。 「うーん…でも、結構面白いよ、アレ」  と、能天気に返され、思わず気が抜ける。 「結構面白い景品も出てくるしさ。隠されているメダルを探し出すのも醍醐味だし」 「……まあ、あなたがいいのなら、口を出すつもりもないけれど」  本当に、抜けている少年だ。  話せば話すほど、毒気を抜かれてしまう。  まあ、そんな彼だからこそ、私も話したいと思ってしまうのだけれど。 「霧切さんはやらないの?」 「ああいう子供じみた遊びには、興味ないのよ」  苗木君をモノクマと同様にズバッと切り捨てて、私は食堂を後にした。  部屋に戻り、軽くシャワーを浴びて、午後の予定を立てる。  現段階で探索できるところは探索し尽くしてしまったし、やることも限られている。  かといって、体を動かしたり娯楽に興じる気にもなれない。  結局私は、何かを調べている時間が一番落ち着くのだ。  バスタオルに体を包んでベッドに腰掛け、ふとその枕元に目が行く。  一枚の硬貨が、鈍い輝きを放っていた。 「……」  探索する場所がない以上は、私も娯楽に興じるべきなのかもしれない。  子供だましと馬鹿にはしたけれど、全く興味がない、と言えば嘘になるし。  それに、あのマシーンから何か新たな手掛かりが掴めれば儲け物だ。  そうと決まるや否や部屋着に着替え、一枚のコインを握り締めて部屋を後にした。  購買部まで足を早め、誰にも見られていないことを確認し、中に入る。 「…なんとも趣味の悪いデザインね」  私を出迎えたボックスにそう吐き捨てて、早々にメダルを投入した。  こんな子どもっぽい遊びに興じているところを誰かに見られたら、明日以降の私の沽券に関わってしまう。  ガチャリ、ゴトン。  重々しい音がして、ガラスケースの奥にこぶし大のカプセルが落ちてくる。  恐る恐る手を伸ばして、半透明のカプセルを取り出した。 「これは…こけし?」  出てきたのは、黒く塗りつぶされた瞳の気味の悪い人形。  何の変哲もない置物。  正直、拍子抜けだ。  あの黒幕のことだから、もっと趣味の悪いものを入れてくるとばかり思っていたのに。  ふと見ると、こけしの底にスイッチが付いている。  ダイヤルを回すことで電源を入れるタイプの…「強・中・弱」とメモリが付いている。  なんだろう、と思いつつもメモリを回すと、  ヴ、ヴ―――――ン  と、頭頂部が重い振動を始めた。 「……」  やってくれた。  「動くこけし」とは、そういうことか。  一応、知識としては持っている。  これが一体何のために、どういう用途で用いられるのかということは。  けれど、不純異性交遊がどうのこうの言っていたのは何だったのか。  こんなもの、神聖な学び舎に持ち込んで。  ジョークとしても低俗すぎて、言葉も出ない。  さて、この低俗な玩具をどうしてくれようか。  このままここに放置して、他の人の目に触れさせるわけにもいかない。  朝日奈さんあたり、見ただけで卒倒しそうだし。  そうして、手の中の憎らしいこけしを睨みつけて、 「あれ、霧切さん?」 「!?」  はたして、一番この現場を見られたくない人物が現れた。 「苗木君……なぜ、あなたがこんなところに?」 「? いや、モノクマが『購買部に行けば面白いものが見られる』って言ってたんだけど…」  モノクマ…! 「…黒幕の言動に従うなんて、ホントにあなたは…馬鹿正直ね」 「あ、うん…ゴメン」 「謝る必要は…ないけど…」  人のことは言えない。  まんまと私も、罠にはめられた訳だ。  考えてみれば、モノモノマシーンの景品も黒幕が用意しているんだ。  私が景品を引くのに合わせて中身を変えるなんて、造作もないことだろう。  咄嗟にこけしを背に隠すも、苗木君は目ざとく私の挙動に気付く。 「あれ、何を隠したの?」 「…なんでも、ないわ。あなたが気にする必要のないものよ」 「えー、そう言われると気になっちゃうな」  苗木君は、まるで同級生とじゃれあうように、楽しそうに私に迫ってくる。  こっちはそんな楽しく戯れてる場合じゃないのよ…! 「…モノクマの言う『面白いもの』はないわ。部屋に戻りなさい」 「え?でも、」  私が隠したものがそうだろう、と追及しようとしたのだろうが、 「――三度目はないわよ。大人しく戻りなさい、いいわね?」 「う、……はい」  次は口じゃなくて拳が出るぞ、という剣幕で迫れば、渋々彼も頷いてくれる。  聞き分けの良い少年で助かった。  そもそも背中にコレを隠したままで、接近戦は分が悪い。 「…わかってくれればいいのよ」  ふ、と頬を緩める。  さすがに私が悪いのに、こんなに邪険に追い払うのは申し訳ない。  悪意がないことを、せめて伝えてフォローしてあげなければ。 「ごめんなさい、悪気があってあなたを遠ざけているわけじゃないの」 「っ……!?」 「ただ、どうしても他の人には見られたくなかった…苗木君?」 「…、……」 「あ、の…霧切さん」  苗木君の様子が、目に見えて急変した。  額に冷や汗が吹き出し、熱でもあるかのように耳まで真っ赤に染まってる。  嫌な予感がする。 「それ…隠してたやつ、出てる…、と思うんだけど…」  彼の視線の先。  背中に隠していたはずの、私の右腕――  もはや邪悪な玩具にしか見えないこけしの顔が、宙を見つめていた。  ぶわ、と、寒気が背中を駆け抜けて、  次の瞬間、燃えるような熱さが頬に宿る。 「ち、がうのよ、苗木君、これは、」  想像し得る中で、最悪のケースが起こってしまった。  一番見られたくない相手に、一番見られたくない姿を、見られてしまったんだ。  こんな道具を持ってうろついて、まるで痴女じゃないか。  弁解しなければ。私はふしだらな女じゃない、これは黒幕にはめられたのだ、と。  そう思っているのに、上手く口が動いてくれない。 「あ、僕、その、ごめんなさい!」 「違う、違うの…落ち着いて苗木君、あなたは誤解しているわ…」  純朴な少年は、顔を真っ赤にして、両手をブンブンと振る。  私の言い分も、まるで耳に入っていないようで、 「いや、大丈夫! わかってるから、絶対誰にも言わないし、このこともすぐ忘れるから!!」 「あ、待っ…」  完全に混乱状態の苗木君は、目を白黒させながら購買部を飛び出していった。  私と共に購買部に残されたのは、静寂と、 「……」  ヴ――――ン、と、スイッチをつければ重い振動で私をあざ笑う、大人のこけしだけだった。 「許さない……」  こけしよりも遥かに激しく戦慄きながら、 「絶対に、許さないわ…黒幕…!!!」  死にそうなほどの恥辱と惨めさで、私は床に崩れ落ちた。  こけしの行方は、誰も知らない。 ----

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